シリーズ唯一660ccエンジンを搭載するストリートトリプルS
トライアンフのミドルクラススポーツネイキッド・ストリートトリプルシリーズ。
2020年モデルでモデルチェンジが行われ、ストリートトリプルRS、ストリートトリプルR Low、ストリートトリプルSの3モデルが展開されます。
中でも99万9000円という魅力的な価格が注目を集めているストリートトリプルSですが、「装備を簡素化した廉価グレード」という見方は恐らく正しくない。RSやR Lowは765cc3気筒エンジンを搭載するのに対し、Sは660cc3気筒エンジンを搭載しており、別機種と言ったほうが近いのです。
でも「廉価グレードじゃなくて、排気量が小さくなっちゃうの!? じゃあ、いいや」とソッポを向こうとした方、ちょっと待ってください。この660ccのエンジンがかなりいいんです。

トライアンフ・ストリートトリプルS。デザインはストリートトリプルRS、R Lowとシリーズ共通

車体色は白をベースに赤と黒のラインが入る「クリスタルホワイト」1色のみの設定
660cc3気筒は超スムーズで、扱いやすい特性
エンジンをスタートすると「ギュルギュルギュル……」という、3気筒独特のサウンドが。
(ラジコンやミニ四駆などのモーター駆動音に似ている気がします)
約6000回転くらいまで独特のサウンドは続くのですが、そこから高回転まで回していくと、4気筒エンジンのような「クォーン……」というサウンドに収束していきます。まず、この二面性が面白い。
とはいえ、これは3気筒エンジン搭載車を数多くラインアップするトライアンフの他のバイクでも味わうことが可能なわけですが、でも、ぶっちゃけ高回転まで回す機会ってなかなかないですよね!?
でも、660ccで最高出力95馬力のストリートトリプルSなら、サーキットでなくても、普通の人が、普通の道でそんな体験ができるんです。

660cc水冷並列3気筒DOHC4バルブのエンジンは最高出力95.2馬力/1万1250回転、最大トルク6.7kgm/9250回転の性能を発揮
100km/h走行時、2速で8000回転、3速で7000回転、4速で6000回転といった具合なので、例えば、高速道路への合流、追い越しなどで、サウンドの変化と、気持ちのいい加速が楽しめてしまう。
そして、加速していくとき……というか、極低回転から高回転までパワーは一直線に伸びていく出力特性で、気持ちがいいだけでなく、非常に扱いやすくもある。
「谷」みたいなひっかかるゾーンが無いだけではなく、急にドバッとパワーが出すぎてビックリすることもなく、加速したいと思って開けた分だけ素直にパワーが出る──公道を走る普通のライダーにとってすごいナチュラルな感覚なんです。
といっても、660ccの「大型バイク」ですし、最高出力は95馬力もあるので、物足りないと感じる瞬間はまずありません。
むしろパワーに物を言わせて、5速、6速で30~40km/h走行なんてこともできちゃいます(そのときの回転数はアイドリングちょっと上の2000回転くらいですが、それでも全然ギクシャクしない!)。
そこからスロットルを大きく開けていけばスムーズに加速していくので、高いギヤに入れっぱなしにして、オートマ車みたいな“ズボラ運転”も可能です。
「レインモード」は雨の日以外も使い道あり
スロットルレスポンスとトラクションコントロールの作動状況が切り替える「ライディングモード」はロード/レインの2パターンですが、個人的には細かくパラメーターを設定するタイプよりは、シンプルでいいと思った次第。

RSやR Lowは液晶メーターパネルを採用するが、Sはアナログ式回転計とデジタル速度計の組み合わせ。液晶部には燃料計、時計、オド/トリップ、航続距離などを表示する

「MODO」ボタンで、ロード/レインが選択できるライディングモードを切り替える
レインモードはスロットルレスポンスが穏やかになるので、ストップ&ゴーの多い混雑した街中などでも有効なんじゃないでしょうか。
また、スロットルを開けてからわずかに遅れてついてくる感覚はどこかキャブレター車に似ていて、個人的には雨が降ってなくてもレインモードを多用したくなりました(笑)
400ccクラス並の軽量・コンパクトな車体
エンジンも扱いやすいのですが、車体面もじつに扱いやすい。
まず、またがった瞬間にわかるコンパクトさ、軽さ。体感的には400cc車クラス、いや、それより軽い感覚かも……と思って車重を調べてみたら、400ccネイキッドの定番・ホンダCB400スーパーフォアは車重201kgですが、ストリートトリプルSの車重は188kg。ホントに軽い。

ライダーは身長170cm、体重59kg。車体がスリムなので、シート高数値の割に足着きは良好。両足の足裏がほぼ全面接地する

上体が比較的立ったリラックスしたライディングポジション。シート高は810mmで着座位置も実際高く感じるが、その分ヒザまわりには余裕があり、車格はコンパクトだが窮屈感は無い
走り出しても、またがったときの「軽い!」という印象は走っても変わらずで、ハンドリングは安定志向よりわずかにシャープ寄り。退屈なものではなく、ちょっと刺激があるというナイスなバランスなんです。
ブレーキングして、サスペンションを縮めて、姿勢を作って……なんてことをせず、ダラ~ンと乗っていてもクルクルよく曲がるし、ちゃんとスポーティな操作をすればズバッとキレのあるコーナリングを怖くない範囲(←ここ大事)で楽しめます。
また、ライダーが体を動かしやすいライディングポジションなので、見通しの悪い場所ではリーンアウト気味に進行方向を探るようにしてみたり、ちょっと体を預けるだけで路上のマンホールを避けたり、「いや~何かオレ上手くなっちゃった!?」という勘違いをさせてくれると言いましょうか、小気味よくバイクを操れるんです。

フロントブレーキは310mmダブルディスクにニッシン製2ピストンキャリパーの組み合わせ。倒立式のフロントフォークはショーワ製で、インナーチューブ径41mmのセパレートファンクションタイプ

高速安定性を高めるため、特徴的な形状の「ガルウイングスイングアーム」を採用。リヤブレーキは220mmディスクにブレンボ製シングルピストンキャリパーの組み合わせ。標準装着タイヤはピレリのディアブロロッソIII

リヤサスペンションもショーワ製で、プリロード調整が可能なピギーバッグリザーバータイプモノショック
親しみやすいけど、楽しい──そんな乗り味の秘訣は、サスペンションやブレーキの特性が“日本車的感覚”なのが大きいのではないかと。
交通の速度域が高いヨーロッパの車両は、サスペンションはハードめ、ブレーキも握りはじめからガツンと効力が立ち上がるモデルが多い傾向ですが、ストリートトリプルSの前後サスペンションは日本の日常的な速度域でよく動き、ブレーキも握った量に比例してジワッっと効力を発揮するタイプなのです。
一方、乗っていて気になったのは、細かい部分ですがライダー目線ではメーター上にクラッチケーブルが多いかぶさってしまうこと。それで視認性が大きく損なわれるわけではないんですが……。
また、ネイキッドモデルという見た目からすると、ハンドルの切れ角がイメージより少なくかんじられること。初めてのUターン時にはちょっと注意した方がいいかもしれませんが、メーターの件ともども、自分の愛車としてしまえば慣れで解決できる範囲でしょう。
ストリートトリプルSはこんなライダーにオススメ
そんな車両特性なので、大型二輪免許を取得して初めての大型バイクとして選んでも不安なく楽しめると思います。
また、もちろんある程度以上の経験があるライダーにとっては、街乗り、高速走行、ツーリングなんでもござれの万能マシンとしての魅力もあります。
そして何より内容を考えれば、価格が安い!! 「最近の新車って高いよね」なんて声も聞きますが、そんな方にもぜひオススメしたい1台です。
あと、コレは非常に個人的な意見ですが、かつて逆輸入車として販売されていたヤマハのミドルクラススポーツXJ6に乗っていたライダーはほぼ間違いなく気に入ると思います(なかなかの希少車なので、どれくらいの人数がいるのかわかりませんが……)。
というのも、筆者自身がXJ6を愛用していたひとりだからなのですが、エンジン・車体とも親しみやすく、適度に刺激がある点がよく似ているのです。

ヘッドライトはアグレッシブなデザインの2灯式LED(写真はロービーム時で、ハイビームで2灯点灯)。レンズ上部にある線上に輝くLEDはポジションライト

リヤシートはキー操作で開閉可能。シート下収納はETCユニットと書類を入れたらおしまい……という感じだろうか
トライアンフ ストリートトリプルS主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:76.0×48.5mm 総排気量:660cc 最高出力:70kW<95.2ps>/11250rpm 最大トルク:66Nm<6.7kgm>/9250rpm 燃料タンク容量:17L 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:── 全幅:765 全高:1060 ホイールベース:1410 シート高:810(各mm) 重量:188kg タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17
レポート●モーサイ編集部・上野茂岐 写真●星野耕作
トライアンフコール
TEL:03-6809-5233
https://www.triumphmotorcycles.jp