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2024年の大阪/東京モーターサイクルショーでFZ400RやRZV500Rをモチーフにした外装キットが純正アクセサリーとして発表され、80年代に青春をバイクブームとともに過ごしたライダーたちの熱視線を集めているヤマハのXSR900 GP。日本での発売前に、イギリス人ジャーナリストのアダム・チャイルド氏から試乗レポートが寄稿された!
車両解説&公道試乗インプレッションに続き、サーキット試乗のインプレッションをお届けする。
往年のレーサースタイルだが、スーパースポーツよりも乗り手に優しい
ヤマハのCP3エンジンはパワー、トルク、サウンド、キャラクターのコンビネーションが高く評価されており、あらゆる場面で良好に機能するものだ。扱いきれないほどではないが常にエネルギッシュで、サーキットにおいても遅れを取ることはなく、このエンジンを搭載したバイクのオーナーの多くと同じように私も、スロットル操作に楽しさを感じずにはいられない。
ただ、CP3エンジンを搭載するMT-09やXSR900はどちらもすばらしいウイリーバイクなのだが、XSR900 GPはそれらよりフロント荷重が増していてホイールベースが長いため、ウイリーに関しては若干おとなしめだと言える。
ヤマハはXSR900 GPはスーパースポーツモデルではないと主張しているが、それでもベースとなるXSR900よりも高グレードのサスペンションを与えており、前後ともにフルアジャスタブル化、圧側ダンパーは高速・低速の2系統で独立したセッティングが可能となった。
前後車重配分の変化に合わせて、XSR900よりフロントサスペンションは少し硬く、リヤサスペンションは柔らかくなり、タイヤはブリヂストンの最新スポーツ銘柄のバトラックスハイパースポーツS23が軽量なアルミ製「スピンフォージド」ホイールに装着されている。
XSR900 GPのレーシーなイメージは、ライダーにコーナーを攻めたり、ニースライダーでクリッピングポイントを狙ったりするよう鼓舞するが、その走りは気楽に楽しめる、安定したものだ。試乗開始当初の公道走行では、フロントフォークの動きがベースのXSR900ほどしなやかではなくやや硬いと感じたが、より車体をハードにプッシュできるクローズドコース上ではうまく機能してくれ、楽にバイクをコントロールでき、すばらしいフィードバックが得られた。また、天候や路面コンディションは完璧だったが、それでもやはりS23の優れたウォームアップ性能はありがたいもので、グリップ感に自信を持たせてくれた。
XSR900 GPは、たとえばスーパースポーツモデルのYZF-R6のようにとてもシャープな運動性を備えてはいない。その代わり、より安定していて乗りやすい。車重は200kgで、フェアリングのないXSR900より7kg重いが、その重量はうまく配分されている。XSR900よりヘッドパイプの位置が5mm高く、トレールが107mmから110mmに増加しているにもかかわらず、ステアリングの感触はXSR900と非常に似た、愉悦に満ちたものだ。その違いに気づくには、2台のバイクを同じ場面で乗り比べる必要があるだろう。
今回の試乗ではかつてWGPやF1も開催された歴史あるエストリル・サーキットを全周走行することはできなかったが、撮影のために安全が確保された区間で走行することができた。4速高回転で旋回する長い最終コーナーで、フットペグが接地する寸前までバイクを傾ける。XSR900 GPのシャシーとS23のグリップ力の限界に挑戦し始めても、余力があることは明らかだ。
このレトロなレーサースタイルのバイクはツイスティなサーキットが得意であり、持ち前のコーナースピードと、充実したリーンセンシティブな電子制御によってサポートされた幅広いトルクを生かして、よりピーキーな600ccのスーパースポーツを苦しめることだろう。レース向けのハイグリップタイヤに履き替え、フットペグがなるべく接地しないようにフルアジャスタブルのサスペンションを微調整すれば、サーキット走行会もバッチリだ。
フロントブレーキは、ブレンボ製のラジアルマスターシリンダーと、298mm径ダブルディスク、ラジアルマウント対向4ポットキャリパーの組み合わせでXSR900と同様だ。公道における性能は間違いなく優秀で、XSR900 GPの気楽でありながらスポーティな性質に完全にマッチしている。ABSは、サーキット走行中にハイスピードから停止までのハードブレーキングを何度か行うことで確かめたのだが、作動しているのが目立たない設定だった。ABSをオフにすることはできないが、リーンセンシティブ機能をキャンセルすることは可能だ。しかし、それをする必要性は感じられない。
新しく追加されたバックスリップレギュレーター機能は、シフトダウン時などにリヤがロックするのを防ぐものだが、この機能をしっかりテストするためには、エストリル・サーキットを何周か高速で周回したいところだ。いずれにしろ、XSR900 GPのブレーキングが信じられないほど安定していることは注目に値する。これはおそらくホイールベースが比較的長いためでもあるだろう。
XSR900 GPは高速道路で意外にも快適だ
溶けたタイヤでサーキットを後にして高速道路に向かうと、そこではXSR900 GPの多用途性が強調された。標準装備のクルーズコントロールはリラックスして長距離走行する際に役に立つ。また、今回の試乗会でヤマハは、XSR900 GPのシート下にディスプレイとBluetooth接続させたスマートフォンを備え付けることで、ナビゲーション画面をバイクのディスプレイに表示させる機能を私たちに試させてくれた。新しいスイッチギアにより、標準画面とナビゲーション表示画面の切り替えも容易だった。
試乗会の参加者のうち背の高いライダーたちは、長い一日をXSR900 GPのシートの上で過ごした後、手首に体重がかかることに不満を述べていたが、身長170cmの私は終始快適だった。なお、フットペグは位置調整が可能だ。
もし私がXSR900 GPを所有するとしたら(正直に言うと、自分のガレージにこのバイクが置いてあったらどれほど見栄えがするか今も考えている)、おそらく公道の速度域でよりシルキーな感触となるようにフロントフォークを少し柔らかい設定に変更するだろう。
また、オプションのアクラポビッチ製エキゾースト(編集部注:日本未発売)と燃料タンク用プロテクションパッドに、休日に家族で出かけるための資金をつぎ込むかもしれない。アンダーカウルキットは、私が所有している古いFZ600がそうであるとおり、ハーフフェアリングのスタイルが好みなので購入を見送るだろう。
XSR900GPは「ルックスも性能も非常に魅力的」
このステキなバイクを選ぶのに難しい理由はいらない。私もXSR900 GPに夢中で、多くの購入検討者と同じ道をたどる1人になると確信を持って予測している。ヨーロッパでは、車両価格が発表される前にディーラーが注文を受け付けていた。XSR900 GPはノスタルジーを満足させ、アナログの過去とデジタルの現在を見事に融合し、どこでも優れた性能を発揮できるスポーティで多用途なロードバイクを欲する心を刺激するマシンである。
私には1990年代にヤマハのバイクと過ごした楽しい思い出があるので、少し偏見があるかもしれない。確かに、GSX-RやRGVに乗っているスズキ好きの友人の中には、XSR900 GPに目を引かれないライダーもいるだろう。若いライダーの中には、懐かしさを感じられない人もいるかもしれない。しかし、たとえレトロなスタイルが役に立たなかったとしても、XSR900 GPは依然として優れたロードバイクだ。
MT-09の優れた品質とライダーエイドに、XSR900のレトロなスタイルが持つ特長を組み合わせたバイク――ヤマハは間違いなしの決断をしたはずだ。このバイクはFZ750やTZR250ではない。しかし、2024年製バイクとしては性能だけでなく、にじみ出る歴史と個性が大きな魅力となっている。……やはり、私のガレージに置いておきたい1台だ!
ヤマハ XSR900 GP主要諸元(国内仕様)
価格●143万円 発売日●2024年5月20日
【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:78.0×62.0mm 総排気量:888cc 最高出力:88kW(120ps)/10,000rpm 最大トルク:93Nm(9.5kgf・m)/7,000rpm 燃料タンク容量:14L WMTCモード燃料消費率:21.1km/L 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:2,160 全幅:690 全高:1,180 ホイールベース:1,500 シート高:835(各mm) 車両重量:200kg タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17
【カラー】
シルキーホワイト、パステルダークグレー
レポート●Adam Child 写真●ヤマハ/Ant Productions まとめ●林 康平