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ホンダ「E-クラッチ」は操る楽しさを拡大する進化版MT 「切る・半クラ・つなぐ」を完全代行してくれるが、手動のレバー操作にも即時対応!

E-Clutch E-クラッチ ホンダ

世界初の二輪車用変速機構「Honda E-Clutch」(以下E-クラッチ)が2023年11月7日に、イタリア・ミラノで開催される世界最大級の二輪車ショー「EICMA」のタイミングで発表された。
そのネーミングと発表段階で公開された透視図から、2つのモーターと複数のギヤを組み合わせることでクラッチ操作を行う機構であろうことは明らかだったが、ホンダが日本の報道陣向けに技術説明会を開催したので、あらためて「E-クラッチ」の内容について整理してみたい。

■左から、二輪・パワープロダクツ事業部で大型二輪カテゴリーを統括する坂本順一さん、E-クラッチ開発責任者の小野惇也さん、E-クラッチ制御プロジェクトリーダーの竜﨑達也さん、E-クラッチ駆動系研究プロジェクトリーダーの伊東飛鳥さん。

ホンダは古くから「変速操作の簡易化」に取り組んできたメーカー

説明会にて、ホンダの二輪・パワープロダクツ部門において大型カテゴリーを統括する坂本順一さんは、「ホンダは世界一のパワーユニットメーカーであり、二輪事業では利便性、簡便性の拡大に取り組んできました」と話し始めた。
たしかに、ホンダは二輪に限ってみても、さまざまな排気量のエンジンに多様な変速機構を用意している。

たとえば、スーパーカブ系のパワーユニットには広く「自動遠心クラッチ」が採用されている。この機構の登場は初代スーパーカブ(1958年)だというから二輪のオートマ化……というか、変速操作の簡易化には積極的なのだ。
続いては、1962年に油圧・機械併用のバタリーニ式無段変速機構を搭載したジュノオM85を発売。手動変速も併用するものだったが、同車はホンダ初のオートマチックスクーターとなった。
1979年には原付ファミリーバイクのカレンにホンダでは「Vマチック」と呼ぶベルト式のCVTを初採用。1980年のタクトを皮切りに、スクーターでは定番の変速機となっていった。

「初代スーパーカブ」ことスーパーカブC100(1958年)
ジュノオM85(1962年)
カレン(1979年)

一方、中〜大型のロードスポーツモデルにもAT機構を古くから用意しており、1977年にCB750フォアをベースにトルクコンバーター式ATを組み合わせた「エアラ」を発売している。
21世紀に入ってからでも、2008年の油圧機械式無段変速機「HFT」(ヒューマン・フレンドリー・トランスミッション)を搭載したDN-01を投入。そして、2009年から2010年にかけてDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を開発。VFR1200Fに初採用され、二輪車で世界初のDCT搭載車となった。
現在ではゴールドウイング、CRF1100Lアフリカツイン、NT1100、NC750Xと搭載車を幅広く展開し、DCTがファン領域モデルの中心的なオートマチック機構として認知されているのは言うまでもないだろう。
なお、二輪車用DCTを実用化し、市販している二輪メーカーは世界広しと言えどホンダだけである。

エアラ(1977年)
DN-01(2008年)
VFR1200F(2010年)

かように、「変速操作の簡易化」に関していくつものチャレンジがあったわけだが、ホンダはDCTの誕生によって満足したわけではなかった。
10年ほど前にマニュアルトランスミッションをベースとした、新しい変速機構の開発がスタートしていたのである。
そうして生まれたのが「E-クラッチ」というわけだ。

システム起動中でも、手動のレバー操作をすぐに受け付ける点が特徴

その仕組みを簡単に記せば、左手でクラッチレバーを操作するという基本構造はマニュアルトランスミッション車と同様のまま、エンジン側のクラッチレバーを3分割構造とすることで、手動によるマニュアルのクラッチ操作と、モーターによる自動操作を両立するというもの。そして機械に任せておけば、シフトチェンジや停止・発進というあらゆるシチュエーションにおいてクラッチ操作を機械に任せておくことができる。

ちなみに、クラッチや変速機構の歯車といった部分は通常のマニュアルトランスミッションと同様となっている。クラッチにしても、モーターによる自動制御より人がレバー操作をすることの方を優先した構造となっているため、ライダーが左手でレバーを握った瞬間にマニュアル操作のバイクとなる。
なお、クラッチレバーが存在するのでAT限定免許では乗れない。

E-クラッチを搭載したCB650Rのエンジンカットモデル
E-クラッチの全体構造と制御の仕組み。
E-クラッチのエンジン側クラッチレバーの構造と作動の仕組み

「E-クラッチ」機能をオンにしていたとしても自動制御となるのはクラッチ操作のみである。そのためシフトチェンジについては完全にライダーが行う必要があり、自動変速は行われない。
加速するときのシフトアップはもちろん、減速時にはシフトダウンが必要であるし、信号などで停止した際には1速に落とす必要がある。いわゆる「オートマ」ではないのだ。

とはいえ、停止時にはクラッチを切った状態を維持してくれるのでニュートラルに入れて待っておく必要はない。再発進に備えて1速に入れておけばいい。発進する際には、スロットルを右手でひねれば、その操作を検知してクラッチをつないでくれる。
なお、「E-クラッチ」初搭載となるのはCB650R、CBR650Rだが、その650ccエンジンとの組み合わせであれば4速程度までは半クラッチを多用してジワジワとした速度ながら停止→発進ができるという。仮にエンストしそうになっても瞬時にシステムによってクラッチを切ることができるので、基本的にエンストするといった心配は無用だ。

ただし、停止時に1速以外に入っているときはメーターにシフトダウンをうながすインフォメーションが出るという。それに4速発進が物理的に可能とはいっても、リアルな交通の流れを考えれば、1速以外で発進しようとすることはないだろう。

「E-クラッチ」のLPL(開発責任者)を務めた小野惇也さんは、2009年に入社、先行研究部門に配属されてからの14年間、二輪駆動系の開発に従事してきたという、この道一筋のエンジニア。その小野さんは「E-クラッチ」は操る楽しみの新提案であり、マニュアルトランスミッションの進化、と捉えているという。

冒頭でも記したように、「利便性に優れ、より簡便な操作で扱える。より安全で楽しい二輪車」というホンダの伝統から生まれた技術であり、昨今のホンダが目指す提供価値である「解放と拡張」を具現化したテクノロジーであるともいえるだろう。

例えば、渋滞時や疲れたときなどは「E-クラッチ」お任せという乗り方

決してオートマの新しいメカニズムではなく、マニュアルトランスミッションの進化形であるからして「人の可能性を拡張して、人馬一体の楽しみが味わえる」テクノロジーであると小野さんは主張する。
実際、リアルなシーンを考えてみても発進・停止、渋滞、フルブレーキングなどのシチュエーションにおいてクラッチ操作から解放されるというのは、幅広いライダーにとってメリットがあるだろう。

初心者であればフルブレーキングからの停止でクラッチをうまく切れずにエンスト→立ちゴケといったミスを防げる可能性もあるし、腕に自信のあるベテランであっても渋滞時の停止・発進でのクラッチ操作が自動化されるというのはメリットと感じるはずだ。
街乗りではクラッチ操作から解放され、スポーツライディングを味わうときには、ライダー自身でクラッチ操作を楽しめるというのは、まさに一粒で二度おいしいトランスミッションといえる。

しかも、クイックシフター制御+半クラッチ制御を行うことでワンランク上の走りを提供するというから、ビギナーからベテランまで幅広いライダーが、その恩恵に預かれることが期待できるのだ。
「E-クラッチ」のシステムは任意にオン/オフの変更が可能(停車時かつニュートラル時)。もし、あなたが「今日は完全に自分でクラッチ操作をするぞ」と思ったのならシステムをオフにすればいい。

すでに欧州で発表されているように、最初に搭載されるのはCB650R、CBR650Rからとなる。2024年の年明け欧州から順次発売、日本も同様のタイミングに登場することだろう。

ヨーロッパで2024年モデルとして発表されたCB650RのEクラッチ搭載車。なお、通常のMT車もラインアップされる
ヨーロッパで2024年モデルとして発表されたCB6R50RのEクラッチ搭載車
E-クラッチは任意でシステムオフにもできる

250cc〜1000ccまで、排気量に縛られず様々なモデルに応用可能という

冒頭で紹介した坂本さんによれば「どのモデルに初採用するかは議論になりました。その中で、CB650系を頭出しにした理由は、グローバルで年間3.5万台売れており、テクノロジーのコンセプト通り幅広いお客様に支持されているモデルだから」と話す。

3分割レバーと2個のモーター、そしてカウンターシャフトの回転数やレバーの角度を検知するセンサーを追加するというシステムだけに比較的安いコスト、重量増をせずに搭載できるというのもメリットだ。

重量的にはマニュアルトランスミッション比で約2kg増にとどまり、価格的にも、クイックシフターよりは高くなるだろうが、DCTよりはずっと抑えられるというのが、取材した印象。技術的・商品企画的には「250ccクラスから1000ccクラスまでが対象となる」という発言も聞かれるなど、幅広いファンモデルに順次採用されることが期待できる。

なお、現時点では考えていないというが、E-クラッチを搭載すればクラッチ操作不要で車両を動かすことができるわけで、クラッチレバーを無くしてしまうことも可能だそう。もしそのような仕様が登場すれば、AT限定免許で乗れることになるが、果たして……。

四輪にもクラッチペダルを残して、クラッチ操作を自動化する技術はあった

じつは、四輪においてもクラッチペダルを残して、操作を自動化・電動化するという開発は過去に行われていたことがある。
その狙いとしては、高速巡航時などに自動的にクラッチを切って、コースティング(惰性走行)させることで燃費を稼ぐというものが第一に挙げられていた。
そのほかにも、四輪では義務化が進んでいるAEB(衝突被害軽減ブレーキ)作動時にエンストを防ぐというのもクラッチ操作の電動化を開発するインセンティブになっていたと記憶している。

二輪についてもAEBの開発は進んでいるが、ライダーが意図しない急ブレーキでエンストして転倒してしまうという問題をクリアすることが課題のひとつになっている。
「E-クラッチ」を搭載したバイクであれば、AEBで急停止してもエンストはせずに済むだろう。車体の安定性を保つためには別の異なるデバイスが必要になるかもしれないが、二輪の先進安全性を高める技術としても注目といえそうだ。

E-クラッチを搭載したCB650Rのエンジン右面
通常のMT車との外観上の違いは、わずかにエンジンサイドカバーが張り出す点だけ
CB650R/CBR650Rに用いられるE-クラッチのユニット。重量増は通常のMT車に比べ、約2kgとのこと

レポート●山本晋也 写真●ホンダ 編集●上野茂岐

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