世界一のバイクメーカー・ホンダが世に問う電動スクーターとして送り出されたPCXエレクトリック。
開発コンセプトは「EV体験を広げるe-Comfort Saloon」というもので、日本や東南アジアなどの交通/使用環境に適した性能の実現と、今や一大ブランドに成長したPCXの魅力を受け継ぐことが至上命題だという。
2019年にモニターでの貸し出しが行われたほか、現在沖縄県宮古島でのレンタルサービスを実施しているPCXエレクトリックの実力とはどのようなものなのか? その乗り味と1充電での航続距離をチェックしてみた。
想像の斜め上を行く痛快な運転感覚

スタイリングは現行PCXを踏襲。パールグレアホワイトの車体色にキャンディブルーの差し色、そしてマフラーが見当たらない姿が印象的だ。なお、ホイールベースはPCX比で65mm延長されている。
「思ったよりも速いじゃないか!」
晴れて借り出しに成功したPCXエレクトリック。「果たして幹線道路の流れに乗ることができるのか?」との懸念は、10mも走らないうちに吹き飛んだ。
PCXエレクトリックが搭載しているIPM(Interior Permanent Magnet=磁石埋め込み型)構造のモーターが絞り出す最高出力は5.7馬力。対してガソリンエンジンのPCXは12馬力。PCXハイブリッドに至っては12馬力+1.9馬力のモーターアシストで、それこそ原付二種スクーターのイメージを覆すような力感ある加速を披露してくれる。

EV-neoの開発で培った知見を生かしたIPMブラシレスモーターを採用。熊本製作所にある同じ生産設備を活用する利点も大きい。なお、通電制御が進化したことでEV-neoで採用されていた自動遠心クラッチは廃止。
何せPCX150の最大トルク1.4kgm(/6500回転)すら軽く凌駕する1.8㎏mを500回転で発生しているのだ。つまり、今までガソリン車で培われてきた常識は捨ててかかる必要がある。シグナルGPでは音もなくクルマたちを引き離せて、大抵の場合は追いつかれる前に次の信号機が赤く輝き出すという次第だ。

筆者は身長178cm、体重100kg。シート高はPCX/ハイブリッドより4mm低い760mmで、足着き性は非常に良好。多少の段差はあるものの前後方向に余裕のあるシート、そして足を置くところの自由度も高いため大柄なライダーでも窮屈感がないのはさすが。かつ、小柄な人でも問題はないはず。
驚いたのは圧倒的な乗り心地のよさ。バネ下に重たいエンジン+トランスミッションを持たないうえに、フレームを共用化するため〝パワーユニットハンガー〟というハシゴ状の部品を新採用。接続部にラバーブッシュが4つ使われていることもあり、路面の突き上げの少なさはガソリン車の比ではない。
ホイールベースが長くなったこと、重たいバッテリー類が乗り手のすぐ下に配置されていることも大きいだろう。結果としてハンドリングも鷹揚さが増し、ツアラーのような雰囲気まで出た。
電欠まで走って航続距離は約50km

2018年11月27日、東京都港区の東京プリンスホテル敷地内にて開催された発表試乗会でのひとコマ。特設コースをほぼ無音で走る姿は注目の的。
では、1充電での航続距離はどの程度なのか? 会社から筆者自宅までの約26kmの通勤に使用して燃費(電費?)テストしてみることにした。
常に100%状態にしてから自宅および会社を出発すると、やはりスロットルの開け具合によって到着時のバッテリー残量は大きく変わった。最低で20%、最高だと50%といったところだ。1つ約10kgのバッテリーを会社2階に置いた専用充電器まで持って上がることも、エクササイズと考えれば楽しかった。

実測で1個10.5㎏のモバイルパワーパックが2個収まるラゲッジボックス。走行時は直列接続されるので1個入れただけでは走ることができない。
安全が確保できる場所で“電欠”にもトライ。まず残量19%になったとき数字が点滅開始。残り3%でカメさんマークが点灯し、出せる速度も大幅に低下。42.9kmで残量数値はついに0%へ。
スピードは全く出ないが、なんとそこからかなり粘る! 51.0kmまで移動して、ついにストップ。だが通常のバッテリーもあるので電磁ロックのシートは開けられた。

これがカメさんマーク。出るとかわいいが、心臓には悪い。
「片道30km程度の通勤であれば十分こと航続距離を達成しているし、この状態で普通に市販しても問題はないのでは?」とも考えたが、ホンダが出す世界戦略車として万全を期すためにさらなる熟成を行ってくるだろう。
ホンダは2018年から2019年にかけてリース販売と大規模なモニター募集を実施。それに加えて現在、沖縄県宮古島にて、PCXエレクトリックのレンタルサービスも行っている。
すでに台湾ではGororo(ゴロロ)、キムコが電気スクーターのネガな面を解決するインフラ構築を実用化しているし、欧州勢も黙ってはいまい。
最終的にどこが覇権を握るのか? 興味は尽きないのだ。
ホンダ・電気スクーターの歴史を振り返る
1994 CUV-ES
Ni-Cdバッテリーをフロアステップ下部に搭載。価格は85万円をベースに3年間のリース販売とし、200台が官公庁などへ届けられた。
2010 EV-neo
原付一種ビジネス系電動二輪車として開発。約30分でフル充電可能なリチウム電池と急速充電器も話題に。価格は税別43万3000円~
2018 PCX ELECTRIC
そして今回紹介のPCXエレクトリック。企業、個人事業主、官公庁に限定したリース専用車両として販売開始。東南アジア地域でも同様の販売がなされ、将来の電動二輪車普及のためのノウハウ蓄積を行う。