工具といえば、どこか無骨で男前なアイテムというイメージがありますよね。ところが、世の中は広いものです。スイスの老舗工具メーカー「PB Swiss Tools(PB スイス ツールズ)」には、なんと意図的にグリップ部分の原料にバニラの香料を混ぜ込み、あま〜〜〜い香りをつけられた工具が存在するというのです。
この変わった工具は、2021年1月18日にツイッターで突如話題になりました。
話題となったツイートを投稿したのは、日本国内外の有名機械工具の卸売を行う専門商社「喜一工具」の公式ツイッターで、393件の「いいね」を集めています(2021年2月8日現在)。
無骨なイメージのある工具にあま〜〜〜い香り。なんだかミスマッチな印象も受けますが、なぜそんな製品が開発されたのでしょうか。
ツイートを投稿した「喜一工具」で公式ツイッター運営を担当する井畑 優さんにお話を聞きました。
Q.バニラの香りの工具の販売元である「PBスイスツールズ」はどのような企業?
「PBスイスツールズ」は、140年以上の歴史がある、品質・精度・耐久性を誇るスイスのハンドツールメーカーです。プロフェッショナルの方からホビーユーザーまで、幅広くご支持いただいています。
「ドライバーと言えばもちろんPB」という方もいらっしゃるほど愛されていて、 精度の高い、ネジへ吸い付くような先端が特徴です。
他にも代表的な製品として、日本市場でも知名度の高い六角棒レンチや、反動を打ち消し打撃力をほぼ100%伝えることができる無反動ハンマーなどがあります。
また、今では様々な工具メーカーが取り入れている工夫ですが、必要なサイズが一目でわかるよう六角棒レンチにレインボーのカラーリングを施したのは「PB スイス ツールズ」が最初です。各種ビットや六角レンチ、タイヤレバーまで備わったコンパクトなバイクツールも人気があります。
Q.なぜ工具にバニラの香りをつけることになった?
バニラの香りのする「クラシックグリップ」と「マルチクラフトグリップ」は酢酸酪酸セルロース(CAB)という素材でできています。これは木材由来の天然素材で環境にも優しく、ガソリンやオイルに耐性があり、また驚くほどに頑丈です。実際に何十年も同じドライバーを使い続けている方もいらっしゃいます。
ただ問題点として、かなり強い刺激臭がします。特に密閉されると匂いがきつくなるようです。そのため、2011年よりバニラの香料を混合してグリップ部分を作ることで中和しています。
一方で「あの刺激臭がないとPBの工具じゃない!!」と前モデルの製品を今も愛用する方もいらっしゃるようです。なんと独特の匂いを求めるあまり、ジップロック袋に旧モデルの製品を密封して「熟成」する方も……。
Q.バニラの香りは「PB スイス ツールズ」のすべての製品につけられている?
いいえ、バニラの香りがするのは大きく分けて3種類あるドライバーグリップの中でも「クラシックグリップ」と「マルチクラフトグリップ」だけです。2001年に発売された「スイスグリップ」は素材が異なる為、バニラの香りはしません。
ちなみに、クラシックグリップは「PBスイスツールズ」の中で最もベーシックなアイテムのひとつで、人間工学に基づいた六角形のグリップは溝が入っていて握りやすく、また転がりにくいデザインです。スリムなグリップは工具箱でもかさばりません。
同じくベーシックなアイテムのひとつであるマルチクラフトグリップは、いわゆる「樽型」のグリップです。クラシックグリップと比較すると、マルチクラフトグリップの方がよりトルクを掛けやすくなっています。ザラザラとした表面で滑りにくく、グリップエンドに先端形状やサイズが表記されていることも特徴です。
バニラの香りのする「クラシックグリップ」と「マルチクラフトグリップ」は、各種ドライバーはもちろん、ピックツールやタイヤレバーなどの特殊工具、ボトルオープナーやマグネットなどの販促品にも使われています。
Q.「バニラの香り」をかいでみた印象は? 本当に甘い香りがする?
私が初めてバニラの臭いを嗅いだのは入社してすぐの物流倉庫での研修だったと思います。1つ1つはそれほどでもないのですが、PBスイスツールズ製品だけを置いている専用の棚に行くとその一帯甘い匂いがしていました。
2011年のモデルチェンジ前まで刺激臭がしたということは当時知らなかったので、最初はただいい匂いの工具があるんだなくらいにしか思っていなかったです。
Q.バニラの香りのする「PB スイスツールズ」製品の中で、オススメは?
そうですね……ラインアップの多いメーカーですので、ご使用のシーンによって異なるとは思いますが、工具だけではないユニークなアイテムを展開しているのも「PB スイス ツールズ」の特徴のひとつです。オススメ製品を3点ご紹介しますね。
ビット収納ドライバー インサイダー
マルチクラフトグリップを採用したボディの中にプラス/マイナスなどのビットが8個収納されています。これ1本で大抵の作業をすることができ、保管時もかさばらない優れものです。レッドが一番人気ですが、ブラック、ブルー、イエローなどもあります。
ボトルオープナー
マルチクラフトグリップを採用した、もちろん握りやすいボトルオープナーです。しっかり力を加えることができ、そしてまるでドライバーな外見が何とも可愛い1点です。
マグネット
バニラの匂いを嗅いでみたいけど工具は使わない……という方はマグネットがおススメです。マルチクラフトグリップを模した形の可愛いマグネットが、1本500円程度でお買い求めいただけます。カラフルな6色セットもございます。
Q.「PB スイス ツールズ」の工具を日本国内で卸し販売する「喜一工具」はどのような企業?
私ども「喜一工具」は、国内外の有名機械工具等の卸販売をしている専門商社です。大阪市西区立売堀に本社を構え、国内・海外メーカーの代理店として約600のメーカーから商品を仕入れ、その商品を国内では約2800社、海外には46ヵ国約500社に販売しています。「PBスイスツールズ」に関しては1970年より総代理店を務めており、昨年2020年に50周年を迎えました。
Q.「PBスイスツールズ」の一部の工具にはバニラの香りがついていると、ツイッターに投稿しようと思ったきっかけは?
弊社「喜一工具」の公式Twitterを立ち上げてから、工具メーカー名などで検索することがあるのですが、その中で「PBのドライバーは臭い」といった声が未だに多く挙げられ、バニラの匂いに変わったことがまだまだユーザー様まで伝わっていないと感じたからです。
Q.投稿を見た人から寄せられた反応は?
想像していたより多くの方から反響をいただきました。以前の臭いについての思い出や、嗅いだことはないけどそれほどまでに話題になる匂いを嗅いでみたい!という声まで……。「もう臭くないなら購入しようかな」といった声も多く、思い切ってツイッターに投稿してよかったと思っています。
「喜一工具」へ入社する前は、工具といえばハンマーとドライバーくらいしか知らなかったという井畑さんですが、最近は少しずつ知識も増え、まだ見ぬ「ユーザー様におすすめできる工具」への期待を膨らませているそうです。
今回のインタビューでは「今は100円でも十分使える工具も沢山ありますが、メーカーそれぞれの拘りや強みが盛り込まれた工具も魅力的です。ぜひひとつひとつ手にとって、ご自身にピッタリの1本を探してみてくださいね」と締めくくり、「無骨」で「どれも同じように見える」と感じていた工具の新たな楽しみ方を教えてくれました。
レポート●中牟田歩実 取材協力/写真●喜一工具株式会社