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2025年7月4日、スズキはニューモデルとしてネオレトロのストリートバイク「GSX-8T」と「GSX-8TT」を発表した。その国内発売に先駆け、海外で行われた試乗会に参加したライダーのインプレッションをお届けする。
試乗ライダーはイギリス人モーターサイクルジャーナリストで、マン島TT参戦などレース経験も豊富なアダム・チャイルド氏。期待のスズキ製ネオレトロの走行性能をアダム氏はどう評価するのだろうか?
☆前編はこちら
パワフルかつストレスレスな270度クランク並列2気筒エンジン
GSX-8T/TTは、理論上はGSX-8Sと全く同様の“走る、止まる、曲がる”の性能を備えているはずである。軽量バッテリーとヘッドライトの位置変更により重量配分が若干変更されているが、走行面に影響しそうなGSX-8Sからの変更点はそれだけだろう。今ではおなじみとなったDOHC4バルブ、270度クランクの並列2気筒エンジンは、前述のとおりGSX-8Sと完全に同じで、最高出力は82.9馬力、わずか6800回転で8.0kgf・mのトルクを生み出す。ライディングモードはA、B、Cの3種類があり、正確な燃料供給、効果的なトルクの配分、2軸構造の「スズキクロスバランサー」により、スムーズで楽な乗り心地が実現されている。



走行モードに関しては、私としては標準のBモードから動かす理由が見当たらない。エンジンにスペックシート上の数値よりもパワーがあるように感じるからだ。また、低速域で十分な駆動力があり、その点では振動のない大型単気筒エンジンのようだ。わずかな欠点は、一部の競合車と比べるとレブリミットが若干低めなことだが、私は実用域でのパワーを重視するスタンスなのでさほど気にならない。スムーズなギヤボックスと標準装備のクイックシフターを駆使すれば、パンチ力ある加速を必要に応じて正確に提供してくれ、果てしなく続く北スロベニアのつづら折れの道でとても楽しく走ることができる。

レトロ感など微塵もないフルカラーTFTダッシュボードは他モデルから流用されているが、Vストローム800/DEでは採用されている外気温表示はGSX-8T/TTでは省略されている。人によってはこのダッシュボードは面白みに欠け、Bluetooth接続機能も非搭載であり、ABSやトラクションコントロールといったライダーアシストも比較的簡素でIMU(慣性計測装置)連携タイプではないなどと不満を言うかもしれない。だが、実走ではシンプルなダッシュボードは高速走行中でも見やすく、トラクションコントロールは走行中でも介入度を調整したり解除したりできる。1速・2速では標準のBモードでもウイリーは十分に可能で、ややキビキビとした反応のAモードは必要ない。


なぜ異なる? 接地感に優れるGSX-8T/TTの足周り
サスペンションの動きとハンドリングは、以前吊るしの状態で試乗したGSX-8Sとほぼ同じだ。ただ、GSX-8Sのときには比較的寒いコンディションでは限界域での接地感が不足し、リヤショックもややハードに走り込むと音を上げるように感じたのだが――GSX-8T/TTではそうではなかった。

スズキのエンジニアによると、GSX-8SとGSX-8T/TTのサスセッティングは同じでフィーリングもほぼ変わらないはずとのことだが、試乗ではそう感じられなかった。これは、可能性は低いであろうが、わずかな重量差が影響したのかもしれない。それとも試乗した日が暑かったせいか、スロベニアの道路のグリップ力が優れていたせいか……あるいは、それらの組み合わせが原因かもしれない。いずれにしても、GSX-8T/TTの足周りは、GSX-8Sのものよりも接地感と自信を与えてくれるものになっていた。

バイクを傾けていくつかのカーブをクリアしていくと、クリッピングポイントでステップが路面をくすぐり始めるまで自信を持って攻めることができることに気づく。最低地上高はGSX-8Sと同じで十分な数値が確保されているが、それに加えて不安を覚えず限界までプッシュできる接地感が備わっている。GSX-8Sのリヤショックは荒れた路面では限界域で減衰力が不足する印象だったが、GSX-8T/TTのリヤショックはよりコントローラブルだ。本来的にはスポーティな走りよりも快適性を重視したセッティングであることは確かだが、シャーシに不満を感じることなく、これほど軽快に走れることには驚いた。GSX-8Sがハードな走りにおいて10点満点中7点だったとすれば、GSX-8T/TTは10点満点中8点だ。理論上は同点になるはずなのだが……。

フロントのKYB製フォークには調整機構がなく、リヤはプリロード調整のみだが、比較的ベーシックな標準セットアップを変更する必要性は感じなかった。地味な印象のニッシン製ラジアルマウントブレーキキャリパーも同様で、シャープなタッチではないけれども、十分に機能する。ABSは車体の傾斜具合を制御に反映するタイプではなく、約1万ポンド(記事制作時のレート換算で約200万円)のバイクに装備されるものとしては眉をひそめる人もいるかもしれない。しかし、ハードなライディングでもリヤ側のみがときどき作動するくらいで過剰な介入はなく、システムはうまく機能していると言える。より排気量が小さいながらもリーンセンシティブABSが採用されているモデルからバイクライフを始めたライダーが、GSX-8T/TTに乗り換えたときにどう感じるかは、私も疑問に思うところだが。

ライディングポジションもやはりGSX-8Sがベースだ。ハンドルバーとステップの位置は同様で、レトロ&スポーティなスタイリングにもかかわらず、カフェレーサーのようなセパレートハンドルバーは採用されていない。 GSX-8Tのシート高はGSX-8TTの810mmに対して815mmだが、私はGSX-8Tのスタイリングと快適性の方が好みだった。なお、GSX-8TもGSX-8TTも同じサブフレームを使用しているので、シートは交換可能だ。


GSX-8TTのレトロなデザインのヘッドライトカウルに効果があるのは明らかで、ライダーへの風圧はいくらか軽減され、高速走行時も上半身が少し楽になる。ただし、絶大な効果があるというほどではない。スズキが大々的にアピールした新設計のバーエンドミラーは、個人的には少しデザインに凝りすぎているように思えた。しかし、従来のミラーのように前方視界のジャマにならなくなったので、バイクが軽くなったかのような印象を覚える。同じように、GSX-8TはGSX-8TTのようにカウルを装着していないぶん視覚的に軽く思え、それほど車重の差はないのに不思議とより楽にライディングできる印象だった。


総括:個人的にはGSX-8シリーズ中ベスト!
GSX-8T/TTには、GSX-8Sと同様にしっかりとしたメカニカルな感触がある。安定性は抜群でソリッドであり、一部の競合車のようにおもちゃじみたフィーリングはない。また、造り込みの質も、近年スズキが強化し続けている分野だけあって大幅に向上している。排気量が800cc近く、車重が200kgを超えているにもかかわらず、低速域で乗り手にプレッシャーを感じさせないのも特徴だ。競合車、特にヤマハのXSR系と比べると、スポーツ走行における軽快さ・機敏さでは若干劣るが、それでも比較的操りやすくはある。ビッグバイクのようなフィーリングと、低速域での扱いやすさを兼ね備えているのがこのバイクの魅力だが、そこに魅力を感じるライダーも少なからずいるはずだ。

GSX-8TとGSX-8TTは、おおむねGSX-8Sの装いを変えただけのモデルと言えなくもないが、それは決して悪いことではない。GSX-8Sは力強いエンジン、シンプルなダッシュボードとライダーアシスト、そして挙動を把握しやすいシャーシを備えた優れたバイクであり、通勤にも週末のツーリングにも使えるモデルだ。スズキはこれをベースにレトロな仕上げを加えることで、さらに魅力的なGSX-8T/TTを生み出したのである。

主にスタイリングの変更によって作り出されたニューモデルだということは理解しているが、私はこのバイクが気に入っており、心奪われた。よりスポーティなGSX-8Rを含め、現在このパラレルツインエンジンを搭載しているスズキ車の中から1台選ぶとしたら、私なら間違いなくGSX-8TかGSX-8TTを選ぶ。暖かい夏の夜にガレージを開けたら、そこにGSX-8TTが止まっている……というステキな光景を見てみたい。しかも、それが1万ポンド弱で実現するなら、それほど高くはないと思える。

GSX-8T/TTにはGSX-8SやGSX-8Rよりも高い金額を支払う価値があるかどうか、万人が納得する見解を出すのは、今の時点では非常に難しい。時が経ち、このモデルの売れ行きが示されることで、ひとつの答えにたどりつけるだろう。

☆スズキのミドルクラスに新たな選択肢が増えたことは非常に喜ばしく、国内発売が待ち遠しい! 7月4日のリリースには「2025年夏頃より、欧州、北米を中心に世界各国で順次販売を開始いたします」とあるが、今後の続報に注目したい。
GSX-8T/TT(ヨーロッパ仕様) 主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:84.0mm×70.0mm 総排気量:776cc 最高出力:61kW<82.9ps>/8,500rpm 最大トルク:78Nm(8.0kgf・m)/6,800rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2,115 全幅:775 全高:1,105/1,160 ホイールベース:1,465 シート高:815/810(各mm) タイヤサイズ:フロント120/70ZR17 リヤ180/55ZR17 車両重量:201/203kg 燃料タンク容量:16.5L
[車体色]
ゴールド、マットブラック、マットグリーン/ブラック、マットグリーン





report:Adam Child photo:スズキ/Motocom/Jason Critchell まとめ:モーターサイクリスト編集部

























































