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トライアンフのタイガーシリーズに最小排気量の「660cc」が登場
今日四輪のSUVのように、様々な路面への対応力があり、運転者の視点が高く、快適に長距離走行もこなせる万能マシンとして、バイクでは「アドベンチャー」というカテゴリーが人気となっている。
イギリスのトライアンフといえばクラシックなスタイルのバイクをイメージする人が多いかもしれないが、アドベンチャーカテゴリーのモデルとして、「タイガー」シリーズをラインアップ。様々な排気量帯に展開を行っている。
そのシリーズに新たなモデル「タイガースポーツ660」が2022年の1月に追加された。排気量は660ccで、輸入車でありながら112万5000円〜という戦略的な値付けがなされているが、果たしてその真価は?
バイクメディアへの執筆や、ライディングスクールを主催するプロライダー・鈴木大五郎がチェックする。


トライアンフ・タイガースポーツ660のキャラクター「オンロードスポーツ寄りの特性で、気軽に乗れる」
お気に入りの上質な服を着てどこかにお出掛けする。気分は上々だ。しかし、日常的にバイクに乗ったり整備したりするような状況では、むしろその上質さに気を遣うことも少なくない。
タイガースポーツ660は上質さを売りにしたマシンではない。しかしだからこそ、気兼ねなく使いやすい。それは着心地のいいワークウエアのような存在と言えるかもしれない。
トライアンフの3気筒エンジンはどれもよくできているのであるが、そのキャラクターはモデルによって結構異なる。たとえばスポーツネイキッドのストリートトリプルやスピードトリプルは、高回転に向けての吹け上がりが気持ちいい4気筒寄りのキャラクター。
一方、アドベンチャーのタイガー900などに搭載されるものは鼓動感やトルクの厚みを味わえる2気筒寄りと言える。
では、このタイガースポーツ660に採用された660cc3気筒エンジンはといえば、4気筒寄りのフィーリングを持ちつつ、2気筒っぽい動力性能。これは限られた排気量の中で最大限欲張りなパフォーマンスを発揮させようとした結果であろう。官能的フィーリングは薄めながら、非常に使い勝手のいいキャラクターに仕上がっている。

タイガースポーツ660は、2021年に発売され好評を博したミドルクラスのネイキッド・トライデント660をプラットフォームとして開発されているが、ベースマシンとは全く異なるスタイリングに生まれ変わっている。
サスペンションストロークを伸ばし、防風効果の高いフェアリングを装着。今流行のアドベンチャーカテゴリー方向へと見事な転身を図っているのであるが、仰々しくなることなく、想像以上にコンパクトである。
装着されるリヤタイヤは180サイズとなかなかにワイド。もっと細くても良いのでは?とも思ったのであるが、ハンドリングに重さはなく、取り回し性も上々。都内の混雑する道路でもひらりひらりと身を翻す軽快さで、しっかりバランスが取られている。
その走りには、いわゆるアドベンチャーらしい緩さはなく、少しサスペンションが長めのロードツーリングマシンといった印象。別に旅に出なくとも、日常の移動手段としても乗れてしまう使い勝手の良さがある。


トライアンフ タイガースポーツ660のエンジン「660という排気量から想像する以上にトルクフル」
エンジンは660ccとは思えないほどトルクフルだが、ベースとなったトライデント660同様、アクセル開け始めにほんの少しギクシャクするパートが存在する。ここがよりスムーズになるとさらにフィーリングは上質なものになると思われるが、これは一度速度が乗った状況からさらに開け増したときのリニアさを重視したためだろう。
それにしても排気量を超えたパワフルさを感じさせる効果を発揮するセッティングである。高速巡航時も力強く、かなりのペースで快走できる。
高回転でもパワフルに回っていくが、むやみに回り過ぎる特性でない点も好印象だ。特にこのマシンには十分過ぎるほどのエンジン性能を備えていると感じられる。
無味無臭感を漂わせるマシンと異なり、退屈になりにくいエンジンフィーリングもいい。

トライアンフ タイガースポーツ660総評「排気量以上、価格以上の魅力がある」
車体の動きに関して上質さはさほど感じられないものの、トライデント660よりもサスペンションのストローク量が増えているため、乗り心地は悪くない。そのうえで操作している手応えが味わいやすい。驚くような旋回性やハンドリングこそないものの、そのおかげで自分のイメージから逸脱しない分かりやすさがある。
道具として使い倒すといった言い方をするのはちょっと失礼かもしれないが、エンジンも含め、そういった気にさせるマシンである。それは112万5000円〜という価格設定によって、より強いメッセージとなっているのは間違いないだろう。しかしそのように思わせるパッケージという点では、実はとても貴重な存在であると言える。
トライデント660同様……いや、それ以上に、日本のライダーに受け入れられるマシンとなりそうな予感である。

「ここが気に入った!」
大きすぎず使い勝手のいい車体と十分パワフルなエンジンのバランス。幅広いシチュエーションに対応するキャラクター。シンプルながら、ライディングモードやトラクションコントロールなどの電子制御も盛り込まれている点。
イージーにアジャストできるウインドスクリーンとリヤサスペンションのイニシャルアジャスターも便利。このパッケージでこの価格。よく頑張りました!
また、このパッケージでフロント19インチ仕様も見てみたい。
「ここが気になる……」
アクセル全閉からの開け始めにちょっとしたギクシャク感が。この点がスムーズになれば上質感は高まるはず。
足まわりをもう少しグレードアップして、グリップヒーター、オートシフター、クルーズコントロールなどがあれば……とは思うものの、価格を考えればスタンダード仕様としてはこれでOK。


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