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KTMの公道走行向けRCシリーズは、1190RC8Rが生産終了した後は400ccクラス以下のモデルのみの展開だった。その“壁”を破りデビューしたのが990 RC R。ほぼリッターSS(スーパースポーツ)とも言える排気量だが、その実態は?
意外と懐が深い!
KTMが経営危機に陥っているというニュースは、多くのモーターサイクル愛好家にとって衝撃的であった。個人的には、あのすばらしいDNAを持ったプロダクトが無くなってしまうのか?と不安を感じると同時に、“KTMらしさあふれる”海外試乗会で興奮を味わえなくなるのが寂しすぎる……という思いもあった。
KTMの欧州におけるニューモデルローンチはとにかく刺激的である。試乗の際は「公道での走行マナーには気をつけましょう!」とクギを刺すのが主催者側の通例であるのに、先導ライダー自らがウイリーを楽しみ、参加者たちもそれに続く。また、サーキットでの走行スケジュールも、まるでわんこそばを食べているがごとく次から次への走行の嵐。そんな刺激に満ちた瞬間をまた味わえるということで、開催一週間前の急なお誘いだったが仕事を整理して、990 RC Rの試乗会に参加するためにスペインに飛んだ。
近年はすっかりオンロードブランドとしての地位も確立したKTM。990 RC RにはMotoGP直系のさまざまなテクノロジーが投入されている。オーストリアの国民性か、これまでKTMのマシンは大柄なものが多かったが、990 RC Rは小柄な元MotoGPライダーのダニ・ペドロサがプロモーション映像に出演していることからも想像できるとおり、実車はかなりコンパクト。ライディングポジションも見た目のイメージよりフレンドリーだ。ナンバープレートや保安部品を取り払った姿はMotoGPマシン譲りのレーシーな出でたちであるから、これは意外な驚きだった。そしてその印象は、実際の走りにも当てはまるものだったのである。



試乗会初日はワインディングを中心とした一般道のテスト。990 RC Rは荒れた路面もしなやかにいなし、路面に吸いつくようにコーナーをクリアしていく。フレームは剛性が高いものの、スイングアームに柔軟性を持たせてバランスを取っているという。その恩恵か、流すような走りであっても接地感は豊富で、スタイリングにほれて購入したビギナーでも拒否反応を起こさないであろう。新設計の8.8インチ液晶モニターはきれいにコックピットに収まっていて、視認性がいいだけでなく、表示も非常にシンプル。タッチ操作も可能で、走行性能面以外でも意欲を感じられた。





サーキット向けの電子制御も充実
2日目はサーキットに移動。30分の走行が7セッションあり、5本目にタイムアタック、6本目にレース、そして7本目にウイリー撮影を行うという予定で、KTM流は変わっていないなと一安心。タイムアタック中にクラッシュするライダーがいたためレースは中止になったものの、結局7本も走ることができ、セッションごとにマシンへの理解が進んでいった。これが実にすばらしい時間となった。
130馬力のエンジンはしっかりと速く、しかもストレスのない吹き上がりを持つ。ストリートファイターの990デューク由来ゆえに、1・2速がややローギヤードなため、今回のセビリアサーキットでは3~6速を使用したが、つながりは悪くない。クイックシフターの精度も高く、エンジンブレーキのコントロールも秀逸。トラックモードではトラクションコントロールやウイリーコントロール、エンジンレスポンスなどの設定ができる。また、ABSも4パターンあり、レベルや速度に応じた選択が可能。それぞれ試し、違いをハッキリ感じることができたのも今回の収穫だった。
レベルは高いのに、異様に懐が深いキャラクターは新時代のスーパースポーツマシンを実感させる。さらなるパフォーマンスアップをはかるオプションを幅広くラインアップしているのもうれしい。




KTM開発陣の変わらぬ情熱、そしてマシンの仕上がりを確認した今、ほっとしたというのが正直な気持ちである。限定車のRC8Cから量産化まで長く待った甲斐があったと思わせる秀作だ。

KTM 990 RC R 諸元
エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ
ボア×ストローク:92.5×70.4mm
総排気量:947cm3
最高出力:95.6kW<130ps>
最大トルク:103Nm<10.5kgf・m>
燃料タンク容量:約15.7L
WMTCモード燃費:――
変速機:6段リターン
全長×全幅×全高:――
ホイールベース:1,481mm
シート高:845mm
車両重量:195kg
タイヤサイズ:(F)120/70ZR17 (R)180/55ZR17
カラー:オレンジ、ブラック
国内発売日・価格:未定
report:鈴木大五郎
AMAスーパーバイクなど数々のレースへの参戦経験、そして、国内外さまざまなメーカー・カテゴリーの市販バイクの試乗経験を持つ二輪ジャーナリスト。ライディングスクールの主催者やインストラクターとしても活躍中だ。
photo:KTM/Emanuel Tschann
KTM TEL03-3527-8885 www.ktm.com/ja-jp.html














































