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2022年モデル新型TMAXは「デザインと装備の操作性を一新」
スクーターにあるまじき圧倒的なバンク角、スポーツバイクに近い車体構造。「スポーツできるスクーター」として独自の存在感を示し続けてきたヤマハ TMAXが2022年型でモデルチェンジを行った。
「新型はこれまで以上にスポーティで、なおかつ新たなルックスとテクノロジーを備えた。ヤマハはマキシスクーターの販売台数トップを堅持することだろう」
イギリス人ジャーナリストでマン島TT参戦レーサーでもあるアダム・チャイルド氏は、新型TMAXをテストした印象についてまずそう語っている。
日本では2022年夏に発売が予定されている新型TMAX、その試乗レポートを早速紹介したい。
ヤマハがマキシスクーター(*1)となるTMAXを発売したのは2001年のことだ。
スポーティかつ高性能なTMAXは全世界で35万台を販売する大成功を収め、競争の激しいマキシスクーターセグメントにおいて首位の座を守り続けてきた。
TMAXはヨーロッパでも根強い人気を誇っている。新型が出るたび購入者の4割は従来型からの乗り替えというデータもあり、その事実は製品とブランド、どちらにも強い訴求力があることを物語っている。また、ユーザーの7割は上級グレードとなる「TMAX Tech MAX」を選んでいるという。
そのTMAXが2022年型でモデルチェンジ、ヤマハがマキシスクーターのベンチマークをどのように改良したのかを確かめるため、私は試乗会が行われた南スペインを訪ねた。
新型TMAXはサスペンションセッティングがスポーティに改められたほか、軽量な新作ホイールを採用。乗り心地も向上しているという。ライディングポジションはよりアグレッシブなものとなっているが、形状が変更されたフットボードには十分なゆとりがある。
また、7インチのフルカラー液晶ディスプレイとコネクティビティ、イグニッションとシートや給油口の施錠を簡単に操作できるバックライト付きスイッチのリモコンキーなども装備している。
エンジンやシャシーは、従来型から大きな変更はない。
TMAXは依然としてA2免許(*2)に合わせたパワー設定をしており、562ccパラレルツインエンジンの最高出力は相変わらず35kW=47.6psだ。アルミダイキャスト製のメインフレームも従来型から継承されている。
*1:主にヨーロッパでは大型のスクーターをMaxi Scooter=マキシスクーターというカテゴリー名で呼ぶ。
*2:A2とはヨーロッパの免許制度のことで、18歳で取得できて排気量に制限はないが、最高出力は35kW以下の車両しか運転できない。また、取得可能年齢は国によって異なる。いわば日本の普通二輪免許に近い。
今回試乗したのは上級グレード「TMAX Tech MAX」だが、8世代目となる新型TMAXは、バレンシアの陽光に照らされて美しく輝いていた。スペインはもちろんのこと、多くのヨーロッパ諸国でTMAXは愛されているが、2022年に発売されるこの新型もきっと同じように受け入れられるはずだ。
ナビ、電動スクリーン、ヒーターまでジョイスティック&1ボタンで操作できる
そのルックスは従来型よりもややスリムになり、よりコンパクトでスポーティに見える。しかし多くのユーザーにとって魅力的に感じられるのは、ナビゲーションやスマートフォンと接続できる7インチの大型液晶ディスプレイ、それをジョイスティックで簡単に操作できるバックライト付きのスイッチだろう。
新しいユーザーインターフェイスに触れるとき、私はいつも身構えてしまうのだが、TMAXのそれはとてもシンプルで、説明書を読むこともなく直感的に扱うことができた。ナビゲーションを使うにはジョイスティック、画面をスクロールバックさせるにはホームボタンを押すだけだ。ほぼすべての操作をハンドル左側のスイッチで操作できる。
7歳になる私の息子も、豊富な情報に溢れるこの機能を簡単に使いこなせるだろう。他メーカーはヤマハのデザインを参考にすべきではないか。
このジョイスティックとホームボタンでは、電動調整式スクリーン、グリップとシートのヒーター、トリップメーターのリセット、メニューの選択やオプションの設定などをすべて操作できる。ジョイスティックによって、ヤマハはスイッチボタンの数を減らし、わかりやすいユーザーインターフェイスを実現している。
また、7インチの大型液晶ディスプレイは3種の表示パターンが用意されており、好みや状況に応じて使い分けられる。ディスプレイはアンチグレアコーティングされているうえ、サンバイザーを備えているので晴天時でも見やすい。ヤマハがリリースするスマートフォン用アプリ(YAMAHA MyRide)を使えば、電話の発信と受信をはじめ、音楽を聴くことができる。
また、ガーミン製ナビゲーションをブルートゥースで接続すれば、液晶ディスプレイにナビゲーション画面を映し出すこともできる。フロントの右側にはスマートフォンの充電に便利な小さな収納があるが、施錠できないのが唯一の欠点だ。
これだけでヤマハの開発努力を称賛するわけにはいかない。
ワンタッチロック、ロック式センタースタンド、キーレス対応の燃料キャップ、2種のライディングモード、トラクションコントロール、ABS(ただしバンク角連動式ではない)など、他にも最新テクノロジーが満載なのだ。
新型TMAXの走り「相変わらずスポーティだが、快適性も非常に高い」
バレンシアの海辺を出発し、私はTMAXを早朝の市街地へと走らせた。通勤のクルマでごった返す市街地で、TMAXは従来型同様にその快適性を発揮する。
前後ホイールが軽くなった新型はかなりスポーティな一面があるが、それでもサスペンションがしっかりとしているためデメリットにはなっていない。扱いやすいスイッチ類のおかげで気を取られることなくグリップヒーターのオンオフを切り替えられるから、混雑した市街地を走っているときでも運転に集中することができる。
ただし、グリップヒーターは適温になるのに対して、シートヒーターを最大にすると温かいを通り越して熱いほどだ。
市街地走行で少し気になった点は、身長170cmの私にとっては足着きがあまり良くないことだ。なぜならシートの幅があるため足が広がってしまい、停止時につま先立ちになってしまう。重心は低いといってもTMAXの車重は220kgで、軽量級ではないのだ。
混み合った市街地から逃げるように高速道路へ入ると、TMAXの本領発揮だ。この乗り物はスクーターではない──と思わせてくれるに十分な動力性能を見せてくれる。70〜80mph(112〜129km/h)でのクルーズは快適だし、楽々と100mph(160km/h)に達する。
クルーズコントロールが備わっているから、希望の速度に設定しておけばリラックスしたままシートに座り、スマートフォンをブルートゥース接続していればそのまま電話をしたり音楽を聴いたり……。
風切音を低減するため、ヤマハは電動調整式スクリーンを改良した。従来型と同時に比較しなければ正確にはわからないが、確かにそれは効果的に感じられた。ただし、スクリーンを最高位置にすると、スクリーンの上端が私の視界に入り込んでくる。小柄なライダーはより大きなスクリーンを選ぶといいかもしれない。とはいうものの、高速道路クルージングでの防風効果は優れている。
ヒーターを装備した新型のシートには、腰を支えるパッドが備わっている。これはシートを取り外した状態なら、前後位置を調整することができる。自分の身体や運転姿勢に合わせて調節しておけば、長距離走行時の快適性が向上し、疲れにくくなるはずだ。
ハンドルバーはよりスポーティに、フットボードは前後に長くなり、タンデム用ステップは従来よりも低い位置に取り付けられている。また、ヤマハはフルフェイス2個を収納できる大型のトップケースを純正アクセサリーとして用意するが、シート下トランクにはフルフェイスヘルメットなら1個、オープフェイスなら2個を収納できるゆとりがある。
1日で200kmほど走行したが、快適性には何の不満も感じなかった。それ以上の長距離を走ってもおそらく変わらないだろう。
ヤマハによれば、サスペンションの改良と軽量ホイールの採用によって、フロントで10%、リヤで8%の慣性モーメントを低減したという。その15インチホイールにはブリヂストンの最新タイヤ「バトラックススクーターSC2」が装着される。おかげで丘陵地のアップダウンや連続するコーナーを勢いよく駆けぬけることができた。
TMAXの走行性能には驚かされるばかりだ(とくにサイドスタンドやセンタースタンドが接地するレベルになるほど楽しくなってくる)。ライディングモードを「スポーツ」にすれば、それはさらに明確になり、TMAXに興味を持っている人、あるいは持っていない人でも驚くことだろう。
ラジアルマウントキャリパーを備えたブレーキは267mmのダブルディスクで、ABSはバンク角連動式ではない点も含め、従来型から変更されていない。攻め込んだ走りをすると、220kgの車体とライダーの体重を受け止めるにはあまり余裕がない。
通常のライディングでは不満はないが、ハイスピードからのブレーキングでは、レバーを引く指を2本から4本にする必要がある。
バレンシアの美しい街に戻ると、TMAXがヨーロッパで人気である理由がよくわかる。たくさんのバイクが走り、しかもファッショナブルなこの街で、ルックスの良いTMAXは称賛の眼差しをたくさん浴びるのだ。
TMAXのブランドイメージは確固たるものだ。
高価ではある、だが、それに見合った価値がある
さて、車両価格はどうだろうか。上級グレードとなるTMAX Tech MAXの車両価格は1万2500ポンド(*2022年3月時点の160円換算で約200万円)で、PCP(イギリスで実施されている個人向けリース制度)を利用すると、頭金が3343ポンド(約54万円)、月々139ポンド(約2万円)と手頃だ。
同じく2022年にデビューした気鋭の電動スクーター・BMW CE 04ならスタンダードで1万1700ポンド(約188円)、仕様によっては1万3000ポンド(約208万円)となるから、プレミアムスクーターとしてのTMAXは悪くない価格といえるだろう。
月額139ポンドなら、地下鉄やバスを毎日使うよりも安く、寒い冬のことを考えてもどちらがベターかわかるだろう。
ヤマハはすでに優秀で実績あるTMAXを改良することで、さらにその性能を高めた。それに疑念の余地はない。直感的に扱えるインターフェイスに加え、よりスポーティな外観とハンドリングで、またしても成功が約束されたアップデートを果たしている。その技術進化に私は感銘を受けた。新しいデザインの液晶ディスプレイメーターも見事で、ヤマハディーラーにはTMAXファンが殺到するだろう。
確かに1万2500ポンドのマキシスクーターは高額だ。
それだけの金を払うなら、もっといいバイクがあると言う人もいることだろう。しかしそれは的外れな意見といえる。なぜならTMAXは単なる趣味の道具ではなく、1週間……いや365日ずっと乗り続けられるバイクだからだ。
平日は通勤、週末はツーリング。友人を訪ねたり、食事に出かけたり、タンデムで旅することもできる。これはまさしくコンパクトカーと同じ、便利で万能な乗り物なのだ。
TMAXより安いマキシスクーターはいくつもあるが、いずれもTMAX……このTech MAXの高級感に適うものはないだろう。ヤマハはTMAXをこれまで以上に魅力的なマキシスクーターに仕上げた。TMAXは今後もマキシスクーターのトップとして君臨するはずだ。
ヤマハ TMAX Tech MAX主要諸元(2022年モデル・ヨーロッパ仕様)
[エンジン・性能]
種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:70.0mm×73.0mm 総排気量:562cc 最高出力:35kW<47.6ps>/7500pm 最大トルク:55.7Nm<5.68kgm>/5250rpm
[寸法・重量]
全長:2195 全幅:780 全高:1415〜1525 ホイールベース:1575 シート高:800(各mm) タイヤサイズ:F120/70R15 R160/60R15 車両重量:220kg 燃料タンク容量:15L
[イギリスでの価格]
1万2500ポンド(約200万円)
日本では2022年夏発売予定、国内販売価格は未定
レポート●アダム・チャイルド 写真●アントプロダクションズ/ヤマハ
まとめ●山下 剛 編集●上野茂岐