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イタリアンブランド「ベネリ」にクラシック空冷シングル車あり!
生産終了後、中古車がプレミア価格化しているヤマハ SR400。コロナ禍などの影響により、品薄状態が続いているホンダ GB350。
クラシカルな空冷単気筒バイクが欲しい人にはちょっと辛い時代ですが……海外メーカーにも目を向けると、意外なダークホースが。
374cc空冷単気筒エンジンを搭載したベネリ インペリアーレ400というモデルです。1950年代のバイクをイメージしたというデザインもなかなか個性的。
そんなインペリアーレ400とはどんなバイクか、紹介していきましょう。
「ベネリ」というとあまり馴染みのないメーカーかもしれませんが、イタリア発祥の由緒あるブランドです。2016年よりボルボやロータスなど名だたるブランドを傘下に収める中国の巨大企業GEELYグループの一員となり、着実に古豪復活の歩みを進めているとのこと。カジュアルで手ごろ感あふれるバイクが多数ラインアップされ、国産車と比較検討されることも急増しているそうです。
とりわけ、2022年から国内導入された400cc空冷単気筒エンジンを搭載するネオクラシックモデル・インペリアーレ400への注目度はダントツ!
ヤマハ SR400(2021年生産終了)やホンダ GB350といった人気モデルがひしめくクラスで、インペリアーレ400はどれだけの存在感を発揮できるのでしょうか。市街地から高速道路、ワインディングを巡り、印象や使い勝手を探ってきました。
見た目はクラシカルだが、装備は現代的
およそ300kmを走り終えて、頭に浮かんだのは「釣りはフナに始まり、フナに終わる」という釣り人の格言。フナ釣りは基本中の基本で、もはや素朴ともいえるスタイルですが、それこそ永く愛され、飽きずに続けられるものとされています。インペリアーレ400の乗り味やスタイルは「素朴」なものかもしれませんが、バイクが根源的に持った魅力を長い間楽しめること請け合いです。
乗る前は、クラシカルなスタイルでダブルクレードルフレームということからそれなりの重量感を予想していました。が、高さ780mmというシートにまたがると同時に親近感がわき、205kgの車両重量も軽く感じるほど。ハンドルの切れ角も広いので、狭い駐車場などでもわりと取り回しが良いはずです。
イグニッション、スタータースイッチなどは現代のモデルと同様で、374ccの単気筒エンジンの目覚めはスッキリしたもの。そして、キャブトンタイプのマフラーから国産車とはひと味違った野太いベース音が鳴り始めます。とはいえ、アイドリング時のボリュームはちょうどいいもので、住宅街などでも迷惑になるようなものではありません。
エンジンは適度に「鼓動感」を伝えてきますが、「振動」として気になる方は少ないはず。これはマウントやフレーム剛性が優れている証でもあり、現代的な設計がなせるものではないでしょうか。
メーターは2眼式で、アナログとデジタル液晶(オド、ギヤポジション、燃料計)で構成され、安定の見やすさ。照明はLEDで、夜間やトンネル内でもバッチリとよく見えます。
シフトレバーのストロークはちょい長め。それでも、操作感そのものは節度あるもので、ガチャンというショックもなく慣らしていけばタッチもより良くなってくるでしょう。
ただし、フットペグに装着されたゴムカバーは好みが分かれるところ。振動抑制を重視したのかもしれませんが、ちと剛性不足に感じられました。特に、コーナーで荷重をかけた際に「グニュ」となる感触は最後まで馴染めませんでした。もっとも、外すのも簡単だし、そもそもペグなどはカスタムしやすいポイントなので「自分好みに仕上げる余地」と受け止めればいいでしょう。
インペリアーレ400のエンジン「低回転から力強く、味わいもある」
走り出しに気を遣うようなことは一切なく、軽いクラッチレバーやエンストの気配すら見せない低速トルク、そして切れ角あるハンドルのおかげでUターンも楽々こなせました。エンジンは2000rpmくらいで有効なトルクが感じられるので、早めのシフトアップでも小気味いい加速が味わえます。
あえてスロットルを大きく開けていくと、排気音のボリュームが上がり、かなり勇ましいエキゾーストノートに豹変。といっても、21ps/5500rpmという最高出力ですから、目玉が置いていかれるような加速とはなりません。海を行く船がゆったりと波に乗って加速する……そんなイメージでしょうか。
試乗車がほぼ新車(走行距離400km)だったこともあり、フルスロットルは何度も試しませんでしたが、このエンジンはそれほど回さずとも感じのいいフィーリングが味わえるもの。微小開度への追従も優れているので、それこそ「エンジンとの対話」を楽しむべきでしょう。トップ5速で100km/h巡行時はおよそ4000rpmとなり、個人的には6速があってもいいかと思いました。が、ベネリはあくまで「そこは回して走れ」と考えたのかもしれません。
ワインディングも楽しめるハンドリング
サスペンションの動きもまた新車ゆえの渋さがあり、正当な評価を下すのは難しいのですが、少なくともポテンシャルはありそうです。ピギーバッグ式のリヤショックはプリロードの調節が可能。タンデムや荷物満載なんてシーンでは重宝してくれることでしょう。
また、特筆すべきはマキシス製タイヤとシャシーのマッチングが素晴らしいこと。フロント100/90-19、リヤ130/80-18というタイヤサイズ、筆者は「曲げにくい」とか「曲がってる最中の動きが微妙」といった先入観をもっていたのですが、インペリアーレ400に乗って印象がガラリと変わりました。安定のひと言に尽きるのですが、たいていのことを意地悪く試しても、不安になるようなことはありません。
これはタイヤやサイズだけで実現しているのではなく、しっかりしたフレームや乗りやすいシャシージオメトリがなせる技でしょう。
単気筒オンロード車といっても、モタードのようなヒラヒラ感とは違いますが、倒しこみも意外と軽く、九十九折のようなワインディングも決して苦手分野ではありません。
ここで単気筒のうま味を上手に引き出せたりしたら、インペリアーレ400との一体感は最高潮に達するはず。まったりツーリングも得意分野ですが、ぜひワインディングも元気に走ってみてほしいものです。
シングルローターのフロントブレーキは効き方も悪くありません。強めに入力してもカックンとならず、制動のプロセスは滑らかと言っていいでしょう。
また、ドラムブレーキ風に仕上げられたリヤホイールですが、実はディスクブレーキを装備しています。ちょうど、トライアンフのボンネビルがインジェクションをキャブレター風にデザインしていることを思い出し、ベネリの「スタイルへのこだわり」が感じられました。もちろん、効き方に不満などなく、リニアで十分な制動力を発揮してくれます。
ツーリングへのポテンシャルも高いインペリアーレ400
高速道路でも安定しており、強風下でもふらつくようなことはありません。これまた、エンジンの搭載位置などバランスの良さが光るポイントでしょう。ただし、正面からの風はクラシカルなスタイル上、致し方ありません。また、エンジンを高回転で回し続けるのもそれほど楽しくないので、高速道路は「移動ルート」と割り切るのがいいかもしれません。
なお、シートの形状はスリムでコシもあっていいのですが、スプリングを用いた弾力的な恩恵はあまり感じられませんでした。個人的な好みかもしれませんが、もう少し厚みと柔らかさがあると、より長距離も楽になると思います。
実車を目の前にすると、各部の仕上げや、質感の高さは誰もが感心するでしょう。あたかも2クラスくらい上のプレミアム感さえ漂い、各部に施されたベネリのロゴやライオンの刻印など気分もアガります。前後フェンダーの塗装の良さはアメリカ製大型バイクを思わせるほど!
また、しっかりとした形のグラブバー、さらにはサイドバッグ用レールまで標準装備されるなど「さあ、旅に出てください」と言わんばかり。
最後に以前乗ったことのあるGB350と簡単な比較をしてみると、GB350は車体からエンジンフィールまですべてが軽快、一方のインペリアーレ400はやや重量感はあるものの取り回しにそれほど変わりはなく、エンジンはより活発で味わい深いもの。
現代的なニーズに応えつつ、クラシカルなスタイルから期待されるフィーリングもたっぷりです。ビギナーはもちろんですが、スーパースポーツやリッタークラスに乗ってきたベテランライダーこそ、その魅力にハマってしまうかもしれません。
ベネリ取り扱いショップはアンテナショップ「ベネリ東京練馬」を筆頭に全国で32店舗あり(2022年6月時点)、現在でも増加中とのこと。となると、もはやマニアックなブランドとは呼べませんね。たくさんのインペリアーレ400を街で見かける日も近いかもしれません!?
ベネリ インペリアーレ400主要諸元
[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクル単気筒OHC 2バルブ ボア・ストローク:72.7mm×90.0mm 総排気量:374cc 最高出力:15kW(21ps)/5500rpm 最大トルク:29Nm(2.9kgm)/4500rpm 変速機:5段リターン
[寸法・重量]
全長:2170 全幅:820 全高:1120 ホイールベース:1440 シート高:780(各mm) タイヤサイズ:F100/90-19 R130/80-18 車両重量:205kg 燃料タンク容量:12L
[価格]
66万8800円
レポート&写真●石橋 寛 編集●上野茂岐