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30周年を迎えたKTM製ロードスポーツ「デューク」シリーズ
かつてはオフロードモデルのメーカーとして知名度の高かったオーストリアのバイクメーカー「KTM」だが、オンロードモデルに進出したきっかけとなったモデルが「デューク」シリーズだった。その第1弾は水冷単気筒エンジンを搭載し1995年に登場した620デュークだが、そうして始まったデュークシリーズが2024で30年目を迎えたという。
その間にデュークシリーズは各排気量にモデルをそろえ、現在は1390ccのスーパーデュークエヴォを筆頭に、1290、990、890、790、390、250、125ccと幅広く展開。ミドルクラスなどはどの車種を選ぶのか大いに迷ってしまうが、390、250、125は日本市場で明確に顧客ターゲットを絞れるクラスだ。
そして、当記事で紹介するのが軽二輪クラスの250デュークである。KTMが同クラスに初投入したのは2012年の200デュークからだが、その後2015年に250デュークが登場。390デュークと車体とエンジンベースを共用した「排気量違い」だったが、2024年の新型で車体とエンジンを刷新。
それらは走行性能を高める変更とアナウンスされるが、車体は親しみやすさの向上をねらい、DOHC→OHCへ変更されたエンジンは実用的な性能を維持しつつの軽量化や、コストパフォーマンスとの両立も考えているだろう。
2024年型KTM 250デューク
■新設計のスチールトレリスメインフレーム+鋳造アルミサブフレームに、新エンジンを搭載した250デューク。エッジが効いてシャープな形状のエアインテーク、オフセット配置のリヤショック、排気系のショートタイプサイレンサー、独特なカーブ形状のスイングアームなどが特徴的。カラーリングは試乗車のエレクトリックオレンジと、セラミックホワイトの2色展開。
従来型KTM 250デューク
■従来型の250デューク。新型と比較してエンジン搭載位置はやや低めで、右側出しの排気サイレンサーは後輪中央くらいまで伸びるタイプ。リヤショックはセンター配置で、シート高は新型より高い位置。この従来型でもコンパクトな車体だったが、新型ではさらにマスの集中化が図られたのが見て取れる。
新型250デューク「フルモデルチェンジでどう変わった?」
新型250デュークに採用のOHC単気筒エンジンは、高性能ならDOHCヘッドと刷り込まれている(毒されている?)中年以上のライダーにとって、進化と逆のような印象がするものの、実用的に性能向上を果たしているようだ。従来型の最高出力30ps/9000rpm、最大トルク2.4kgm/7250rpmに対して、新型は31ps/9500rpm、2.5kgm/7500rpmを公称。出力、トルクともに微増して各発生回転数も少し上がっている。
エンジンを抱えるフレームにも、変更が加わった。メインのスチールトレリスと鋳造アルミのサブフレームという構成だが、従来型ではセンターマウントだったリヤショックを右側にオフセット配置。これによりエアクリーナーボックスを大容量化したほか、シート高は30mm低くなった。身重173cmの体格では、両足を接地した場合で足裏全部が着くほど良好な足着き性だ。
またがっての第一印象は、250ccスポーツの中でかなりコンパクトということ。車体幅がスリムでフロントまわりがスッキリしているのに加え、乗車姿勢もコンパクト。低めのハンドルと前下がりのシートの着座位置との距離が近く感じ、ステップは後退気味で高い。
ライダーが接する3点関係(手、尻、足)がかなりギュッと凝縮されていて、最初はもう少しシートの前後長に自由度があって、ハンドルは少し高めだといいなと感じた。だが、しばらく走っているとこれもデュークらしい個性に感じ、慣れてくるから不思議なものだ。
■実用的な性能向上をねらい、「適正化したシリンダーヘッド、進化したギアボックス」とアナウンスされるエンジン。最高出力、最大トルクともに微増し、発生回転数も若干上がっている。国産250cc単気筒と比較し、中高回転でパワーが高まるピーキーな特性が印象的だった。
新型250デュークのOHC単気筒エンジンは「2スト的ピーキーさが楽しい」
馬力、トルクともに少し上乗せされた単気筒エンジンだが、国産の250cc単気筒と比較して低回転トルクはさほど厚くなく、回転は軽く上がっていくものの、出だしに力強い印象はない。トップ6速ギヤでの3500rpm付近からはじわっと反応して加速可能だが、5000rpm過ぎまで低いギヤで引っ張りたくなる。こんなとき、試乗車に装着されていたオプションのクイックシフターは使い勝手がよく、スムーズな加速に都合がいい。
馴染んでくれば、そのコンパクトさでスイスイと街中を走れる250デュークは、サスペンションの動きもバタつかずコシがあり、ストレスない走りを楽しめる。そして走っているうちに、やはり5000rpm付近から上を常用して走るのが同車の真骨頂だと気づいていく。
ワインディングに入ってもその印象は変わらず、前乗りの乗車姿勢のコンパクトな車体に身を委ね、ヒラヒラ切り返していくのが気持ちいい。このステージでもキープしたいのは5000rpm以上の回転数で、ここから9000rpmくらいまでを使って走るとき、デューク250は胸の透くようなスポーツランを堪能できる。これで思い出したのは、少し前の時代のピーキーな2ストロークスポーツで、回転を維持しつつ適切にシフトチェンジして走る工夫が楽しさにつながっていく。
取材時はちょうど新型390デュークにも短時間試乗できたが、こちらはほぼ同じ車体に積まれた最高出力45psのDOHC単気筒エンジンを搭載。250デュークより分厚いトルクでどの回転域からでも加速可能で、少しハイグレードな前後サスペンションでもって走りに磨きがかかっているのを実感。
しかし、250デュークが390デュークに比べて楽しさで劣るかというとそうでもない。250は2ストのようなピーキーな特性がそれなりに楽しく、頻度の高いギヤチェンジ込みのスポーツランが、懐かしくも熱くさせてくれるからだ。ストロークも短くタッチも具合のいいシフトや、軽量コンパクトな車体をコントロールするブレーキも反応がよく、ストレスない走りに貢献する。
国産250ccモデルとはかなりキャラが違う!「ピリリとした辛味のあるコンパクトスポーツ」
帰路の高速道路でも、250デュークはなかなかに生きのよい走りを見せた。トップ6速のメーター読みで80km/h時に約5000rpm、100km/h時に約6250rpmと回転上昇していくエンジンは、高速上では拍車がかかった回転域にあるからだ。9000rpm過ぎまで淀みなく上昇していくエンジンを生かせば、制限速度の1.5倍くらいは軽く出そうな雰囲気だが、そこまで速度を乗せなくても十分ストレスフリーな楽しさを満喫できる。
またコンパクト過ぎて心もとないという先入観のあった車体も、意外と直進性は揺るぎない。前下がりの傾斜が特徴的なヘッドライトまわりのデザインも効いているようで、走行風をうまく整流している印象だった。
先に紹介したように、250デュークは国産250cc単気筒のロードモデルに比べ、低回転から従順なトルクという印象は薄い。そして明確にパワーバンドがあるピーキーな面も、昨今の国産の250cc単気筒モデルではありそうでない特徴だ。オールラウンドな性能とは言えないものの、このピリリと辛い一面を見せるエンジンとコンパクトな車体でファンライドできる個性が、小排気量デュークの魅力だと実感させてくれた試乗だった。
KTM 250デューク各部の特徴
■比較的フラットな形状でグリップ位置がややアップしたバーハンドル。左グリップには4ウェイメニュースイッチボックスが装備され、スマホとの接続、音楽再生、通話機能など各種操作に対応。燃料タンクは同クラスとしては十分な15Lの容量で十分な航続距離も確保。
■メーターは5インチのモノクロ液晶で、左側に時計、トリップ、エンジン温度、バッテリー電圧などの情報、右半分に円形の回転計、速度計、燃料残量、ギヤ段数、水温計などを表示。昨今定番となりつつあるフルカラー液晶メーターより視認性は劣るが、実用上問題ないレベル。
■インナーチューブ径43mmのWP製APEX倒立フォークは無調整式ながら比較的しなやかな作動性だった。320mm径シングルディスク+ラジアルマウント対向4ピストンキャリパーのABS付きブレーキはシャープな制動力を発揮。純正装着タイヤはインドのタイヤメーカー・MRF製STEEL BRACEラジアル。
■新たに右オフセットマウントとなったリヤショックはプリロード調整付きのWP製APEXエマルジョン・ショックアブソーバーを採用。ショートエキゾーストの採用に合わせ、アルミ鋳造のスイングアームも新作。過不足ない制動力のブレーキは、240mm径ディスクに2ピストンキャリパーの組み合わせ。
■新開発の軽量鋳造アルミ製フットペグハンガーとグリップ感を高めたフットペグを装備(オプションでハイエンドCNC加工のフットペグも用意)。なお試乗車には、オプションのクイックシフターが装着されていた。
■シート高は従来モデルに対し、30mmダウンの800mmとなり足着き性が向上。前後セパレートタイプのシートの前側は、やや前下がりで着座位置の自由度(=前後長)はあまりないが、左右に腰をずらすような動作はしやすい形状。
■シート下はバッテリーなど電装系のスペースとなる。広さはないがETC車載器などが収納できるスペースは取れそう。
■身重173cmのライダーの乗車姿勢。両足接地の場合は足裏全部が着く良好な足着き性。上体はごく緩い前傾となり、ハンドルは着座位置に対して案外低く近い位置にある点に最初違和感を覚えたが、走り始めると慣れてくる。ステップも高めで後退した位置にありスポーティな印象となるが、長時間乗っても疲れるほどではない。
KTM 250デューク主要諸元(2024年型)
■エンジン
水冷4ストローク単気筒OHC4バルブ ボア・ストローク72.0mm×61.1mm 排気量249cc 圧縮比12.4 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能
最高出力23kW(31ps)/9500rpm 最大トルク25Nm(2.5kgm)/7500rpm
■変速機
6段リターン 変速比 1速3.000 2速1.933 3速1.444 4速1.142 5速0.956 6速0.875 一次減速比2.814 二次減速比3.071
■寸法・重量
全長── 全幅── 全高── 軸距1370 シート高800(各mm) キャスター24°00′ トレール── タイヤF110/70R17 R150/60R17 乾燥重量165kg
■容量
燃料タンク15L エンジンオイル1.2L
■価格
68万9000円
レポート●阪本一史 写真●富樫秀明
KYMジャパン
TEL03-3527-8885
https://www.ktm.com/ja-jp.html