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新型=3代目グロムのフレーム「カスタムの可能性を拡大」
2021年のフルモデルチェンジで3代目となったホンダ グロム。
最新の環境規制をクリアし、ミッションを5速とした新エンジンはもちろん大きなトピックだが、そのエンジンを搭載する車体も大幅に手が入れられている。
メインフレームは従来型のものをベースとしながらも、ヘッドパイプ周り以外は手直しが行われているのだ。
新たにサブフレームがボルトオン化されると同時に、新しいエンジンのマウント位置変更に合わせてスイングアームピボット周りを刷新。寸法的には同じようでも、従来型とは「似て非なる」フレームとなっている。
見た目がそれほど変わるわけではなく、それでいてコストのかかる分割式フレームを採用したのには理由がある。それは「日本を含め、世界的にグロムをカスタムする熱狂的なファンが多いから」というもの。
リヤ部分を大幅に変更する際は、リヤフレームがボルトオン化されていたほうがやりやすい。
開発チームは「もっとカスタムも気軽に楽しんでほしい」という思いから、手間がかかることを承知で分割式フレームを選択したのだ。
グロムはホンダの伝統を受け継いだ「ミニバイクの王道」
前後のサスペンションユニットについても従来型から変更がないように見えるが、じつは新たにダンパー設定を変えており、ハンドリングをより軽快な方向に振っている。
足まわりも寸法こそ変わらないが、ホイールやフロントブレーキディスクのデザインを一新。フロントブレーキにはABSが採用された。
そしてシート形状の変更(シート高は761mmで、従来型760mmから1mmしか変わっていない)と、外装パーツデザインの変更、さらにはメーターパネルやヘッドライト周りも新しくなり、結果的にサスペンションの外殻とタイヤ以外は全部変わっているのである。
では、環境規制クリアのため新設計する必要があったエンジン以外に、なぜここまで多岐に渡る変更をかけてグロムはモデルチェンジしたのだろうか?
3代目グロムのLPL(開発リーダー)を務めた藤山 孝太郎さんと、3代目グロムのLPL代行(走行テストのまとめ)を務めた谷田典雅さんは次のように語る。
藤山 孝太郎さん
本田技研工業 二輪事業本部ものづくりセンター 完成車開発部 完成車統括課 アシスタント チーフエンジニア
2005年入社。CBR250Rなど小型MC機種開発業務に携わる。
2011年から主にアセアン向けモデルの車体設計を担当し、タイ駐在時は、ズーマーX、スクーピーなどをLPLとして取りまとめる。
2017年に帰国し、PCXやフォルツァなどスクーターの車体設計開発業務に携わる。
2019年からグロムなど小型のグロ ーバルモデルのLPLを務める。
谷田典雅さん
本田技研工業 二輪事業本部ものづくりセンター 完成車開発部・完成車研究課 アシスタント チーフエンジニア
2005年入社。エンジン研究でレース用ATVエンジンの開発、2008年に大型グループへ移動しNC700のエンジン開発、2011年にカブ系エンジンの開発(ウェーブ110/125、グロム、ブラジルカブなど)を担当。
2018年にはLPL代行Grに移動し、スーパーカブ、ウェーブ110、 グロムでLPL代行を務める。
「個人的には、小型モデルとして実用性ばかりを意識したバイクではなく、親しみやすさや楽しさを持ったバイクを作りたかったのです。そもそも初代グロムには小径12インチで遊べるバイクをお客様にお届けしたいという考えがありました。
過去のエイプやXR系も同じようなサイズ感で遊べるバイクでしたから、そういったホンダの持つプレイバイクの伝統は意識したかも知れません。もっとも私自身は常にカテゴリーにとらわわれず、面白いバイクを作っていきたいと考えております」(藤山さん)
「私自身、昔はNSやエイプでミニバイクレースに出場していたので、12インチの新しいモデルが欲しかったと言う思いが根本にありました」(谷田さん)
LPL代行の谷田さんは、初代グロムからミニバイクレース(グロムカップや耐久レース)に参戦しており、そこで自分や周りのお客様が感じたインプレッションや意見を開発にフィードバックした。
「例えばレースで言えば『シートはフラットな方が体重移動は楽だよね』『4速ミッションだとコーナーでギヤレシオが合わない場合があるよね』といった意見があり、それを新型の開発に織り込んで形にして行ったのです。
今回のモデルチェンジには、自分の想いが詰まっていますし、お客様の想いも十分に反映できたと思っています。5速ミッションによるローレシオ化は初心者でも発進しやすく、どのギヤからも加速できるように、操る楽しさを重視しての採用としました」(谷田さん)
このように、「遊べる」バイクとしての新型グロムの性能は、机上の言葉や形だけではなく、開発メンバーのリアルな想いや経験から生まれているというわけで、これ以上の説得材料はないだろう。
ちなみに、従来型の2代目グロムはタイホンダでの開発で、現地ユーザーのステップアップモデルとして、上級クラスのスポーツモデルをイメージさせるデザインを採用したのだという。
では、なぜ新型=3代目ではそれまでとはまったく毛色の違うデザインパッケージとしたのだろうか?
「今回は日本主導の開発(生産はタイ)だったこともあり、大型車の縮小版のような存在ではなく、 グロムそのものが持つオリジンを意識したのです。言ってみれば先祖返りのようなものでしょうか。 12インチのミニバイクであってもしっかり走り、カスタマイズも楽しみやすい。これによって若いお客様に関心を持っていただき、少しでも『バイクは楽しい乗り物なんだ』という意識が広がってくれればと考えたのです」(藤山さん)
その心は60年代のモンキーに始まり、いわゆるレジャーバイクと呼ばれた数々のホンダ製ミニバイクの持つスピリッツのようなものではないだろうか。
小さいサイズでもあなどれない楽しさやユニークな商品パッケージングを、その時代ごとの技術や発想で実現することがその真価であったし、やがては12インチのスポーツモデルへと進化した。
グロムはまさにその伝統を受け継いだ「最新型のレジャーバイク」であり、12インチスポーツバイクでもあるのだ。
従来型からの性能向上や乗り味の違いは、乗った瞬間に誰もが感じられるほど明らかであり、多くの部品を新設計した事によるフルモデルチェンジのインパクトは大きい。
それでいて価格は3万円弱の上昇だから、これはバリューがあると言っていい。実はコストもかなり熟慮したようで、その力の抜き差しや作り込みの妙が、この価格に現れている。この点も評価されるべきだろう。
3代目グロムと2代目グロムの装備・細部を比較
新型=3代目グロム主要諸元
[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクル単気筒OHC2バルブ ボア・ストローク:50.0mm×63.1mm 総排気量:123cc 最高出力:7.4kW<10ps>/7250rpm 最大トルク:11Nm<1.1kgm>/5500rpm 変速機:5段リターン
[寸法・重量]
全長:1760 全幅:720 全高:1015 ホイールベース:1200 シート高761(各mm) タイヤサイズ:F120/70−12 R130/70−12 車両重量:102kg
燃料タンク容量:6L
[車体色]
フォースシルバーメタリック、マットガンパウダーブラックメタリック
[価格]
38万5000円
レポート●関谷守正 写真●柴田直行/ホンダ 編集●上野茂岐