ベストセラーの「PCX」をベースとした新型軽二輪スクーター「ADV150」。
【コンセプトとデザイン編】では、デザイン面を中心にオフロードのテイストがどう盛り込まれたのかを紹介したが、走りのキャラクターはベース車「PCX」と一緒なのか、それとも違うのか? 引き続き、同車の開発責任者・箕輪和也さんと、営業領域責任者・古賀耕治さんへのインタビューから読み解いてみたい。
聞き手は【コンセプトとデザイン編】同様、試乗レポートを行った関谷守正と、PCXオーナー目線での試乗レポートを行ったモーサイ編集部・上野である。

ADV150の開発責任者・箕輪和也さん。タイ・バンコクのHonda R&D Southeast Asia CO.,Ltdでプロダクトエンジニアディビジョン アシスタントチーフエンジニアを務める

ADV150の営業領域責任者・古賀耕治さん。ホンダモーターサイクルジャパン企画部 商品企画課でコミューターモデルを主に担当する
ADV150開発メンバーにはオフチーム が多く参加していた
関谷:PCXをベースとはしつつも、コンセプトを大事にしてかなりの部分に手を加えたといいますが、具体的にどのあたりをどう変えたのでしょうか?
箕輪:開発側としては「中身はPCXで、側(がわ)チェンジでしょ?」と言われるのが一番悲しい。せっかく、オンオフ系アドベンチャーのマインドを持って作るのであれば、見た目だけではなく、乗ってもそういったフィーリングを感じていただけないと意味がありません。
ですから、完璧とまでは行かないまでも、実際の性能をそちらに寄せていかないことには商品としては出す意味がない。そう思っているうちに……ほとんどが新規の開発になりました(笑)
関谷:割合で言うとPCXとどのくらい違うんですか?
箕輪:何をもって新規部品と言うか基準によって左右はしますが、おおよそ9割の部品が新規になっています。

ADV150のフレーム。PCXをベースとしつつも、シートレール後端のクロスメンバーは専用設計となっている
関谷:例えば、フレームの基本構成は一緒だけど、細かいところでステーの取り付け位置が違うとか、そうした改良ですか? それとももっと大きく変えているのでしょうか?
箕輪:外装は見てのとおり別なので、外装取り付け関連のステーは変えていますが、車体前半分に関してはPCXのフレームをそのまま使っています。リヤ周りに関してはクロスメンバーの部分を完全に新規に設計しております。古賀からの熱い要望である「日本ではマストになるトップボックス装着のためのリヤキャリヤ装着への対応」もありますので(笑)。
そもそも当初の目的としていたのは軽量化でして、大きく形状変更しようとしていたのです。スポーティに振ろうと思っていて、車体重心から離れた場所にあるPCXのリヤスポイラーを取りましょう、グリップを樹脂にしましょう、と。リヤスポイラーとグリップで2kg近くあるんです。
ただ、そうすると左右をつなぐ剛性が落ちてしまうので、それを補うために完全に新規のクロスメンバーを設定し、さらにキャリヤに対する強度も保証しつつ、軽量化しなくては……というところで新規設計になっています。実際そこで2kg弱は軽くできました。
関谷:PCXとの車重を比べてみると、それでもトータルでは軽くはできなかった……。
箕輪:最初、コンセプトを基に「こんなクルマにしたい」ってやりたいこと全部やったら、PCXに対してプラス9kgになっていたんです。サスペンションをのばすとリヤのサブタンクを含めて3kg以上重くなってしまう。
しかし、オンオフと言う以上、グランドサルーンのPCXより重かったらおかしいじゃないかと、部品単位ですべて洗い出して、目標重量を全部決め、これ以上重くさせないという基準を部品ひとつひとつで決めて軽量化したのです。 ここは私が強く開発チームに求めたところです。
古賀:実は、開発チームにはオフのチームメンバーがいっぱいいたんですね。だからこそ、一般的なコミューターモデルではやらないレベルまでやってくれたように感じています。

フロントサスペンションはストローク量130mmの正立フォーク
関谷:フロントサスペンション自体のサイズはPCXと一緒ですか?
箕輪:フォーク径は一緒ですが、インナーチューブはストロークを30mmのばしているので長くなっています。全長が伸びている分、かかる荷重が大きくなるので噛合長も上げています。 ストローク以上にインナーチューブはのびていますが、噛合長などの変更で剛性感は上がっているので、変にゆがまずにスッと入るフィーリングです。
X-ADVのようなアジャストスクリーンは絶対につけたかった
関谷:当初9kg増えてしまったという話に戻りますが、具体的にはどこが重くなったのですか?
箕輪:ほぼ足まわり関係ですね。あとは私の構想で、X-ADVにならってアジャストスクリーンは絶対に入れよう、と決めたのですが、それが結構重くて。もちろん極力軽量化はしましたが、PCXがポリカーボネイトの1枚板でやっているのとは構造的にも違うわけです。自分では重くすることばっかり考えて、チームとしては「軽くしろ」が目標(笑)。開発チームのみんなが良く応えてくれたと思います。

工具不要で2段階に調整できるスクリーン。写真はローポジション時

ハイポジション時のスクリーン。ローポジションに対し、71mm高くなる
関谷:「こうすると重くなっちゃうんだけど、仕上がりは軽くしてね」というのは、ホンダの伝統というか常識じゃないですか。あとはよろしくね、みたいな(笑)。他に重くなりそうな要素で言うと……タイヤサイズとかホイールもPCXと違いますよね?
箕輪:ワンサイズずつ太くなっているので、重量増になります。リム幅から変更しているので。
太い方が強そうだし、カッコいいというのは当然ありますが、性能的にもサスペンションストロークで吸収しきれないショックはタイヤに受け持たせるようと検討した結果、基本的にはゴムの容量を増やしてエアボリュームも増やし、そこでしっかりとダンピングさせようという考え方です。
結果的に、後輪はインチダウンしながら外径を従来同様としているので、タイヤのハイト自体は1インチ上がっています。幅も増やして重くなりましたけど(笑)
古賀:一方、前輪はリム径はPCXと同じまま幅を広げていますが、それで200g軽くしています。
リヤ周りでは、駆動系のケースの肉抜きとか、ホイール側の肉抜きとかたっぷりしております。もっと言うと、ベルコンのケースも新規にしている。 そういうところに知恵を出して、やることはしっかりやっています。

エンジンはPCXなどに採用されている150cc水冷単気筒OHCの「eSP」エンジン。ただし、ADV150専用のセッティングが施されている
関谷:金型代が大変じゃないですか!
箕輪:そのあたりは幸いと言いますか、インドネシアやタイでもかなり広く受け入れられる見込みがあったので。トータル台数が稼げた結果、コスト的には助かりました。
古賀:そこはグローバルのメリットですね、日本だけでしたらとても成立しない企画だと思います。
PCXと違うエンジン特性にした理由とは
上野:エンジンの出力特性もPCXと違うのは、開発当初からそのつもりだったんですか?
箕輪:早い段階から同じではダメだというのは、チームの共通認識だったと思います。側を変えるだけでお茶を濁すのか、ちゃんと作り込むのかという課題は、わりと早い段階で突破し、ちゃんとやりましょうとなった時には既定路線になっていました。
やはりPCXはラグジュアリーさを演出するため、スムーズな吹け上がり感とか加速感とかを実現しています。ですが、ADV150はオンオフモデルのイメージで、全く違う話になるわけです。そこを変えるというのは、暗黙の了解というか、ごく自然にスタートしましたね。

吸気系を変更することで、PCXに比べより低〜中回転域のトルクを強化
関谷:CVTの減速比もPCXから変えているんですか?
箕輪:ファイナルの減速比は同じですので、最高速などは大きく変わっておりませんが、変速特性は変わっています。
関谷:要するに加速を良くした、と。
箕輪:停止時や、低速からの加速に関しては、ADV150の方が力強くなっています。もともとエンジンもそういう考えで中低速側に振っていますので、エンジンで発生した出力をしっかりと後輪に伝え、ライダーが欲しいタイミングでそれがスムーズに発揮できるように駆動系セッティングも変えています。
関谷:最高速なんですが、PCXよりものびづらい気がします。それは気のせいでしょうか?
箕輪:80km/hとか90km/hからヨーイドンで最高速まで引っ張るとなると、おそらくPCXの方が早く最高速に到達するのではないかと思います。
中低速域に振った代わりに高速域の加速が少し鈍くなっているわけです。最高速の絶対値は変わらないですね。個体差もあると思いますが、設計上は全く一緒になっています。
関谷:実際高速道路でも走らせてみました。90km/h前後までは一気に行きますが、そこからが意外に長いんですよね。あれっと思って、上半身を伏せてみるとシューっと伸びるので、空気抵抗がPCXよりあるのかなと。
箕輪:影響していると思います。シート高が上がっているのと、かなり腰を起こしたポジションなので、おそらくアイポイントでいえばPCXに比べ50mm近く高いかと思います。

PCXのシート高が764mmなのに対し、ADV150のシート高は795mm。また、ライディングポジションも上体が起きたものとなっている
関谷:普段PCXに乗っている上野は、ADV150の乗り味をどう感じた?
上野:良くも悪くもタイヤからのゴリゴリした感じや、タイヤとフロント周りの硬さが、完全に別の乗り物だなと思いました。スクーターはスムーズで快適であるという前提で乗ると、びっくりするくらい違う。
箕輪:そうですね。フィーリングとして比べると全く違うと思います。ADV150はどちらかというと、路面のインフォメーションをダイレクトに受け取って、身体が素直に反応していくというような……良くあるオンオフ系といったセッティングにしてあります。
関谷:私はそれがすごく気に入ってます。フロントのソリッドな感じというのは、ある意味信頼性にもつながりますから。
上野:PCXと似ている似ていないというより、ADV150は極めてモーターサイクルに近い感覚ですね。
関谷:ハードブレーキングをしても全然平気だし、ABSが付いているからフルロックまで一気に握れる。あれがいい。フロントがしっかりしている方が安全ですから。
このフロントのソリッド感というか、ハードな感じというのは、ADV150の大きな特徴だと思います。ただ、ギャップを通過した時に突き上げ感というのは、むしろリヤの方が感じられる。

リザーバータンク付きのリヤサスペンションはストローク量120mm。3段レートのスプリングで、プログレッシブな特性も与えられている
箕輪:リヤサスペンションはふたり乗りをした際の悪路で、ハードヒットをなるべくしないという前提で考えておりますので、ひとり乗りの際には多少硬さを感じられる方もおいでかもしれません。ただ、性能としてセッティングの幅は非常に広く取ってはいますし、奥まで入り込んだ時の限界性もかなりのマージンは取れていると思います。
路面の印象がそのまま入ってくると基本的に「硬い」と感じるわけですが、角が立った、トゲトゲした入り方だと非常に不快になってしまうので、そこはしっかりインフォメーションを受けつつも、ちゃんと丸く入ってくるようにセッティングをしています。
フレームの基本構成は変えていないので、よくあるヘッドパイプ周りで剛性を上げたとかいうような話ではないんですね。純粋に足まわりのセッティングと重心の位置の変更とポジションの変更によって、体感的な変化を実現しています。
まとめ●関谷守正 写真●柴田直行/ホンダ