登場以来、着実に進化してきた電子制御サスペンションですが、それが今やどんな状況でも万能なサスペンションなのかというのが、当記事のテーマ。そして、その答え(いや正確には答えの一部)が、SHOWAが示した「提案」=最新版「EERA」に垣間見えました。
スカイフック制御やハイトフレックス制御など、制御機能が充実化
完全な答えではなく「提案」と言ったのは、SHOWAが新技術発表会(2020年10月開催)に用意した試乗車、ホンダCRF1100Lアフリカツインに装着していたのが「EERA」(*)の最新版プロトタイプであって、まだOEM製品ではないからです。
まあ、プロトタイプと言ってもすぐにでもOEM装着が可能そうな完成品でしたが。
これまでSHOWAの「EERA」は、カワサキ ニンジャZX-10R SE、カワサキ ヴェルシス1000SE、カワサキ ニンジャH2 SX、ホンダ CRF1100LアフリカツインにOEMで装着されてきましたが、年々進化を遂げているのです。
CRF1100Lに採用されたものにはジャンプ着地制御を投入、2021年型ヴェルシス1000SEには初めてスカイフック制御が投入されます。
*Electronically Equipped Ride Adjustmentの略で、イーラと呼称。

SHOWAの電子制御サスペンション「EERA」の最新版は、スカイフック制御、減速制御、ジャンプ着地制御、車速依存制御、ハイトフレックス制御、自動車高制御があって、GRAVEL(オフロード)、URBAN(街乗り)、SPORT(高速)に各モードでそれぞれ介入度が異なります。
まず、各制御を簡単に紹介します。
スカイフック制御は、文字どおり上から吊り下げらたように車体は一定の姿勢を保ちつつ、足(サス)だけストロークするイメージで制御します。
減速制御は、ブレーキング時にフロントフォークの沈み込みを抑制します。
そしてジャンプ着地制御は、ジャンプしてIMU(慣性計測装置)がゼロG(無重力状態)を感知すると、前後サスの減衰力を高めて着地のショックを吸収します。車速依存制御は、スピードが高くなるほど減衰力を高める制御です(例えば車速160km/hを減衰力MAX……というように設定します)。

注目は自動で車高を下げ、足着きを良くする「ハイトフレックス制御」
そして、今回最も注目したい機能のひとつが、ハイトフレックス制御。
停止する1秒前になると車高を落として足着きをよくする制御で、試乗車のCRF1100Lの場合、リヤアクスルが約30mm下がります。一方で車高復帰は、再スタートして舗装路では約30秒後、オフロードで約10秒後なのですが、舗装路でもそれなりに勢いよく加速していけば、だいたい10秒ほどで元の車高に戻るようになっています。

これはどういうことかというと「EERA HEIGHT FLEX」(イーラ・ハイトフレックス)は、スプリングにイニシャルプリロードをかける役目の油圧ジャッキへオイルを送るポンプに、ストロークポンプを使っているから(セルフポンピングシステム)。
要するに、サスをストロークさせればさせるほど、早く元に戻る仕組みなのです(電動ポンプではないので、軽量シンプルです)。
そのベース技術ともいえる自動車高制御は、荷物積載時や2名乗車時など、設定しておいた車高になるようにプリロードを自動調整する制御です。



SHOWA EERAを実走テスト「自動制御に違和感はなく、万能な感覚」
では注目の電子制御サス「EERA」最新版、実際に走ってどうなのかというと……。
まず、わかりやすいのが、オフロードのジャンプ着地制御とスカイフック制御です。ジャンプ着地では実に有効な感触でした。圧倒的に突き上げ感が少なく、少々失敗してフロントから先に着地しても大丈夫。さらに、無事に着地後は減衰力が元に戻るので、何事もなかったかのように走り続けることができます。

そしてスカイフック制御。作動ONの状態では、大きめの連続ギャップを滑らかに通過。明らかに作動OFFの場合よりも車体の上下動が少ないです。言い換えれば、足元でサスがよく動いているってことでしょうか?
「スカイフック制御では、減衰力を高めることもあれば、逆に抜いてやることもあるんです」とは、SHOWAのエンジニア氏。つまり1/1000秒単位で演算してソレノイド(電磁バルブの一種)を動かし、減衰力を高めたり・抜いたりを繰り返しているのです。
可変足着き機能「ハイトフレックス制御」はどう作動するのか?
次にハイトフレックス制御。これは「ありがたいなぁ」という感想のほかはありません。
身長170cm、体重70kgの体格で、テスト車のホンダ CRF1100Lアフリカツインにまたがった場合、「制御ナシ」では片足着きでカカトが完全に浮いてしまうのですが、「制御アリ」だとほんの少しカカトが浮くだけで済みます!
リヤアクスルが約30mm下がるのに要する時間は1秒。
本当にスーッと下がります。設定次第で下がる量は変えられるそうですが、リヤだけ下がる機構のため、アドベンチャーモデルでは安全に走行できる範囲での可変量に設定しているとのことです。
特にオフロードでUターンする場合など、一度止まって車高を下げておき、その後発進してUターンしても車高はまだ戻らずに低いままなので、安心です。停止1秒前に下がり、車高復帰までに10〜30秒かかることを逆に利用すればいいのです。
また、「制御アリ」のまま停止してイグニッションをOFFにし、再度ONにしても車高はまだ低いままなので、楽にまたがることもできます。


自動車高制御の確認は、パニアケースを装着した状態で行いました。
「制御アリ」だと、適正な車高を維持するためにピッチングや左右方向へのフワ付きも抑えられ、まあ、普通のライディングができます(パニアケース付きだと、少なからず普通の挙動と異なるものです)。
そしてブレーキングでは減速制御が威力を発揮しますが、これも昔あったANDF(アンチノーズダイブフォーク)機構のように唐突にフォークが突っ張るのではなく、実に普通にノーズダイブが制御されるので、「制御アリ」の不自然な感覚を意識させません。

車速制御とスカイフック制御が同時に作動している場合はどうなるのか?

そして個人的に関心があったのは、車速依存制御とスカイフック制御などが共存した場合(ともに作動ONの状態)の制御です。これについては「両方ONにしておけば、どちらかが効いてくれますから、どちらもONがお薦めです」とSHOWAのエンジニア氏。
車速依存制御では、100km/hで相当減衰力が高くなります。そのままの速度でアップダウンを走り、例えば上り終わりの頂点付近で道が曲がっていたとしたら?
スカイフック制御がどこで、どういう具合で効いているのかわからないのですが、そういう状況でもなぜか上手く走れてしまいます。ちゃんと接地感が維持されます。車速依存制御だけでは、この挙動は説明がつきません。
車速依存制御はスピードが高くなると減衰力を高くするだけですが、スカイフック制御では高めることもあれば抜くこともあります。つまり、この場面では「抜く」ことが功を奏したのです。まあ、状況に応じてどちらかよいほうの制御が効いてくれるので安心ですね。
「どんなカテゴリーに合う?」電子制御サス搭載モデルの可能性
このように、賢くてライダーに気付かせないほど自然な制御を可能にしているのは、内蔵されたソレノイド(前述したように電磁バルブの一種)、ストロークセンサー、ECU、そしてベースとなるEERAのBalance Free Damping Force(電子制御式減衰力可変ダンパー)のフロントフォークやリヤショックの作動性のよさがあるからです。
電子制御サスはあくまでオートマチックな感覚で、難しい設定なしにドライブモードと連動するぐらいでいいというのが個人的な見解です。そしてSHOWAのEERAは、OEM装着すると価格はそれなりに高くなるんでしょうけど、「アリ」だと思います。
まずは大排気量アドベンチャーモデルへ採用されるのは当然として、次は大型クルーザーなどへも、ハイトフレックス制御付きでの採用をお願いしたいですね。

レポート●石橋知也 写真●岡 拓/SHOWA 編集●上野茂岐