埼玉県の「バイク免許解禁」当事者にインタビュー
高校生がバイクに乗ることに関して、「免許を取らせない」、「買わせない」、「運転させない」といった3つのスローガンを掲げて行われている「三ない運動」。
現在は、高校生のバイク事故が減少しているにも関わらず、この運動は続けられていますが、それは一体何故なのでしょうか?
それを解き明かすため、近年「三ない運動の撤廃」という結論を出した、埼玉県「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」の稲垣具志会長へインタビュー。
第1回目の記事では、三ない運動の何が問題かについて紹介しましたが、今回は実際に同委員会がどんな議論を行ったかについて説明していきます。
参考:【三ない運動の何が問題なのか?(1)】バイクを「高校生に触れさせない」だけでは教育にならない
一定条件をクリアすれば免許取得が可能に
埼玉県は、県教育委員会主催による「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」を経て、バイク通学の有無に関わらず、保護者同意のもと、学校への届け出等の条件により、全ての高校生がバイクの免許を取れるようになった。
これにより、今まで学校に隠れて免許を取りバイクに乗っていた生徒を含め、全てのバイク免許取得者に対して安全運転教育を施すための門戸が開かれたのだ。
では、実際に高校生のバイク免許取得に関する検討を行った委員会では、いったい何が議論されていたのか? (当記事の第1回目に)引き続き、同委員会の会長を務めた稲垣具志氏にうかがった。
多くの委員が「やめる理由がわからない」
多くの委員の方が「やめる理由がわからない」と言っていました。三ない運動によって高校生の命が守られ、事故も死者も減り、ずっと抑えられているのに、何でわざわざやめる必要があるのかと。そういう意見が一番多かったですね。
三ない運動というのは、日本の交通安全教育の特徴を表しています。
「あの子たちは守られているんだから、何でやめる必要があるの?」という教育なんですよね、考え方としては。「三ない運動をやめることによって新たな事故が起きるでしょ。じゃ、そういった事故については、どう責任を取るの?」という意見もありました。
議論すべきは交通安全教育のプロセス
検討委員会では、三ない運動をやめるか続けるかを議論したわけではないんです。(多くの委員が)心の中では永遠に反対だと思います。合意形成というのは、全員が満場一致で賛成ということはあり得ないんです。
「三ない運動を続けますか、やめますか、どうですか?」なんて聞いていたら、結論は出ません。
そこで、高校生としての日常生活が脅かされないように、また、それぞれの高校における登下校のあり方を崩さないように、「どうすればこの子たちに交通安全教育ができるのか?」という観点で議論しましょうと提言しました。
その時に、三ない運動を続けることを前提で話すのではなく、
三ない運動がなくなり、学習指導要項も変わる
高校生がバイクに乗り出す
ということを仮定した場合、“本当に大丈夫なのか”について話しましょうという感じで議論を進めていきました。
交通安全教育が本当に実行可能なのか?
やっているだけでなく意味のあるものが期待できるのか?
バイクに乗ることで、子供たちが本当に非行に走らないのか?
いろんなことを多角的に議論して、問題がないのであれば、最終的には三ない運動をやめましょうと。
その上でやっぱり難しいとなれば、結論として三ない運動を続けるだけです。つまり、議論するのは結論ではなく(どうやって高校生に交通安全教育を受けてもらうかの)プロセスなんです。
高校生が健全に安全な学校生活を送れるようにという点は全員賛成なんですよ。それが本当に維持できるのかどうかを議論することにしました。
それぞれの考え方や懸念を整理する
そこで、委員会ではその場の水掛け論で議論するのではなく、委員の考え方や懸念をきちんと書面で出してもらい、それぞれの状況に対してメリットやデメリットも整理しました。
それらをやることで、かまえていた委員の方々も、子供たちの健全な育成や交通安全意識の醸成といったことに対して議論が成熟していきました。
議論していく中で、県全体としてこういう流れでやっていくとなり、県の教育委員会が責任を持って交通安全教育をやっていくと宣言しているのだから、「じゃ、ちょっと見てみよう」という感じになったんです。
<第3回目に続く>
*本文中の( )内は編集部注
レポート●田中淳麿 写真●田中淳麿/モーターサイクリト編集部 編集●平塚直樹