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ドゥカティSSシリーズの歴史
1973年より続くドゥカティ伝統の車名「SS」=スーパースポーツ。
一時モデルの系譜に空白期間があったものの、2017年に「SS」は復活。その最新型が2021年5月に登場した。
近年「スーパースポーツ」という言葉は、サーキットやワインディングを主戦場とする600ccや1000ccの超高性能スポーツ車に対するカテゴリー名として使われるが、ドゥカティの場合、それに該当するカテゴリー名として「スーパーバイク」という呼び名が使われている(今日の車種で言えば「パニガーレ」シリーズ)。
では、ドゥカティにおける「スーパースポーツ」はどのようなモデルなのか、まずはその歴史を紐解いてみよう。
ドゥカティ「SS」の系譜は、1973年〜1982年の第1世代、1989年〜1997年の第2世代、1998年〜2006年の第3世代、そして2017年以降の第4世代に分類できる。
ただし、同じ車名「スーパースポーツ」を使っていても、第3世代は数字の前に「SS」が配され、第4世代の最初は「スーパースポーツ」そのものが車名となった。
ドゥカティSS第1世代
まず第1世代を説明すると、「ベベル系」と呼ばれる初代750SS、900SSは当時のドゥカティのフラッグシップモデルであると同時に、レース用ホモロゲーションモデルだった。いわば現代における「パニガーレ」に相当する存在だったのだが……。
ドゥカティSS第2世代
一方、1989年から発売された第2世代のSSは、サーキットの速さではなく日常的な速度域におけるスポーツライディングの楽しさを追求した。
その背景には、同時期に「スーパーバイク」系の原点となる851がデビューした、という事情があったものの、当時のドゥカティは自社の看板であるスポーツバイクを、レース志向とストリート志向の2系統に分離することで、ユーザー層の拡大を画策していたのだ。
ドゥカティSS第3世代
そしてその姿勢は、第2世代の基本構成を踏襲しながら、大幅な刷新を行った1998年以降の第3世代にも受け継がれていく。
もっともこのころになると、公道をスポーティに楽しめるモデルとしてネイキッドのモンスターM900、スポーツツアラーのST2をデビューさせていたからだろうか、SSの存在感は希薄となっていく。
2003年には排気量を拡大したSS1000DSが登場するものの、2006年にはSSシリーズはいったん終焉を迎えることになったのである。
ドゥカティSS第4世代
とはいえ、851から端を発し、888、916……1098、1198、そして「パニガーレ」へと至るスーパーバイク系があまりに高性能かつ高価格になりすぎたためか、近年のドゥカティには日常的に乗れ、公道で誰もが楽しめるSSシリーズの復活を希望する声が世界中から届いていたのだろう。
そうした要望に応えるごとく、スーパーバイク系の技術を活用しつつ開発されたのが2017年から登場した第4世代のSSである。
その第4世代「スーパースポーツ」が2021年型でモデルチェンジ、日本では5月29日から発売が開始されている。
ここからは、日常での使い勝手や、公道での走る楽しみに磨きをかけ、さらに万能性が高められた新型スーパースポーツについて紹介していこう。
新型ドゥカティ スーパースポーツ950のコンセプト
車名後半に数字が付き「スーパースポーツ950」へと名前も一新した新型「SS」だが、モデルチェンジ前と同様に、同車のコンセプトやターゲットは明確だ。
セパレートハンドルではあるがハンドル位置は極端に低いわけではなく、ライディングポジションの前傾もキツいものではない。
通勤などの日常的にも乗ることができ、サーキット走行会なども楽しめ、ツーリングもできる万能性を持ったモデルで、若いライダーが最初に選ぶドゥカティのスポーツバイクとしても最適──という位置づけとなっている。
スーパースポーツ950ではより多くのユーザーに安心してライディングを楽しんでもらうため、最新の電子制御技術を投入。
従来型も出力特性の切り替え、ABS、トラクションコントロールは備えていたが、新型はボッシュ製の6軸慣性測定ユニットを搭載し、バンク角も制御にフィードバックするABS、トラクションコントロール、ウイリーコントロールが新たな機能として盛り込まれた。
また、従来型では上級仕様の「S」のみ標準装備だったクイックシフターは全車標準装備となったほか、より滑らかな作動感に改良されている。
クイックシフターというとサーキットでタイムを縮めるための機構と思う人もいるかもしれないが、クラッチ操作が省略されることでツーリング時などにおける疲労軽減→快適な走りにも貢献する装備でもある。
なお各種電子制御は「スポーツ」「ツーリング」「アーバン」の3種が選択できるライディングモードによって自動にレベルが設定されるが(出力も「スポーツ」「ツーリング」はフルパワー、「アーバン」はローパワーになる)、各作動レベルをライダーの好みで調整することもできる。
ドゥカティ スーパースポーツ950のデザイン
全体のデザインは従来型からのキープコンセプトと言えるかもしれないが、大きく変わった点がふたつ。
まずヘッドライトのデザインが、ダクト状パーツの奥にライトが設けられる「パニガーレ」シリーズの流れを汲んだものに。ヘッドライト上部にはV字型のデイタイムランニングライトが配置されるが、これも注目だ。
従来型にもデイタイムランニングライトが装備されていたが、当時、日本では二輪車のデイタイムランニングライトが認可されていなかったので機能せず……。2020年9月に認可が下りたことにより、本来のデザインを日本のライダーも楽しめることとなった。
もう1点が新設計となったカウル形状の変化。
アンダーカウルが大型化したのは視覚的にわかりやすい部分だが、サイドのスリットやコックピットまわりの変化がポイント。
新形状のスリットにより走行風を活用した排熱がスムーズとなったほか、フロントのダクトから取り入れたフレッシュエアをライダーの足もとへ送る導風も行う。
コックピットまわりでは、メーターパネル周囲からタンク、サイドカウルまでをフルカバードし、ライダーにより上質な視界を与えてくれるデザインとなった。
エンジン・車体は従来型をベースに熟成
エンジンは従来型から継承の「テスタストレッタ11°」とドゥカティが呼ぶ937ccの水冷L型2気筒で、ムルティストラーダ950、ハイパーモタード950、モンスターなどにも搭載される定評あるエンジンだ。
これを欧州の最新の環境規制「ユーロ5」に適応させつつ、最高出力110ps/9000rpm、最大トルク9.5kgm/6500rpmというスペックで、3500rpmで最大トルクの約80%を、5000〜9000rpmで最大トルクの約90%を発揮。低〜中回転から非常に力強く、日常域・公道で扱いやすい特性となっている。
ライド・バイ・ワイヤ=電子制御スロットルも採用され、リニアな特性となったのは新型ならではの特徴だ(従来型にあった「極わずかなトルクの谷」などの解消が行われたという)。
またギヤボックスも改良され、ニュートラルにしっかりと入りやすく、より正確なギヤの噛み合いが実現されている。
エンジンを剛性メンバーの一部とするトレリスフレーム+片持ちスイングアームといった車体構成も従来型から継承されるが、足まわりはグレードによって異なる。
上級仕様の「S」はオーリンズ製のインナーチューブ径48mmフォーク(TiNコーティング仕上げ)とリザーバータンク一体型オーリンズ製リヤショックという組み合わせ。
スタンダードはマルゾッキ製のインナーチューブ径43mmフォークとザックス製リヤショックという組み合わせ。
フロント320mmダブルディスク+ブレンボ製M4-32モノブロックラジアルマウントキャリパー、リヤ245mmシングルディスク+ブレンボ製2ピストンキャリパーというブレーキシステムは「S」/スタンダードともに共通だ。
なお車体色は、「S」はレッドとホワイトの2カラーがラインアップされ、スタンダードはレッド1色のみ。
ホイールは「S」/スタンダードともに共通で、Y字スポークの新デザインとなっているが、「S」は「レッドタグ」と呼ばれる赤いワンポイントの装飾が施されたものとなる。
上級仕様「スーパースポーツ950S」
スタンダード「スーパースポーツ950」
ドゥカティ スーパースポーツ950の実用性・機能性
メーターは4.3インチのフルカラー液晶に。直感的に項目や操作メニューがわかりやすい表示となっている。
スクリーンは従来型同様、ハイ/ロー2段階に調整可能だ(ハイポジションはローポジションより50mmアップする)。
ドゥカティ スーパースポーツ950主要諸元
[エンジン・性能]種類:水冷4サイクルL型2気筒DOHCC4バルブ ボア・ストローク:94.0mm×67.5mm 総排気量:937cc 最高出力:81kW<110ps>/9000rpm 最大トルク:93.0Nm<9.5kgm>/6500rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]全長:── 全幅:── 全高:── ホイールベース:1478 シート高810(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:210kg 燃料タンク容量:16L
[価格]
スーパースポーツ950(レッド):175万円
スーパースポーツ950S(レッド):189万9000円
スーパースポーツ950S(ホワイト):192万9000円
レポート●上野茂岐/中村友彦(「ドゥカティSSの歴史」) 写真●ドゥカティ/八重洲出版 編集●上野茂岐
ドゥカティジャパン
http://www.ducati.co.jp