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オーストラリア生まれのSUPER SOCOとは?
世界的にモビリティの電動化が進んでいる。エンジンならではのサウンドや鼓動感はモーターサイクルに乗る満足度につながる要素──という主張もあるが、そうした要素を完全に廃したのが電動バイクだ。
そんな電動バイクは、電動化ムーブメントが著しく伸びる欧州や中国で盛り上がっている。いや、日本での認識以上にグローバルでは電動化へシフトしているといっていい。
当記事で紹介するのは、オーストラリアのVMOTOグループが展開する「SUPER SOCO」(スーパーソコ)の電動バイクだ。本国オーストラリアだけでなく欧州や中国市場でも高く評価されているというSUPER SOCOの特徴は、家庭での充電に便利な着脱式バッテリーや、ダイレクトに後輪を駆動するハブモーターといった設計にある。
日本ではXEAM(ジーム)が販売元となる
日本では2020年3月から「XEAM」(ジーム)が正規総代理店としてSUPER SOCOの商品を扱っている。全国に取扱店が広がっており、またレンタルバイクも展開しているので、見かける機会が増えているだろう。
XEAMが扱うSUPER SOCOのラインアップを整理すると、軽二輪に分類されるのがネイキッドスタイルの「TC max」とスクータースタイルの「CPX」、原付二種のシリーズとして、いわゆるまたがるスタイルの「TS STREET HUNTER」、「TC」、「TSx」があり、原付一種のスクータータイプとして「CUx」と「Cumini+」の2モデルが用意されている。
ご存知のように電動バイクにおいてはエンジン排気量という区分はない。
そのため軽二輪や原付二種といった分類には、モーターの定格出力が用いられる(最高出力ではない点に注意)。定格出力600W以下が原付一種、同1000W以下が原付二種となる。なお、軽二輪に分類されるTC maxの定格出力は3900Wとなっている。
ちなみに、いずれもシフト&クラッチ操作が不要な電動パワートレインなのでAT限定免許で運転することができる。
スクランブラースタイルのWANDERER(ワンダラー)は最新世代モデル
今回、試乗することができた「TC WANDERER」は、原付二種に分類されるモデルだ。日本での発売は2022年9月ということだが、正式販売に先立ち公道試乗をすることができた。
本国で発表されているTCワンダラーのスペックを整理すると次のようになる。



SUPER SOCO TC WANDERER主要諸元
全長:1984mm
全幅:788mm
全高:1097mm
ホイールベース:1325mm
最高出力:2500W
最大トルク:180Nm
最高速度:75km/h
航続可能距離:120km(45km/h定地)
バッテリー:リチウムイオン電池
バッテリー容量:60V 32Ah
タイヤサイズ:F100/80-17 R120/80-17
車重:89kg(バッテリー除く)
バッテリー重量:1個12.5kg
*国内販売は2022年9月を予定。1バッテリー仕様で約50万円、2バッテリー仕様で約60万円となるようだ。
スペック的には、すでに販売されている原付二種モデル「TS STREET HUNTER」や「TC」と近しい部分もあるが、スポーツネイキッド的なTS STREET HUNTER、カフェレーサー的なTCに対して、TC WANDERERはスクランブラー的デザインのニューモデルとなっている。

もっとも、SUPER SOCOの特徴であるBMS(バッテリーマネージメントシステム)については、いずれのモデルも最新バージョンとなっており、スピードリミッターを3段階にセットできるという機能も共通。
また、交換式バッテリーの上に設置された大型トレイといった利便性に配慮している点や、スイングアームまわりの設計も共通性を感じるものとなっている。
ただし、外観のテイストに合わせてか、メーターの意匠については完全に異なっている。TS STREET HUNTERがフル液晶タイプとなっているが、TC WANDERERは指針式のスピードメーターと液晶を組み合わせ、クラシカルなデザインとなっている。これは大きな違いであり、またがったときにそれぞれのキャラクターを明確にするポイントだ。


原付二種でも乗車姿勢に窮屈感は無し
それでは、TC WANDERERに乗ってみよう。
今回の試乗は、関東圏のライダーに人気のスポット「バイカーズパラダイス南箱根」をベースに開催された。自然と試乗コースは箱根のワインディングになる。そこで、まず感じたのは原付二種とは思えない、ゆったりとしたライディングポジションだ。
筆者は、街乗りに12インチタイヤのミニバイクを愛用している。同じ原付二種であってもミニバイクではどうしても小さい車体にまたがっている感覚となるが、TC WANDERERについては前後に17インチタイヤを履いていることもあって、一クラス上のモデルと感じる。

また電動バイクはバッテリーを搭載しているぶんだけ重くなってしまう。まして、今回は走行距離を稼ぐために2つのバッテリーを搭載していた。車格を上に感じたのは、バッテリーによる重量感がプラスに働いていた部分も無視できない。
さらにアクセルを回せば、まったくタイムラグを感じさせることなくスッと後輪が回り始める。原付二種のエンジン車では多少なりともエンジン回転を上げてクラッチをつなぐような「間」が生まれるが、TC WANDERERはシームレスに加速していく。そうした様子もまた、排気量に余裕のある一クラス上のバイクを思わせる乗り味を生み出している。
じつは試乗前には、バッテリーが比較的高い位置にあること、ハブモーターを採用したことでリヤのバネ下重量が増えていることなどが走りにネガ要素となっているのでは……と心配していたが、それはまったく杞憂だった。
構造的にクラッチがないため、リヤブレーキが左手のレバーとなっているのはスクーターと同じだが、それ以外の部分では軽二輪クラスのバイクに乗っているかのような満足感が得られたのだ。
ちなみに、左手で操作するブレーキはコンビタイプで、前後ブレーキが動作する構造となっている。リヤだけを独立して操作できないのはコントロール幅が狭くなると思うかもしれないが、実際に強く握って確認したところ基本的にリヤブレーキが先に効き始める。


強く握った場合もリヤが先にロックするため(ABSは備わっていない)、アンコントローラブルなことにはならない。もちろん、前後で最大限の制動能力を引き出したいときには右のブレーキレバー(フロントのみに作動)を併用すればいいのだ。
箱根のワインディングを流すレベルであれば、左手でコンビブレーキを操作するだけで十分以上の制動力を得ることができる。つまり、右手をアクセルコントロールに専念させることができるのは、このブレーキを採用するメリットだ。
発進加速は俊敏だが、登り傾斜では125ccエンジン同等のツラさも
定格1000W、最高出力2500Wという数値自体は大したことないと思うかもしれないが、やはり最大トルク180Nmというのは伊達ではなく、原付二種とは思えないほどの発進加速を見せる。
アクセルを一気に開けたからといって唐突にトルクが出ないよう絶妙にしつけられてはいるが、それでもアクセルコントロールについては原付二種のエンジン車よりは配慮する必要があると感じる。モーター駆動のレスポンスをいかに右手で制御するかというのが、電動バイクSUPER SOCOに乗る楽しみのひとつといえるかもしれない。
とはいえ、モーター駆動らしいレスポンスと力強さが全域にわたって続くわけではない。スペック上の最高速は75km/hとなっているが、ワインディングのきつい上り坂ではそこまでスピードを乗せていくことが正直厳しいというシチュエーションもあった。
もっとも、そうした厳しい坂ではエンジン車であっても速度が伸びていかないのは同様で、電動バイクだから遅いという話ではない。低速域でのアクセルレスポンスとのギャップでスピードメーターの針はゆっくりとした上がっていかないと感じるかもしれないが、原付二種カテゴリーとしてはエンジン車に劣っている部分は少ないという印象だ。

現実的な航続距離は100kmくらい? 原付二種として考えれば十分か
気になるのは航続距離だが、今回の試乗でのメーター表示を見ている範囲においては、大人しく走っていれば2つのバッテリーを満充電にしておけば100kmの走行は可能という印象だった。
箱根のワインディングではなく、平坦な市街地走行であればカタログスペックの120km(*)という航続距離も十分に狙えそうだ。原付二種で100kmを走るような使い方を日常的に行なっているというユーザーは少数派だろうから、「電動だから」という色眼鏡で見る必要はないだろう。
そして、今回の試乗における個人的な発見だったのは、エンジンからのノイズや振動がないことが物足りないと感じるのは最初の5分間だけだったこと。
アクセルと直結したかのようなモーターレスポンスは、サウンドや振動がなくとも十分に体で感じることができるし、マシンと一体になった感覚も期待以上に味わえるものだったのだ。
*編集部註:本国のカタログによれば、体重75kgのライダーが45km/hで定地走行した場合の航続距離が120kmとなっている。
レポート●山本晋也 写真●佐藤正巳 編集●上野茂岐
航続距離は最高出力のモードによって変化



ミニバイク感はなく、乗車感覚は250ccクラスと同等

