
マルク・マルケス選手6連覇に加え、ホンダは3年連続6回目MotoGPタイトルを獲得
2019年、1000ccレギュレーション8年目のシーズン、ホンダはRC213Vで3年連続6回目のMotoGPタイトルを獲得。チャンピオン、マルク・マルケスの6連覇(MotoGP史上最多の420ポイント獲得)と、ライダー/チーム/メーカーの2年連続3冠達成という輝かしい結果の反面、新加入したホルヘ・ロレンソの負傷と引退という“事件”もあったシーズンだった。これらを振り返って、ホンダ青山本社でHRC(ホンダレーシング)の開発エンジニアによる記者会見が行われたので、その内容を紹介しよう。
ホンダMotoGP2019年シーズンを振り返って
「2018年に引き続き2019年もエンジン出力向上を目論み、さらに車体でもチャレンジをしましたが、当初はトータルでのパフォーマンスをまとめ切れず、シーズン前のテスト段階では苦しみました。
開幕戦では競り合いを展開した結果の2位でしたので、『何とかなりそうだ』という手応えを感じられたものの、ライバル達との差はどちらにしても小さなものであり、シーズン中は想定外のことが起きたり、ふたりのライダーが怪我をしたりと、内側では四苦八苦していたというのが正直なところです。
とくにロレンソのつまずきは大きな出来事でした。彼はシーズンオフのトレーニングで怪我をし、さらにシーズン中に転倒してしまい、満足にマシンのアジャストや熟成が出来ないままでした。
この点は私たちの反省材料です。そういった意味では、シリーズポイント400点以上でマルケスがチャンピオンを獲得できたことは良い結果でしたが、ロレンソの引退は非常に残念な結果であり、良いも悪いもあったシーズンだったと思います。

2019シーズンで引退を決定したホルヘ・ロレンソ選手
2019年の勝因のひとつは、2018年から継続した出力向上にあります。結局、最高速の勝負だけではなく、出力に余裕があればライダーのレース戦略の幅も広がるのです。
(技術的に熟成されている)現在は重箱の隅をつつくような作業によって出力向上を実現するようなところがありますが、2019年も引き続き『つついてきた』と言ってもいいでしょう。ただ、出力向上のための方法論や施策の可能性はまだまだありますので、その部分で悩むことは少ないのですが、問題は『限られた時間の中で何を行うか』と言うことなのです」
2019シーズンにおけるRC213Vの進化ポイント

最終戦バレンシアGPでは予選2番手からスタートし、トップでチェッカーを受けたマルク・マルケス選手
「2019年の大きな変更は(それまで燃料タンクの左右にあった)インレットダクトをセンターにレイアウトしたことで、その理由はエンジン出力向上のためであり、燃調の安定性等にメリットがあります。この変更は今まであった制約を少しでも無くし、自由度を上げて行く必要があると考えたからです。
これによって、インレットダクトがステアリングヘッドパイプを貫通する等、フレーム形状も大きく変わっています。
ニューフレームに関しては2018年シーズン中から検討を始めていましたが、シーズン前のカタールテストにおけるマルケスの評価は『18年と大きく変わらない。問題ない』という内容でしたが、ロレンソとクラッチローは疑問を感じていましたね。
マシン開発はどこかが良くなれば、どこかが悪くなるというものですから、常にライダーからのコンプレイン(不満)はなくならないものだと思います。
結果的に、2019年シーズンは部分的にCFRPのパッチを貼る等したフレーム本体を、相当数製作することになりました。
もちろん、2019年のフレーム変更はエンジン出力向上のためだけではありません。先ほど言った『制約を無くしていく』という意味では車体関係も同じことであり、特に『ホンダのマシンは曲がらない』と巷では言われておりますが、その点では『ブレーキング旋回の向上』は重要なポイントでありますし、大きく回り込むようなコーナーでの加速トラクション向上もしかりです。
そして、ライバルをぶち抜けるパワーとドライバビリティの向上が、開発の大きな方向性なのです」

最終戦バレンシアGP優勝後のコメントで「今年(2019年)を上回る成績を残すのは難しいと思う。なぜなら今年は完璧な走りをしたらかです」と語ったマルク・マルケス選手
「ライバルをぶち抜けるように」2020年シーズンに向けてのマシン作り
「実はフレームを変えたことによって、以前よりソフトなタイヤでも使いやすくなっています。
結局、出力を向上させることでレース戦略的な部分は拡大するものの、反対に減速やドライバビリティには満足できない状況になるので、今後もトータルに性能を上げて行く方向性で開発を進めて行くことになるでしょう。
スピードが向上すればブレーキの限界も向上させねばならないでしょうし、さらにタイヤ性能を使い切るという技術的課題が浮上します。出力向上に伴う燃費の問題もある。さらにはライダーの体力的限界が顕在化する可能性もあるのです。
こうして振り返ってみると、2019年の勝因は出力向上と旋回性のバランスということになるでしょう。2017年からの2年間で出力は相当に向上しています(一説には300馬力前後とも言われる)。
ただ、出力を上げたことで旋回性が低下するわけではないので、旋回制が劣っているという自覚のもと、引き続き性能を追求して行きます。
2020年は圧倒的な勝ち方を目標にすると同時に、新たに加わるマルケスの弟、アレックスが勝てるようなマシンに仕上げたいですね。19年でトップスピードはライバルと互角になりましたが、20年は 『ライバルをぶち抜ける』ようにしないとダメだと思っています」
- HRCレース運営室室長・桒田哲宏さん
- HRC開発室室長・若林慎也さん
(レポート●関谷守正 写真●ホンダ/関谷守正)
12月28日訂正・タイトル獲得回数は6年連続ではなく3年連続6回の誤りでした。お詫び申し上げます。