クルマ用V8エンジン搭載バイク「ボスホス」の魅力に迫る
「ボスホス」は、アメ車のシボレー用5700ccのV型8気筒をはじめ、6200ccや8200ccなどの超巨大エンジンを搭載するアメリカ製バイクです。
クルマ用……しかもアメ車のエンジンを搭載するバイクというと、「重くてちゃんと走らないではないか?」とも思えますが、実際どうなのでしょう?
ここでは、自らボスホスを所有する筆者のインプレッションや、オーナーズクラブの方々に聞いたお気に入りポイント、コダワリポイントなどを紹介。日本では、あまり知られていないボスホスの魅力に迫ります。
5700cc車と8200cc車を乗り継いだ筆者の体験談
「ボスホス」と聞いてもピンと来ない方も多いかもしれませんが、メイドインUSAのれっきとしたバイクメーカーが生産する量産車です(生産数は少ないですが)。
1990年に誕生し、これまでに5000台ほどが作られたようです。
シボレーの5700cc V8エンジン搭載車を中心にいろいろなタイプがあり、発売当初はクラッチ付き1速仕様、その後2速(+バックギア)セミATとなり、ビッグブロックと呼ばれる8200ccエンジン搭載モデルやスモールブロックでオールアルミ製エンジンの6200cc版も登場。残念ながら、8200cc車は世界的に厳しくなった環境規制をクリアできずに廃版となっています。
日本ではボスホスジャパン(栃木県)が販売しています。国内では恐らく100台前後が登録されているものと見られ、「ボスホスオーナーズグループ」という団体もあり、登録会員数も数十人います。
5700cc車が250ccスクーターに思えた!
私はこれまで5700cc車を2台、8200cc車を2台所有してきました。初めて5700cc車に乗ったときはその大きさゆえに「化け物だ」と思いました。
ですが、その後8200cc車に乗り換えると、さらに重たくてビックリ! これはヤバい乗り物だと思いました。その後再び5700cc車に乗り換えたときには、まるで250ccスクーターのように感じたほどです。
今乗っている8200ccのボスホスは、2001年に新車登録したモデルです。
5700cc車と8200cc車では、排気量が異なるだけと思っている人も多いようですが、両方所有した私からすると全くの別物です。
もちろん、外観上は「8200cc車の方が少し大きいかな?」ぐらいにしか感じません。燃料タンクやフロント周りなどには共通パーツも多いのですが、実は8200cc車はエンジンの全長が10cmくらい長いのです。
車両重量は550kg(車検証の記載重量)、総重量は660kgで、5700cc車より約100kg重くなっています。
この車重100kgとエンジン長10cmの差が、乗ると大きな違いになります。
エンジン本体はシンプルで非常に丈夫ですから、壊れることはほぼなく、セルスターター一発で始動します。
エンジンからマフラー出口までの距離が近く、消音に限界があるようで、排気音は少々うるさいです。対策としてマフラーに詰め物をしたらどうかと考え、いつもお世話になっているバイク屋さん(オートプロシンユー・神奈川県藤沢市)に相談しましたが、エンジンへの負担が大きくなり過ぎるのでやめた方が良いとのことで、諦めました。
ちなみに、アメリカ人はこのバイクを直管マフラーで普通に乗っているようです。自分の愛車より大きくなるに違いない排気音量を想像すると、とても信じられませんが……。
ボスホス8200cc車のミッションは超シビア
8200cc車のエンジンは5700cc車よりも早く温まります。始動して1〜2分で安定します。
私はアイドリングを1000rpmに設定しています。ミッションはセミATの2速(+バックギア)でクラッチはなく、ニュートラルからシフトペダルを前に踏み1速に入れ、アクセルを少し開けるだけで走り出します。とても楽ちんですね。
1速から2速に入れるのは80km/h前後までが良いとされていますが、1速で100km/h以上(150km/hは出そうですが)で走ることも十分可能です。ですから、市街地では2速に入れる必要性はないとも言えますが、自分は市街地でも信号が少なく、ノンストップで長く走れそうなら早めに2速に入れてしまいます。
ここで注意しなければいけない点があります。8200cc車のミッションは超シビアで、2速から1速に落とすのは停止してからがベスト。走行中にシフトダウンすると簡単に壊れてしまいます。
2速走行時で一番困るのは、交通の流れが詰まり、30km/hなどの中途半端な速度になってしまった時です。1速に落とすわけにもいかず、といって2速30km/hではアクセルワークが思うままにならず非常に走りづらくなってしまいます。
その点、5700cc車は多少扱いが荒くても大丈夫で、このような場面ではスピードを一瞬20km/h以下に落として1速に入れてました。
ミッションが壊れると後が大変です。私も一度、走行中のシフトダウンを無意識にやっってしまい、簡単に壊れてしまいました。
まず、壊れるとその車重ゆえにビクともしません。そんなとき、自分はいつもJAFにお世話になっており(JAFさんには感謝感謝です)、コールセンターに「ウインチ付きのローダーを」とお願いします。
ウインチがないと何人いようが搭載不可能ですからね。そしてそのまま(前述の)オートプロシンユーさんまで運んでもらいます。JAFのロードサービスは15kmまで無料、それ以上は走行距離に応じた料金がプラスされ、バイク屋さんまでの距離が長いと痛い出費になります。それでも、ボスホスを動かすことを考えると、私にとってJAFは仏様のような存在です。
倒してしまったボスホスを起こすのは意外と一人でも可能(笑)
幸い、走行中に転倒したことはありませんが、駐車中に倒してしまったことは何度かあります。5700cc車は意外と簡単に起こせましたが、8200cc車が駐車中、しかもシートカバーを被ったままゴロンと横に倒れてしまったときは正直焦りました。
その時は、ハーレーがイベントなどでよく行っている“起こし方教室”で教わった、大型で重たいバイクを起こす方法を思い出し、同じ要領でやってみるとなんとか一人で起こすことが出来ました。
ちなみに、ミッションが壊れた時は、パーツをアメリカe-bay(現地通販サイト)で探して送ってもらいます。日本円で大体6万円くらい。後は交換するための作業料が掛かりますが、エンジンを下ろさなくても修理が可能です。
エンジンはめちゃくちゃ熱いです。
特に夏場の7月〜8月は最も危険なシーズンで、私はこの時期ボスホスを(夏なのに・笑)冬眠させています。
水温計はすぐ150度に到達し、デカいラジエターに取り付けられたファンが回り、熱い風を容赦なくライダーに吹きつけます。エンジン本体も熱く、足はエキパイに付きそうだし、走った後にズボンを脱いだら、足が真っ赤で火傷寸前ということも珍しくありません。
平均燃費は、同じボスホス仲間の話と照らし合わせてみると5700cc車で8〜10km/L、8200cc車だと5〜6km/Lといったところ。ですが、なんと私の8200cc車は最近約10km/Lを記録! 乗り方などによっては、なかなかいい燃費になりますね。
ちなみに、燃料タンク容量は32Lで、ハイオク指定なのでお金もかかります。以前、神奈川県から滋賀県まで一日で往復した際は、5回以上給油してガソリン代だけで1万円以上掛かりました。
バンク角は浅いがコーナーは安定
コーナリングですが、バンク角はかなり浅いです。ステップが接地することが多いですが、接地しても姿勢が崩れることはなく不安感はありません。
これは、5700cc車も8200cc車もほぼ共通していますが、タイトなコーナー、低速度でのコーナリングは8200cc車のほうが苦手で、重さを感じることがあります。よく、コーナリング中に「このまま倒れてしまうのではないか」と不安になることさえあります。
ブレーキも一応効きますが、日本メーカー製スポーツ車のようにはいきません。コーナーのかなり手前で減速するなど、予めアドバンテージを考慮しておくことが肝心。調子に乗って走っていると「おっとっと」となってしまいます。
3000回転以上で本領発揮!
エンジン回転数は、2速=70km/hだとほぼアイドリングと同じ状態。120km/hくらい出せば、やっと3000回転ほどに上がります。低速トルクがあるという意味では、まるでディーゼルエンジンのようです。
でも、例えばサーキットのようなクローズドコースで、そこからさらにアクセルを開けると、一瞬で160km/h以上の異次元域に突入! ボスホスの神髄を見せるシーンです。
車体が重たくて大きいためスピード感も薄く、スピードメーターを見てビックリすることもしばしばです。
今はリヤサスをソフトにセットしているため、高速で走行すると、ちょっとした路面の凸凹でも車体重量に負けてリヤが暴れ気味になり要注意です。そこで、サスペンションはもう少し硬くする予定です。
ちなみに、これからオールペイントをする予定で、外装を全て外す作業をしています。塗装に約1か月ほど掛かるため、その間に他の部分を綺麗に整備する予定です。どんなカラーにするかは秘密ですが、ハデハデな色に一新する予定です。
止まっている時は、重たくて言うことを聞いてくれない駄々っ子のオデブちゃん。ですが、いざ走り出したら世界最大、大型戦車のようにパワフルに走る……このギャップと迫力がボスホスの魅力だと思います。
これからも体力の続く限り、周囲に迷惑を掛けないように、そして(その大きさから)怖がれないように、大人しく走り続けたいと思います。
オーナーに聞いた「ボスホスのココが好き、ココが大変」
ここからは、ボスホスオーナーズグループのメンバーの方々に、魅力や普段どういった乗り方をしているのかなどをアンケート、それぞれの「ボスホス」ライフについてご紹介します。
今回のアンケートは、以前行われたグループ主催のツーリングに参加された方々にお聞きしました。
残念ながら、当日は悪天候による順延などが影響し、参加者は筆者も含め5名。とは言え、なかなか集まる機会が少ないので、仲間と会えることはとても嬉しいことです。
このときの参加者は、神奈川県や埼玉県、そして栃木県のオーナー。30代から60代と年齢層も幅広いです。
モデル的には5700cc車が4台、うち1台は3輪仕様のトライク、そして8200cc車1台。やはり8200ccは非常に少なく、しかもトライクにするケースが多く、日本におけるバイクとしての登録台数は10台以下と見られます。
ボス君(ボスホス)のオーナーさんは、長く乗る人が多く、20年以上の方も珍しくないです。また、ほかのボスホスオーナーと知り合いの方も多く、「○○県の青いヤツ」と言えば、「あ〜、○○さんのバイクねー」となります。
では、早速オーナーさんたちの生の声をお届けしましょう。
【オーナー1】
・氏名:山岸 正さん(神奈川県厚木市・バイク歴44年)
・車名:ボスホス5700cc
・走行距離:約2万km
・購入時期:初めてのボスホスは6年前。今年、買い換えました
・購入した理由:昔、TVでボスホスを見て、それ以来の夢だった
・以前乗っていたバイクは?:ヤマハXJR1300
・ボスホスの魅力は?:他にはない豊かな個性
・カスタムは?:カラーリング、シートハンドル、リアホイール、マフラー、ステップ回り、ライト、ほか
・ボスホスならではの苦労は?:特にない
・次に欲しいバイクは?:普段の足にマジェスティがあるが、ハーレーFLH系に乗ってみたい
【オーナー2】
・氏名:須藤孝彦さん(神奈川県泉区・バイク歴約10年)
・車名:ボスホス5700cc(1速)
・走行距離:500kmくらい
・購入時期:2019年10月
・購入した理由:排気量の大きさに引かれて
・他に持っているバイクは?:ハーレー3台、ヤマハYZF-R1
・ボスホスの魅力は?:圧倒的パワー
・カスタムは?:これからマフラー、リアフェンダーなどをワンオフで製作、外装をオールペイントする予定
・ボスホスならではの苦労は?:バックギアが無いので自力バックが難しい
・次にほしいバイクは?:ボスホス8200ccが欲しい
【オーナー3】
・氏名:蒲生典明さん(栃木県栃木市・バイク歴40年)
・車名:ボスホストライク5700cc
・走行距離:9000km。あまり遠くには行きません。栃木、福島くらいまでですかね
・購入時期:20年前
・購入した理由:当時はまだトライクが普及しておらず、ハーレーの三輪サービカーを見て、ボスホスでトライクが作れないかと思い(ベース車として)購入。ボスホストライクの第一号機として製作を依頼し、注文から約半年で完成しました
・以前乗っていたバイクは?:32ccエンジンをスケーターに乗せたような原付バイクを持っています。変わった物が好きですね
・ボスホスの魅力は?:存在そのものが好きです。20年間で9000km走りました
・カスタムは?:トライク以外にはしてません
・ボスホスならではの苦労は?:オート三輪登録車(トライク)なので高速道路の最高速度が80km/hなのは不便
・次にほしいバイクは?:ありません
【オーナー4】
・氏名:山岡功昇さん(埼玉県春日部市・バイク歴25年)
・車名=BHC-3 LS3(6200cc)スタンダード
・走行距離:この10年間で7万7000km。四国まで行った時もあります
・購入時期:最初のボスホスは15年前、今のバイクに買い換えたのは2010年
・購入した理由:新型エンジン車が発売されたので買い換えました
・以前乗っていたバイクは?:ボスホス(1速)
・ボスホスの魅力は?:非常に強力なパワーとサウンド
・カスタムは?:フロントホイールを16→21インチに。操作性が軽くなった
・ボスホスならではの苦労は?:特になし。でも、止まっている時は車体を動かしたくない
・次にほしいバイクは?:ないです
【オーナー5】
・氏名:田島史郎(筆者本人・神奈川県大磯町)
・車名:ボスホス8200cc
・走行距離:今まで所有したボスホス4台の合計で約3万km。一番遠くは滋賀県日帰り
・購入時期:最初に買ったのは20年くらい前。今のバイクは今年購入
・購入した理由:大きさに憧れて。今のボスホスは4台目
・以前乗っていたバイクは?:ゴールドウイング、アディバ250、モンキーほかを今でも所有
・ボスホスの魅力は?:デカいじゃじゃ馬をなだめて乗りこなすこと
・カスタムは?:実行途中。ハンドル回り、タコメーター、これからオールペイントします
・ボスホスならではの苦労は?:いうことを聞かない。8200ccはとにかく重たい
・次にほしいバイクは?:新型のゴールドウイング
レポート●田島史郎/高野栄一 写真●八重洲出版/田島史郎 編集●平塚直樹