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KTMとBMWは2010年代からインド生産の300ccクラス車を展開していた
2021年春にホンダ GB350が発売された際、車両そのものに関する話題だけでなく「インド製のバイクが日本にやってくる」という点も大いに注目を集めた。
そうした声の中には品質面に対する懐疑的意見やインド現地販売車と比べて日本での販売価格が高いといった不満も散見されたが、蓋を開けてみればホンダ GB350はしっかりとユーザーから支持されている。
また、価格に関してはそもそも輸送費がかかること、厳密に言うとホンダ GB350は「完全インド生産」ではなく日本の熊本製作所で組み立て・日本向け専用塗装が行われているので、それらを踏まえればややナンセンスな指摘であろう。
しかしインド製のバイクが上陸することについては、今さら声高に驚くようなことではない。
2010年代よりKTMとBMWのヨーロッパメーカー2社は小排気量モデルをインドで生産し、日本で正規販売してきたのだから。
KTMのインド製モデルは、まずスポーツネイキッド・デュークの125/200/390、車体やエンジンを共有するフルカウル版スーパースポーツ・RCの125/250/390を展開。その後、日本においては200デュークは250デュークへと切り替えられた。
さらに390、250のエンジンを搭載したアドベンチャーを登場させるなどし、バリエーションを拡大している。
また、デュークのプラットフォームを活用し、現在KTMグループとなっているハスクバーナ版として、ネイキッドのヴィットピレンと、オフロードテイストを盛り込んだスヴァルトピレンの小排気量モデルも展開。やはりインドで生産を行っている。
一方BMWのインド製モデルとしては、スポーツネイキッド・G310Rをまずデビューさせ、続いてBMWのお家芸であるアドベンチャー「GS」の最小排気量として、すぐにG310GSを追加している。
インド生産のKTM デュークシリーズ(通称「スモールデューク」と呼ばれる)は2017年型で、BMW G310シリーズは2021年型でモデルチェンジが行われ2代目となっており、日本で販売されるインド生まれのバイクとしてはホンダ GB350よりも先輩格(!?)に当たるのだ。
さて、インド地場メーカーのロイヤルエンフィールドを意識してホンダは空冷単気筒・リヤツインショックという伝統的なスタイルを採ったのに対し、ヨーロッパメーカー2社はスポーツネイキッドやアドベンチャーという最新のスタイルで、エンジンは高回転・高出力型の水冷単気筒というアプローチ。
そして、ホンダは現地法人で生産は行うが「自社内」で開発・生産を完結させている一方、KTMはBajaj(バジャジ、あるいはバジャージ)、BMWはTVSモーターとインドの大メーカーと提携し開発・生産を行っているている違いも興味深い。
当記事ではKTMとBMWの最新インド生産車であり、排気量帯としてホンダ GB350と同クラスとなるKTM 390シリーズ、GMW G310シリーズにクローズアップしてみたい。
KTM 390シリーズ、BMW G310シリーズともネイキッドとアドベンチャーをラインアップ
見た目はクラシック、OHC2バルブの348cc空冷単気筒エンジンでゆったりとした走りを味わえるGB350に対し、KTM 390シリーズとBMW G310シリーズはアグレッシブなシングルスポーツだ。
KTMが373cc、BMWが312ccと排気量が異なるが、エンジンは共に高性能化を前提とした水冷単気筒DOHC4バルブだ。
BMW G310R=最高出力34ps/9250rpm、最大トルク2.85kgm /7250 rpm、車重164kg、G310GSは175kg
KTM 390デューク=最高出力43ps/9000rpm、最大トルク3.77kgm/7000rpm、乾燥重量150kg、390アドベンチャーは乾燥重量158kg
(KTMの車重は乾燥のみ公表)
両者のスペックを比較してみると、さすがに60ccの差が出力には反映されているが、乾燥+15kgくらいが装備重量と想定すれば重量的には近い。
また、タイヤサイズもスポーツネイキッドの390デュークとG310Rとが前後17インチで、アドベンチャーの390アドベンチャーとG310GSは前19インチ/後ろ17インチと同構成だ。
価格もKTMは390デュークが72万9000円、390アドベンチャーが82万9000円。
BMW G310Rが68万1000円〜、G310GSが75万3000円〜と近接している。排気量あたりの価格ではKTMがややリーズナブルか。
KTM 390シリーズ
390デューク/390アドベンチャーに搭載される373cc水冷単気筒DOHC4バルブエンジン(写真は390アドベンチャー)。
ボア×ストロークは89mm×60mmで、最高出力43ps/9000rpm、最大トルク3.77kgm/7000rpmの性能は2車共通。電子制御スロットルを採用するほか、スリッパークラッチも搭載されている。390アドベンチャーはオプションでクイックシフターの装着も可能。
BMW G310シリーズ
G310R/G310GSに搭載される312cc水冷単気筒DOHC4バルブエンジン(写真はG310GS)。
前方吸気、後方排気のレイアウトにすることで、スイングアーム長を長めに確保している。ボア×ストロークは80mm×62.1mmで、最高出力34ps/9250rpm、最大トルク2.85kgm /7250 rpmの性能は2車共通。2021年型のモデルチェンジで電子制御スロットル化されたほか、スリッパークラッチも新採用された。
高速走行も快適「GB350以上に日本の使用環境に合っている!?」
この2台は、最新シングルスポーツとして真っ向から対決するものだが、ホンダ GB350以上に日本の使用環境にフィットしている──と言うのは、2台とも高速道路を巡航するに十分な最高速を実現しているし、車体の剛性感なども現代のスポーツモデルといった仕上がりで、高速域でも欲求不満になるようなことも少ない。
BMW G310シリーズは軽快な操作フィーリングが良い。これには前方吸気・後方排気の後傾シリンダーを採用したことが貢献しているはずだ。これによってマスの集中を実現し、ショートホイールベースにしながらロングスイングアームを採用できたことで、ハンドリングやロードホールディングをバランス良く成立させているのだ。
2モデルとも足まわりは比較的硬めで、攻めたコーナーリングでは立ちが強く感じるが(G310GSの方がその傾向が強い)、全体的には扱いやすく、よく回るエンジンも高回転域の振動がやや気になる以外は総じてフラットで扱いやすいフィーリングだ。
対するKTM 390シリーズのエンジンはよりパワフルな高回転型で、最低限の低速域のパワーはあるが、やはりある程度回して乗るのが楽しい。秀逸なのはトレリスフレームの出来で、そのエンジン性能とは別に評価できるポイントだ。
意外かもしれないが、19インチの前輪とストロークの長い前後サスペンションを組み合わせ、車高も高くなっている390アドベンチャーの方が足まわりとのバランスが良いのか、ワインディングでのコーナーリングをナチュラルに楽しめる。390デュークは硬めの足まわりということもあって、高荷重をかけないとフルバンクまで使いこなすことは難しいようなスパルタンさがある。
この点で、KTMとBMWはインド生まれであることをほとんど意識させない(ホンダ GB350のようにシーソー式シフトペダルを採用しているようなこともない)。要するに普通の単気筒スポーツバイクなのである。
これは、元々が双方のブランドの世界戦略車として企画されたものだから当然といえば当然なのだが、G310シリーズは本国製のモデルよりも明らかに割安感があり、それがデビュー当初は話題にもなった。
KTM 390シリーズは装備や電子制御機構も上位モデルに近い
インド生産のKTM、BMWに対し、冒頭で述べたホンダ GB350登場のときのように質感を気にする向きもあったが、排気量の大きい上級モデルに比べれば相応となるは当然とも言える。なんせKTMもBMWも(日本においては)大排気量の高性能モデル=高級車で売ってきたメーカーだからだ。
だが最新型に関しては、質感や装備など上級モデルに見劣りしない部分も出てきた。KTM 390シリーズはスマートフォン連携機能付きのフルカラー大型液晶メーターを採用するほか、390アドベンチャーに至ってはバンク角を制御に反映するABSやトラクションコントロールを備え、オプションでクイックシフターも用意されるなど電子制御機構も充実している。
BMW G310シリーズの場合、電子制御機構はABSのみとシンプルだが、2021年モデルで行われたモデルチェンジで電子制御スロットルを採用し極低回転時に回転数を自動で調整する「オートマチック・アイドル・コントロール」とスリッパークラッチを新採用している。
ラインアップ中で最小排気量車と言えど、日本仕様はしっかりETC2.0標準装備となるのはさすがBMWらしい配慮だ。
日本メーカーの400ccモデルが少なくなってきている今、同クラスで純粋に走行パフォーマンスを求めるライダーにとってはKTM 390シリーズ、BMW G310シリーズは非常に有力な候補となる(筆者としてはよりパフォーマンスの高いKTM 390シリーズに引かれる)。
テイストや使い勝手を求めるライダーならホンダ GB350だろうが、いずれにせよ、インド生まれのモデルたちは扱いやすく、価格を含め「等身大のバランスで、ちょうど良い」という魅力を備えている。さらに安いモデルをご所望なら、250ccクラスとなるがスズキ ジクサー250という選択肢もある。
何もこれは普通自動二輪免許所持者に限った話ではなく、大型二輪ユーザーにも言えることである。
試乗レポート●関谷守正 写真●柴田直行/岡 拓/KTM/BMW
編集●上野茂岐