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2021年4月21日追記:アダム・チャイルドさんの試乗動画を追加しました。
フルモデルチェンジが行われ、3代目となったスズキ ハヤブサの販売が日本を含む世界各国で始まった。
「世界最速」という称号とともに多くのライダーの心を鷲掴みにしてきたハヤブサだが、各国のファンから「新型は環境規制で牙を抜かれたのでは?」という視線にもさらされている。
では、実際走らせてみるとどうなのか──イギリス人ジャーナリストで、マン島TTにも参戦するレーサーでもあるアダム・チャイルド氏から早速試乗レポートが届いた!
自身もハヤブサファンのひとりということで、かなり熱量&ボリュームある記事となっているが、ぜひ最後まで目を通してほしい。
1999年、初代ハヤブサの衝撃をリアルタイムで体感
スズキから初代ハヤブサが発売された1999年。
23歳だった私はバイクジャーナリストとしてスタートしたばかりで、まだ髪の毛があって、腹も出ていなくて、住宅ローンも抱えていなかった。だから、いち早くハヤブサを手に入れたいと思ったし、実際手に入れてからは、自分のためだけにハヤブサの走りを楽しむことができた。
初代ハヤブサは期待を裏切らず、速かった。
アナログ式のスピードメーターが時速200マイル(約320km/h)を超えたのを覚えている。その加速力でレーシングスーツ引き裂かれそうになったのも覚えている。
それからの数ヵ月間、仲間に会うたび「時速200マイル出るハヤブサ」について始終話をしていた気がする(当時はSNSなんてものがなかったので実際に話し合っていたわけだが)。
そう、1999年、スズキのハヤブサはスポーツバイクのジャンルに一石を投じ、ルールブックを破り、他の「いわゆる速いバイク」の顔に砂をぶっかけたのである。
ヤマハのYZF-R1のような従来のスポーツバイクはワインディングロードやサーキットを主戦場としていたのに対し、ハヤブサは「直線」で圧倒的な力を見せつけたのだ。
実際、最高出力にしても当時のYZF-R1より30馬力高い数値を誇っていた。
新型=3代目ハヤブサはユーロ5適合で弱体化した?
しかし、時代は変わった。
2021年現在、スズキのハヤブサはユーロ5という最新の厳しい環境規制に対応するため、最高出力と最大トルクが従来型より低下してしまった。
また、1999年当時には想像もできなかった200馬力を超えるネイキッドバイクも昨今登場している。たとえば、ドゥカティのストリートファイターV4のような。
この新型ハヤブサに乗る前、私はひそかに「ハヤブサ伝説」には終わりが来たのではないか、このモデルチェンジは色々とこねくり回し過ぎたのではないか……と思っていた。
200馬力のバイクが珍しくなくなった今、スーパースポーツよりも重厚長大なハヤブサにまだ市場があるのだろうか。それとも、トラクションコントロールなど性能を制限するデバイスが入る前、排ガス規制の前のモデルを老人ホームで懐かしむしかないのだろうか、と。
しかし……私の先入観が間違っていたことを真っ先にお伝えしたい。
ハヤブサは今も昔も変わらず、いや、むしろ以前よりも良くなっていて、内臓を背骨に押し付けるほどの勢いで加速していくではないか。
新型ハヤブサの心臓部は、排気量は従来型同様1340ccのままで、鋭い観察眼をお持ちの方なら、カタログスペックでは性能が低下していることに気付くだろう。
ピークパワーは2代目:145kW(197馬力)/9500rpmから、新型:140kW(190馬力)/9700rpmに。またピークトルクも2代目:155Nm(15.8kgm)/7200rpmから新型:150Nm(15.2kgm)/7000rpmへと低下している。
しかし、これらの数値が新型ハヤブサのすべてを物語っているわけではない。
スズキは中速域を大幅に強化し、より鋭い加速を実現して、公道での「実走行性能」を向上させたのだ。
また、心配しなくても、新型ハヤブサの最高速は時速186マイル=299km/hのスピードリミッターを軽々と超える実力を持っている。
新型ハヤブサの開発にあたり、スズキがターボを付けたり、排気量を拡大するなどして、200馬力を超えなかったことには正直少し失望した。が、そうしなかった理由もわかる。ただでさえスピードリミッターを簡単に超えてしまうのに、さらにピークパワーの高いバイクを作る必要があるのだろうか?
バーのマスターが閉店時間を知らせるのを聞いて、そこから6杯のビールをさらに注文するようなもので、ただの浪費だ。
新型ハヤブサのエンジンは中速域を強化、加速感は従来以上だ
そのかわりに中速域が強化された新型ハヤブサは、従来型=2代目と比較して、0-100km/hで0.2秒、0-200mで0.1秒速くなったと発表されている。
ボアストロークも不変で、一見するとエンジンは大きく変わっていないように思える。
しかし、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、カム、トランスミッションなど内部構造は大幅に改良が施され、アシスト&スリッパークラッチも搭載されている。
これらの変更はユーロ5に対応するために行われたものだが、ハヤブサの特徴のひとつである耐久性の高さを(1999年の初代発売当初から信頼性の高さには定評があった)、オイルフローの改善などでさらに向上させる狙いも含まれている。
新型ハヤブサに乗り込んで数kmも走らないうちに、笑みが浮かんでいた。
「やっぱりブサは凄い」
5速、6速での中速域の加速は素晴らしいが、勇気を出して2速、3速に落としてみる。時速40マイル(64km/h)から一気に飛び出し「超音速」とも言える加速感──内臓が揺れるほどの勢いで前に突き進む。
そう、まだ持っている。まだ馬鹿げた興奮がある。
通常のスーパースポーツでは、パワーを使い切るのに苦労する。
体重を前に移動させてフロントエンドを抑え、電子制御装置とウイング類がもたらす空力に頼って事態を収拾しようとするわけだが、新型ハヤブサは「昔ながらのやり方」だ。
重量配分は50:50とされているが、新型ハヤブサは比較的ソフトなKYB製リヤショックでやや沈み込み、専用チューニングされたブリヂストン・バトラックス・ハイパースポーツS22がロングホイールベースと相まって驚異的なメカニカルグリップを発揮し、とんでもないスピードで前進していく。
時速100マイル(160km/h)まで5秒強、150mph(240km/h)まで11秒前後──何度もこの加速感を味わいたくて、標準装備のクイックシフターを操作するのがやめられなかった。
ハヤブサに乗ってスピードを出さないようにするのは難しいのです、嗚呼、お巡りさん……。
しかし、この新型ハヤブサは、ドラッグレースをしたり、夜の高速道路でほかのバイクをやっつけるために設計されたのではなく、実用的な側面もある。
通常の走行環境では、使い勝手がよく、フレンドリーなモーターサイクルと言ってもいいだろう。
スズキは最新の電子制御機構を新型ハヤブサに投入、新たに6軸IMUを搭載して各種電子制御にフィードバックさせている。
初期設定のライディングモードは3つありモードのうち、ソフトなモードでは、パワーとトルクが顕著に抑制され、フルパワーモードと比較するとかなりおとなしく感じられるようになっている。
加えて、クイックシフターの作動感も滑らかなものに変更され、あのハヤブサを「普通に」乗ることができるのだ。
電子制御で誰もがハヤブサをコントロールできるという凄さ
以前はライダーがパワーをコントロールするしかなかったが、今は賢い電子機器がそれを代行してくれる。
これだけのトルクを持つバイクに電子制御が必要ないと考えるライダーは、私の意見ではおそらく間違っていると思う。
特にハヤブサの場合、電子制御がもたらす恩恵は大きい。
初代ハヤブサのタイヤは今にして思えば貧弱なゴムだったため、簡単にリヤタイヤは溶けてしまったし、ウエット路面で速く走らせるにはスロットルを極めて正確に操作する必要があったが、2021年の今は違う。
初代ハヤブサに乗っているライダーが考えたり操作しなければならないことの多くを、巧みな電子制御が処理してくれるのだ。
6軸IMUの搭載によって、主だったところで言えばバンク角連動ABS、トラクションコントロール、ウイリーコントロール、エンジンブレーキコントロールが機能し、エンジン性能を変化させる3つのパワーモードも備えている。
さらに、回転数を4000rpm、6000rpm、8000rpmのいずれかで設定できるローンチコントロールにクイックシフターもあるので、誰もが簡単かつ安全に(そして「素早く」)新型ハヤブサをスタートさせることができる。
ライディングモードはあらかじめ設定された3つのモードと、自分で各種電子制御のパラメータを設定して記憶させておける3つのモード、合計6つのモードから選択できる。
3つのプリセットモードは、フルパワーで電子制御機構を最小限とするものから、パワーを抑えて電子制御機構を最大限活用するもの、その真ん中というもの。
パーソナルセッティングは、走り方や場所に合わせて設定したいときに重宝するだろう。たとえば、フルパワーで電子制御をなるべく使わないモードとしたい(ただしABSは解除できない)フーリガン的な人もいれば、フルパワーは好きだけど流石に恐いのでトラクションコントロールとアンチウイリーは最大限に効かせておきたいという人もいるだろう。
なお一度保存したパーソナルセッティングは、イグニッションをオフにしても保存される。
これらの機能のステータスは、昔ながらのアナログ式スピードメーターとレブカウンターの間にある液晶モニターにわかりやすく表示され(余談だがスズキが伝統的な文字盤を維持していることを個人的には称賛したい)、操作もシンプルだ。
昨今の新しいバイクと同様、スイッチ類やモードの理解には少し慣れが必要だが、マニュアルを読まなくてもその日のライディングが終わるころには理解できるようになっていた。
最新の電子制御がもたらすもうひとつの歓迎すべき点は、その本質的な「滑らかさ」だ。
アンチウイリーが作動しても、誰かに点火プラグを抜かれたような感覚はない。ABSも過度に押し付けがましくなく、ハイスピードテストを行った滑走路で時速180マイル(約290km/h)以上に達したとき、目の前のアスファルトが足りなくなりかけたのだが……非常にありがたい助けとなってくれた。
とにかく、わずらわしい感じが無いのだ。
世の中には電子制御を好まない人がいるのも知っている。
滑走路のハイスピードテストでは、新型ハヤブサのワイルドな部分を自由に探索するため、私も電子制御を解除したのは確かだ。
しかし、従来型や初代、特に初代ハヤブサでは、疲れていたり、雨の中を走っていたりすると、集中力が落ちたときに危うい場面があったのを思い出すと、普通に走るのであれば間違いなく電子制御があった方がいいだろう。
ハヤブサの弱点「ブレーキ性能」は見事に克服された
ハヤブサの弱点は常にブレーキだった。
2代目となった際にブレーキをトキコ製からブレンボ製にアップグレードしABSが装備されたが、最高のものとは言えなかった。
比較的重量のあるバイクで、ロングホイールベースで、強大なパワー……その組み合わせはブレーキに常に負担を与えていた。
スズキはこの問題を解決するために、最新かつ最高峰のブレンボ製キャリパー「スタイルマ」、従来型より大きい320mmディスク、そして電子制御でバンク角なども検知して作動するコーナリングABSを導入。
また、ブレーキは前後連動機能も付いている(ただし後-前には連動しない)。さらに、3段階のレベルが選べるエンジンブレーキシステムと、スリッパークラッチも標準装備されている。
その結果、従来型よりも大幅にステップアップした制動能力を実現し、時速100マイル(160km/h)─0マイル停止では従来型のハヤブサを徹底的に凌駕し、滑走路でブレーキを酷使した後でも、フェードはほとんどなかった。
新型のツインスパーフレームは従来型と基本的には同様で、KYB製43mmフォークとKYB製リヤショックのサスペンションも一見従来型とよく似ている。
しかし、サスペンションはスプリング、バルブなどを変更しセッティングが改められているほか、フロントフォークは剛性もアップさせたという(またフォーク摺動部にはDLCコーティングが施された)。
その結果、ハヤブサが得意としてきた安定性は今まで以上に「文句無し」だ。
平坦で真っ直ぐな場所を走行しているのであれば、SNSのアカウントを更新することもできるであろう。まあ、お勧めはしないが。
それ以外の場面──細かな凹凸、うねりある路面、ラフにスロットルを操作したとき──すべての領域で新型ハヤブサはよく訓練された兵士のように平然さを保ち続けるのだ。
264kgの車重と1480mmというロングホイールベースを持つこのバイクのハンドリングは、鋭いものではないが、大型バイクとしては十分スポーティなものだ。ブリヂストン製の優れたタイヤのおかげもあって、従来型よりもはるかに優れたハンドリングとなっている。うねりや凹凸を軽々と受け止め、ヒザを擦るような走りをしても、しっかりとした感覚で正確に狙ったラインをトレースできる。
初代、従来型のハヤブサで、こんなに簡単にコーナーでお行儀よく走れたことは記憶にない。
新型ハヤブサはまるで子供がイースターエッグを食べるように、いともたやすく高速で次々と現れるコーナーを平らげていく。
そこからさらに、クリッピングポイントを見定め、アグレッシブに走り、荒れた路面でもスロットルをフルに開けていきたい……という走りをするならいくつか不満が出てくるだろう。いや、それ以前にステップが接地し始めるだろうか。
そうした走りを望むライダーは、より軽く、よりパワフルなスーパースポーツ・GSX-R1000を選ぶべきだろう。しかし、数百マイルの一般公道テストも踏まえ、私はどちらのバイクを選ぶべきかがわかった。
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