ヨーロッパで最も売れているスポーツツアラーは「カワサキ ニンジャ1000」だというのをご存じだろうか。
そのニンジャ1000が2020年モデルでモデルチェンジを行った。多くのアップグレードが施されたのみならず、車名も「ニンジャ1000SX」へと一新しているあたりにカワサキの力の入れようが感じられるが、スペインで行われた国際試乗会に参加したイギリス人ジャーナリストのアダム・チャイルド氏による試乗レポートを紹介しよう。
筆者のイギリス人ジャーナリスト、アダム・チャイルドから届いた動画。全編英語ですが、字幕をONに、自動翻訳を「日本語」にすると、簡易翻訳の日本語字幕が出ます。
ニンジャ1000シリーズがヨーロッパで支持されてきた理由
まずはニンジャ1000のモデル変遷を振り返りたい。ニンジャ1000SXの原点と言えるのが、2010年に発表されたニンジャ1000(欧州での車名はZ1000SX)である。スポーツネイキッドのZ1000をベースにしたスポーツツアラーで、バイクユーザーの年齢層が上がっていることを踏まえ、カワサキはスポーティなだけでなく、日常的な速度域での楽しさや快適性を備えたツアラーを送り出し、市場に見事受け入れられた。
ベースとなったZ1000がモデルチェンジするのにあわせ、2014年モデルでニンジャ1000もモデルチェンジ。ブレーキ、サスペンション、エンジンに改良が施され、素晴らしくオールラウンドなバイクだったのをよく覚えている。なんていったって、その2014年モデルを自分で所有して、あらゆるコンディションで3万マイル近く走らせたのだから。
2017年モデルではデザインを一新したほか、6軸IMUの導入により、ライダーをサポートする電子制御を充実。再びサスペンションの改良が行われたほか、パワーやトルクを犠牲にすることなくエンジンを排ガス規制「ユーロ4」に対応させた。
筆者は2010年の初代から歴代ニンジャ1000を取材してきたが、モデルチェンジを行っても当初のコンセプトを変えることなく、一貫して快適でハイエンドなスポーツツアラーであることに変わりはなかった。その点も、ヨーロッパ全域で好セールスを収めてきた理由ではないだろうか。
ニンジャ1000SXのポイントは電子制御の充実化、車体の軽量化
そして2020年モデルでは大幅な改良が施され、車名も「ニンジャ1000SX」へと変更。
サスペンションの変更、軽量化を実現した1本出しマフラーの採用、アップダウン式クイックシフターの追加、4種に切り替え可能なライディングモードの搭載が動力性能面での主な変更点だ。
エンジンは最新の排ガス規制「ユーロ5」に対応しつつ、最高出力142馬力の性能をキープしている。
パニアケースのないベースモデルは1万999ポンド(約145万円:編集部註)と一見高額に感じるが、高品質でパワフルなスポーツツアラーとしては競争力のある価格だ。ライバルとして筆頭候補に挙がるであろうBMW R1250RSよりもかなり安く、スズキにはより安価なGSX-S1000Fがあるもののパニアケースのオプションはない。またエンジン性能面に限って言えばGSX-S1000Fはかなり拮抗するが、ニンジャ1000SXに比べるとライダーサポート機能や快適装備ははるかに少ない。
ニンジャ1000SXのウリであるライダーサポート機能のひとつ、ライディングモードは「スポーツ」、「ロード」、「レイン」と、エンジンの出力特性やトラクションコントロールをユーザー自身の好みに調整できる「ライダー」の計4モードが選択できる。
クルーズコントロールも新採用されていて、それらの機能は左スイッチボックスのボタンで操作を行うのだが、操作自体が簡単なのもいい。厚手のグローブをしていても、スムーズに操作することができた(ただし乗ってすぐに直感的に操作ができるわけではなく、しばらくは慣れが必要だったが)。
テストは2日間にわたって行われたが、厚みを増した新形状のシートは2日間の行程を通して痛みや不満を感じることもなかった。走り出して2時間後にはしびれを防ぐために身体を動きまわす必要があった従来型に比べ、大幅に快適性を高めていた。
燃費は19~21km/Lで、19リットルの燃料タンクをフルに使い切った場合、航続距離は360km~400kmということになるが、満タンから240km前後の走行はまったく問題ないだろう。
スポーツツアラーカテゴリーのなかでも強烈にスポーティな走りが可能
快適なだけでなく、ニンジャ1000SXにはコーナリングABSやバンク角を制御にフィードバックするトラクションコントロールなどの電子制御が装備されているが、これは数年前のピュアスーパースポーツに匹敵する機能だ。スポーツライディングを邪魔することがなく、それでいて天使に見守られているかのような感覚。そうしたニンジャ1000SXのスポーツ性の高さは、競合モデルを凌駕していると思う。
これまでもニンジャ1000シリーズはスポーツツアラーカテゴリーの中でもスポーティなキャラクターだったが、ニンジャ1000SXではよりスポーツ性を重視したバランスになっていると感じられた。サイズと重量は相応にあるにもかかわらず、ヒザをするような走りもできるし、それでいて安全性も担保されているのだ。
そして標準装着されるブリヂストンのニュータイヤ「S22」が、あらゆるコンディションで優れたフィードバックとグリップ力を発揮してくれるのも心強い。メーターのバンク角インジケーターが52度を表示するまでペースを上げてみたが、しっかりとした接地感をキープし続けた。
このニンジャ1000SXでターンイン……そしてコーナーを後にするフィーリングは、ほかのスポーツツアラーと比べて抜群に気持ちがいい。従来型のニンジャ1000と比べても圧倒的な違いだ。カワサキはフロントフォークのオイルの流量を増やして少し圧縮を柔らかくしたというが、これほどまで差がでるものなのだろうか──。
スポーツツアラーだからといって勘違いしないでほしい。これは決して遅いバイクではない。
エンジンはトルクがあり滑らかに回るが、ひとたびスロットルを開ければ、すぐに142馬力が解き放たれる。最新の排ガス規制「ユーロ5」に準拠しているにもかかわらず、ピークパワーやトルクを失っていない。
そう、ニンジャ1000SXは10年ほど前のピュアスーパースポーツのようなハンドリングとパワーを持ちながらも、パニアは装備できるし、最高の快適性も備えているのだ。
ある意味では葛藤するバイクである。気楽に景色を楽しむべきなのか、それともヒザやステップを路面にこすりながらアドレナリンを放出すべきなのか。実際のところ、ニンジャ1000SXはどちらのシチュエーションでもライダーを本当に幸せな気分にさせてくれるのだが……。
気になった点もある。
新たにクイックシフターが装備されたが、高回転域でのシフトアップは問題ないものの、シフトダウン……特に5000rpm以下でのシフトダウンではややスムーズさを欠いていた。カワサキの最新スーパースポーツ ニンジャZX-10RRと同様のシステムだということで、期待していただけに残念だったのだ。
また、パニアを装着するとライダーとパッセンジャーとの足もとのスペースがやや窮屈になるので、タンデムツーリングを頻繁に行うライダーは購入前に試してみたほうがいい。
カワサキ ニンジャ1000SX総評
それを踏まえたうえで結論を出したい。
この新しいニンジャ1000SXは、従来までのニンジャ1000シリーズの成功を受け継ぎつつ、よりスポーティに、より走りやすく、より快適なモデルに仕上がっている。「実用性と快適性を兼ね備えたスーパースポーツ」というコンセプトはやはり変わっていないのである。
ニンジャ1000SX諸元(欧州仕様)
[エンジン・性能]
種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:77.0×56.0mm 総排気量:1043cc 最高出力:104.5kW<142ps>/10000rpm 最大トルク:111Nm<11.3kgm>/8000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2100 全幅825 全高:1190(スクリーン最高時1225) ホイールベース:1440 シート高835(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R190/50ZR17 車両重量:235kg 燃料タンク容量:19L
試乗レポート●アダム・チャド・チャイルド 写真●ティム・キートン/グレーム・ブラウン 編集&翻訳●上野茂岐