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YZF-R7のターゲット「250スーパースポーツは物足りないが1000cc超高性能車は……」というユーザー
ヤマハが2022年モデルとして投入するYZF-R7のキャッチコピーは「Fun Master of Super Sport」。日本語で言い換えるなら「スーパースポーツの楽しさを具現化」といったところで、そのコンセプトや考え方は明快だ。
これまでYZF-R25(250cc並列2気筒・35ps)やYZF-R3(320cc並列2気筒・42ps)に乗っていたユーザーのステップアップとして、あるいは久しぶりにスーパースポーツに乗るリターンライダをメインターゲットにしたパフォーマンスを意識している。
要するにYZF-R1(1000cc並列4気筒・200ps)やYZF-R6(600cc並列4気筒・118ps)などバリバリのスーパースポーツでは、スキルも経済力も追いつかない。しかし、YZF-R25やYZF-R3のミドルスポーツではそろそろ物足りない──。そんなユーザーがサーキット走行を中心に、スーパースポーツを楽しむためのちょうど良いバランスを目指したのだ。
それが最高出力73ps/8750rpm、車重188kg、販売価格99万9900円という数字に象徴されていると言ってもいいだろう。
ヤマハ YZF-R7


ヤマハ MT-07(2021モデル)

【写真23点】YZF-R7を写真で解説、MT-07やYZF-R25とも比較!
YZF-R7のデザイン「スーパースポーツらしいスリムさとレーシーなイメージを追求」
YZF-R7のベースはネイキッドモデルのMT-07だ。
エンジンの諸元には全く変更はないが、アシスト&スリッパークラッチが追加装備されている。MT-07系のエンジンでは初となるクイックシフターも純正アクセサリーとして設定されたのはスーパースポーツらしい点だ。
車体はフロント周りを中心に細かく変更を施し、ハンドリングや乗り味をMT-07とは異なるものとしている。外装パーツもスタイリッシュなイメージを狙い、細かい工夫が加えられている。
その結果、MT-07の扱いやすさはそのままに、スーパースポーツのニュアンスやイメージがしっかり実現されているのだ。
特に外観・装備では、スリムさを追求してアルミ製としたアンダーカウルの採用や(*)、量産市販車では世界初となるブレンボの純ラジアルマスターシリンダー、さらにはエアインテークとインテグレートされた巧みなLEDヘッドライト周りのデザインなど、レーシーなパフォーマンスの追求が行われているあたりは、ヤマハのセンスと気合がうかがえる。
*樹脂製では熱の影響を考慮しある程度のマージンが必要だが、アルミ製として排気系とのクリアランスを詰めている。
またがってみると、ライディングポジションもMT-07とスパルタンなスーパースポーツとの中間といった感じで、その外観から受けるイメージよりは鷹揚だ。
寸法的にはMT-07と比べてハンドルグリップは152mm前・174mm下へ、ステップは52mm後ろ・60mm上へセットされ、シート高は30mm上がった835mm。スーパースポーツらしいポジションとなってはいるが、窮屈なイメージはあまり感じられないので、いきなり緊張感を感じることも少ないはずだ。


YZF-R7の速度レンジ「十分に速く、それでいては恐怖感は少ない絶妙な領域」
試乗の場として用意されたクローズドコースへ走り出す。
何しろエンジンはMT-07そのままだから扱いやすい。最高出力もさることながら、6.8kgm/6500rpmの最大トルクがあるから、扱いが難しいようなことは一切ない。ある意味、どのようにでも扱えるし、コーナーの立ち上がりでもたつくようなこともないだろう。だからと言って、物足りないこともない。
恐怖を覚えるような加速感はないが、普通のライダーにとっては必要十分な加速とトップスピードを持っている。
4速で180km/h付近までは引っ張れるし、トップスピードは200km/h超と言ったところか。それがバイクに乗り慣れたライダーにはちょうど良い。
188kgの車重とのバランスも悪くなく、総じてフレンドリーな動力性能だ。しかも、アシスト&スリッパークラッチによってエンジンブレーキの効きも制御されているから、最高速付近からのフルブレーキングも2気筒エンジンとは感じさせないほどスムーズだ。ここでも扱いに神経質になる必要がまったくないのが良い。


YZF-R7の車体「MT-07のフレームを継承するが、剛性バランスやサスペンションを強化」
そしてポイントはMT-07から大きくアップデートされた車体だ。
もともとMT-07のディメンションはヘッドパイプ位置が比較的高く、極論すればロードモデルよりもオフロードモデルに近い。このため、フルバンクして曲がるよりも、前輪のステアで曲がる性格だと言える。このYZF-R7ではその性格を踏まえた上で、車体の細かな変更によってよりサーキット寄りのキャラクターを変えているのだ。
方向性としては、基本的にはフロント周りの軽快感と、車体全体の安定性を向上させるものだ。それをもたらす具体的な要素としては、MT-07からキャスター角を1.1度立て、フロントフォークのオフセットを5mm短縮し、フレーム・スイングアームピボット部周りへのセンターブレース追加とリヤサスペンションのバネレートの強化だ。
結果、前輪分布荷重は49.4%から50.7%に増加し、フレーム剛性は20%向上。その性格をよりスポーツ向き、サーキット向きに変えているのだ。
分かりやすいのはフレームとリヤ周りの剛性感の向上だろう。これはサーキット走行などによる高荷重を受け止めるための施作だが、これによってMT-07以上に走行中の安定感を感じることができる。また、フロントに倒立フォークを採用したこともあって、フルブレーキグ時の安定感もなかなかのものだ。
逆に、フロント周りに荷重をかけることでコーナーリングしていくスパルタンなスーパースポーツのようなタイプではないので、そのつもりで操作すると「思うより曲がらない」とか「思うよりバンクしない」と感じることもあるかもしれない。実のところ、ハンドリングの性格は安定指向と言えるもので、決してクイックとかシャープというものではないからだ。
それ故に、スーパースポーツを全開で攻める時のような「緊張感」や「恐怖」とは無縁であり、MT-07のパワーを存分に使ってワイドオープンの走りが楽しめる。
この辺りはMT-07の基本特性が良くも悪くも影響しているし、よく言えばYZF-R7が狙ったユーザーに対する扱いやすさ・安心感ということになり、悪く言えば車体剛性が(動力性能に対し)少々高い、と言ったところだろうか。




YZF-R7総評「小排気量の入門向けと超高性能なスーパースポーツは他にあるが、その間は意外になかった」

クローズドコースで行われたYZF-R7の試乗では、国際ライセンス(元・国際A級)ライダーなど上級者はいとも容易にフルバンクさせていたが、筆者のような中級レベルだと思ったようにフルバンクさせることが少々難しかった。この辺りはYZF-R7との付き合いを深めていけば解消できるはずだと思うし、あるいはサスペンションを煮詰められれば、もう少しシャープなハンドリングが手に入るかもしれない。
とはいえ、その領域を追求していくのであればスパルタンなスーパースポーツがあるわけで(ヤマハ車以外にも)、YZF-R7はサーキットでのスポーツ走行入門からファンライドを楽しむためには非常にバランスよくまとまったパッケージに仕上がっている。
何しろその内容と価格を考えれば、YZF-R7はバーゲンプライスのスーパースポーツ入門バイクと言っても良いだろう。
ヤマハ YZF-R7主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:80.0mm×68.6mm 総排気量:688cc 最高出力:54kW<73ps>/8750rpm 最大トルク:67Nm<6.8kgm>/6500rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2070 全幅:705 全高:1160 ホイールベース:1395 シート高:835(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:188kg 燃料タンク容量:13L
[車体色]
ディープパープリッシュブルーメタリックC、ヤマハブラック
[価格 ]
99万9900円

車体色はヤマハブラック(右)とディープパープリッシュブルーメタリックC(中央)の2色のラインアップだが、WGP参戦60周年を記念して1980年のYZR500(0W48)をモチーフとした「60th Anniverary」(左)も限定400台で販売される。
ヤマハ YZF-R7の足着き、ライディングポジションや装備を解説1
2ヤマハ「カスタマー コミュニケーション センター」TEL:0120-090-819
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/lineup/yzf-r7/
取材協力●クシタニ