217.5馬力を受け止める車体にもMotoGPマシンのノウハウが反映されている
ホンダが「直球勝負」で至高のパフォーマンスを狙ってきたCBR1000RR-Rファイヤーブレード。
実はエンジン以上に、その車体構成には最新の設計思想がうかがえる。大きなポイントは大きく変わった車体ディメンション、新設計となったフレーム、そしてリヤショックを従来までの「ユニットプロリンク」からエンジンマウントの「プロリンク」に変更した事である。
そのキーワードは意外かもしれないが「扱いやすさ」なのである。
今回のLPL(開発責任者)は、そもそも車体設計担当のエンジニアであり、MotoGPマシンRC211V(初代)や歴代CBRシリーズ、そしてMotoGPマシンの公道バージョンRC213V-Sなどで車体設計やLPLを務めてきた。フレームや車体に対して人一倍のこだわりを持っており「扱いやすくないと振り回せない、これが考え方の基本」だと言う。
従来型CBR1000RRとはまったく別物となった車体ディメンションを見ても、それの思想が理解できる。
従来型からホイールベースは50mm延ばされ、キャスター&トレールも増加した。これは高速域や加減速時の車体の安定性を向上させるためのものと言える。また、直列4気筒はV型4気筒よりもエンジンの前後長が抑制できることもあって、その搭載位置はより後方かつ上へと最適化され、前後の荷重配分は50:50になった(重心位置やピッチング限界などはRC213Vに準拠している)。
同時に新設計のメインフレームは横剛性を「落として」いる。
これは高速域で車体を安定させながらも、扱いやすさやハンドリングの自由度を確立する狙いがあってのこと。
たとえば、現在のMotoGPではバンク角が非常に大きくなっているが、フルバンク時ではタイヤに加わる荷重と、リヤショックへ入力される荷重の方向が大きく異なるため、凹凸など路面からの入力がある場合は、フレーム自体が横方向にしなって荷重を吸収する考えが主流になっている。このあたりも含め、旋回性を高めているとうかがえる。
「ユニットプロリンク」はショックユニットが車体から独立した構成なので、特に高速域においてリヤサスペンションで発生した荷重が車体に干渉しないという理由から、2002年のRC211V以来、一連のRCレーサーやCBRシリーズで使われてきた。これをリヤショックのアッパーマウントをエンジンマウントとしたのは、車体構造の合理化が狙いである。
このレイアウトで、メインフレームの左右を連結するクロスメンバーを廃止する事もできたので、剛性バランスの向上と軽量化を一度に実現できたのだ。
ここでも、V4より車体レイアウトの自由度が高いという直4のメリットを活用しているわけで、これがV4であったらエンジンマウントは不可能だったであろうと思える。また、このエンジンマウント採用の背景には、フレーム解析や成形技術、加工技術の進化もある。
なにしろ、今回のファイヤーブレードでは、フレームとそこに搭載されるエンジンとの組み付け精度を保証するために、メインフレームには成形後に追加工を施しているのだ。
要するに、最新の知見や技術で高性能フレームを作った場合はこうなるというのが、今回のファイヤーブレードである。
スイングアームにしても、18枚のアルミプレス成形材を溶接で組み立てるというファクトリーマシンの手法を用いており、手間とコストを考えると市販車では異例の内容だ。
細かい部分でもパフォーマンスへのこだわりは貫かれている。
初採用となったウィングレットや、新たに6軸になったIMUで制御される電制ステアリングダンパーなどもそうだが、スマートキーを採用したのもパフォーマンス向上のため。
フロントのセンターダクトをRC213Vと同等サイズにすると、一般的なバイクのようにメインキーがハンドルまわりにあると巨大なダクトに干渉してしまうからだ。
しかもキーシリンダーのなくなったアッパーブラケットは、市販車では見た事のないような、RC213Vと同じ「薄くプレーンなもの」になっている。
(ぜひ実車を見る場合はアッパーブラケットの薄さに注目してほしい)
この最新テクノロジーを満載したCBR1000RR-Rファイヤーブレードの開発におけるベンチマークは、他社競合モデルではなくRC213V-Sのキットパーツ装着車(215馬力)である。
検討の結果、RC213V-Sキットパーツ装着車のパフォーマンスが抜群であったから、というシンプルな理由だ。つまり、それを超えるパフォーマンスが確立できれば、クラスナンバーワンであり、レースにも勝てるはずだと言うわけである。
そして、初代CBR900RR以来の伝統ともいえる「乗りやすさ」も忘れてはいないと言う。その根底にある思想は「扱いやすさ」である。
国内仕様70馬力の213V-Sが、軽快で扱いやすく感動的でさえあるのだから、その車体設定を担当した人物がLPLとして関わったCBR1000RR-Rファイヤーブレードがどこまで走るのか、心底楽しみである。
件のLPLは「スーパースポーツをこよなく愛するお客様に、ぜひ乗っていただきたい」と望んでいるからだ。
(レポート●関谷守正 写真●山内潤也/ホンダ 編集●上野茂岐)