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小排気量のレジャーバイクといえばホンダ!
小排気量でも楽しさに満ちた 「レジャーバイク」。
かつては各メーカーが個性的なモデルをラインアップしていたが、昨今ではホンダの独壇場になりつつあるというのが現状だ。
なぜホンダは、レジャーバイクの血統を絶やさずにいるのか?
このカテゴリーの未来はどう進化していくのか?
レジャーバイクの最先端モデルであるグロムの開発者に聞いた。
3代目グロムのLPL(開発リーダー)を務めた藤山 孝太郎さん

本田技研工業 二輪事業本部ものづくりセンター 完成車開発部 完成車統括課 アシスタント チーフエンジニア
2005年入社。CBR250Rなど小型MC機種開発業務に携わる。
2011年から主にアセアン向けモデルの車体設計を担当し、タイ駐在時は、ズーマーX、スクーピーなどをLPLとして取りまとめる。
2017年に帰国し、PCXやフォルツァなどスクーターの車体設計開発業務に携わる。
2019年からグロムなど小型のグロ ーバルモデルのLPLを務める。
3代目グロムのLPL代行を務めた谷田典雅さん

本田技研工業 二輪事業本部ものづくりセンター 完成車開発部・完成車研究課 アシスタント チーフエンジニア
2005年入社。エンジン研究でレース用ATVエンジンの開発、2008年に大型グループへ移動しNC700のエンジン開発、2011年にカブ系エンジンの開発(ウェーブ110/125、グロム、ブラジルカブなど)を担当。
2018年にはLPL代行Grに移動し、スーパーカブ、ウェーブ110、 グロムでLPL代行を務める。
新型=3代目グロムのコンセプトは「操る楽しさ、所有する楽しさ」


2021年のフルモデルチェンジで3代目となったホンダ グロムは「操る楽しさ」と「所有する楽しさ」をテーマに、従来はタイホンダ生産のウェーブ125iベースだったエンジンを完全な新設計とし、あわせて車体関係も一新している。
これまで、2013年登場の初代と2016年登場の2代目は、もっぱら中高年のセカンドバイクとして、 あるいはリターンライダーの復活に手軽な存在として支持され、日本国内では初代・2代目あわせて累計約2万8000台を販売。
新興国での需要拡大も踏まえ、2代目では上級クラスのスポーツモデルのスタイリングイメージが投影されていた。
だが、今度の3代目はこれに加えて、より若者やエントリーユーザーを意識して、カスタマイズも考慮。
つまり、従来とは異なったコンセプトが与えられているのだ。 その方向性について開発を担当したLPL代行(走行テストのまとめ)の谷田典雅さんは、次のように解説する。
「今回新たに採用した5速ミッション、軽量化、自由度のあるポジションが『操る楽しさ』を、ボルトオンのサブフレームや取り外しやすいサイドシェルやサイドカバーが『所有する楽しさ』を象徴するフィーチャーとなっています」
初代グロム(2013年登場)

「ジャストサイズ&魅せるスペック」を開発コンセプトに、扱いやすいサイズでありながら、大型スポーツ車のような本格装備という構成で登場した初代グロム。若い世代もターゲットに含まれていたが、日本ではセカンドバイク需要にマッチし、一躍人気を博した。
2代目グロム(2016年登場)

一大市場を築いたタイで開発された2代目。エンジン・フレームは初代から受け継いだものを使用するが、大型スポーツネイキッドのようなアグレッシブでエッジの効いたデザインとなった。
ホンダの次世代125ccクラスを担う新設計エンジン
エンジンは従来のもの(初代〜2代目のエンジンは基本的に同様)よりもロングストローク化(52.4mm×57.9mm→50.0mm×63.1mm)すると同時に、高圧縮化(9.3→10.0)を図って特性を変えている。
また、オフセットシリンダーやローラーロッカーアームなども採用した。
これに5速トランスミッションを組み合わせたことで、エンジンサイズも軸レイアウトも一新されている。LPL(開発リーダー)を務めた藤山孝太郎さんによると、楽しさと環境対応を両立させたのが今回の新エンジンなのだという。
「出力、燃費、排ガス規制対応の要素のバランスを見極めた結果が、今回のロングストローク化と高圧縮比化なのです。特に排ガス規制への対応は、新たにユーロ5と OBD2(*)の両方をクリアする新しいエンジンとなっています。作り込みにはなかなか苦労しました」

*編集部註:OBD2とは排出ガス低減対策のために世界的に導入が進められているより高機能な車載式故障診断装置のことで、排出ガス値が異常レベルを超える可能性がある場合に運転者に知らせるほか、故障時の情報をシステム内に保存する。排出ガス規制のユーロ5とともに二輪車への適用が進められている。日本の二輪車では道路運送車両の保安基準改正で新型車は令和2年12月から適用、原付一種への適用は現状保留されている。
3代目グロムのエンジンは「空冷で最新排出ガス規制をクリア、燃費も向上」
空冷の小排気量エンジンで、年々厳しくなる現代の排ガス規制をクリアするのは簡単なことではない。しかし、あえてここで空冷小排気量エンジンを完全な新設計にしたことには理由がある。
今後登場するホンダの125ccクラスのグローバルモデルでは、まず3代目グロムに搭載されたこの新エンジンがベースとなるからだ。
「その意味もあって、実用的な低燃費の確立と排ガス規制対応に注力したエンジンに仕上がっています。熱的に厳しい空冷エンジンですから、シリンダーのフィン形状にも計算をベースに細かな形状調整を行なったものを採用していますし、出力を含めた全体のバランスを考えて吸気系ではエアクリーナーボックスの形状も徹底的に作り込みました」(藤山さん)
そもそもホイール径が12インチのミニバイクの車体サイズで、ある程度のボリュームがあり、スムーズな吸気を促す形状のエアクリーナーボックスを組み込むのは容易ではない。
もちろん、コンピューターによる解析計算も用いているが、開発当初は手作りでエアクリーナーボックスをいくつも作って、その走行フィーリングを検討していったそうだ。
新型=3代目グロムのエンジン


従来型=2代目グロムのエンジン


また、軽さという点では、車重は2代目に比べて2kgほど軽く仕上がっている。この軽量化の大きな部分は、エンジンの作り込みと、排気系のマフラーボディを一新したのが効いている。
軽さは、「走り」だけではなく「燃費」にも影響する重要なポイントだ。
「サイレンサーの内部構造を3室から2室へ変えました。それまで車体下にレイアウトされていた副膨張室をなくし、排気系の最適化と軽量化を両立しました」(藤山さん)
これらの結果、新型の最高出力は従来型:9.8馬力/7000回転→新型:10馬力/7250回転、最大トルクは従来型:1.1kgm/5250回転→新型:1.1kgm/5500回転へと、0.2馬力の出力向上と250回転の高回転化を実現した。
これに従来の4速よりもクロスレシオ設定になる5速のトランスミッションを組み合わせたことで、加速感やエンジン回転の軽快感、スロットルレスポンスを向上すると同時に、エンジンパワーを効率的に伝達させているのだ。
新エンジンを搭載する車体もまた、従来型から大幅に手が入れられている。
極論、2代目と3代目とでは、サスペンションの外殻とタイヤ以外は全部異なっていると言ってもいいのだ。
そこまで改良を追求したのには理由があった。プライベートでミニバイクレース(グロムカップや耐久レース)に参戦していたLPL代行・谷田さんの思いや経験がフィードバックされていたのだ──。
【車体編】へ続く
新型=3代目グロム主要諸元
[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクル単気筒OHC2バルブ ボア・ストローク:50.0mm×63.1mm 総排気量:123cc 最高出力:7.4kW<10ps>/7250rpm 最大トルク:11Nm<1.1kgm>/5500rpm 変速機:5段リターン
[寸法・重量]
全長:1760 全幅:720 全高:1015 ホイールベース:1200 シート高761(各mm) タイヤサイズ:F120/70−12 R130/70−12 車両重量:102kg
燃料タンク容量:6L
[車体色]
フォースシルバーメタリック、マットガンパウダーブラックメタリック
[価格]
38万5000円


レポート●関谷守正 写真●柴田直行/ホンダ 編集●上野茂岐
*タイトル写真のLPL代行・谷田さんがまたがっている赤いグロムは海外専用カラーです。
追記2021年10月9日:ODB2とあるのはOBD2の誤りでした。訂正を行いました。
付録「ホンダ レジャーバイクの系譜をほんの一例紹介」1
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