トライアンフ入魂の新型エントリーモデル「トライデント660」
トライアンフは全く新しいエントリーモデルとして、2021年のラインアップに「トライデント660」を追加した。
エンジンは660ccの3気筒。今日「3気筒と言えばトライアンフ」というブランドを確立している同社らしい選択だ。デザインはブリティッシュなスタイルにまとめられ、そして、クラスをリードするハンドリングとコストパフォーマンスの高さを備えているという。
激戦区のミドルクラスに真正面から勝負を挑むトライデント660は、日本では2月6日発売予定で97万9000円と戦略的な値付けが発表されているが、どのようなバイクに仕上がっているのか?
スペイン領カナリア諸島・テネリフェで行われた国際試乗会に参加したイギリス人ジャーナリスト、アダム・チャイルド氏のレポートを紹介したい。
激戦区「エントリーモデル市場」に真っ向勝負を挑むトライアンフ
トライアンフにとって、このトライデント660は戦略上かなり重要なモデルとなる。
ヤマハ MT-07、カワサキ Z650、ホンダ CB650Rなど、既に定評あるミドルクラスネイキッドのライバル車と戦うだけでなく、このセグメントは「エントリーモデル」として販売台数が増加している重要な市場でもあるからだ。
新規ユーザーの獲得を望むメーカーにとって、いかに魅力的な商品を提供しエントリーモデル市場を押さえるか。それが、自分たちのブランドにユーザーを囲い込むための鍵となるわけだ──。
だからこそ、トライアンフも2021年の販売チャートで新型トライデント660が上位を占めることを期待しているわけだが、タイで生産されるこの新型エントリーモデルはそれだけの実力を持っているのか? 2日間のテストでじっくりと評価を行った。
ビギナーとベテラン、両方目線でトライデント660のエンジンを試す
660ccの3気筒エンジンを搭載すると聞いて「電子制御でマイルドにチューニングしたストリートトリプルSのエンジンじゃないの?」と思う人もいるかもしれないが、そうではない。
確かにベースはストリートトリプルSの660ccエンジンなのだが、ボアを縮小し、ストロークは拡大されている。クランク、クラッチ、ギヤボックスなども一新されており、ほぼ別モノと言ってもいい(計67の新造パーツが投入されたそうだ)。
ストリートトリプルSと比較するとギヤ比は、1速〜4速はショートで、5速と6速はロングに。カムプロフィールは低中速域のトルクを重視した設定となっている。
ピークパワーは1万250rpmで81馬力、ピークトルクは6250rpmで6.5kgm。
これはヤマハMT-07やカワサキ Z650よりもパワーがあり、ホンダ CB650Rよりもトルクがある。
最高出力はホンダ CB650Rがダントツだが(95馬力)、トルクは横並びながらわずかにヤマハ MT-07が優位(6.8kgm)。トライアンフ トライデント660はちょうど2車の中間といったところだろうか。
興味深いことに、トライアンフは純正アクセサリーパーツのカタログにアフターマーケットのエキゾーストを載せていない。「その必要はない」といういうことなのだろう、純正エキゾーストシステムは素晴らしいサウンドだ。
トライアンフがどうやってそれを実現したのかはわからないのだが(笑)、最新の環境規制である「ユーロ5」に適応しており、レーシーなバイクではない「エントリーモデル」という存在であるにもかかわらず、低回転域では素晴らしいうなり声をあげ、3000rpm付近からはまぎれもなく「トライアンフトリプル」の一族であることを主張するような音質へと変化が始まり、その後、レブリミット付近では叫ぶように歌う。
肝心のパワー感だが、スロットルの開け始め、最初の10~15%では実にソフトで親しみやすい。
トライデント660は電子制御スロットルを採用しているが、もしアナログのスロットルケーブルであれば微調整したくなるようなわずかなラグがある。だが、そのラグを含め、初めてバイクに乗るライダーや経験の浅いライダーには理想的な特性だ。
スロットルの操作量を多くしていくと、ダイレクト感が増していくが、それでも全体としては滑らかだ。ライディングモードを「レインモード」にすれば、パワーデリバリーはさらにソフトとなる。
3気筒エンジンは、2気筒のトルク感と4気筒の爽快感を兼ね備えているといっても過言ではない。加えて、トライデント660はピークトルクの90%を3600rpmから発揮し、低回転域から積極的にマシンを進ませていくことができる。
こまめなシフトチェンジをしなくても、スロットル操作だけで楽に走ることもできるが……しかし、走りを楽しみたいなら、積極的にギヤボックスを操ってほしい。せっかくスムーズなシフトフィーリングも追求されているのだから。
そうした走り方をすれば、トライデント660は経験豊富なライダーもきっと満足できる仕上がりとなっている。トラクションコントロールをオフにすれば、トライアンフならではの3気筒サウンドを味わいながら、ウイリーだって楽しめるのだから。
「エントリーモデル」という触れ込みだけで、このバイクを食わず嫌いするのはもったいないにも程がある。
決して退屈とは無縁で、テスト1日目の夕方になってもまだまだ走り続けたいほどだった。
ビギナーとベテラン、両方目線でトライデント660のハンドリングを試す
車重は装備重量で189kg。ライバルの2気筒エンジン勢とほぼ同等、4気筒のホンダ CB650Rよりはかなり軽い。
実際、重量感もないから小柄で経験の浅いライダーにとっても威圧感はないはず。加えて、低速域でのバランスも取りやすい。シート高は805mmあるが、燃料タンクに向かってスリムな形状となっており、身長172cmの私の場合で左右とも地面にしっかり足が着いた。
車両価格を考えれば当然ともいえるが、サスペンションはそれほど上等なものではない。フロントには調整がないし、リヤはプリロード調整のみがあるだけだ。だからダメかというと、決してそんなことはなく、特に、ビギナーのライダーにとってこのサスペンションは寛容で扱いやすい設定となってる。様々な路面状況でも、楽にバイクを操ることができるだろう。
では経験豊富なライダーにとってはどうか。
全く問題ない。むしろ興奮した子犬のように、切り返しを何度も楽しみたくなるはずだ。
速度とペースを上げていっても、サスペンションのセットアップは十分に機能を果たしてくれる。そのうえトライデント660はバンク角もかなり確保されているのがわかった。ライバル車のようにステップを擦ることなく、自信を持ってスムーズなコーナリングラインを維持することができる。
また、ライディングポジションも自然体で、楽にバイクをコントロールしたり、ときには振り回すことだってできる。純正装着されていたミシュランのロード5もいい仕事をしてくれていた。気温は低く、湿った路面もあるというテスト環境下だったが、安定性は抜群で安心して走ることができた。
さらにペースを上げてハードプッシュしていくと、激しいブレーキングではフロントフォークの作動性に少し不満が出てくるが、ライバル車と比較してもトライデント660のハンドリングは全体としてなかなかのものだと思う。
ショーワ製の前後サスペンションは調整機構が無いに等しいが、99%のライダーは何かをいじる必要性を感じないだろう。リヤサスペンションのプリロードを、荷物を乗せたりタンデムをしたりするときに調整するのは大事なことだ。だが「フルアジャスタブル」が必要かというと……商品性を高めるウリにはなるかもしれないが、初心者や経験の浅いライダーは結局使わないか、混乱の原因になるだけだろう。
このバイクのメインターゲットはまさにそういったライダーであり、トライアンフの選択は間違っていない。
フロントブレーキは310mm径のダブルディスクでニッシン製2ピストンキャリパーという構成だが、プログレッシブなフィーリングで、ビギナーライダーに扱いやすい特性だ。
もちろんABSが標準装備されているが、ABSの作動感はあまり押し付けがましいものではない(バンク角を検知して連動するコーナリングABS機能はついていない)。
こちらもベテランライダー目線での評価をすると、セカンドバイクとして、あるいは「ダウンサイジング」としてトライデント660を選ぶ人が多いのではないかと思うが、通常のライディングでは一本指ブレーキでも問題ない。
が、ハードブレーキングをする場合はレバーに指一本以上の力で強めの入力が必要になるのがすぐにわかるだろう。トライデントのブレーキ性能自体はライバル車と同等か高い部類に入るが、高性能なブレーキが装着された高価なバイクから乗り換えた場合は物足りなさに戸惑うかもしれない。
しかし動力性能を考えると、十分以上のブレーキ性能が確保されている。
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