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ホンダ NT1100試乗「グランドツアラーとスポーツツアラーの中間?」

NT1100 ホンダ

個人的には意外だったNT1100開発陣の狙い

何となく、捉えどころがないバイクだなあ……。2021年秋にNT1100の写真を初めて見たとき、僕はそう感じた。もちろん、オンロードがメインのツアラーであることは一目瞭然だが、このモデルからは近年のツアラーで定番になっている、アドベンチャー系やスーパースポーツ的な要素が感じられない。いや、べつにそういう要素はマストではないものの、少なくとも写真を見ている段階では、僕にはNT1100の狙いがわからなかったのだ。

そしたら意外なことに、試乗会で開発陣に話を聞いた編集部員によると、NT1100はNC750Xや400X(海外ではCB500X)などからのステップアップを意識したモデルで、ヤマハ トレーサー9 GTやBMW F900XRなどを競合車に考えたとのこと。
だったらもっとアドベンチャー的な要素を……という気はするけれど、そういったモデルが数多く存在する現状を考えると、用途を限定しないルックスのNT1100は、見方によっては新鮮なのかもしれない。

そんなわけで、微妙な心境で臨んだNT1100の試乗だが、2日間に渡ってじっくり乗り込んだ僕は、予想外の汎用性と守備範囲に驚くこととなった。
確かにこのモデルには、NC750Xや400Xからのステップアップに最適と言いたくなる資質、そしてトレーサー9 GTやF900XRと互角以上に戦える資質が備わっていたのだ。

ホンダ NT1100(2022年3月17日発売・168万3000円)。エンジンは1082ccの並列2気筒で最高出力102馬力、車重は248kg。
トレーサー9GT 2021 ヤマハ
ヤマハ トレーサー9 GT(145万2000円)。エンジンは888ccの並列3気筒で最高出力120馬力、車重は220kg。

BMW F900XR。エンジンは894ccの並列2気筒で最高出力105馬力、車重は223kg。価格は118万1000円(ベーシック)〜。

高速巡航は「マーベラスでパーフェクト」

まずは市街地の印象から。この種のツアラーにとって、ゴー&ストップが多くて平均スピードが低い状況は不得手なはずなのに、NT1100はCB1300SBあたりと大差ない感覚で、混雑した東京都心の道をごく普通に走れた。

もっとも、フェアリングにはかなりのボリュームがあるし、車格も決して小さくはないから、スイスイというわけではない。とはいえ、アドベンチャー系を含めた現代のオーバー1リッターツアラーの基準で考えると、NT1100を市街地で走らせたときの心理的な負担は明らかに少なく、これだったら日常の足にも使えそう。
いずれにしても、欧米が主要市場の大排気量ツアラーが日本の道路事情に適合することに、僕は素直に感心してしまった。

ではツアラーにとって本領発揮の舞台となる、高速道路の印象はどうかと言うと、これはもう、マーベラスでパーフェクト。その一番の理由はとてつもなく優秀なウインドプロテクションで、試乗した2日間の気温がずっとヒトケタ台だったにも関わらず、NT1100に乗っている最中の僕は、一度も寒いとは思わなかったのである。

逆に言うなら今どきのツアラーの中には、ウインドプロテクションに関して、ガッカリする車両が少なくないのだが、NT1100の防風性能は同じホンダのゴールドウイングやBMWのR1250RTに匹敵するほど。しかも、一定速度で巡航したときの充実感やここぞという場面でのキック力、高速直進安定性なども、NT1100はゴールドウイングやRT1250RTに匹敵するレベル。
そのあたりを考えると、ホンダはスポーツツアラーと呼んでいるけれど、このバイクの実際のキャラクターは、グランドツアラーとスポーツツアラーの中間のような気がする。

スクリーンの左右には、腕周りの防風性を高めるアッパー・ディフレクターを装備。
加えて、ステップ前方にロワー・ディフレクターを装備(赤で囲ったパーツ)。足元の防風性を高めるだけでなく、ウエット路面走行時の水の巻き上げも軽減するという。
スクリーンは工具不要で5段階に調整可能。写真は最低時。

スクリーン最高時。最定時から165mm高くなるが、各段階高さとともに角度も変化する。

ワインディングでは「安心感と充実感が得られる乗り味」

続いては峠道での印象。まずは日本のどこにでもある道、見通しと路面状況が良好ではない3ケタ国道や県道や舗装林道の話をすると、重厚なルックスからは想像できないほど軽快で、スポーツライディングがしっかり満喫できた。などと書くと、スチール製セミダブルクレードルフレームと並列2気筒エンジンがCRF1100Lアフリカツインと共通なのだから、それは当然じゃないかと言う人がいるかもしれないが、必ずしもそうではない。

というのも、ある程度以上の負荷をかけたときに初めて真価を発揮するCRF1100Lアフリカツインとは異なり、NT1100は「そこそこ」のペースでの旋回が楽しいのだ。中でも僕が感心したのは、コーナー進入時の穏やかな舵角の付き方と、コーナーの立ち上がりでエンジン回転数が低くても明確に伝わるトラクションで、その2つは乗り手にとっての安心感と充実感につながる。
決して上から目線で言うつもりはないのだが、CRF1100Lアフリカツインの基本設計を流用して、よくぞここまで異なるキャラクターを作り上げたものだと思う。

ただし、見通しのいい快走路でのハンドリングには、少々物足りなさを感じないでもなかった。具体的な話をするなら、スピードレンジが上がるといわゆるアンダーステアが顔を出すことがあるし、ハードブレーキング時の前輪の接地感やバンク角は万全とは言い難い。
まあでも、そういった問題はサスセッティングやタイヤの変更である程度は解消できそうだし、現状でも恐怖を感じることはないので、僕にとっては大問題ではなかった。

なお海外では2種のミッション、MTとDCTが併売されるNT1100だが、日本ではDCTのみ。ホンダとしてはこれまでのCRF1100LアフリカツインやNC750Xなどの販売実績を考慮して方針を決定したようだけれど、こんなに素晴らしいツアラーを作ったのに、ミッションの選択肢が1つしか選択できないのは、個人的には非常に残念。
ちなみに海外向けのデータでは、NT1100のMT仕様は車重がDCTより10kg軽い238kgで、CRF1100Lアフリカツインを例にして考えると、もし日本で発売されていれば、DCTより10万円ほど安い150万円台後半になるだろうか。

CRF1100Lアフリカツインやレブル1100でおなじみとなっている「1082ccユニカム4バルブ並列2気筒+DCT」のパッケージ。NT1100用はアフリカツインのものをベースに、吸排気系を専用設計としている。最高出力は102ps/7500rpm、最大トルクは10.6kgm/6250rpm。
CRF1100Lアフリカツイン。エンジンだけでなく、メインフレームも同車用をベースとしている。アドベンチャーの中でもオフロード走破性を重視したモデルゆえ、ホイール径は前21インチ、後ろ18インチ。
スイングアームはNT1100用に新設計されたもので、鋳造のアルミ製。前後サスペンションも同車専用でフロントはショーワ製のSFF-BP、リヤはリンク式モノショックでリモートプリロードアジャスター付き。ホイール径は前後17インチ。
DCTの変速ボタンは左スイッチボックスに。手前が「−」で、スイッチボックス裏側に「+」という配置。
マニュアルモードと自動変速モードの切り替え、ニュートラルへの切り替えボタンは右スイッチボックスに。

既存のツアラーとは一線を画する魅力

当初の「捉えどころがないバイク」から一転して、今現在の僕はNT1100に対して、「行動範囲を大幅に広げてくれそうなバイク」という印象を抱いている。普段の自分の定例ツーリングを振り返ると、基本的な行動範囲は自宅を中心とした半径300km圏内なのだが、乗り味が楽しいだけではなく、快適で疲労が少ないNT1100のオーナーになったら、その先に頻繁に出かけたくなるだろう。

もっとも、僕がそう感じたツアラーはNT1100が初めてではない。ただし、日常の足にだって使えて、高速巡航がすこぶる快適で、低中速コーナーが続く峠道が楽しく、車格と価格が突出していないこのモデルに、僕はこれまでに体験したツアラーとは異なる、親近感を抱いたのだ。

ところで冒頭に記したように、競合車として意識されたトレーサー9 GTとF900XRに対し、僕自身も互角以上に戦えると記したけれど、この3台が本当にライバル関係になるのかと言うと、個人的にはそうは思えなかった。
誤解を恐れずに表現するなら、ツアラーとしての資質を徹底追及したNT1100に対して、トレーサー9 GTはあくまでもMT-09というスポーツバイクのツアラーバージョン、F900XRはS1000XRやR1250GSなどへのステップアップを前提としたエントリーモデル、というのが僕の印象である。

ホンダ NT1100主要諸元

ボディカラーはマットイリジウムグレーメタリックとパールグレアホワイトの2色のラインアップ。

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒OHC4バルブ ボア・ストローク:92.0mm×81.4mm 総排気量:1082cc 最高出力:75kW(102ps)/7500rpm 最大トルク:104Nm<10.6kgm>/6250rpm 変速機:電子式6段
[寸法・重量]
全長:2240 全幅:865 全高:1360(スクリーン最上位置1525) ホイールベース:1535 シート高:820(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:248kg 燃料タンク容量:20L
[車体色]
マットイリジウムグレーメタリック、パールグレアホワイト
[価格]
168万3000円

フロントブレーキは310mmダブルディスク+ニッシン製の対向4ポット・ラジアルマウントキャリパーという組み合わせ。
リヤブレーキは256mmディスク。純正装着タイヤはメッツラー・ロードテック01とダンロップ・スポーツマックスGPR300の2種類がある。

ライディングモードはツアー/アーバン/レインの基本3種

タンデムやフル積載でもパワフルに走れる「ツアー」。
オールラウンドなシチュエーションに対応する「アーバン」。濡れた路面などの走行に適した「レイン」。
基本3種のライディングモードのほか、各パラメーターを自分で設定して記憶させておける「ユーザー」が選択可能。各モードに応じ出力特性とエンジンブレーキが切り替わる。

3レベル+オフにできるセレクタブルトルクコントロールは各モードでレベル2に設定されているが、モード問わす随時調整可能。
DCTの変速モードもオールラウンドな「Dモード」のほか、高回転まで使う「Sモード」(S1〜S3までレベルが選べる)、マニュアル操作の「MTモード」に随時切り替え可能。

ツアーモード時のメーター。回転計と速度計をメインに、左側にはトリップ、燃費、平均速度などの情報が表示される。
アーバンモード時のメーター。回転計と速度計がメインとなり、燃料計が左側に大きく表示される。
レインモード時のメーター。カラー液晶部分は回転計と燃料計がメインで、速度はモノクロ液晶のサブモニターで確認する。

Apple CarPlay/Android Autoでスマートフォンとの連携も可能。ナビを活用したり、インカム等を経由し音楽を楽しむことができる。

NT1100の足着き&ライディングポジション

ライダーは身長170cm、体重58kgのモーサイ編集部・上野。シート高は820mmで、足着きは両足ではカカトが浮くが、片足停車では足の裏全面が接地する。ライディングポジションはほとんど前傾しないネイキッドに近いリラックスしたもの。グラブバーの張り出しが大きいので、またがる際は蹴りつけないように注意したい。
写真はスクリーン最低時で、スクリーン上端はほとんど視界に入ってこない。スクリーンを最高まで引き上げるとスクリーン越しの視界となるが、上端もかなり上方となるので視界が煩わしくなることはなかった。

レポート●中村友彦 写真●柴田直行/ホンダ/ 編集●上野茂岐

CONTACT

ホンダお客様相談センター:TEL0120-086819

https://www.honda.co.jp/NT1100/

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