試乗インプレッション

クルマの免許で乗れるバイク!? カナダ生まれのBRP「can-am」はスポーツカーともバイクとも違う運転感覚だった!

スパイダー カンナム BRP

普通自動車免許で乗れる「トライク」に注目

新型コロナウイルスの流行により、密を避けるレジャーのニーズが高まっています。

すでにここ数年、リターンライダーという言葉を見かける機会も増えるなど国内二輪市場は久しぶりに盛り上がっていますが、コロナ禍は空前のバイクブームを呼び込んでいます。観光地や各地のワインディングで風を切って走るライダーを見かけて「あんな風に走ってみたい」と感じているドライバーも少なくないのでは?

とはいえ、「今さら二輪免許を取りに行くのもなぁ」と躊躇したくなる気持ちも理解できます。さらにいえばバイクブームの影響で全国的に二輪の教習所は混んでいて、教習の予約を取るのも一苦労という話もあります。
ですが、クルマの免許しか持っていない人でもライダー気分を味わえる乗り物があります。トライクやスリーホイラーと呼ばれる存在です。

トライク=三輪車という正式なカテゴリーがあるのかと思いがちですが、その多くは道路運送車両法の車両区分において「側車付き二輪車」に分類されます。一方、道路交通法の車両区分では「普通自動車」となり、クルマの免許(*)で乗ることができるのです。
排気量が125cc以上であれば高速道路も走行できますから、ロングツーリングも思いのままでしょう。

*普通自動車免許以上の四輪免許

さて、トライクと聞くとバイクの後輪をクルマのような左右2輪仕様に変えたスタイルを思い浮かべるかもしれません。
しかし、カナダ生まれのBRP社can-am(カンナム)はフロントが2輪、リヤ1輪のトライクとなっています。同社ではこうしたスタイルを「リバーストライク」と呼んでいます。
バータイプのハンドルはバイク的なスタイルですが、構造的にはバイクを改造したものではなく、完全にオリジナルの車体となっており、唯一無二といえるレジャー系モビリティです。

BRP社のcan-am「リバーストライク」とは

そもそもBRP社は、カナダでスノーモービルや水上バイクなどを開発してきたメーカーで、航空機で知られるボンバルディア社にもつながる由緒正しいメーカー。can-amシリーズは、同社が「クルマでもバイクでもない新感覚のオープンエアライドを楽しめる」モビリティとしてゼロベースで開発したものです。

現在、日本に正規導入されているラインアップは、ラグジュアリーなツアラー的モデルの「Spyder」(スパイダー)シリーズと、ライトウェイトスポーツ的な「Ryker」(ライカー)シリーズの2本柱。スパイダーシリーズには、グランドツーリング・テイストを強めたゴージャスな「RT」系と、カジュアルな「F3」系が用意されています。

今回、ライカーシリーズの中間グレードといえる「ライカースポーツ」と、can-amのフラッグシップといえる「スパイダーRTリミテッド」に試乗することができました。

リバーストライクの乗車姿勢について

乗車姿勢だけを見ると、バイクのように感じるかもしれませんが、can-amのリバーストライクが通常のバイクと根本的に異なるのは「足を着いてはいけない」ということです。
ブレーキペダルは右足にあるだけでハンドル側にブレーキレバーはありません。いずれもリバース(後退)ギアがついているので足を着いてバックする必要もありません。そもそも足を着いて乗るものではないのです。
ですから、バイクで気になる「またがったときに足着くか、着かないか」という心配も御無用。

なにしろ3輪で接地していますし、タイヤもクルマのようなフラットなトレッド面となっています。安定感はバイクの比ではなく、ブレーキをかけていればピタッと停止することができます。イメージとしてはバギーのような乗り物に近いといえる印象です。

カンナム・ライカースポーツの乗車姿勢

スポーツバイクのようなデザインのシート。足着きの心配はないが、参考までにシート高は629mm。

カンナム・スパイダーRTリミテッドの乗車姿勢

バックレストを備えた運転席。前席・後席ともシートヒーターが装備される。シート高は755mm。

フロント2輪の運転フィーリング

当然ながらコーナリングで車体を傾けて曲げるといったバイク的な乗り方ではなく、曲がりたいほうにハンドルを切るというクルマ的な乗り方になります。バイクでも低速走行では車体を傾けずにハンドル操作によって曲がりますが、そのイメージで運転する必要があります。

もうひとつ感じたのは、体を支えるのはバイクでおなじみの「ニーグリップ」(*)ではなく、左足ということです。右足でブレーキ操作をすると当然ながら体が前のほうに行こうとしますが、そのとき左足で支えるイメージになります。このあたりはクルマのスポーツドライビングに近い印象で、バイク的な要素とクルマの感覚が入り混じった本当にユニークな運転感覚を味わえるのです。

*両足のヒザからモモでタンクを挟み込んで、下半身をホールドすること

さらに独特なのは、ハンドル操作に合わせてフロントの左右輪が動いている様子がよく見えることです。
いわゆるサイクルフェンダーで覆われたフロントタイヤが、今どのラインをトレースしているのか完全に可視化されているのは、クルマではケータハム・スーパーセブン系のモデルくらいでしか味わえませんし、なおかつリバーストライクの場合はドライバー(ライダー)は中央に座っていますから、スーパーセブン系よりもピュアなスポーツドライビング感覚となります。
着座位置の高いフォーミュラマシンのような感覚といえるかもしれません。

まるで往年のF1マシンのようなスポーツカー、イギリスのケーターハム・スーパーセブン。

いずれにしてもフロントタイヤを動かしている感覚は独特です。そしてハンドル幅が広いこともあって、アシスト機構のついていないライカースポーツでもハンドル操作が重いと感じることもありませんでした。それは駐車するような据え切りに近いシチュエーションでもいえることで、意外に取り回しは悪くないというのは今回の試乗で発見したポイントです。

では、試乗したそれぞのモデルについての印象をお伝えしましょう。

カンナム・ライカースポーツの特徴と乗り味

まず、いかにも俊敏に動きそうなライカースポーツは、着座位置が低いこともあって、実際以上にスピード感のある乗り味が印象的です。

ボディサイズは全長2352mm、全幅1552mm、全高1073mm。エンジンはロータックス製の900cc・3気筒で、車体前方に縦置きにつまれています。エンジンの最高出力は61.1kW(83ps)/8000rpm、最大トルクは79.1Nm(8.0kgm)/6500rpm。トランスミッションは意外にもCVTで、リヤタイヤの駆動はシャフトとなります。

900cc直列3気筒エンジンを搭載するライカースポーツ。価格は197万3400円で、試乗車はオプションのタンデムシート&グラブバーを装備している。

前進・後退の切り替えは、左足前方にあるレバーにより直感的に操作するタイプ。また左側のボディ側面に機械式パーキングブレーキの小さなレバーが備わっています。タイヤは前後16インチで、サイズはフロントが145/60-16、リアが205/45-16。
四輪用のサイズに思えますが、二輪用のスペックで作られたものとなっています(タイヤメーカーはKENDA)。

CVTと聞くとスクーター的な加速感を想像するかもしれませんが、加速中はギヤ比が固定されているかのようにダイレクトな印象で、まったく悪癖は感じません。
そのままブレーキングで荷重をフロントにかけてタイヤを切り込めば、狙い通りのラインで走ることのできるスポーティさはクルマでもバイクでも感じたことがないもので、カートに近い感覚かもしれません。

それでもフロントはダブルウィッシュボーンのサスペンションが備わっていますから接地性においてはカートの比ではなく、どれにも似ていない独自の世界観を持っていることが確認できました。さらにいえばサスペンションのストローク感も十分で、バイクでは躊躇してしまうようなわだちでも問題なく走れますし、濡れたマンホールにタイヤを乗せてしまっても安定感が損なわれることはありません。

風をダイレクトに感じるという点ではバイク的、ドライビング感覚はレースカーのようで、安定感はクルマ──といった具合にいいとこ取りをしたスポーティな乗り物といえます。

「ROTAX900ACE」と呼ばれる直列3気筒エンジンをクルマでいうところのフロントミッドシップ的に搭載。
フロントサスペンションはKYB製のダブルウィッシュボーン式で、プリロード調整が可能。
リヤ周りはバイク的な構造。スイングアームにKYB製リンク式モノショックを組み合わせ、コンプレッション、ダンピング、プリロードの調整が可能。
左ステップ前方に配置される、前進・後退切り替えのレバー。
メーターは4.5インチのコンパクトな液晶モニター。中央に速度計と回転計、左に燃料計、右に水温計という表示レイアウト。

BRP カンナム・ライカースポーツ主要諸元

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル直列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:74mm×69.7mm 総排気量:900cc 最高出力:61.1kW(83ps)/8000rpm 最大トルク:79.1Nm(8.0kgm)/6500rpm 変速機:CVT(バックギヤ付き)
[寸法・重量]
全長:2352 全幅:1522 全高:1073 ホイールベース:1709 シート高:629(各mm) タイヤサイズ:F145/60R16 R205/45R15 車両重量:291kg(乾燥) 燃料タンク容量:20L
[価格]
197万3400円

カンナム・スパイダーRTリミテッドの特徴と乗り味

もう一台のスパイダーRTリミテッドは見ての通りラグジュアリー仕様で、メーカーいわく「エクスクルーシブなグランドツーリングが味わえる」リバーストライクとなっています。

ステップ部分はスクーターのようなフロアタイプで、タンデムステップもフラットで余裕のサイズ。ボディサイズは全長2833mm、全幅1554mm、全高1464mm。エンジンはロータックス製の1330cc・3気筒、最高出力85.8kW(116ps)/7250rpm、最大トルク130.1Nm(13.2kgm)/5000rpmとなり、トランスミッションは6速セミオートマ(DCT)となっています。
ライカースポーツとは異なり、リヤタイヤはベルト駆動となります。

1330cc並列3気筒エンジンを搭載するスパイダーRTリミテッド。大型トランク、オーディオなどを備えた長距離向けのゴージャス仕様。

変速は左グリップにあるパドルシフトにより行いますが、加速時はマニュアル操作によるシフトアップが必須で、減速時にはマニュアル操作をしなくとも速度に合わせて自動でシフトダウンしてくれるというもの。
これは自分の意思でドライビング(ライディング!?)を楽しんでもらいたいというメーカーの意図だそうです。一方、減速時に自動でシフトダウンしてくれるのは、信号待ちなどでシフトダウンを忘れても1速になってくれるので便利ですね。

そして、こちらもハンドリングは軽快。
クルーズコントロールも備えるツアラーですからハンドリングも落ち着き優先かと思いきや、体が前に持っていかれそうになるハードブレーキングからハンドルを切り込んでいくと想像以上にシャープな動きを見せます。もちろんまっすぐに走っているときの安定感は抜群で、乗り手の意思に合わせて走りを変える二面性を持っているとうわけです。

クルマで言うボンネットに該当する部分はトランクとなっている。
フロントサスペンションはザックス製で、アンチロール機構を備えたダブルAアーム方式。
リヤタイヤの駆動はベルトドライブ。リヤサスペンションもザックス製で、空気圧による自動プリロード調整機構を備えている。
足を乗せる場所はスクーターのようなフットボードタイプ。ブレーキ操作は右足のペダルのみでOK。
シフトアップスイッチは手前側に。

シフトダウンスイッチはグリップ裏側に。

メーターは7.8インチのカラー液晶で、専用アプリを介してスマートフォンとの連携が可能。

BRP カンナム・スパイダーRTリミテッド主要諸元

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:84mm×80mm 総排気量:1330cc 最高出力:85.8kW(116ps)/7250rpm 最大トルク:130.1Nm(13.2kgm)/5000rpm 変速機:セミオートマチック6速(バックギヤ付き)
[寸法・重量]
全長:2833 全幅:1554 全高:1464 ホイールベース:1714 シート高:755(各mm) タイヤサイズ:F165/55R15 R225/50R15 車両重量:464kg(乾燥) 燃料タンク容量:26.5L
[価格]
370万1500円


2車とも短時間の試乗ではありましたが、can-amのリバーストライクはバイクの代替物ではなく、かといってクルマでもない、ユニークな乗り物であることが確認できました。
エントリーモデルのライカーには600cc・2気筒エンジンを積む手軽な価格(151万3600円)のグレードも用意されていますし、1330ccエンジンを積むスパイダー系にも299万2000円からの設定となる「F3」シリーズが用意されています。
軽自動車より幅が広い車体なので置き場所を選ぶ面はありますが、楽しむことに特化したモビリティとして注目したいのがcan-amのリバーストライクです。

レポート●山本晋也 写真●山内潤也 編集●上野茂岐

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