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新型=4代目ホンダ PCX「開発者インタビュー&新旧モデル徹底比較」〜車体編〜

PCX 4代目 160

新型PCXはフレーム/サスペンション/タイヤ/ブレーキなど走りに関わる部分をほぼ刷新

2代目→3代目(先代)へとモデルチェンジする段階でもフレームは完全新設計となっているが、3代目の登場からわずか2年、新型=4代目PCXでは改めてフレームが新設計とされた。
【開発者インタビュー&新旧モデル徹底比較・コンセプト/デザイン編】で紹介したように、開発リーダーの大森純平さんによれば「新型PCXは新エンジンを搭載することありきの開発で、フレームを新設計としたのも新エンジンに合わせるため」だという。

それに加え、ボディ形状やサスペンションなどトータルでの改良も加えられた車体は、先代とかなり違う。
乗車フィーリングは、先代を「穏やか・マイルド」とすれば、新型は「レスポンスが良くソリッド」である。ハンドリングは先代がしっとりと曲がるような感覚なら、新型はもう少しシャープでかつ安定感がある感覚だ。

このあたり、車体の剛性バランス向上が明確に感じられる部分である。加えて、リヤサスペンションストロークの10mm拡大やタイヤのエアボリューム向上もあって、街乗りレベルの速度域ではギャップや凹凸の衝撃吸収性も良くなっている。このため、新型ではよりキビキビとしたフィーリングで走れる。
ただし、タイヤ幅がアップしたことなのか、剛性感の上がった車体とサスペンションのバランスなのだろうか、最高速付近に限って言えば比較的大きな凹凸やうねり、縦溝などに対する反応性は意外に大きく、車体の挙動が一瞬乱れる場合があった。

大きな安心感を得られるのはリヤブレーキが油圧ディスクになった恩恵もあるだろう。その制動フィーリングは当然ながら別物で、初期のフィリーリングはともかく、比較的強い制動を行えばそのブレーキング性能の違いは明らか。
また、新型にはトラクションコントロールの一種、HSTC(ホンダセレクタブルトルクコントロール)が新採用されているが、今回の試乗ではこれが作動するような条件はなく、効果は確認できなかった。

先代=3代目PCX150。
新型=4代目PCX160。エンジンのみならず、フレーム、サスペンション、ブレーキ、タイヤなど「走り」に関わるパーツはほぼすべて刷新されている。
新型PCX160はABSが標準装備となったので、価格は先代PCX150のABS仕様と比較している。
2代目PCXのフレーム。初代〜2代目はアンダーボーン構造だった。
3代目PCXのフレーム。ダブルクレードル構造とし、剛性を強化した。
4代目PCXのフレーム。ダブルクレードル構造は継承しつつも新設計に。フレーム単体で3代目比760g軽量となっている。

【写真27点】新旧PCXの足着き・収納スペース・シート形状などを同角度で比較!

新型PCX「フレーム/タイヤ/ハンドリング」の狙い

新型と先代、性格の違いこそあれ総じてレベルアップを果たしている車体だが、エンジン同様「コスト増をしない」という課題もあった。それらをどう両立したのか?
先代・新型とも開発リーダーを務めた大森純平さん、新型PCX車体担当の前田匡雅さん、テスト担当の半田悦美さんはこう話す。


新型PCXの車体を担当した前田匡雅さん(本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発部 完成車設計課 アシストチーフエンジニア)。

──エンジンが大きくなり、出力も上がって、車体の開発は大変だったのではないですか?

前田:苦労しました。車体全体で強化しないといけないと同時に、軽量化をしつつ、さらにコスト抑制も……と、大森の方からは非常に厳しい枠組みが与えられました。骨格の仕上がり具合で操縦安定性やモデルのキャラクターが変わってきますので、これまでのモデルで確立された性能を踏襲しつつ、進化させていく事に注力しました。

──何しろ先代の出来はいいし、思想的にもわかりやすい。それを変えて行くことに対するプレッシャーは感じましたか?

前田:とても感じましたね。このPCXは全世界の様々な地域のお客様に乗っていただいているので、地域ごとに対応できる内容にしないといけません。そこでの共用性の確立などには、とても苦労しました。

──新型はフレームは部材の削減や溶接長の抑制など、その構成に置いて合理化が進んでいるように見受けられます。これはコストの条件をクリアした結果ですか?

前田:はい。溶接長を減らせば減らすだけ、使う部材が減れば減るほどコストも下がります。たとえ部品単体のコストが上がっても、使用する数を減らせばトータルでコストは抑えられるという考え方ですね。

──合理的に作ること自体は難しくないにせよ、細かい部品で構成されているトラスフレームのメンバーや使用部材が減れば、そもそもの利点である剛性バランスなどを阻害するというような懸念はなかったのですか?

前田:その点は問題ありませんでした。車体領域でもCAEなどコンピュータ解析である程度の目星を付ける技術が発達しているので、機能領域はテストの半田のようなベテランとどのような方向性にしようかと相談しながら作っていきました。

3代目PCXに続き、新型PCXの開発リーダーを務めた大森純平さん(本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発部 完成車統括課 チーフエンジニア)

大森:私は先代の車体を担当しましたが、その当時はベストだと思っていたわけですが、今回は前田が担当して、軽量化とコストダウン、そして生産領域の問題など、厳しい要求をクリアして今回のフレームができたことを考えると、やはり「考える」ということが大事なんだなと認識しました。当初はこれ以上はできないかな……とも思いましたが、部品点数を削減できたことに自分自身も驚いていますし、さらい良いものができたと思っています。

──リヤタイヤを14インチから13インチにサイズダウンした理由は?

大森:乗り心地の向上です。これまでも大きな不満点はありませんでしたが、「シットイン」(イスに座るような姿勢)のポジションがそれまでのアジア圏ではあまりないタイプだったので、カブのようなアップライトで、どちらかというと背中がきっちり立つようなバイクに乗り慣れている人が乗ると、リヤサスペンションからの突き上げの方向が身体の軸と違って感じられたようです。
そこで新型では同じようなサスペンションでも感じ方を変えるという要件がありまして、初期から柔らかく動くようにして、小さな段差などでもしっかり吸収し、より疲れにくく、PCXのコンセプトでもあるコンフォートの部分をしっかり進化させたのです。

ホイール径が13インチとなった新型PCX160。前後ホイールともデザインは刷新、リヤブレーキはディスクとなった。
先代PCX150のリヤホイール径は14インチ。リヤブレーキはドラム。

──排気量を拡大した新エンジン搭載には関係がないのですか?

大森:エンジン変更には関係なく、あくまでも乗り心地の向上が目的ですね。アクスルトラベルを増やそうという初期目標があって、タイヤを少し小さくすることによって実現しました。しかし、小さくすると走破性に影響が出ますので、そこはタイヤ幅を広げ、エアボリュームを拡大し、タイヤ自体の衝撃吸収性も向上させたわけです。

──タイヤをサイズダウンした場合、デメリットとして耐摩耗性への悪影響が考えられますが?

大森:まさにその部分は幅で対応しているのです。見た目にも前後14・14だとリヤの方が大きく感じますが、前後14・13でバランスが取れたのではないかと思っています。

──その他、車体での工夫や苦労はありましたか?

前田:グローバルでは色々な地域のお客様に、どうすれば新しい乗り心地を感じていただけるかですね。日本国内に対してですと「もう少し良くなるはずだ」と細かい変更を数多く施した点です。
代表的なところはフューエルリッドのキャップ置きを新たに設けてみたりと、本当に少しのことで変化があるようなことを「やってみよう」とLPL(開発リーダー)の大森がやらせてくれました。先代に対して、より使い勝手が良くなっていることを感じていただけるのはないと思います。

新型=4代目PCXの給油口。燃料タンク容量は先代より0.1L拡大の8.1Lに。定地燃費より実際の燃費に近い数字といわれるWMTCモード値が51.2km/Lなので、推定航続距離は400km近くなる。
燃料タンクのリッドには、給油口キャップをスポッと置いておけるスペースが作られた。
先代=3代目PCXの給油口。燃料タンク容量は8.0Lで、2代目のタンク容量が5.9Lだったのに対し、3代目へのモデルチェンジで大幅に増量された。

──テスト担当として新型の課題はどんなことでしたか?

半田:PCXはクラストップの乗り心地を誇っていたわけですが、今回の変更によってそれをさらに良くする……というのが課題でした。個人的にもデザインが気に入っていたので、それを生かしたまま新しいパッケージを具現化するというのがポイントでした。ちなみに、車体の設定は125・160ともに共通です。

──個人的な感覚では、ハンドリングはややアンダー傾向に感じますが?

半田:そうだろうと思います。現代のお客様の経験や乗車時間は、過去のお客様より減少傾向にありますので、割とハンドルはしっかりしていて、ちゃんとつかまっていたほうが安心できるという方も多いのです。そのため、安定感があって安心して乗っていただけるフィーリングや性能を重視しました。
また、新型はエンジンが4バルブ化して、高速域の出力が出ていますので、先代と同じように街中で扱いやすくすることが苦労しましたが、今回乗っていただいた結果、「加速などがスムーズだ」という声が聞けて良かったと思います。出力は確実に上がっているのですが、それを露骨に感じさせないよう、乗り味としてスムーズに仕上がったのだと思っています。

新型PCXのテストを担当した半田悦美さん(本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発部 完成車設計課 技師)。
新旧PCXの足着き性&ユーティリティを比較

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