新型MT-03&MT-25はデザインを刷新、倒立フォークも新採用
車検のない気軽さ。コストパフォーマンス。我が国においてやはり250ccクラスは偉大である。
半面、この車格のままもうちょっとパワーがあったらなぁ……と思うことも少なくない。レーサーレプリカブームのころのように、250ccクラスでハイパフォーマンスを競い合っていた時代ならいざしらず、現在の250ccクラスのマシンは車体がエンジンに勝っていることがほとんどである。
排ガス規制への対応等でも、過去の250ccクラスのパフォーマンスを同じ排気量で実現するのが難しい時代になってきたという面もあるだろう。
ヤマハMT-03 ABS主要諸元
【エンジン・性能】種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク68.0mm×44.1mm 圧縮比:11.2 総排気量320cc 最高出力31kW<42ps>/1万750rpm 最大トルク29Nm<3.0kgm>/9000rpm 変速機:6段リターン
【寸法・重量】全長:2090 全幅:755 全高:1070 ホイールベース:1380 シート高780(各mm) 車両重量:169kg タイヤサイズ:F110/70R17 R140/70R17 燃料タンク容量:14L
【価格】65万4500円
しかし、この250ccという排気量はほぼ日本独自の規格であり、世界の多くの国では250ccで区切るという概念がない。 コンパクトさや軽量さを考慮すると、300cc前後がバランスの良い排気量になるのだろう。実際、世界的には300cc前後のモデルが多く登場している。
これは、過去に600ccクラスがミドルクラスの世界的スタンダードとなっていたのに対し、日本はそれらをスケールダウンした400cc車が投入された現象と似ているのかもしれない。
さて、若年層を中心に人気を博しているYZF-R25とYZF-R3が2019年にモデルチェンジされたのに続き、そのネイキッドバージョンと言えるMT-25とMT-03が2020年モデルで刷新された。
従来モデルに対し、基本設計は踏襲されるものの、デザインを大胆に変更。また、倒立フォークやLEDライトの採用など、機能面にかかわる部分も改められている。
まず、一番のトピックとも言える倒立フォークであるが、個人的にはこのクラスなら「正立のままで良いのでは?」 ……などと考えつつ、自分が若かったころのことを思い出した。
なぜに倒立が良いのか? 剛性アップやらバネ下重量の軽減など、メリットがあることは聞いてはいた。が、「カッコいいから!」というのが当時若者だった我々のスタンダードな意見であった。
現在、小排気量クラスのメインマーケットであり、日本以上に若者が多いアジア圏からの要望もきっと大きいのだろう。それは自分たちの過去を振り返ってみれば納得でもある。
その倒立フォークの採用により、バンキングにともなってスイッと素直に舵角がつく、いわゆる“ヤマハハンドリング”がやや薄れた印象もあるが、とりたてて剛性が勝り過ぎているといったことはなく、素直なハンドリングは引き継がれている。
MT-03/MT-25:エンジンパワーの違いはどうか
グローバルモデルとして主流となる300ccクラスのモデルが設計ベースとしてあって、そこに“日本仕様”のエンジンを載せる──というのは、このMTシリーズ2台に限らず、300ccクラスの兄弟車を持った250ccモデルの手法であろう。
5年ほど前に行ったYZF-R25とYZF-R3のテストでは、ほぼ全てのシチュエーションでYZF-R3がYZF-R25の印象を上回っていた。やはり設計ベースがYZF-R3であれば、評価もそうならざるを得ないなぁ……と感じたものだったが、今回善戦していると感じたのはMT-25のほうであった。
ヤマハMT-25 ABS主要諸元
【エンジン・性能】種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク60.0mm×44.1mm 圧縮比:11.6 総排気量249cc 最高出力26kW<35ps>/1万2000rpm 最大トルク23Nm<2.3kgm>/1万rpm 変速機:6段リターン
【寸法・重量】全長:2090 全幅:755 全高:1070 ホイールベース:1380 シート高780(各mm) 車両重量:169kg タイヤサイズ:F110/70-17 R140/70-17 燃料タンク容量:14L
【価格】62万1500円
なかなかそのパフォーマンスを開放する機会がないハイパワーマシンと違い、気軽にアクセルをワイドオープンできるのは両車共通だが、当然MT-03のほうがパワフルである。
ここまで300ccクラスと言ってきたが、MT-03の排気量は320ccであり、250ccのMT-25とは70ccの違いがある。数字としては一見小さいような気がするが、MT-25からすればMT-03の排気量は約3割増である。その差は大きい。
MT-25に対し、MT-03が1速上のギヤでも余裕でこなせてしまうというコーナーはそう多くないが、「2速か3速か迷う」という場面では、MT-03は1つ上のギアを選択するというケースが確実に増える。 また、同じギアであっても、エンジンは明らかにトルクフルに感じさせる。
しかし、2車同時に比較しなければさほど不満にも思わなかったのも事実。さらにいえば、まるでキャブレター車を思わせる中低速での穏やかなレスポンスと、高回転にのび切っていく際のシームレスな感覚はMT-25のほうがより強く感じられたのだ。
市街地や高速移動も含め、多くの場面でMT-03が有利という印象は揺るがなかったものの、ワインディングでスポーツしている感覚、そして楽しさはMT-25に軍配が上がったのである。
MT-03/MT-25:車体の印象に違いはあるのか
サスペンション設定含め車体は基本的に2車共通とのことだが、装着されるタイヤが異なることで、若干のフィーリングの違いがあった。
MT-03がラジアルのダンロップ製GPR300を装着しているのに対し、MT-25はバイアスのIRC製RX-01。
MT-25のほうがソフトで取っ付きやすいフィーリング。タイトでギャップの多いワインディングではこちらのほうが接地感も高く感じられた。
一方、ある程度スピードが出てくると、カッチリした手応えが安心感に変わっていくのはMT-03のほうだ。より高いスピードレンジやタンデム時の安定性、また、タイヤの耐摩耗性ではこちらに分があるのでは?と感じられた。
2車ともエンジンパワーが穏やかなので、車体に関してはまだまだ余力がある印象。よりハイグリップなタイヤを装着しても面白いだろう。
全体として足まわりは柔らかめの設定で、路面状況は把握しやすい。積極的なライディングをしなくても軽快でよく曲がる特性であるが、半面、強引に寝かしたりしても破綻しない優しさがあり、スポーティにも楽しめるのがうれしい。
これまで様々なバイクをテストしてきたが、今日において、MT-03/MT-25の持つスペックは特筆したものではない。
しかし、多くのライダーが不安感を覚えずに、バイクが持つ爽快さや刺激を安全に味わえるスタート地点に位置するマシンとしては非常にバランスの取れたキャラクターとなっている。
そのうえで、ある程度経験があるライダーも感じられるであろう楽しさも持ち合わせていたのは意外だった。この2台、若者やビギナーだけのマシンにしておくのはもったいと思うのである。
MT-03/MT-25 足着き&ライディングポジション
非常にスリムかつコンパクト。シート高がすごく低いというわけではないが、軽量なこともあってプレッシャーはない。ハンドル位置は適度にアップライトながら、前傾姿勢もとりやすい自由度の高いライディングポジションとなる。ヒザ周りが車体にピタリとフィットする感触がヤマハらしい。ライダーの身長は165cm。
試乗レポート●鈴木大五郎 写真●真弓悟史 編集●上野茂岐