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アシモの技術を活用したホンダの「自立するバイク」が進化、今度は後輪や車体を揺らしてバランスを取る!

「転ばないバイク」として話題を集めたホンダライディングアシストの発展版

2021年11月下旬、報道陣向けに行われた「Honda 安全ビジョン・テクノロジー取材会」では「2050年交通事故死者ゼロに向けた、先進の将来安全技術」として、現在ホンダが研究開発を進めている四輪・二輪の安全技術が公開された。
その一環として、2017年に公開されて大きな注目を集めた自立型の二輪車=ホンダライディングアシストの最新バージョンといえる存在が初披露された。

そもそも、アメリカで開催される電子機器の見本市「CES」で2017年1月に発表されたホンダライディングアシストは、前輪のジオメトリーの変化と操舵制御によって停止・極低速時における車体の自立安定性を保つものだったが、低速での取り回しやハンドリングは一般的な二輪車には及ぶものではなかった。
また、2017年10月の東京モーターショーでは車両の動力源をエンジンではなくモーターとしたホンダライディングアシスト-eも公開したが、同年以降はその動向が不明だった。

2017年1月、アメリカの「CES」で発表された「ホンダライディングアシスト」。ベース車はNC750シリーズで、車両の動力源はエンジン。
二足歩行ロボットの姿勢制御技術を応用し、車両が自動でバランスを取るようにした「ホンダライディングアシスト」。
2017年10月の東京モーターショーに出展された「ライディングアシスト-e」。動力源はモーターで、スイングアームは片持ち式となっている。

しかし、今回披露された実験車「ESV」(Experimental Safety Vehicleの略で「安全試験車両」といったところか)は4年の間に「より自由で違和感のない操縦へ」と改良が進められていた。
このESVでは、それまでのフロント周りから新たにリヤ周りへ制御系を移し、車体と後輪を左右に揺動させることによって自立バランスを確立する(前輪もホンダライディングアシストから受け継いだ操舵制御が行われる)。

これは、車体が倒れようとする方向と反対のロール方向へリヤタイヤを揺動させることで復原力を発生させるもので、ジャイロセンサー(IMU)によってアクチュエーターを作動させる点は従来のライディングアシストと同様だが、今度はスイングアームピボット部にあたる部分の左右にアームを備えている。

静止状態ではアクチュエーターの小さな作動音が聞こえるだけで、一見すると車体は動いていないように見えるが、目を凝らしてよく見ると微妙に車体と後輪が揺れ動きながら、バランスを保っているのが分かる。
この状態でシートを横に揺すったり、車両を手で押してみたりすると、力の入れ加減に応じて、後輪が車体の動きと反対方向にブルンッと揺れてバランスを確保。それが徐々に収束して、また静止状態へと戻っていくのだ。

スイングアームの付け根のクランク状となっている部分(赤い丸で囲った部分)が横方向に可動することで、後輪と車体が捻れるような動きを作り出す。
ライダーが両手、両足を車体から離しても、自立状態を保ち続ける。
車両を右に傾むけると、後輪が右にせり出すように動きつつ、車体は後輪とは逆=左方向に動きバランスを取る。

同様に車両を左に傾けたときは、後輪が左にせり出し、車体は後輪と逆=右方向にせり出されるような動きとなり、バランスを取る。

その動きはちょうどスタンディング状態でバランスを取ろうとするライダーの動き(に反応する車体の動き)に似ており、かなり違和感の無い操縦フィーリングを実現しているように思える。

何しろ、このESVではライダーの「起こしたい」「バンクしたい」といった意図に応える「ライダーマシン協調制御」を目指しており、そういった意味ではかなり自然な動きを実現していると言っていいかもしれない。

ベース車両に市販車「NM4」を使用した点から推測できること

もうひとつ、面白いのはこの実験車・ESVのベース車両にNM4が使われていることだ。その理由は「システムの搭載性や重心を考えると、今回のシステムを搭載するのにちょうど良いパッケージだった」ということだが、つまりそれはライディングアシスト機能のシステムにおけるモジュール化が促進され、大改造を施した専用の車体を必要としなくなってきたのではないかとも感じられる。

何しろ、揺動システムはスイングアームに相当する部分で、駆動は後輪の車軸に取り付けられたモーター(従来のエンジン部分はバッテリー収納となっているか?)、後は制御装置のボリュームがどのくらいになるかだけに思えるので、システム全体の完成度が上がるに連れ汎用性が向上していくのではないだろうか。

NM4をベースとする「ESV」。車体側面にはESV Experimental Safety Vehicleの文字と、Safety for Everyoneというこの技術が目指す未来が描かれている。
ESVはモーター駆動で、後輪左側にモーターを備えている(インホイールモーターではない)。
なお、リヤタイヤは太い方が後輪の姿勢制御に都合がいいようで、200/50ZR17のリヤタイヤを採用するNM4は相性が良かったようだ。

現状、ホンダはこのライディングアシスト技術の目的を「立ちゴケ抑制、極低速安定」のためとしているが、将来の可能性としてはその制御技術はACCやCMBS、LKASと言った他の制御と組み合わせることにより、走行操作を適切に支援する「運転支援技術」に、ロボティクス技術で培われたその運動理論は車体挙動を安定させ、走行性能を向上させる「運動安定技術」につながるとしている──。
二輪ファンとしては、このようなホンダの取り組みが継続していることは嬉しい限りであり、今後の発展と市販化に期待するものである。

ACC(Adaptive cruise control)=車間距離制御
CMBS(Collision Mitigation Brake System)=衝突被害軽減ブレーキ
LKAS(Lane Keeping Assist System)=車線維持支援システム

ESVのメーター。3つ並んだバーグラフ式回転計のようなものは上から順に、前輪、車体、後輪の角度を示している。メーター左下にはバッテリー残量やギヤポジション表記らしきものも。
なお開発陣によれば「この技術はモーター車に限定するものではなく、理論上エンジン車にも導入することは可能」とのこと。

レポート●関谷守正/上野茂岐(写真キャプション) 写真●ホンダ/モーサイ編集部 編集●上野茂岐

関連書籍

2017年に発表された「ホンダライディングアシスト」「ホンダライディングアシスト-e」の開発コンセプトは、開発スタッフの貴重な証言を記録した書籍『Honda Motorcycle THE DREAM MAKERS』に詳しい。

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