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2023年型のフルモデルチェンジで大幅に進化したドゥカティ スクランブラーシリーズ
2023年型でフルモデルチェンジが行われる前のスクランブラーは適度に肩の力が抜けたバイクで、「こういうのもアリかな」という、どちらかといえば緩い印象を筆者は抱いていました。販売終了してしまったモデルですが、400ccのSixty2も同様で、個人的には「ドゥカティのお気楽バイク!?」という感じが強かったです。
ですが、2023年型から「NEXT GEN(ERATION)」というキャッチフレーズを掲げたドゥカティ・スクランブラーシリーズは「新世代」という言葉にふさわしい進化、向上を遂げています。
もはや、肩の力が抜けたとか、緩いといった表現は不適切だと思い知りました。パニガーレやムルティストラーダなどに匹敵するような、ドゥカティの本気がビシビシと伝わってくる仕上がりに驚かされたのです。
フレームの改良などで軽量化された車体、ライド・バイ・ワイヤを採用した改良型エンジンといった「バイクの本質」=走りをつかさどるパートを見れば、それは一目瞭然。デザインこそ先代同様にカジュアルな路線ですが、別物に化けたといっても過言ではないのです。
ここにきて、ドゥカティの派生モデル……という感じではなく「スクランブラー」というブランドをより強固してきた、という印象を受けました。
スクランブラー・フルスロットルの特徴
今回テストしたのはスクランブラー・フルスロットル。
最新のスクランブラーシリーズは空冷の800ccL型2気筒エンジンを搭載する3モデル──アイコン、フルスロットル、ナイトシフトがラインアップされています。エンジンやフレームなどは共通ですが、それぞれに独自の世界観があるのがわかります。
そうしたなかで、フルスロットルは「街で最速のルック」というのがキャッチフレーズで、フラットトラッカーをイメージしたモデル。
タンクからフラットシート、そしてサイドのゼッケンプレートへのスムーズな連続面が、バイクをギュッと筋肉質に見せていることがわかります。静止しているにもかかわらず、グイグイと躍動感を漂わせるのはドゥカティお得意のデザインワークでしょう。
シート高は795mmですが、シート前方が細くなっているのに加え、車重は185kgと引き起こしも軽い。800ccある「大型バイク」とは思えないコンパクトな感覚です。気軽にサラッと乗り出せる、こうしたバイクは長く楽しむことができると思います。
シートの座り心地はどちらかといえば硬めですが、フラットな形状で前後に体を動かしやすいので、お尻が痛くなったらポジションをずらして対応しやすいと思います。タンデムスペースも過不足はなく、よほどの長距離でなければ文句は出てこないかと。
シートはキー操作だけで取り外し可能ですが、内部のスペースはETC車載器を置くくらいでいっぱいになりそうです。
メーターは4.3インチのフルカラー液晶モニターとなり、キーONでオープニングアニメーションがあるのも今どき。基本的にはシンプルで見やすく表示内容に不満も出ないでしょうが、年配の方は一部の文字が小さいと感じるかもしれません。
さて、エンジンをスタートすると、フルスロットル専用装備のテルミニョーニマフラーが元気のいい排気音を奏でてくれます。そうはいってもメーカー純正であり各種基準を満たしたものなので、深夜早朝に遠慮したくなるようなボリュームではありません。
軽量化、電子制御スロットル採用の改良型エンジン
800ccの空冷Lツインエンジンは2023年型のモデルチェンジで2.5kg軽量化されたほか、前述のとおりライド・バイ・ワイヤ=電子制御スロットルを採用。それにともない、もちろんエンジンマッピングも変更されているほか、「スポーツ」「ロード」の2種のライディングモードを選択できます。
最高出力73ps/8250rpm、最大トルク6.6kgm/7000rpmの性能で、6000~7000rpmくらいの反応が特によく、中間加速がとにかく痛快! 追い越しをかけるときなどでも、その辺の感覚はすぐに味わえるかと。スロットルの反応とバイカーの気持ちが直結しているかのような一体感があるのです。
フルスロットルの特徴はライディングポジションにあり!?
3つのスクランブラーの中でも、フルスロットルならではの特徴、それはハンドル、ステップ、フラットシートからなるライディングポジションかもしれません。
タンクをホールドし、軽く前傾をすると上半身は脇が開くアタックポジションとなり、つま先が自然と下を向いてステップを後方へ蹴り出すようなイメージ。また、乗車中の腰の位置はちょうどスイングアームとリヤショックの付け根の上にある感じなのでしょう、エンジンだけでなく、シャシーもまたバイクと人の一体感が強いのです。
腰や下半身でバイクを操る感覚は、バイクに乗る醍醐味のひとつ。それをフルスロットルはダイナミックに味わえるのです(ただ、体格によって感じ方の違いはあるかもしれません)。
最新のスクランブラーシリーズは、これまで車体左側にオフセット配置されていたリヤショックが、一般的なスポーツバイクのようにスイングアームの中央付近へと変更されています。そして、スイングアームも新設計。
これらにより、乗り心地が良くなったほか、リヤタイヤの動きがより分かりやすくなり、前述の一体感にも貢献しているのだと思います。
だからでしょう、コーナリングでは進入のブレーキングから、クリップ、そして脱出までのプロセスで自分が上手くなったかと思うほど、キレイなラインが描けるんです。
トラクションコントロールはもちろん搭載、ABSはバンク角応答式
足まわりや装備も頼もしいもので、フロントブレーキは330mmシングルディスクにブレンボ製ラジアルマウントキャリパー。これで効き方に注文をつける方はそう多くはいないでしょう。フロントだけでなく、245mmディスクのリヤブレーキともに十分なストッピングパワーがあり、フィーリングについてもスムーズなことこの上ありません。
また、バンク角を制御に生かす「コーナリングABS」が装備されているのは安全面でうれしいポイントですね。
スムーズといえば、スクランブラー・フルスロットルはアップ・ダウン両方に対応するクイックシフトシステムが標準装備されています(スタンダードグレードといえる「アイコン」ではオプション)。
この作動感もまたスムーズで、ペダル操作だけで精緻なシフトチェンジを決めてくれます。
とはいえ、クラッチレバーを握ってのシフトチェンジもバイクを操る醍醐味ではありますが、改良されたエンジンはクラッチプレートが8枚となり、レバーの操作感は柔らかくてじつに軽いタッチ。ゆえに、クラッチレバーを使っても、クイックシフトシステムを使っても、上質なライディングが楽しめること請け合いです。
ちなみに車名でもある「スクランブラー」とは、大昔、オンロードバイクをベースに悪路を走れるよう改造したバイク(のジャンル)に由来します。というわけで、ちょっとした未舗装路も走ってきましたが、セミブロックパターンのタイヤ、よく動くサスペンションのおかげで不安なく進め、十分な走破性があります。
スクランブラー・フルスロットルが装備するフラットトラックレーサーをイメージしたという幅広のハンドルがオフロード車のような感覚で、オフロードでスタンディングをしながら操るのにも向いています。
こうした場面では新たに装備されたトラクションコントロールがさりげなく介入し、わずかなサイドスリップにもきちんと補正がかかっていました。
気軽に走り出せるが、走りは本格的
バイクとしての仕上がりがここまで引き上げられた一方、フルスロットルを含めスクランブラーシリーズは若干価格が上がってしまいましたが、内容を考えれば致し方ないところでしょう。フルスロットルの149万9000円という新車価格は、ドゥカティの定番ネイキッド・モンスターに近づいています(モンスターは151万4000円~)。
ですが、モンスターとスクランブラー・フルスロットルの決定的な違いは「気軽に乗り出せるか否か」ではないでしょうか。スクランブラー・フルスロットルはスポーツライディングも楽しめるけど、毎日乗っても気疲れしない。つまり、バイクに乗る機会や時間が生活の中で増えるかと。
スクランブラー・フルスロットルはその点で、モンスターだけでなく多くのバイクを引き離している気がします。ランニングもできるし、普段履きしてもいい優れたランニングシューズのような存在と言えるかもしれません。
加えて、コーナリングABSやトラクションコントロールといった安全面にも効果があるライダーサポートも満載ですから、バイクライフをより充実させたいという人には迷わずおすすめできる1台です。
レポート&写真●石橋 寛/ドゥカティ 編集●上野茂岐
ドゥカティ スクランブラー・フルスロットル主要諸元
[エンジン・性能]
種類:空冷4ストロークL型2気筒2バルブ ボア×ストローク:88mm×66mm 総排気量:803cc 最高出力:53.6kW(73ps)/8250rpm 最大トルク:65.2Nm(6.7kgm)/7000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:── 全幅:── 全高:── ホイールベース:1449 シート高:795(各mm) 車両重量:185kg タイヤサイズ:F110/80R18 R180/55R17 燃料タンク容量:13.5L
[価格]
149万9000円