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「スポーツスターらしさ」が維持されていると思ったものの……
2022年5月上旬に行われたナイトスターの試乗会の数日後、旧知の同業者Aから連絡が来て、以下のやり取りをした。なお僕とAは空冷スポーツスターのオーナーで、一般的な2輪車の基準で考えると、いずれの愛車も過走行と言って差し支えない距離を走り込んでいる。
A:新しいナイトスター、どうでした?
中村(筆者):意外にスポーツスターらしくて、感心した。
A:同感です。でもそういう見方をした人はごく一部で、広報担当者によると、「今までのハーレーとは全然違う!!」っていう意見が大半だったみたいですよ。
中村:エッ、「全然違う」なの?
A:おそらく、軽くてイージーでクセが無くて、日本車みたいに誰もが気軽に乗れるっていう意味で、他の参加者の多くはそう言ったんじゃないかと。
中村:逆に言うなら今までのハーレーは、重くて難しくてクセが強かったってこと?
A:世間の一部ではそうかもしれません(笑)。
中村:なるほど。大昔と比べれば相当にフレンドリーになったけど、今までのハーレーは、どうしても馴染めないって言う人が少なからずいたもんね。となると新しいナイトスターには、スポーツスターシリーズの間口を大幅に広げそうな資質が備わっているのか……。
Aとのやり取りを通して、自らの視野の狭さを認識した僕ではあるけれど、原稿を書く前に異なる視点の意見を聞けたことはラッキーだった。というわけで以下の試乗レポートでは、Aから聞いた話を念頭に置きつつ、二つの視点で新しいナイトスターの乗り味を紹介したい。
水冷エンジン「レボリューションマックス」を搭載する第3号車
本題に入る前に大枠を説明しておくと、2022年春から発売が始まったナイトスターは、ハーレーダビッドソンにとって最新のパワーユニット「レボリューションマックス」を搭載する第3号車で(第1号車はアドベンチャーツアラーのパンアメリカ1250)、新時代のスポーツスターシリーズとしては、2021年秋にデビューしたスポーツスターSに続く第2号車となる。
ちなみに、見た目も乗り味もアグレッシブ&スパルタンだったスポーツスターSとは異なり、ナイトスターはクルーザーの定番と言うべきスタイルで、扱いやすさを重視したエンジンは排気量を1252→975ccに縮小している。
この事実をどう感じるか人それぞれだが、外装や足まわりなどを専用設計しただけではなく、非常に手間がかかるボア×ストロークの変更(105×72.3→97×66mm)を行ったことを考えると、ハーレーダビッドソンにとってのナイトスターは、パンアメリカ1250やスポーツスターSに勝るとも劣らない、相当に気合いが入ったモデルなのだろう。
■「レボリューションマックス」と命名された水冷60度Vツインの基本構成は、2021年に登場したパンアメリカ1250やスポーツスターSと同様。ただし、排気量の縮小や可変バルブタイミング機構の簡略化(吸排気ではなく、吸気のみとなった)など、車両の特性に合わせた見直しが行われている。ライディングモードはスポーツ/ロード/レインの3種類で、トラクションコントロールやエンジンブレーキの利き方は、任意で変更することが可能。
■右が「初の水冷スポーツスター」として登場したスポーツスターS(排気量1250cc)。左がナイトスター。
日本車からの乗り替えでも違和感は希薄
最初に「今までとは全然違う!!」という視点で話をすると、確かに新しいナイトスターは、既存の空冷スポーツスターとは別物……と言えなくもなかった。まずは押し引き、そしてサイドスタンドを払って車体を直立させた段階で明らかな軽さを感じるし、空冷時代のようにエアクリーナーボックス(右)とプライマリーカバー(左)の出っ張りが気にならないから、ライディングポジションは至って自然で、ニーグリップがごく普通にできる。
そして実際に走り出すと、エンジン回転数やギヤ段数に関わらず、どんな状況でもスムーズな加速が実感できることも、今までとは異なる要素だろう。誤解を恐れずに言うと空冷時代のスポーツスターは、右手の操作に対する反応が必ずしも忠実とは言えなかったし、低回転域から伝わってくる濃厚なトラクションは、場合によっては走りを阻害するノイズになることがあったのだから。
いずれにしても、日本車からの乗り替えという視点で見るなら、ナイトスターは歴代スポーツスターシリーズ最高の性能を獲得しているのだ。試乗会前に行われた発表会で、ハーレーダビッドソンジャパンの野田社長が「ナイトスターは売れますよ!!」と断言したのは、おそらく、こういった資質を把握していたからだろう。
ところで、前述したようにナイトスターは軽さの恩恵を存分に感じるモデルで、221kgという装備重量は、近年の空冷スポーツスターと比較すると、なんと30kg以上も軽い。それは大変素晴らしことではあるものの、2003年以前の装備重量が220〜230kgだったことを考えると、個人的には、軽くなったではなく、本来の数値に戻ったと言うべきではないか……という気がしている。
■「ガソリンタンクカバー」は伝統のスタイルを再現。フレームはエンジンをストレスメンバーとして使用するダイヤモンドタイプで、ヘッドパイプとスイングアームピボットを結ばず、シリンダーヘッド上部で完結するコンパクトな構成は、近年のドゥカティ各車とよく似ている。
既存のスポーツスターに通じる美点
続いては「スポーツスターらしさ」の話。あまり一般的な視点ではないかもしれないが、2006年型スポーツスターXL883を長きに渡って愛用している僕が、ナイトスターで最も特筆したいと思ったのは、コーナリングの初期に感じるフロントまわりの穏やかでわかりやすい挙動だ。
その挙動の根源にあるのは昔ながらの車体寸法、30度のキャスター角やかなり大きめのフォークオフセット(空冷時代と同様に60〜70mm前後はありそう)、伝統のサイズを踏襲した100/90-19の前輪などで、第2号車のスポーツスターSとはまったく異なる特性に、僕は開発陣の見識を感じた。
それに加えて、エンジンの見直しで低中回転域を使ったマッタリ巡航がスポーツスターSより楽しみやすくなったこと、ガソリンタンクをシート下に設置した結果として、DOHC4バルブヘッドを採用しているにも関わらず、OHV2バルブの空冷スポーツスターに通じる重心の低さを実現していること、指針式のスピードメーターを採用したことなども、僕としては嬉しい要素。
このキャラクターなら、空冷スポーツスターから乗り換えようという人がいても不思議ではないと思う。
■インナーチューブ径41mmの正立式フロントフォークとリヤのツインショックはショーワで、前後ブレーキはブレンボ。ここ最近のスポーツスターの純正タイヤはミシュラン採用率が高くなっていたが、ナイトスターは大昔からの定番であるUSダンロップのD401を採用。サイズはF100/90-19、R150/80-16。
■シートは伝統のソラ豆タイプで、純正アクセサリーパーツのタンデムシートを装着すれば、タンデムライディングが可能。リヤフェンダーは近年の流行に従う形で短め。2-1式マフラーはスポーツスターのご先祖様、1950年代のモデルKを思わせる雰囲気だ。
ポルシェとBMWミニに通じる資質
当原稿を書いている最中、僕の頭に浮かんだのは2種の4輪車、ポルシェが911シリーズの歴史で最も大きな改革を行った1997年型996(エンジンは空冷から水冷へ)と、BMWが2001年から発売を開始したミニである。
この2機種は新しいナイトスターと同様に、既存のモデルの雰囲気や構成を適度に踏襲しながら、それまでとは異なる機構を随所に採用したという共通点が備わっていて、登場時には賛否両論があったようだけれど、抜群のフレンドリーさを身に着けた996とBMWミニは、各機種の支持層を拡大する大成功作となった。
新しいナイトスターがそういう存在になれるかどうかは、現時点では何とも言えないものの、間口を大幅に広げながら、既存の空冷スポーツスター乗りが感心する資質を備えているのだから、このモデルが996やBMWミニに匹敵する大成功作になる可能性は十分あるだろう。
ナイトスターの足着き&ライディングポジション
低めのハンドル+フォワードコントロール式ステップを導入したため、側面から見た際に身体が「くの字」になるスポーツスターSと比べると、ナイトスターのライディングポジションはかなりフレンドリー。
シート高はクルーザーの平均値に近い705mmだから、小柄なライダーでも足つき性に不安を感じることはないだろう。ステップは他ジャンルからの乗り替えでも馴染みやすいミッドコントロール式。ただし一般的な日本人の感覚で考えると、ハンドルグリップ位置はもう少し高く、もう少し手前のほうがよさそうだ。
ライダーの身長は182cm。
レポート●中村友彦 写真●ハーレーダビッドソンジャパン/山内潤也(スポーツスターS)
編集●上野茂岐
ハーレーダビッドソン ナイトスター主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:97mm×66mm 総排気量:975cc 最高出力:66kW<89ps>/7500rpm 最大トルク:95Nm<9.6kgm>/5750rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2250 全幅:── 全高:── ホイールベース:1545 シート高705(各mm) タイヤサイズ:F100/90-19 R150/80-B16 車両重量:221kg 燃料タンク容量:11.7L
[車体色]
ビビッドブラック、ガンシップグレー、レッドラインレッド
[価格]
188万8700円(ビビッドブラック)
191万9500円(ガンシップグレー、レッドラインレッド)
■灯火類はフルLED。ヘッドライトにはメーターバイザー的なカウルが装備される。
■下部の液晶モニターは燃料計、選択中のライディングモードが常時表示されるほか、オド、トリップ、回転計、時計を切り替え表示できる。
■左スイッチボックスにはホーン、ウインカー、液晶の表示切り替え(回転計、オド、トリップ、時計)のスイッチを配置。右スイッチボックスにはハザード、ライディングモードやトラクションコントロール切り替えのボタンを配置。