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レンタルピットは整備難民の救世主?
首都圏近郊や都市圏に住んでいるライダーにとって、バイクの保管場所と同様に悩みのタネになるのが整備場所ではないでしょうか。
一軒家に住む人や、広いバイク駐車場を借りている人にとってはあまり問題ではないかもしれませんが、広い駐車場を持たない賃貸住宅に暮らす人や(筆者もそのひとりです)、スペースやご近所さんとの関係上、自宅駐車場で整備スペースを確保できない人にとっては、かなり頭の痛い問題です。
筆者の地元神奈川県では、根気よく探せば比較的広いスペースを持つバイク専用月極駐車場も見つけることができます。しかし、ほとんどの月極駐車場はあくまで「車両を止めておく場所」の提供をするだけなので、敷地内での洗車や車両整備は断られる可能性が高いのです。
とはいえ、バイク乗りなら「オイル交換などの比較的手軽にできる整備は自分でやりたい」「車両のペイントや簡単なカスタムなど、自分で手をかけてあれこれ試行錯誤してみたい」と考える人は少なくないでしょう。
そこで試してみたいのが「レンタルピット」や「レンタルガレージ」です。これらの店舗は、時間単位で料金を支払い、主に自動車工場などの一角をバイクやクルマの整備スペースを貸してくれるサービスを提供しています。
これらの店舗で貸し出される整備スペースはほとんどが屋内(屋根の下)にあるため、雨天時にも濡れずに済み、暗くなってからの作業も難なくできます。
また、店舗によっては、基本工具の無料貸し出しがあったり、エアブラシ塗装機など個人で導入するのが難しい大型機器を使うことができたり、交換後の使用済オイルを引き取ってくれたりと、自宅に整備スペースがあったとしても通いたくなってしまう便利な魅力がたくさんあります。
今回の記事では、神奈川県横浜市にあるレンタルピットのひとつ「サンエース」を実際に利用した際の様子をご紹介します。
「サンエース」では前述のサービスの他、なんと「助っ人」を貸してくれるサービスも展開しています。助っ人になってくれるのは、普段からクルマの整備やレストアを担当している社員さんで、いわばメンテナンスのプロ。手助けをお願いする作業の内容により5000円〜の別料金にはなりますが、私のようなメンテナンス超初心者には心強いサービスです。
ちなみに記事中に作業工程はほとんど出てきませんが、今回は2時間の利用でオイル交換、前後ブレーキパッド交換、余った時間で若干サビ落としを行いました。
保土ヶ谷PAからバイクで15分、「レンタルピットサンエース」を発見!!
第三京浜道路 保土ヶ谷PA(下り)から約15分ほどバイクを走らせると、横浜市神奈川区羽沢町の住宅街から少し離れたキャベツ畑の向かいに「レンタルピットサンエース」が見えてきます。
「レンタルピットサンエース」はもともと株式会社斎藤製作所として鋼鉄事務用家具を専門に作っていましたが、2001年に自動車のレストア請負事業を始めたことをきっかけに、レンタルピット、貸ガレージの営業をはじめたそうです。
現在では、レンタルピット、貸ガレージ事業の他、車検代行、車検整備、車両の廃棄など、クルマに関する様々な作業を請け負っています。
レンタルピットを利用するためには、2日前までに電話で申し込みをする必要があります。前日や当日でも空きがあれば受け付けてもらえることもあります。
ちなみに筆者は訪問2日前の夜に予約の電話をしたのですが「バイクは空きスペースがありますが、クルマの空きはありません」との回答でした。休日は競争率が高く、3日前には満車ということも少なくないようです。
基本料金 1時間1000円で使える秘密基地、ゴルフ用カートを改造したレース車両もレストア中
ガレージ内に入ってみると、入り口の外観から想像するよりも遥かに広い空間が広がっています。
マツダ ロードスターなどの定番車をはじめ、ゴルフ用カートを改造してレース仕様とした車両など、他ではなかなか見ることのできない車両もレストア作業中でした。「他の人の作業を邪魔しない」「置かれている車両や道具に触らない」「立入禁止の表示があるところに入らない」など基本的な注意点を守れば、ガレージ内を自由に見て回ることができます。
筆者が訪れた日は、筆者の他に5人ほどの客がそれぞれの作業に勤しんでおり、客層は60代〜70代のベテラン男性が多いと感じました。
工具に関しては、ドライバー各種、めがねレンチ各種、ラチェットレンチ各種、インパクトレンチ、トルクレンチ、スパナ、ハンマー、ペンチ、オイルパンなどの基本的なものが不足なく揃っており、今回筆者が行った「オイル交換」「前後ブレーキ交換」などの作業の場合、持参した自前の工具は一切使うことなく済みました。
一方で潤滑剤やパーツクリーナ、ウエスなどの消耗品は借りることができないため、使う場合には持参する必要があります。
整備スペース+基本工具の貸し出しは基本料金 1時間1000円、塗装ブースや一部特殊工具の利用には追加料金が発生
「レンタルピットサンエース」の施設利用料金は
●ガレージ(平場) 1000円/h
● 塗装ブース 2000円/h
● 2柱リフト 初めの1時間 2000円/h
以降 1500円/h
となっています。この料金は原則として1人で作業する場合の料金で、見学者や手伝人を入れる場合にはひとり増えるごとに500円/hが加算されます。
また、基本的な工具の貸し出しは無料となっていますが、特殊な工具や機材を別料金で借りて使う事もできます。主な有料貸出工具、機材は下記の通りです。
●ウェットブラスト(水圧洗浄機)3000円~
●グラインダー(切断、研磨機)300円~
● MiG溶接機 2000円/ h
● スタッド溶接機 2000円/day
● 塗装ガン 1500円/day
● タイヤチェンジャー(16インチまで対応) 600円/ 本
●タイヤバランサー 600円/本
その他、作業中車両の預かりサービス、コンテナ式月極バイクガレージサービス、「レンタルピットサンエース」のスタッフによる作業の手伝いサービスも実施しています。作業の手伝いサービスは対応できない作業もあり、金額も作業内容に応じて変動するとのことです。
●お手伝い 5000円~
●車両預かり 2000円/泊
●コンテナ式月極バイクガレージ 1万4000円/月
塗装専用スペースを完備!! 1日1500円で塗装ガンの貸し出しも可能
ガレージ内にはベンチュリー式(高速気流によって起こる水の吸引作用を利用して、塗料の粉塵を吸い込む装置)の塗装ブースも備えています。ブースは1時間あたり2000円、塗装ガンは1日1500円で利用することができます。
塗装ブースはクルマ1台が余裕を持って入る広いスペースで、小物パーツの塗装はもちろんバイクのタンクの塗装、 車のオールペイントまで幅広く使えそうです。筆者は訪れた日には、40代の男性が1人でクルマのボンネットを塗装していました。
作業中車両の預かりサービス(1泊2000円)を利用し、2〜3日掛けてクルマのオールペンに挑戦する人もいるそうです。
オイル交換後の廃油を捨てて帰れるのはうれしい
ガレージの外にはオイルを廃棄するためのドラム缶が設置されていました。ドラム缶には黄色い漏斗のようなものが刺さっており、その蓋をパカっとあけて廃油をそのまま流し込むことができます。
自宅でオイル交換を行った場合には、専用の凝固剤で固めるか新聞紙などに染み込ませて燃えるゴミに出さなければいけないなど、廃油の処分にはなかなか手間がかかります。
オイル交換作業をした後手軽に廃油を処分して手ぶらで帰れるというのも、レンタルピットを利用する魅力のひとつだと感じました。
月額1万4000円のコンテナ式月極バイクガレージも完備
「レンタルピットサンエース」ではレンタルピットサービスの他、敷地内でコンテナ式の月極バイクガレージも提供しています。
枠数は12枠で、現在はわずかながら空きがあるとのこと。
コンテナ式ガレージは地面にしっかりと固定され、施錠もできるので台風や盗難から愛車を守ることができそうですね。
10年通う常連さんも。趣味仲間ができるのも「レンタルピット」の魅力
充実したスペースと道具で快適な車両整備ができる「レンタルピットサンエース」ですが、一番の魅力は適度にアットホームな雰囲気なのかもしれません。
オイル交換の作業中、筆者が地面に膝をついて車両の腹側を覗き込んでいたところ、近くで作業をしていたお客さんが「これを使ったらいいよ」とジャッキを差し出してくれました。
ただし、お客さん同士で長々と会話になることは少なく、基本的には皆さんもくもくと自分の作業をしており、その適度な距離感を心地良く感じました。
作業が一段落した頃、同じく休憩中だった丸山さんにお話を聞きました。
丸山さんは「レンタルピットサンエース」の10年来の常連で、現在はジャガー XJ6をレストア中です。
丸山さんによれば「レンタルピットサンエースは、自分のペースで好きな作業ができるところがいい」のだと言い、「もちろん1回きりしかこないお客さんもたくさんいるけど、私のように10年も通っていると客同士顔見知りもできてお互いに情報交換をしたりアドバイスを貰ったり、サークルのような感じでも楽しんでいる。いまレストアしている車両も最初は短期間でパパッと直しちゃおうと思っていたけど、作業をしているうちにあれもやりたいこれもやりたいと思う部分がどんどん出てきてね。もう始めてから何年になるかな(笑)。やろうと思ったら、スペースも道具も知識もある環境ってありがたいよ」とレンタルピットの魅力を語ってくれました。
最後に備え付けの洗剤「エリートクリア」の優秀さに感動
余談ですが、作業終了後に手を洗おうと思ったところ、流し場に設置してあった洗剤が車両整備工場などでよく見かける緑の洗剤でした。実はちょっと気になっていたこの洗剤、初めて使いましたが、手についた油汚れがめちゃくちゃ簡単に落ちてびっくり。「エリートクリア」という名前だったことも初めて知り、帰宅後に自宅用にネット通販で注文しました。
※この取材は2020年12月上旬に行ったものです。
レポート/写真●モーサイ編集部・中牟田歩実