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2010年に初代が登場して以来、日本の小排気量スクーター市場のなかで圧倒的なシェアを獲得し続け、アジア諸国では「プレミアムなスクーター」として人気を博しているホンダ PCX。
そうした世界的な需要もあって、登場10年目にして早くも4代目へとフルモデルチェンジが行われた。
最新型のキーワードは、歴代PCXのコンセプト「Personal Comfort Saloon」の進化。具体的には、以下三つのテーマに力が注がれたという。
- 新しい「上質感」の表現
- 運動性能を向上させた「快適で余裕のある走り」
- 便利な使い勝手と安心感のさらなる向上
先代=3代目から引き続き、新型PCXは原付二種、軽二輪、ハイブリッドをラインアップするが(3代目で登場したEV版「ELECTRIC」は現状新型には設定されていない)、軽二輪版は150cc→160ccへと排気量を拡大、フレームや車体周りの変更、そしてそれを包括するスタイリングの刷新──スペックや構成を見るだけでも、大幅な進化を果たしていることがわかる。
そこで当記事では、新型PCX開発チームへのインタビューと、3代目PCX150と新型PCX160の各部比較、そして新旧モデル比較試乗によって、フルモデルチェンジしたPCXの魅力を探った。
【写真24点】新型=4代目PCXと3代目PCXを同角度の写真で比較!
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新型PCXのコンセプトと概要「ナンバーワンモデルを進化させる」
──人気を誇った2018年の先代モデル(3代目)登場から、約2年でモデルチェンジというサイクルは少々早いようにも思えますが、その理由は?
大森:一番の理由は、ユーロ5に適合させるために4バルブ化と排気量拡大を施したeSP+エンジンを導入したことです。そのエンジン開発を折り込みながら、エンジンマウントを下リンクから上リンクに変更することになり、同時にフレームについてもこれまでの蓄積を基に改良しようと思ったのです。
結果的に、フルモデルチェンジとするのが最適だと判断しました。要するに「まずはエンジンありき」の進化・熟成です。
──うがった見方をすると、先代モデルに何かあったのかと勘ぐる向きもありそうですが?
大森:全くそれはありませんでした。今回のモデルチェンジに際して色々とリサーチをしておりますが、先代に対してはほとんどクレームもなく、大きな改善要望もありませんでした。これは、開発責任者としては非常に嬉しい限りです。自分自身も先代モデルに乗っておりますが「今、モデルチェンジをするべきなのか?」と迷うくらいでしたから(笑)。
古賀:お客様に乗り換えていただく理想的なサイクルはありますが、法規対応は日本でも避けて通れませんので、早い時期からモデルチェンジの構想はありました。ただ、販売サイドとしては先代が絶好調だったので、もったいないとも思いましたが(笑)。
新型(4代目)ホンダ PCX160
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──エンジンを4バルブ化した動機は?
大森:従来のエンジンでも無理をすればユーロ5への適合は可能だと思いましたが……OBD2(排出ガス低減対策としての車載式故障診断措置。二輪車では2020年12月から義務付け)の搭載も含め、コストを抑制しながら最適化するには4バルブエンジンが最適だと判断したのです。
武市:将来性を考えると、出力向上と法規対応を両立したかったのです。4バルブなら点火プラグもシリンダーヘッドのセンターにレイアウトできるので、燃焼効率の面でもより最適となります。
──では、排気量拡大の動機は?このあたりは、後発のヤマハ NMAX155(155cc OHC4バルブ単気筒)など競合モデルに対する優位性の確立、エミッションの確実性などを想像しますが。
大森:排出ガス規制に関しては仕向地によって法規内容が変わりますので、例えば150ccで内容が変わる国もいくつかあります。したがって、これまでのPCX150は149ccや153ccでしたが、今回は156.9ccで160と謳っております。しかしこれは、競合モデルに対する意識よりも、これまでのPCXの骨格を守った上でどこまで排気量を拡大できるかを考えた結果です。
今までのサイズが街中でベストと考えていますので……大きくなると駐車スペース面や混雑した市街地での機動性など、PCXの魅力をスポイルしてしまいます。そこを守ったギリギリの大きさとしました。これまで、税制やエミッションの枠で制限がありましたが、今回は排気量を大きくできるチャンスということで、とことん大きくしようと考えました。
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──排気量拡大のデメリットについても考えましたか?
大森:排気量を大きくすると、周りの装備も色々大きくなります。例えば最高速向上に関連し、ミッションやプーリーを大きくしたり、排ガスの浄化性能を向上させるためキャタライザーも大型化する必要もあり、そこで一番の問題となるのはコストの増加です。
大きくすればするほど、コストも拡大しますので、今回は価格を抑えるための目標も設定し、魅力ある商品としてお客様の手の届きやすい価格にするかが大きな課題でした。
──燃費への影響は無いのですか?
大森:排気量を拡大したからといって、露骨に悪くなるわけではありません。今回はビッグボア・ショートストロークで低フリクションにし、クランクにはローラーベアリングを入れるなどの対応もしていますので、それほど大きな課題ではありませんでした。
──排気量拡大において、コストの次の問題は重量の増加になると思います。新型での車両重量の増加はわずか1kgに抑えられていますね?
大森:4バルブ化と排気量拡大となると、まず動弁系の構成部品が増えますので、確かにエンジン重量も増えます。そこで、エンジン設計には「とにかく重量を増やさないでくれ。そこは企業努力で重さを吸収(抑制)してほしい」と要求しました。
駆動系も大きくなり、そこではプラス100gが避けて通れないと分かったので、車体設計には「フレームの刷新に併せ、この分を何とか軽くしてほしい」と押しつけました(笑)。とにかく「重くなることは、まかりならない」と、重量抑制をチームの目標として推進しました。同時に安くすることも加えまして……。
──チームの皆さんにかなり無理難題をふっかけています(笑)。その自覚はありましたか?
大森:もちろんありましたが「開発チーム全員でハードルを超えていく楽しさを提供しているのだ」と自分に言い聞かせて開発を進めました。
今回は開発チームの平均年齢が若返ったので、そういった意味でも各人のモチベーションはとても高く「出来の良い先代を乗り超える新型を作るのだ」と、全員が頑張ってくれたと思っています。
──販売面でも排気量拡大は有利に働きますか?
古賀:競合モデルに対する優位性が確保できそうですね。そもそもトータルパッケージでPCXは非常に優れているという自負がありましたが、今回のモデルチェンジでより確かな存在になったと思っています。
従来型(3代目)ホンダ PCX150
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新型PCXのデザイン「似て非なる物。洗練されたセンスと機能」
新型PCXは、先代(3代目)のシルエットと大きく変わったところはない。
しかし、各部のディティールや造形をよく観察していくと、多くの部分で新しいデザイン処理がなされており、「新しい『上質感』の表現」というコンセプトを巧みに具現化している。
そのスタイリングデザインは、明らかに先代からより洗練されたイメージを醸し出している。
分かりやすいのは前後の灯火類周りのデザイン処理の違いだろう。
フロントはともすればやや派手に思えたヘッドライトのレイアウトがやや落ち着いたものになり、リヤのテールランプ周りはこれまでの「X」をモチーフにした造形から、シャープで滑らかな面で構成された上質感あるものに変わっている。
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──今回は、大きな面の処理や、細かい部分でのエッジの入れ方など、かなり手が入っています。このことで明らかに洗練されたイメージになっていると思いますが、どのような課題があったのですか?
岸:PCXにおける命題として、スタイリングのために機能を犠牲にしてはいけないということがあります。これは、コミューターのトップランナーとしてのパフォーマンスが大前提で、デザインだけのためにその機能を損なってはいけないのです。
デザイナーがそういった知識なしに作業を進めてしまうと、どうしても性能・機能に影響を与えることが少なくないのです。しかし、そういったこだわりがまたデザインの肝になったりもしますので、その辺りの調整(デザインと機能の両立)に時間がかかりました。テスト担当の半田にもかなり頑張ってもらいました。
大森:PCXはスタイリングを構成する面が大きいので、高速感がありつつも取り回しのイメージが重く感じるようなことがないよう、ちょっとした面の鷹揚やシェイプに気を使ってもらいました。
──ひと目で違うと分かるのはフロント周りの造形です。複雑に面が入り組んで陰影がよりシャープになっています。
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岸:今回の造形のポイントのひとつは「ボディのくびれ感」にあると思いますが、このくびれ感を出すのは、フロント周りが最も難しいのです。
なぜなら、空力といった機能を考えるとレーシングマシンのような紡錘形が理想ですが、そこに面の折り返しやエッジなどのキャラクターラインを加えていくことは、性能をスポイルすることになってしまうので、この部分はテストコースでクレイを盛りながらテストを繰り返し、空力性能を確保できるような造形を地道に追求しました。
──シルエット的には先代とほとんど変わらないのに、各部のデザイン処理で存在感の向上や洗練された感じが感じられるのは、そういった細かい作業の積み重ねですね?
岸:はい、フロント周りで言うと、逆に幅が狭くなっているほどです。そこはLPLの大森が「厳しい交通環境の中で使われるモデルであるので、そこでの機動性などは機能として絶対に保持せよ」と、一番強調していた部分です。
ただし、細くてだらっとした造形にはしたくなかったので、幅を狭めながらも、外観では狭く見えないというように工夫しました。例えば、インパネの横に広がるような造形など、できるだけワイドに見えるような視覚的流れを作り込んでいます。
大森:フロント周りにボリュームがあると、狭い場所などで視覚的に窮屈に感じてしまうのです。したがって、できるだけボリュームを小さくして、よりコンパクトな感覚で曲がれるようにしたかったのです。マフラーの断面も同じ理由で丸から長円にしています。
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トップランナーとして、進化させるべきところ。
変えるべきではない、PCXらしさ。
実際、新型PCXと3代目の2車を同時に走らせてみたところ、走行性能からもその2点を感じ取ることができた。引き続き「エンジン編」と「車体編」で、それぞれのポイントを解説していきたい。
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ホンダ PCX160(4代目)主要諸元
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【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク単気筒OHC4バルブ ボア×ストローク:60.0mm×55.5mm 総排気量:156cc 最高出力:12.0kW(15.8PS)/8500rpm 最大トルク:15Nm(1.5kgm)/6500rpm 燃料タンク容量:8.1L 変速機:無段変速式
【寸法・重量】
全長:1935 全幅:740 全高:1105 ホイールベース:1315 シート高:764(各mm) 車両重量:132kg タイヤサイズ:F110/70-14 R130/70-13
【価格】
40万7000円
ホンダ PCX150(3代目)主要諸元
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【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク単気筒OHC2バルブ ボア×ストローク:57.3mm×57.9mm 総排気量:149cc 最高出力:11kW<15ps>/8500rpm 最大トルク:14Nm<1.4kgm>/6500rpm 燃料タンク容量:8L 変速機:無段変速式
【寸法・重量】
全長:1925 全幅:745 全高:1105 ホイールベース:1315 シート高:764(各mm) 車両重量:131kg タイヤサイズ:100/80-14 120/70-14
【価格】(2020年時点)
38万600円、40万2600円(ABS仕様)
レポート●関谷守正 写真●柴田直行/ホンダ 編集●上野茂岐