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ミドルアドベンチャーのライバルが増えてきたなか、テネレ700の立ち位置とは
近年の二輪の世界では、多くのメーカーがミドルクラスのアドベンチャーツアラーに注力している。そんな中で、ライバル勢に多大な影響を及ぼしつつ、孤高の存在として人気を獲得しているのがテネレ700だ。
海外では2019年、日本では2020年から販売が始まったテネレ700は、MT-07とXSR700に次ぐ、ヤマハのCP2=クロスプレーン2気筒シリーズ第3弾である。そして、2016年に公開されたテネレ700の先行試作車ともいえる「T7コンセプト」の写真を初めて目にしたとき、僕は猛烈にワクワクした。
その一番の理由は、エンジンの開発ベースとなったMT-07に好感を抱き、アドベンチャーツアラーへの発展を期待していたからだが、1990年代のパリダカで7勝を挙げたYZE750T/XTZ850Rを彷彿とさせるオフロード重視の構成も、個人的にはかなりのツボだったのだ。
とはいえ、あれから6年以上が経過した現在、テネレ700にそういった特別な感情を抱く人は少なくなったように思う。何と言ってもここ最近は、アプリリア トゥアレグ660やホンダ XL750トランザルプ、スズキ Vストローム800DEなど、テネレ700との共通点を感じる(いずれの車両も、エンジンは270度位相クランクのパラレルツインで、フロントタイヤは悪路走破性を意識した21インチ)、新設計のミドルアドベンチャーツアラーが次々と登場しているのだから。
もちろん、2018年からクランク位相角を360→270度に変更したBMWのF-GSシリーズや、2019年以降のKTM/ハスクバーナが販売している799/899ccパラレルツインのミドルアドベンチャーツアラーも(クランク位相角は独創的な75度)、テネレ700のライバルだ。
ちなみに、そういったライバル勢がエンジン特性切り替え機構やトラクションコントロールを筆頭に、多種多様な電子制御を導入しているのに対して、テネレ700の電子制御は利き方が任意で変更できるABSのみ(2023年型までは前後オンと前後オフの二択だったが、2024年型からは後輪のみオフも選べるようになった)。
そして最高出力に注目すると、テネレ700の73馬力は非力な部類である(最もパワフルなKTM/ハスクバーナは105馬力)。
だからだろうか、最近はテネレ700に対して、基本設計の古さを感じる、性能的に物足りない、などと言う人がいるようだが……。
過剰でないパワー、シンプルな電子制御「素材の魅力が存分に味わえる」テネレ700の走り
今回の試乗で久しぶりにテネレ700を体験した僕は、そんなことは微塵も感じなかった。というより、パワーは必要にして十分だし(法的に許されるなら、180km/h前後での巡航ができそう)、パワーが多すぎないからこそ、電子制御のサポートは不要と思えたのだ。こういった感触は、料理や衣服などの評価でよく使われる「素材の魅力が存分に味わえる」という言葉に通じるような気がする。
いや、それだけでは言葉足らずか。そもそもの話をするなら、車重が軽く(205kgの装備重量は、依然としてクラス最軽量)、スロットルを開けた際のトラクションが実にわかりやすく、前後サスペンションのピッチングがナチュラルで心地いいこのバイクは、どんな場面でも自分の意思で操っている感が濃厚に味わえるから、とにかくライディングが楽しいのだ。
そんなテネレ700にあえて苦言を述べるとすれば、ストイックにオフロード性能を追求した結果として、一般的な日本人の基準で考えると、シート高がなかなか厳しい875mmになったこと。
もっとも個人的には、足着き性に多少の難があっても、理想の乗り味を追求した開発陣の姿勢には漢気を感じるし、日本仕様は当初からシート高が837mmとなるロー(スタンダードとの相違点は、ウレタンを薄くしたシートと車高を下げるリヤサスペンションのリンク)を設定しているので、この件は大きな問題ではないと思う。
それだけに、ツアラー性能を高めたバージョンにも期待してしまう
ただし一方で僕としては、2023年秋に欧州で公開されたバリエーションモデル、エクスプローラーの国内導入を期待している。リヤサスペンションのリンクを変更することなく、前後ホイールトラベルを210→190mm(前)、200→180mm(後ろ)に短縮し、本来のウレタン厚を保ったままシート高を860mmに下げ、大型スクリーンとパニアケースステーを装備するエクスプローラーが日本でも発売されたら、ツーリング好きを中心にして、テネレ700は今まで以上の支持が得られるんじゃないだろうか。
ヤマハ テネレ700の特徴・装備
■ダウンチューブをボルトオン式とした、スチール製ダブルクレードルフレームは専用設計。今どきのアドベンチャーツアラーの基準で考えると、27度のキャスター角は一般的だが、1595mmのホイールベースは長め。
■リヤサスペンションがリンク式であることは他のCP2シリーズ(MT-07、XSR700、YZF-R7)と同様。ただしそれらのショックユニットが大きく前傾しているのとは異なり、テネレ700はほぼ直立に配置されている。
■コクピットは旅心をそそる雰囲気。試乗車は2023年型で、メーターはモノクロ液晶、電源は12Vソケットだが、2024年型からはカラーTFT/USBを採用。
■2024年型テネレ700のメーター。
■サスペンションは前後ともKYB製。インナーチューブ径43mmの倒立フォークは、トップに伸び側、ボトムには圧側ダンパーアジャスターを装備。リヤショックはフルアジャスタブル式で、プリロードは工具を使わずに調整することが可能。純正指定タイヤはオンオフ指向のピレリ・スコーピオンラリーSTR。
■オフロード車然とした雰囲気でも、シートは前後分割式。タンデムシート左右には荷かけフック×4が装備されている。
レポート●中村友彦 写真●岡 拓 編集●上野茂岐
ヤマハ テネレ700主要諸元(2024年型)
2023→2024年型になった際に以下の5点が改良されているが、エンジン性能数値、ギヤ比、重量、車体寸法は2023年型と同様。
- ABSモードに「後輪のみオフ」のモードを追加。前後輪オン、前後輪オフと合わせて計3モードに
- クイックシフター(アップのみ対応)がオプションで装着可能に
- 5インチのフルカラー液晶メーターを採用(従来型はモノクロ液晶)
- USB充電ソケットを装備
- 前後ウインカーがLEDに
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:80.0mm×68.5mm 総排気量:688cc 最高出力:54kW<73ps>/9000rpm 最大トルク:69Nm<6.9kgm>/6500rpm 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:2370 全幅:905 全高:1455 ホイールベース:1595 シート高:875(各mm) タイヤサイズ:F90/90-21 R150/70R18 車両重量:205kg 燃料タンク容量:16L
【価格】
139万7000万円
【車体色】
ブルー、マットグリーニッシュグレー、ホワイト
■YSP(ヤマハ モーターサイクル スポーツ プラザ)
■ヤマハ発動機(バイク・スクーター)