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「GSX-S1000GX 開発チームが語る、スズキらしい走りの追求」電子制御をフル活用するが、依存はしない【走行性能&新技術編】

スズキ初のクロスオーバーモデル「GSX-S1000GX」

世界的に大きな市場となっているアドベンチャーカテゴリーに、スズキは2024年モデルとして新型車「GSX-S1000GX」を投入。日本国内でも2024年1月25日から販売が始まっている。

様々なメーカーの参入などアドベンチャーカテゴリーは隆盛著しいだけに、今日では差別化・細分化も進んでおり、オンロード性能を重視したモデルは「クロスオーバー」と呼ばれる。
GSX-S1000GXもクロスオーバーに該当する1台で、1000cc4気筒エンジンを搭載するスポーツネイキッドGSX-S1000がベースとなっている。

しかし、ただのバリエーションモデルと思ったとしたら、それは大きな間違いだ。というのも、スズキ初のクロスオーバーとして開発されたGSX-S1000GXは同社として初めて電子制御サスペンションを採用するなど、気合の入れ方が半端ではないのだ。

そのGSX-S1000GXに関して、スズキは2024年2月29日、国内報道陣向けに開発陣による技術説明会を開催。5名のエンジニアから設計思想や最新技術の解説が行われた。
当記事では、電子制御グループの柳田祥之さん、プラットフォーム設計グループの宮川敬太郎さん、品質監理グループでテストライダーを務めた田畑 廉さんのコメントから、GSX-S1000GXの走行性能について迫っていく。

GSX-S1000GX スズキ 開発 チーム
GSX-S1000GXの技術説明会に登壇した5名のエンジニア。左から、デザイングループの小川和孝さん、電子制御グループの柳田祥之さん、チーフエンジニアの野尻哲治さん、プラットフォーム設計グループの宮川敬太郎さん、品質評価グループの田畑 廉さん

6軸IMUを搭載し、バンク角や車体姿勢に応じた電子制御を多数採用

電子制御グループの柳田祥之さんからは、GSX-S1000GXに採用されているスズキの最新電子制御デバイスの解説が行われた。記者会見後に行われた質疑応答によれば、電子制御サスペンションはショーワとスズキの技術によるもので、共同開発というよりは、互いの得意分野を生かしつつ融合させた新技術だそうだ。

「GSX-S1000シリーズでは初採用となる6軸IMU(筆者注:ボッシュ製)を搭載しました。これによってスマートT.L.R.コントロール、モーショントラックブレーキシステム、スロープディペンデントコントロールシステムを含むさまざまな電子制御システムをGXで初採用しています」

エンジンの出力をはじめ、各種電子制御デバイスを連動して変更する「スズキドライブモードセレクターアルファ」(SDMS-α)も、GSX-Sシリーズでは初採用となる。つまり、GXはスズキの最新テクノロジーを集結させたモデルであり、ハヤブサがトップに君臨しているものの、GXはスズキのフラッグシップといって過言でないバイクといえるだろう。

二輪第一技術部・電子制御グループの柳田祥之さん

電子制御サスペンションにはどんな機能があるのか

もうひとつ、スズキが初採用した新技術が、電子制御サスペンション「スズキアドバンスドエレクトロニックサスペンション」(S.A.E.S.)だ。これについてはプラットフォーム開発グループの宮川敬太郎さんが説明をした。

フロントフォークは右側にスプリング+ダンパー、左側をスプリングとしたショーワのSFF(セパレート・ファンクション・フォーク)を電子制御化したもの。
フォーク右側にはサスペンションストロークセンサーがあり、1/1000秒単位で減衰力制御を行う。左側にはカートリッジを内蔵し、ソノレイドバルブによって伸び側・圧側の減衰力を調整する。
リヤサスペンションはショーワのBFRC-lite(バランス・フリー・リヤ・クッション・ライト)をベースに、電子制御油圧バルブ、電子制御式プリロード調整機構を組み込んだもの。

「S.A.E.S.には、ソフト、ミディアム、ハードのほか、ユーザーが好みに設定できる4種のモードがあります。メリットとしてはまず自動であることです。前後サスペンションの減衰力調整に加えてリヤサスペンションにモーターを設けることで、プリロードも4段階に電子制御しています。こちらはオート、一人乗り、一人乗り+荷物、二人乗り(筆者注:荷物の有無を問わない)、の4モードとしました。

オートモードでは、オートレベリング機能と減衰力の2つの補正制御を行っています。オートレベリング機能は、ライダーが乗り降りしたときや、荷物を積んだり下ろした後に数秒間走行すると、車両姿勢の変化を検知して適切な姿勢を維持するために自動的にリヤサスペンションのプリロードを自動調整する機能です」

プリロードの自動調整は、1mmを調整するのに約1秒かかる。プリロード調整幅は10mmだから、最弱から最強まではおよそ10秒を要することになるが、基本的にプリロードは中間付近で調整するため、たいていの場合、プリロード調整にかかる時間は3秒程度だという。

「減衰力の自動調整機能も、ソフト、ミディアム、ハード、ユーザーの4モードがあります。機械式に比べて電子制御式のほうが調整幅が広く、大きな差があります。グランドクロスオーバーとして、GSX-R1000のようなスポーツ性能とともに、アドベンチャーツアラーに求められる快適性と利便性、さまざまなシチュエーションに対応するハンドリングを可能にしました」

ユーザーモードでは、ソフト/ミディアム/ハードをベースとして、前後それぞれをプラスマイナス3で微調整できるため、体重や荷物、乗り方に合わせて細やかにカスタマイズできる。

「基本の姿勢制御を決めるVTマップ制御を採用しています。これは前後サスペンションのストロークセンサーを用いてストロークスピードをSCU(サスペンションコントロールユニット)にて演算し、ストロークスピードに応じて減衰力を変化させるものです。この設定を変えることで減衰モードの違いを生み出しています。

そして、ここに車速を加えることで、車速に応じた減衰力調整も可能としています。これがスズキベロシティディペンデントコントロール(SDVC)です。ソフト、ミディアム、ハード、これらの設定は低速域では減衰力の差を生みますが、高速域になるとすべて同じ減衰力へと自動で設定されます」

たとえば電子制御サスペンションをソフトにしていた場合、低速域では乗り心地がいいが、高速域になると路面のギャップを拾うとサスペンションの減衰の収束が遅れ、車体が不安定になってしまう。SVDCを組み込むことで、設定はソフトのまま高速道路を走行しても車体の安定性も保たれるのだ。
ちなみに電子制御サスペンションは、路面状況と車体姿勢の変化を1000分の1秒単位で検知し、その結果を演算して減衰力を調整している。

「スズキディセレレーションダンピングコントロール(SDDC)は、IMUから送られる減速Gをパラメータに加えることで、ブレーキによる車両の姿勢変化をスムーズに収束させ、理想的なピッチ動作となるよう最適な減衰力に制御するものです。これは常時動作しているので、ライダーは設定する必要がありません」

これは、いわゆる急制動時のノーズダイブ、フロントフォークが深く沈み込むことで前のめりの姿勢になることを防ぐ機能だ。かといってまったくノーズダイブしないわけではなく、あくまで自然な姿勢変化に抑えることで、ブレーキからコーナリング動作への移行をスムーズにしてくれるものだ。

「スカイフック理論によるサスペンションの電子制御(スズキフローティングライドコントロール=SFRC)を効かせすぎると、乗り心地は向上しても、タイヤの接地感をはじめとするロードインフォメーションが減ってしまうため、ライダーがバイクを操る楽しさを減らしてしまうことがわかりました。

そこで『スズキらしい、乗って楽しいバイク』にするために工夫したのが、スズキロードアダプティブライドシステム(SRAS)です。これはスズキ独自のプログラムで、開発当初は予定にありませんでした。しかし開発を進めるうえで必要であることがわかり、作ったものです。

また、SFRCは路面状況に応じて自動的に調整されますが、オフにすることもできます。これはライダーの気持ちを優先したもので、私個人としても好きな機能です。スズキ初ということで苦労もありましたが、自信を持って皆様におすすめできるものになったと思っています」

これらはスロットル操作とも連動しており、不整地走行時にギャップを拾った際、不意にスロットルを開けてしまった場合に急激な加速をしないよう、スロットル応答性を落とすよう設定されている。

二輪第二技術部・プラットフォーム設計グループの宮川敬太郎さん

スポーツ性と快適性を両立した走りを追求

テストライダーを務めた田畑廉さんからは、電子制御サスペンションの特性を生かし、走行フィーリングを入念に煮詰めていった過程が語られた。

「開発段階では主だった販売国で開発を行うことが多いのですが、GXでは新型コロナ禍のためそれができませんでした。そこでヨーロッパからライダーを招き、スズキが所有する北海道のテストコースで開発を行いました。そこはヨーロッパの道路を模して作ったもので、主に四輪車のテストに使われています」

その後、コロナ禍が落ち着いてからはテスト車両をヨーロッパへ送り、さらなる開発を続けたという。

「GXにはさまざまな電子制御を採用していますが、開発の念頭にあったのは『やりすぎない制御』です。日本の道路の速度域では、バイクは安定して走れます。そのため開発初期では、ライダーによっては電子制御が過保護に感じてしまうことがあったのです。それからはバランスの取れた制御を目指して開発を進めました。

たとえばノーズダイブですが、ここに補正をかけすぎるとフロントフォークが沈み込まないためクリッピングポイントをつかみにくく、旋回しにくい症状がありました。補正を入れつつ自然な旋回ができるよう調整を繰り返しました。これはトラクションコントロールも同じです」

電子制御による補正が入っていることにライダーが気づかなくても、しっかりと補正がかかっている。そのように滑らかな介入を目指し、開発が進められた。

「それでも開発を進めていると、『何のための制御なのか』と思い悩む場面もありました。安全性と快適性を追求して電子制御を強く効かせていくと、最終的には電子制御ありきのバイクになってしまい、GSX-S10000GX本来の乗り味が薄れてしまったのです。走らせる楽しさとのバランス、やりすぎない制御を作ることが重要でした」

乗り心地の良さを決める大きな要因はサスペンションにある、と田畑さんは言う。クロスオーバーのGXは長いストロークを持つサスペンションを装備する。減衰力をソフトにすれば、乗り心地は良くなるが、高速走行時の直進安定性、俊敏なハンドリングなどとトレードオフになる。
スズキ初となる電子制御サスペンションをGXに導入したのは、スポーツ性と快適性を理想的な次元で両立するためだろう。

「テストライダーとしてとくにおすすめしたいのは、スズキロードアダプティブライドシステム(SRAS)です。ハード、ミディアム、ソフトの3種類の減衰力は乗ればすぐに違いがわかります。これがこのバイクのおもしろさで、モードを変えて乗っていただきたいです。

このバイクのいちばんのウリといっていい電子制御サスペンションによって、スポーツ性と快適性を両立させることができています。また、GXはライダーとバイクの一体感を強く感じられます。一体感とは、リラックスした状態で乗れること、イメージしたとおりに加速できるといった点です」

二輪第一技術部・品質監理グループの田畑 廉さん

GSX-S1000GXはハヤブサと並ぶスズキの最高峰モデルと言えるかも

スズキ・スポーツモデルの王者といえばGSX-R1000だったが、生産終了となった今、その血統はGSX-S1000シリーズに継承されている。その中でも豊富な電子制御デバイスを搭載し、とりわけ電子制御サスペンションを採用してスポーツ性能の次元を引き上げたGXは、まごうことなきスズキのフラッグシップスポーツといえるだろう。

スズキにはもう一台、ハヤブサという確固たるフラッグシップが存在するが、そのルーツやアイデンティティを考えれば、GXとともにスズキの両翼を担うパートナーといえる。それは曲面を多用した有機的なボディの隼と、直線的なレイヤー構造を巧みに作り上げたGXとの対照的なデザイン思想の違いにも表れている。

GSX-S1000GXは、それだけ重要な役割を担うべく「究極のGSX-S」として生まれたのだ。

レポート●山下 剛 写真●山下 剛/スズキ 編集●上野茂岐

スズキ GSX-S1000GX

スズキ GSX-S1000GX主要諸元

【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク73.4×59.0mm 総排気量:998cc 最高出力:110kW(150ps)/1万1000rpm 最大トルク105Nm(10.7kgm)/9250rpm 燃料タンク容量:19L 変速機:6段リターン

【寸法・重量】
全長:2150 全幅:925 全高:1350 ホイールベース:1470 シート高:830 最低地上高:155(各mm) 車両重量:232kg タイヤサイズ:F120/70ZR17 R190/50ZR17

【価格】
199万1000円

【車体色】
トリトンブルーメタリック、パールマットシャドーグリーン、グラススパークルブラック

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