3気筒エンジンを武器に個性あるラインアップを広げるトライアンフが、ネイキッドスポーツモデルであるスピードトリプルをフルモデルチェンジさせた。特徴的フロントマスクのイメージは踏襲するも、走りは数段のレベルアップを実現させていたのだ。
軽快さが光る新型の走り
英国の雄トライアンフが元気だ。 伝統的ブリティッシュ魂を今に再現したヘリテイジシリーズはもちろん、Moto GPにおけるMoto2クラスへのエンジン供給や、そこからのフィードバックを与えられたストリートトリプルやデイトナなどのスポーツバイク、セールスも過去最高を更新し続けるほどに好調である。
そんな中で、安定的人気を誇るマシンがスピードトリプルである。同社におけるスポーツバイクカテゴリーにおいて搭載される3気筒エンジンの「大きい方」。1994年に発売されたスピードトリプルは、軽量な車体にパワフルなエンジンを搭載したスポーツネイキッドモデルで、ヨーロッパで広がったストリートファイターの草分け的存在だ。2眼となるヘッドライトが特徴的で、そのデザインを継承しながらアップデートを繰り返してきた。
個人的には排気量の小さい方、つまりデイトナやストリートトリプルに搭載されていたミドルトリプルファミリーが 好みではあったが、過去最大とも言える内容変更により、どのようなキャラクターを備えているのか、興味深いテストとなった。
新型スピードトリプル1200RSは出力が30馬力アップ!
まず、エンジンはフルモデルチェンジされ、排気量は1050ccから1160ccに。30馬力もの出力アップとともにトルクも向上。また、車体周りも完全なる新設計となり、トータルでは10kgもの軽量化も実現している。見た目からして、非常にスポーティでスタイリッシュである。従来型はどこか愛嬌があったような顔つきであったが、新型ではよりシャープとなり、車体もスリムになっている。正直、これまでスピードトリプルには“カッコいい”といった感情を持ったことがなかったのだが(失礼!)、新型は初めて素直に、かつ本当にカッコいいと感じた。
やや腰高ではあるものの、内股部をスリム化したことで、830mmというシート高の割に足着きは悪くない。エンジンを始動すると、あの乾いたエキゾーストノートがマフラーから吐き出される。動き出したスピードトリプルはとにかく軽く、取り回しの軽快さを感じる。ミドルトリプルに対し、ビッグトリプルは軽快さでは劣るものの、反面その重厚さが魅力となっていたのであるが、新型はよりスポーティで軽快さが増している。クイックシフターの精度が高く、カチッカチッとレーサーライクなレスポンスでシフト操作が決まる。ゼロ発進から一気にトップギヤまで、連続してのシフトアップが小気味良く決まり、気持ちいい。豊かなトルクで、さほど回転数を上げなくとも次のギヤへバトンの受け渡しがスムーズに行われるのだ。
しかし、このエンジンはとにかく守備範囲が広いと改めて感じるとともに、その長所がまたさらに高められている。トリプルエンジン特有のトルクフルさはより高まり、そのフィーリングにも味気のないということがないから楽しい。そして、ほんのちょっと回転数が違うだけで変貌する表情の豊かさも特徴的で、回転域に捨てパートがない。
さらに、しっかり上まで回るのがこのエンジンの持ち味だったのだけど、その領域にも磨きがかけられた。スピードトリプルをワインディングのあるコーナーで4速に入れて走らせる。豊かなトルクでさほど回転数が上がっていない状況でもスポーティでありコントローラブルでもある。しかし、同じコーナーを2速で走らせるとなると、通常であればエンジン回転数はグッと高まり、シビアなコントロールが必要とされる・・・・・・はずなのであるが、これまた唐突なレスポンスは皆無でエンジンコントロールにさほど気を遣う必要がないのだ。
丸パイプ風のアルミフレームを採用
車体周りは同車のアイデンティティでもある丸パイプ風の特徴的な新作アルミフレームに、オーリンズ製前後サスペンションを装備。メッツラーのレーステックRRのグリップ力を引き出す動きの良さはさすがオーリンズ。標準設定はややハードではあるものの、これは大幅にパワーアップされたことに対応したものと思われる。フルアジャスタブルであるから、そのシチュエーションに合わせてセットアップすることも可能だろう。もちろん、ペースを上げるとその本領を発揮してくれ、グッとトラクションが高まりグリップ力を増す感触が得られる。
ハンドリングは至極軽快。高速道路のレーンチェンジといった浅いバンク角での応答性から、ワインディングでの左右の切り返しなどでも、シームレスで素早いリーンが可能となる。 これはトライアンフのトリプル、特にミドルトリプルマシンの専売特許とも言えたもの。そのフィーリングに近い運動性能を確保しているのは、やはり大幅な軽量化が効いているのだろう。
想像以上によく曲がり、無意味にマシンを寝かす必要がないほどの旋回力を発揮してくれる。そう、新型スピードトリプルは、歴代最高のスポーツ性能を身に付けたのではないか、とも思える仕上がりである。サーキットを走行するのであれば、ラップタイムで従来型を大幅にしのぐポテンシャルがあるはずだ。しかし、絶対性能至上主義ではないのが、このマシンの美点でもあるように思う。ストリートファイターの枠を飛び出した、汎用性高き極上のスポーツマシンとなっているのだ。
高い次元での旋回性能を持ちコーナリングが楽しい仕上がり
エンジン、車体ともにフルモデルチェンジとなった新型。フレームには鍛造アルミニウムを採用して、車両重量も10kg軽量となっている。リチウムイオンバッテリーやカーボン製フロントフェンダーなどの採用も軽量化に寄与する。
その進化は発進してすぐに分かるもので、よく走り、よく曲がり、よく止まるという、スポーツバイクの見本のような性能を確保。それでいて尖ったところのない優しさ=トライアンフのトリプルマシンらしさは健在だ。
オーリンズの採用で足周りを強化
(上)車体前後の足周りには定評のあるオーリンズ製フルアジャスタブルを採用し、リヤはTTXが装備 (下)ブレーキはブレンボ製スタイルマキャリパーを装備。非常に高い制動力とコントロール性を持つ。他にも、アップ&ダウン対応のクイックシフターやキーレスイグニッションを採用する。
乗りやすさ追求のパッケージ
すっきりしたメーター周りがストリートファイター的。バーエンドタイプのミラーはデザインだけでなく、後方視認性も高い。
シート&ハンドルサイドをスリム化して足着き性向上を図っているが、あえて大きくスポンジを抜くことをしなかったシート。2日間で1000kmほど走ったが、クッション性が高く、スポーツバイクとしては想像以上に快適だった。
表示&操作系は見やすく操作しやすい
新型スピードトリプルは5インチのTFTメーターが標準装備。表示画面や明るさなどの詳細設定が可能だ。
ライディングモードはレイン、ロード、スポーツ、レースと、任意で設定可能なライダーの5パターン。出力特性やトラクションコントロール、ABSの介入具合が変わる。
左ハンドルまわり 右ハンドルまわり
左ハンドルのジョイスティックは操作性も良好。拡張性も高く、ゴープロなどとの連携も可能だ。ウインカーは左右へワンタッチで3回ほど点滅して消灯となり、レーンチェンジなどに有効。
フロントブレーキのMCSスパン/レシオアジャスタブルブレーキレバーを採用し、位置だけでなくレシオも変更可能。
オールラウンドなライディングポジション
シート高は高いものの、足着き性そのものは数値を考えれば悪くない。腰高な印象であるが前傾はさほど強くなく、アイポイントも高め。スポーツ走行からツーリングまで対応するポジションで、非常にスリムな車体で膝周りが車体にピタリとフィットする。
高いスポーツ性能を持ち、扱いやすい車体が高評価
Favorite
歴代最高といえるスポーツ性を持つが、そのうえで過激すぎない絶妙なさじ加減が高評価。非常にパワフルであるが、パワー特性がフラットなため怖さを感じにくく扱いやすい。
エンジン回転数のどのパートもそれぞれが味わい深く、飽きのこないフィーリングを持っている。スリムで軽量、かつ神経質さのないフレンドリーなところも評価できる。
Request
パワーアップに伴ってサスペンションの初期設定がややハードな感じがした。リヤサスペンションのプリロードが工具なしで調整可能であればよりイージーに好みの設定が作れるだろう。
そして、同じパッケージングでフェアリング装着モデルがあると、高速巡航は圧倒的に楽になるはずだ。また、2眼以外のフロントマ スクも見てみたいなぁ。
トライアンフ・スピードトリプル1200RS 主要諸元
【エンジン・性能】種類:水冷4ストローク3気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:90.0×60.8mm 圧縮比:13.2 総排気量:1160cc 最高出力:132kW〈180ps〉/1万750rpm 最大トルク:125Nm〈12.7kgf・m〉/9000rpm 燃料タンク容量:15L 変速機:6段リターン
【 寸法・重量】全長:2090 全幅:790 全高:1090 ホイールベース:1445 シート高:830(各mm) 車両重量:199kg タイヤサイズ:F120/70ZR17 R190/55ZR17
【カラー】黒、銀
【価格】199万9000円
【発売】2021年4月
report●鈴木大五郎/photo●山内潤也