クルマやバイクなどの総走行距離(積算距離ともいいます)を示すメーターをオドメーターといいます。これはご存知の方も多いでしょう。
最近では、走行距離だけでなく燃費計、外気温表示、トリップメーターなどと一体化しているものや、高級車などではフロントガラスにヘッドアップディスプレイとしてスピードやタコメーター(回転計)と一緒に表示する近未来なデザインもあります。
オドメーターは普段それほど頻繁に意識する計器ではありませんが、ときどき走行距離を見ては、「この前にオイル交換したのは何キロだったかなあ……」とか、「このバイク、いつの間にか4万キロも乗ったのか」といった感じに、愛車を思いやるきっかけにもなりますね。
ところで、このオドメーターについて常々ギモンに感じていたことがあります。オドメーターの「オド」とは、いったい何を意味しているのか――ということ。
オドメーターをめぐる長~い歴史
辞書を引いてみると、オドメーターは「odometer」として名詞として載っています。別に「オド」と「メーター」を組み合わせた言葉ではなく、1つの単語です。
ただ、メーターについては「計器」あるいは「計量器」といったそのままの意味なわけで、オドについては「距離」に関係ある言葉だと推測されますが……辞書を調べてみても「odo」という単語は載っていません。
もしかすると、オドメーターのオドとは、誰かの名前を冠したものでしょうか。ガソリン自動車を発明したといわれるドイツのカール・ベンツが現在に至るまで、「メルセデス・ベンツ」としてその名を残しているような具合に――。
そこでオドメーターがいつ誕生したのかを探っていくと、オドの意味につながるヒントがみえてきます。オドメーターが世に登場するのは、自動車が発明されるよりもはるか以前のこと。じつはかなり古い歴史があるんです。
例えば、いまから500年前のイタリア、ルネサンス期の画家・発明家として有名なレオナルド・ダ・ヴィンチは、手押し車のオドメーター(積算走行距離計)を考案して測量を行っています。この手製のオドメーターによって当時としてはあり得ないほど精巧な地図を製作したと伝えられています。
さらに時代はさかのぼり、オドメーターが誕生したのは紀元前の古代ギリシャといわれています。
数学者のアルキメデスが発明した歯車機構の荷車がオドメーターの最初で、一定の距離を進むごとに球が箱に落ちていく仕組みになっていて、正確な移動距離がわかるというものでした。
オドメーターが開発された背景には、ローマ軍とカルタゴ軍が地中海の覇権をめぐり争ったポエニ戦争があったというので、軍事目的だったわけですね。
結局のところ、オドの意味はこの時代の言語、古代ギリシャ語の「ὁδός」、「hodós」(「オドス」「オドース」という発音が近い)といった言葉が意味する「経路」「パス」「出入口」が語源になっているようです。
オドメーターは新車納品時もゼロではない
大昔から人類の文明とともに歩んできたオドメーターですが、現代社会でも極めて重要な役割を果たしています。
走行距離は車両を知る上で欠かせない履歴。法令では必ず車両にオドメーターを装備することを義務付けています。
中古車の場合は走行距離が市場価値を決める要素にもなります。なので、走行距離をリセットしたり、巻き戻したり、書き換えたりすることは基本的にはできないようになっています。
オドメーターの書き換えなどを禁止する法律はありませんが、メーター交換などで車両の走行距離が変わっていることを故意に知らせることなく販売した場合は、「詐欺罪」(刑法246条、10年以下の懲役)に該当する可能性があります。
民事上の損害賠償を求められることもあります。
ちなみに、オドメーターはその車両が完成してから現在までの積算の走行距離を示しているので、新車を購入した場合でも納車時にオドメーターが「000000」と、ゼロが並んでいることはまずありません。
「000008」「000022」といったように、工場をラインオフした後、店舗などへ移動してきた距離も含めた、数km~数十kmの表示がされるためです。
レポート●紺野陽平 編集●上野茂岐 写真●小峰秀世/ホンダ/マツダ/PIXTA