試乗インプレッション

ホンダ NT1100 vs ライバル1000km徹底比較「ヤマハ トレーサー9GT/BMW F900XR」<エンジン&ウインドプロテクション編>

NT1100 トレーサー9GT F900XR

NT1100が目指したのは「普遍的なオンロードツアラー」

ホンダ NT1100の開発キーワードは3つ。
「快適性」「多用途性」「最新のオンロードスタイル」であり、日常使いからロングツーリングまで幅広くカバーする万能オンロードツアラーとしての性能を重視した開発がなされたという。
一部メディアではアドベンチャーととらえる向きもあるようだが、完全にツアラーなのである。

車名のNTは日本ではあまりなじみのないものだが、「ニューツアラー」を意味しており、ヨーロッパ生まれのツアラーモデルで長らく使用されていたシリーズ名だ。
NT650V、NT700V(ドゥービルという車名になることもある)というモデルが1998年から2013年にかけて販売され、その扱いやすさと汎用性の高さから、定番ツアラーとして根強い人気を誇っていた。

NT700 ドゥービル ホンダ
ヨーロッパで2012年モデルまで販売されていた「NT700V」。680ccの水冷V型2気筒エンジンにシャフトドライブを組み合わせ、ボディ一体型のパニアケースを備えていた(写真は2012年型)。
2022年3月17日に発売されたホンダ NT1100(168万3000円)。エンジンはCRF1100L アフリカツイン系のユニカム4バルブ1082cc水冷並列2気筒。

ところが、アドベンチャーモデルの隆盛によって、多くのツーリングモデルがそのスタイルをシフトしたことで、普遍的なオンロードツアラーのヒエラルキーが不明瞭になってしまった。
ホンダのラインアップで言えば750ccの排気量帯にはNC750Xがあるが、その上のクラスになると1100ccのCRF1100Lアフリカツインか、1800ccのゴールドウイングしか存在せず、いずれもが普遍的なオンロードツアラーとは異なっているという状態だ。

そこで、NT1100はオンロードツアラーとしての存在を明確に打ち出し、下からのステップアップ組、あるいは上からのダウンサイジング組の「ちょうどいい受け皿」になるべく投入されたのである。

「たとえばNC750Xからのステップアップを考えた時、リッタークラスの適切なラインアップがなかったので、他社モデルに流れるお客様もいらっしゃった。まず、そこを何とかしたかった。そして、1100ccでどのようなモデルにするかと考えた時に、機能の充実だけではなく重量を絞るなどで、毎日でも乗れるような使いやすさを検討しました。その結果、快適性や多様性が実現できたと思います」と開発チームは語る。

そのために実績と評価のあるCRF1100Lアフリカツインのプラットフォームを使い、ツアラーとしての最新の装備を与えているのだ。
たとえばマルチエンジンではなくツインエンジンであることは扱いやすく汎用性のあるツアラーとしては正解であると思えるし(好みの問題はあるものの)、鋭さがない代わりにライダーと親和性の高い優しさやまろやかさを実現していることは、乗って見るとすぐに分かる。

そういった意味では、これからのホンダビッグバイクのラインアップのひとつとして、多くのユーザーに対応した間口の広い性格になっており、良い意味でいかにもホンダらしい仕上がりである。

開発時にも意識されたというライバル「ヤマハ トレーサー、BMW F900XR」

ヨーロッパを主な市場とするNT1100の開発においては、競合モデルの例としてヤマハ トレーサーシリーズとBMW F900XRなどがとして意識されたという。
この2車は日本においても排気量や価格帯で競合になると思われるが、そこで登場したばかりのNT1100と「ツアラー性能」を確かめるべく、1000km走破しながらの比較試乗をしてみた。

ルートは首都圏と伊勢志摩を往復するもので、全走行距離は約1060km。うち高速道路が約650km、残りが一般道とワインディングであり、おまけに2日半の行程中、ほぼ丸1日は雨だったので、リッタークラスのツアラーにおける主要な使用状況は十分にカバーできたはずだ。

そもそも、ツアラーに対してどのような性能を求めるかによって各々のモデルに対する評価は変わってくるだろうし、そこでは高速巡行性、コーナーリング、積載性、快適性と、色々な切り口がある。そして、3台のツアラーで1000km走って分かったことは、NT1100はそれらの要素を満遍なく満たす優等生だということだ。

結論としては総合的なパフォーマンスでは取り立てて不満が感じられない=10段階評価で言えば、10点満点の項目は少ないものの、各項目も8点レベルで揃っているとった感じで、尖った部分がない代わりに全てが平均以上に良くまとまっている。
ただし、その特徴的な造形のフロントカウルから生まれる、高いウインドプロテクション性は10点満点だ。高速道路での風圧の低減効果は著しく、防寒面、雨中走行での濡れにくさといった快適性は抜群である。
しかもグリップヒーターが標準装備なので、冬の指先には相当優しい。

雨天走行時の濡れにくさは、そのまま防風性のバロメーターとも言える。ホンダ NT1100は身体だけでなく足も濡れにくく、抜群の快適性を発揮した。

ただし、グリップヒーターはトレーサー9 GT、F900XRにも標準装備されるが、NT1100にはナックルガードがない。その代わり、NT1100には手〜腕周りのウインドプロテクション性を高める特徴的なアッパーディフレクターが付いている。

いきなりウインドプロテクション性の話になってしまったが、その流れでいうとトレーサー9 GTもかなり良いが、肩先や爪先のプロテクション性ははっきり言ってNT1100が圧倒的だ。
F900XRは写真でも分かるように、ヘッドライトバイザーの付いたネイキッドレベルである。

NT1100、トレーサー9GT、F900XRのウインドプロテクション

ホンダ NT1100

スクリーンは手動で5段階に調整可能だが、走行中に操作はできない構造(レバーなどはなく、スクリーン自体を持ち上げるような操作となるため)。
スクリーン最高時は最定時から165mm高くなり、各段階、高さとともに角度も変化する。
スクリーンの左右に腕周りの防風性を高めるアッパー・ディフレクターを装備。ステップ前方にはロワー・ディフレクターが装備されており、足元の防風性を高めると同時に、ウエット路面走行時の水の巻き上げも軽減するという。
実際、雨天の中を長時間走ったが、NT1100乗車中は確かにブーツの濡れが少なかった。

NT1100 ホンダ スクリーン
スクリーン最低時。

NT1100 ホンダ スクリーン
スクリーン最高時。

NT1100 ホンダ
スクリーンの左右にあるアッパー・ディフレクター。

NT1100 ホンダ
ステップ前方にあるロワー・ディフレクター(赤で囲ったパーツ)。

ヤマハ トレーサー9 GT

スクリーンは手動で5mm単位、10段階に調整可能。メーター上部にあるレバーを握りながら操作する方式なので、走行中にも調整することができる。
ナックルガード(ヤマハは「ブラッシュガード」と呼称)は標準装備で、手の平まわりの防風にしっかり効いていた。

スクリーン最低時。

スクリーン最高時。

コンパクトながら、確かな防風性を発揮するナックルガードは標準装備。

スリットを設け、ウインドプロテクション性と空力特性を両立しているフロントカウル。

BMW F900XR(試乗車はプレミアムライン)

スクリーンはハイ/ローの2段階切り替え式で、手動で調整可能。ハイにするとローより20mm高くなる。操作はメータ右上に位置するレバーを上げ下げする方式で、走行中にも調整できる。
ナックルガードはスタンダードグレード以上で標準装備となるが、防風性に関しては「無いよりは良いかな……」というレベル。
より防風性を高めたい場合は、オプションでロングスクリーンがラインアップされている。

スクリーン、ロー位置。

スクリーン、ハイ位置。

スタンダードグレード以上で標準装備となるナックルガード。トレーサー9 GTのように、手を包み込むような形状にはなっていない。

NT1100、トレーサー9GT、F900XR、それぞれのエンジンフィーリング

さて、ハード面はというと、NT1100はエンジン・車体ともにCRF1100Lアフリカツインをベースに、まったく新しいスポーツツアラーに仕立て直したものだ。
1082ccのユニカムOHC4バルブエンジンは最高出力・最大トルクともにCRF1100Lアフリカツインから変わりはなく、国内仕様はDCTのみの設定。
極低速から高速巡航までトルクがあってフレキシブルなエンジン特性であり、様々な走行シチュエーションを最も過不足なくこなす。

この点で、同じ270度クランク並列2気筒でもF900XRは、NT1100より軽快で高回転域まで鋭く回るが、極低速のトルクやパルス感はNT1100ほどではない(不満は感じないが)。

NT1100がクランクマスを感じさせる「ダダダダッ」なら、F900XRはもう少し軽い「ガインッ」という吹け上がり感である(振動もそこそこあって硬質な感じ)。
これがトレーサーのMT-09ベースの3気筒になると吹け上がりフィーリングは別物で、2気筒の2台よりもスムーズでパワフル。半面、発進加速を含めた低速域ではトルクの細さが目立つので、少し回してやる必要がある。

この点で、特にNT1100はズボラな扱いでも適当に走ってくれるし(発進の容易さはDCTのメリットでもある)、トレーサーのようなマルチエンジン特有の「もっと回した方が速いぞ」といった強迫観念もないので、穏やかで気楽に走れるのだ。ただし、積極的にエンジンを回して攻める走りをするならトレーサーは面白いし、軽く回るF900XRもスポーツライクだ。

ホンダ NT1100主要諸元

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒OHC4バルブ ボア・ストローク:92.0mm×81.4mm 総排気量:1082cc 最高出力:75kW(102ps)/7500rpm 最大トルク:104Nm<10.6kgm>/6250rpm 変速機:電子式6段
[寸法・重量]
全長:2240 全幅:865 全高:1360(スクリーン最上位置1525) ホイールベース:1535 シート高:820(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:248kg 燃料タンク容量:20L
[車体色]
マットイリジウムグレーメタリック、パールグレアホワイト
[価格]
168万3000円

海外ではMT仕様もあるが、日本ではDCT仕様一択。一部DCT採用モデルにオプション設定のあった「シフトペダルスイッチ」だが、現状NT1100用には用意されていない。

ヤマハ トレーサー9 GT主要諸元

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:78.0mm×62.0mm 総排気量:888cc 最高出力:88kW<120ps>/1万rpm 最大トルク:93.0Nm<9.5kgm>/7000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2170 全幅:885 全高:1430 ホイールベース:1500 シート高:ローポジション810/ハイポジション825(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:220kg 燃料タンク容量:18L
[車体色]
ブルーイッシュホワイトメタリック2(シルバー)、ビビッドレッドソリッドK(レッド)、マットダークグレーメタリックA(マットグリーニッシュグレー)
[価格]
145万2000円

従来型トレーサー900ではアップのみ対応だったが、アップ/ダウン両対応となったクイックシフターを標準装備。

BMW F900XR主要諸元

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:86mm×77mm 総排気量:894cc 最高出力:77kW<105ps>/8500rpm 最大トルク:92Nm<9.4kgm>/6500rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2150 全幅:860 全高:1320(スクリーンアップ時1420) ホイールベース:1530 シート高(スタンダード):825(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:223kg 燃料タンク容量:15.5L 
[車体色]
ライトホワイト、レーシングレッド(別途2万6000円)、ブラックストームメタリック2(別途2万6000円)
[価格]
118万1000円(ベース)
141万2000円(スタンダード)
144万6000円(プレミアムライン)

アップ/ダウン両対応のクイックシフター(BMWでは「ギアシフトアシストプロ」という呼称)はスタンダード以上のグレードで標準装備となる。

レポート●関谷守正/上野茂岐(キャプション) 写真●柴田直行/ホンダ
編集●上野茂岐

  1. どっちが好き? 空冷シングル『GB350』と『GB350S』の走りはどう違う?

  2. GB350すごすぎっ!? 9000台以上も売れてるって!?

  3. HAWK 11(ホーク 11)の『マフラー』をカスタムする

  4. 掲載台数は3万3000台を超え、右肩上がりで成長を続けている「BDSバイクセンサー」とは?

  5. 【待ちに待った瞬間】 HAWK 11(ホーク 11) 納車日の様子をお届け!

  6. “HAWK 11(ホーク 11)と『芦ノ湖スカイライン』を駆け抜ける

  7. “ワインディングが閉ざされる冬。 HAWK 11(ホーク 11)となら『街の朝駆け』も悪くない。

  8. “スーパーカブ”シリーズって何機種あるの? 乗り味も違ったりするの!?

  9. ダックス125が『原付二種バイクのメリット』の塊! いちばん安い2500円のプランで試してみて欲しいこと【次はどれ乗る?レンタルバイク相性診断/Dax125(2022)】

  10. レブル250ってどんなバイク? 燃費や足つき性、装備などを解説します!【ホンダバイク資料室/Rebel 250】

おすすめ記事

使ってチェック!! 走りが変わる添加剤「ループパワーショット」を入れた後のピストンヘッド部がスゴい!! 【平成バイク大図鑑6】アメリカンブーム、それは速さへのアンチテーゼだったのか? カワサキ新型ニンジャH2 SXシリーズが搭載の「ARAS」は、自動運転レベル1の領域に入っている!?

ピックアップ記事

PAGE TOP