ヤマハ製モーターサイクルでお馴染みの「音叉マーク」は、ヤマハ発動機が楽器メーカーのヤマハから分離独立した1950年代から使われ続けています。当記事では、そんな音叉マークの意味や歴史について紹介したいと思います。
音叉マークのルーツは1887年にあり!?
日本を代表する楽器メーカーのひとつ、ヤマハ株式会社の創業は、創業者の山葉寅楠が1887年に浜松の小学校のオルガン修理を行ったことから楽器制作に取り組み、オルガンを試作したのがきっかけだそうです。音楽取調所(現・東京芸術大学)にそのオルガンを持ち込んで評価を受けたところ調律を酷評され、4ヶ月掛けて音楽の理論や調律を学び、試行錯誤の末にオルガンを完成させました。
その間に音叉を片手に苦労した経験から音叉マークの構想を生んだと考えられています。そして音叉マークは、山葉寅楠が「日本楽器製造株式会社」を設立した翌年の1898年、社章として採用されました。ちなみに同年には、音叉をくわえた鳳凰図が、商標として登録されています。
ちなみに音叉は楽器の調律用の道具なのですが、1711年にこれを発明したのは英国の王室楽団に属していたトランペット奏者のジョン・ショアという方でした。
鋼鉄で作られたU字型の棒の中央に柄をつけたカタチの音叉ですが、ヤマハの3つの音叉は「技術」、「製造」、「販売」の3部門を示しており、強い協力体制を表現するとともに、音・音楽を中心に世界へ伸びてゆくたくましい企業としての生命力を示しているのです。
また、「メロディ」、「ハーモニー」、「リズム」という音楽の基本の調和という意味も、ヤマハの3つの音叉のマークには込められています。
その後ヤマハの音叉マークは、1967年、1980年、1998年、そして2016年にデザイン変更を受けていますが、その基本となる意匠は不変です。周知のとおり、現在ヤマハは楽器以外の様々な分野に事業を拡大していますが、創業時からヤマハの企業姿勢は不変であるということのあらわれと言えるのかもしれません。
音叉マークだけでなく、ロゴも違います
1955年にヤマハYA-1(空冷2ストローク単気筒125cc)が発売され、その直後にヤマハからヤマハ発動機が分離独立することになります。その後しばらくはヤマハがヤマハ発動機の親会社という関係が続きますが、2007年の資本関係の変更により、現在のような兄弟会社の関係になりました。
YA-1の時代からヤマハ製モーターサイクルには音叉マークが使われていますが、楽器の方が円の内に音叉の先がおさまっているのに対し、モーターサイクルの方は音叉の先と円が接しているデザインになっています。
なぜヤマハ発動機の音叉マークは、音叉の先と円がつながっているのかというと、それは元々の音叉マークの意匠を、モーターサイクルのホイールに見立ててのモディファイなのです。つまり円がリム、音叉がスポーク……ということなのですね。
なおそのほか、ヤマハはバイオレット、ヤマハ発動機はレッドのヤマハロゴを採用しており、ロゴのフォントについてもヤマハは「M」の中央が下まで伸びておらず、各アルファベットが左右非対称になっています(ヤマハ発動機の方は、各アルファベットが左右対称です)。
音叉マークが、冷遇された時代がかつてはあった?
先述のとおり、YA-1のタンクマークに音叉マークは使われていますが、じつはその後のヤマハ車はスポーツモデルに関しては、圧倒的に「YAMAHA」ロゴをタンクにあしらう例の方が多かったです。
再び音叉マークがタンクを飾るようになるきっかけとなったのは、1984年型のヤマハSR400、SR500から(それまではYAMAHAロゴ)でしょうか? この4ストローク単気筒の超ロングセラーに続いて登場した、1985年のSRX400、SRX600にも音叉マークが採用されています。
今ではヤマハのロードスポーツのフラッグシップモデルであるYZF-R1をはじめ、多くのヤマハ製スポーツバイクのタンクマークに音叉マークが採用されるようになっていますが、じつは1970年代など音叉マークが冷遇(?)されていた時代もあったのですね……。
文●宮﨑健太郎
画像提供
●ヤマハ株式会社(https://www.yamaha.com/ja/about/history/logo/)
●ヤマハ発動機株式会社(https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/)