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国内唯一の400ccフルスケールアドベンチャーモデル
2013年、400ccクラスでの新たな提案として、新開発の並列2気筒エンジン搭載で登場したのが3台の400ccモデルだった。スーパースポーツ系フォルムのCBR400R、ネイキッドスポーツのCB400F、クロスオーバーコンセプトの400Xである。
そして当記事で紹介するこのNX400は400Xの後継車に当たり、2024年4月に発売。クロスオーバーとか、デュアルパーパスとか、このカテゴリーは色んな呼び方があるが、オンロードをメインとしつつダートにも臆せず入れる、いわゆるアドベンチャーカテゴリーのモデルと言っていいだろう。
尖った性能のスポーツバイクよりも、アップライトな乗車姿勢で長距離を長く快適に走れるアドベンチャー系モデルは昨今人気のカテゴリーだが、他社と同様に、ホンダも各排気量クラスにこの系統のモデルをラインナップしている。
大排気量クラスではCRF1100Lアフリカツイン(前輪が19インチと21インチの2タイプを設定)、アッパーミドルクラスにはXL750トランザルプ(前輪19インチ)とNC750X(前輪17インチ)、そして普通二輪免許に対応したNX400だ(前輪19インチ)。
海外向けには排気量を少しアップしたNX500があるが、こちらは日本未導入。ホンダは今回のNX400を含め、400Xから10年以上400ccアドベンチャーモデルの販売を継続する唯一の国産メーカーだが、その存在価値は高い。近年はKTM 390アドベンチャーやBMW G310GSといった同カテゴリーモデルも存在するが、400ccフルスケールで相応の車格、相応のパワーを持ちつつ、普通二輪免許対応という国内事情もフォローする貴重な存在なのだ。
■「Modern Street Adventure」を開発コンセプトに、従来モデル・400Xから外観を一新して装備を充実させたNX400。カラーリングは試乗車のパールグレアホワイトと、重厚感のあるマットバリスティックブラックメタリックの2色展開。
実は、NXの車名には歴史がある!
NXを車名に冠したモデルは、30年以上前にも存在。国内販売されたNX125、海外向けのNX650ドミネーターなどだ。いずれも1988年に登場のオン・オフをこなすクロスオーバー的モデルという点はNX400と似ているし、NXこそホンダのクロスオーバーモデルの伝統的車名と言えそうだ。
国内でのNX125は一代限りと短命に終わったが、NX650ドミネーターは2000年以降も存続するなど、欧州では着実に需要のあるカテゴリーだった。
ホンダ NX125(1988年発売)
ホンダ NX650ドミネーター(1988年発売・輸出専用車)
一般道でのNX400「しなやかな挙動と実用的なトルクが光る」
先述したように、400Xの後継モデルのNX400は、NX(ニュー・クロスオーバーの略だという)と新たな車名にしたほか、ヘッドライトを含めたアッパーカウルデザインの変更、5インチTFTカラー液晶パネルの採用、オンオフ式トラクションコントロール、スマホ連携機能の採用などが特徴。
エンジンや車体は従来の400Xを基本的に踏襲しているものの、2019年型400Xからのマイナーチェンジでフロント19インチを採用(その前は17インチ)。それ以降、フラットダートでの走破性にも力を入れてきた経緯がある。
サイドスタンドから直立に引き起こすと、相応に大柄な車体の割に軽い印象だ。アドベンチャー系らしく車高は高めながら、重心を高くしない工夫や相応に軽量コンパクトな並列2気筒エンジンが貢献しているのだろう。173cmの体格での両足接地ではカカトが3~4cm浮くが、車体の保持にまったく不安はない。アドベンチャー系モデルの中では、良好な足着き性だろう。
アシストスリッパークラッチ採用のため、クラッチレバー操作は軽く、節度のよいシフトを1速に入れると、180度クランクの並列2気筒エンジンは、ストレスなくスッと発進する。程よく消音されつつ、小気味よい等間隔爆発のパルスが感じられるエンジンは、最高出力46psで低中回転トルクも十分。3~5速の中速ギヤなら2500rpm付近から実用でき、トップ6速でも3000rpmほど回っていればジワリと加速可能。シフトストロークもタッチも適切で、滑らかな操作感だ。
街中を流して感じる第一印象は、サスペンションの動きがしなやかということ。ゆったりした車体構成も関係してか、ちょっとした凹凸透過でも衝撃が穏やかで柔らかい。この感触なら、フラットダートは臆せず入れると思わせる。そして19インチの車輪径も、クロスオーバー的な用途をそつなくこなすのに具合がいいだろうと想像できた。
■前19/後17インチの車輪は、近年のアドベンチャー系モデルでは定番の組み合わせ。NX400で特徴的なのは全高が高めの反面、ホイールベースが同カテゴリーとしては短かめの1435mmという点。これが適度に重くならず素直なハンドリングに貢献している印象。
■身長173cmの体格での乗車姿勢。両足接地ではカカトが3~4cm浮くものの、しっかり踏ん張れるシート高。ハンドル、シート、ステップの3点関係も自然で、ツーリングモデルとして良好なポジションに感じた。
高速道路でのNX400「十分なウインドプロテクションで、巡航性能も高い」
高速道路に入っても、NX400は実用的なトルクで特別不満のない加速性能を発揮する。基本的にフラットトルク特性で特筆すべきシャープさはないが、回していけば刺激がまぶされてくる感じだろうか。トップギヤ6速でのメーター読み80km/hで回転計は4250rpm、100km/hで5250rpm付近を指すが、5000rpm以上から回転上昇が鋭くなり拍車がかかる。しかし、扱いやすく感じ取りやすいスピードの伸び方だ。ライダーがその気に攻めればそれなりに、疲れていれば穏やかに流してもストレスがない。そういう意味では、長距離ランにも向く、程よい相棒といったイメージが感じられる。
高速道路の100km/h制限の1.5倍程度までは平気で出そうだし、そこからの加速も可能だろうが、8500rpm付近から徐々に回転上昇は鈍ってくる。しかし、日本の高速道路上では十分な性能だろう。
また防風性能も不満はない。高さはあるが、比較的スリムなウインドスクリーンは、上体への風当たりをシャットアウトし、100km/h前後の巡航時ならスクリーン上端から跳ね上げられた風はヘルメット上部で軽く巻く印象。十分な性能で、適度に大柄な車体としなやかなサスペンションも外乱にうまく対応して安定している。
ひとつ要望を言うなら、長距離ツーリングを想定したシーンで、個人的には6速トップを少し高速寄りにしてもよさそう(トップギヤでは、エンジンが若干回り過ぎの印象)に感じた。もしかしたら前後スプロケットの組み合わせを海外向けのNX500仕様にすると、その印象は解消されるかもしれない(400は二次減速比が3.000、500は2.733のようだ)。
ホンダ NX400結論「疲れず、長く走れる数少ない万能型400ccツアラー」
ワインディングに入っても、NX400は穏やかな挙動をキープする。フロント19インチはゆったりと舵角がつき車体が倒れ込んでいく感じで、切り返しにさほどキビキビした印象はないが、フラットトルクなエンジン特性に見合っている。適度に幅広でアップライトな乗車姿勢となるハンドル、シート、ステップの位置関係もそうした穏やかな性能にフィットして、違和感を覚えない。
乗り手を「攻める」モードにする刺激は薄いが、そつなくコーナーをクリアするような適度な楽しさを持続させてくれる。ブレーキはシャープでカチッとしたフィーリングではないが、奥深くまで握ればじわっと制動力が立ち上がるタイプ。攻める気質の人には物足りなく感じるかもしれないが、むしろ扱いやすい特性だ。
ゆったりとした挙動と、意外と質感の高いサスペンションの動き、そして適度に大柄ながらも大排気量アドベンチャーモデルと比べて、そこそこ軽快な感触も日本の低中速ワインディングではちょうどいい。高速道路を含め、長く疲れず日本の道を楽しみたいツーリングライダーにとって、NX400はかなりベストなセレクトの、貴重なミドルアドベンチャーと言えるだろう。
ホンダ NX400「各部の特徴」
■CBR400Rと同系のDOHC4バルブ並列2気筒は、基本スペックもCBRと同様で最高出力46ps/9000rpm 最大トルク3.9kgm/7500rpm。180度位相クランク+バランサー内蔵の399ccツインは適度に小気味よく扱いやすいパワーユニットだ。NXでは新たにHondaセレクタブルトルクコントロール(HSTC)を搭載するほか、アシスト&スリッパークラッチも採用。
■適度に幅広なテーパードバーハンドルの前方にセットされた5インチTFT液晶は従来のディスプレイパネルより格段に見やすい。メーター上のアクセサリー用バーは、スマホ用スタンド設置などの際に利便性が高い装備。
■5インチTFTフルカラー液晶メーターには、速度、バーグラフ表示の回転計、ギヤ段数、燃料残量など必要な情報を凝縮して表示。速度表示右のセレクタブルエリアには、切り替えでオド・トリップほか、平均燃費、瞬間燃費などを表示。そのほか、切り替えで3つのディスプレイタイプ、背景色を選択可能。
■十分な防風効果を持つスクリーンは、中央下部に設置のダクトや左右のスリットにより適正な整流効果も実現。ヘッドライトは、直線走行時のビーム到達距離を維持しながら広い配光を両立したものという。
■左スイッチボックスの内側寄りには、車両とスマホを連携させられるアプリ「Honda RoadSync」の操作や各種設定を変更できるマルチファンクションスイッチを採用。その左側にはトラコン用オンオフ切り替えスイッチを配置。
■19インチの前輪にはダンロップのトレールマックスMIXTOURを標準装着。しなやかな作動性の倒立タイプサスはインナーチューブ径41mmのショーワ製SFF-BP(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン)。前後ABS付きのブレーキは、ウェーブタイプのダブルディスク+片押し2ピストンキャリパーの組み合わせで不足のない制動力。
■前輪と同様に軽量な5本Y字スポークホイールは、縦方向の剛性を最適化して路面インフォメーションと乗り心地の向上に寄与。リヤサスペンションは、分離加圧式シングルチューブタイプ採用で、多用な速度域で安定した走りに対応しつつ、2名乗車+積載状態での走行快適性も確保したという。ブレーキはウェーブ型ディスク+片押し式キャリパーの組み合わせ。後輪のタイヤもダンロップのトレールマックスMIXTOURだ。
■前側を適度に絞り込みつつ広めの座面を確保した前後一体型のシートは、1日300km程度の走行では不満を感じない座り心地だった。
■タンデムライダーの握り心地にも配慮した大型グラブバー。その裏側には左右計4点の荷掛けフックも装備。テールランプは、ストップランプ部と発光部を分離することで被視認性を向上したライン形状の発光デザインを採用。
ホンダ NX400主要諸元
■エンジン 水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク67.0×56.6mm 総排気量399cc 圧縮比11.0 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力34kW(46ps)/9000rpm 最大トルク38Nm(3.9kgm)/7500rpm 燃費28.1km/L(WMTCモード値)
■変速機 6段リターン 変速比 1速3.285 2速2.105 3速1.600 4速1.300 5速1.150 6速1.043 一次減速比2.029 二次減速比3.000
■寸法・重量 全長2150 全幅830 全高1390 軸距1435 シート高800(各mm) キャスター27°30′ トレール108mm タイヤF110/80R19 R160/60R17 車両重量196kg
■容量 燃料タンク17L エンジンオイル3.1L
■価格 89万1000円
レポート●阪本一史 写真●富樫秀明/ホンダ
ホンダ TEL0120-086819(お客様相談センター)
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