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新時代のGSをうたい、2023年11月23日より発売となった大排気量アドベンチャーモデルのBMW R1300GS。エンジンと車体をはじめとする大幅刷新に加え、各種電子制御機構でライダーサポートする万全のロングツーリングモデルは、どこを目指したのか? まずは一般道、ワインディング走行での印象をレポートする。
BMW新世代GSの目指した進化とは?
2013年の空水冷エンジン搭載での新R1200GS登場、2019年の排気量アップでのR1250GS。こうした10年間での進化・熟成を経て、GSはさらに進化した。BMW自身が「GS新時代の幕開け」とアピールする新型のR1300GSは、シンプルに言って「コンパクト化されたGS遺伝子」「軽量化」「複雑さの軽減」が3つの進化ポイントだという。
これでは具体性に欠いていて分かりにくいが、モデルの主要な特徴は以下とおりだと説明された。
- 前モデルに比べて90%以上のパーツを刷新
- 6.5kg軽量化されてコンパクト化された新しいボクサー・エンジン設計
- エンジン下部にマウントされたギア・ボックスと、延長したスイングアーム
- 前後にシンメトリ化された左右シリンダー
- これまでに生産された中で最もパワフルなBMWボクサー・エンジン
- 特に低・中速域の実用域でのトルクが大幅にアップ
- アルミ・モノコックリアフレームを備え完全に新設計されたフレーム
- EVOテレレバーとEVO パラレバーにより、さらに高い操縦精度と安定性
- 前モデルと比較して12kgの軽量化
- 業界初・電子制御式ダイナミック・サスペンション・アジャストメント(DSA)
- 新LEDヘッドランプ
- 小型リチウム・イオン・バッテリー搭載
- ハンド・プロテクターに統合されたウインカー
上記の項目を整理すれば、新型エンジンに力が入れられ、フレームを一新し、30年近く基本構成を継承していた前テレレバー、後パラレバーのサスペンションを進化させ、その上で車両全体で12kg軽量化したことになる。また業界初とうたう電子制御式DSAは、ライディングモードに連動してダンピングとスプリングレートを自動的に調整する機構だ(±2の範囲で任意の微調整も可能)。ライディングモードはエコ、レイン、ロード、ダイナミック、ダイナミックプロ、エンデューロ、エンデューロプロの7つ。ひとまず右手ボタンで呼び出せるモードをエコ、レイン、ロード、ダイナミックの4つに設定して、走ってみることにした。
■BMW社内のエンジニアやメカニックらが独自に改造して楽しんでいた800ccボクサーツインのオフロード仕様Sixdays Boxerを起点に、オンオフオールラウンダーとして初量産化されたのが空冷OHV2バルブ搭載のR80G/S(1980)。そこからR100GS(1987)へ発展し、1994年に空油冷ハイカムOHV4バルブエンジン+新型シャシーのR1100GSが誕生。R1150GS(1998)では重厚なツアラー方向となったものの、2004年には車体の全面刷新で約30kgの減量とエンジンの大幅改良で性能進化したR1200GSに。2013年には新型空水冷エンジンのR1200GSとなり性能が大幅にアップし、2019年には1169ccから1254ccへ排気量アップしたR1250GSへ。そして2023年のR1300GSで、新時代を迎えるわけだ。
■試乗車はR1300GSツーリングにオプション719(ハンドブレーキ&クラッチレバー、ハンドブレーキ&クラッチフルードカバー、スパークプラグカバー、ライダーフットレストシステム、ギヤシフト&フットブレーキレバー)を追加で標準装備した仕様で、塗色は専用のアウレリウス・グリーンメタリック。
■メインフレームがスチールパイプのトラス構造から、板金シェル構造のスチールフレームへと変更され、コンパクトなモノコックデザインのアルミ鋳造リヤフレームと組み合わせて軽量化&剛性強化。エンジンを含め12kgの軽量化を果たした車体。エンジン後方に大容量の排気コレクターを配置できたことで、サイレンサーの小型化も実施。
■12kg減の車重ながら、前から見ると大排気量アドベンチャーらしく相応なボリュームのある車体。特徴的なのは左右対称ヘッドライトで、X字型のポジションランプ、中央のプロジェクターヘッドランプが斬新。ヘッドライト上の黒い部分にACC用レーダーセンサーを内蔵。ウインカーはハンドプロテクター内蔵のLEDタイプに(GSスポーツを除く)。
■絞り込まれた印象に貢献する、小型化して内側に追い込まれたサイレンサー。これにより、パニアケースを装着時の張り出し幅の低減も果たした。テール&ストップランプはウインカーに内蔵されるタイプとなり、代わってテール中央部には車両後方の障害物を検知するレーダーセンサーを内蔵(その下の赤プレートは反射板)。
R1250GSより12kg軽い車体と「電脳」の進化
車体を押し歩きした感じは、以前に試乗したR1200GSより若干軽いかなという程度。全体で12kgほど軽くなったとはいえ、車庫から後退させ、前に押し歩く際など、相応に大きな車格を実感する。だが、またがると両足接地ではシートの足裏半分ほど浮く程度(身長173cmの場合)で、重量物がコンパクトに集中しているのか不安感も少ない。シート高が停止時に820mmまで下がり、走り出すと自動的に30mm上がる自動車高調整機能の恩恵も大きいだろう。
前後ショックアブソーバー内の油圧シリンダーにより、車高が50km/hから約3秒で上昇、25km/h以下になって約1.5秒で下降するこの機構。走り出し時も停止前も、上下降自体はきっちりしているのに実にさりげなく違和感がない。違和感がないといえば、フルインテグラルの前後連動ブレーキも同様だ。舗装の一般道から、枯れ葉や小枝の浮いた狭い舗装林道へ向かう道すがら、少し強めにフロントだけ、リヤだけとブレーキ操作をしても、逆側が違和感なく効き、車体が安定して減速。これがまた、上手い人の引きずりブレーキの操作みたいだ。ここでも、いかに滑らかにさり気なく作動させるかが重視されているようで、電子制御での作動がどんどん進化しているのを実感する。
一般道を数キロ走り、さらにさりげない感じで分かったことがある。取り回しでは相応のボリュームに感じた車体が、交差点の右左折、舗装林道での左右の切り返しで、従来よりかなり軽いのだ。軽量化は、2004年の空油冷版R1200GS、そして2013年の空水冷版R1200GSでも実感できたが、思い返してみるに、ここ20年間のGSは、万人が取り回しやすい方向性を常に模索しつつライダーサポート機構の電脳化も進め、軽量化→電脳化(電子制御機構の増加)で重量増→そこから軽量化という流れを、繰り返してきたのだろう。
電子制御機構に支援された、無理の効く走り
新型R1300GSは一次減速比を従来より若干高速寄り(ロング)とし(従来の1.650から1.479へ)、5速と6速の変速比も若干ロングな設定としている。全体的に言えば排気量アップでトルクが増した分で加速性能を補いつつ、速度の伸びも向上させるねらいだろうが、R1300GSはそのいずれも満たしているのを実感できる。実用的な加速を得られるのは2000rpmより上からで、力強く粘りが出るのは2500rpm以上から。この辺は、従来の空水冷ユニットを踏襲した特性に感じられるが、トップ6速時のメーター読みで80km/hが2500rpmとなるため、一般道でトップギヤを使う状況はあまりない。4速、ないし5速を多用しつつ市街地を流すことになるが、そうした一般道走りでのR1300GSは、上質で頼もしい。
田舎道と市街地を抜けたどり着いたワインディングは、最初にタイトな低速コーナー、標高が上がると中速ワインディングが続く気持ちのよい道だが、秋も深まると(試乗日は11月下旬)、路面状況が気になる道だ。最初にタイトコーナーの連続を上って行くが、3~4速を中心に使って時には2速にダウンしてコーナーをクリア。こんなとき、クラッチレスでシフトダウン・アップをこなせるシフトアシストProは自然に効果を発揮。相応な巨体にもかかわらず軽快な切り返しで気持ちよく車体が進み、ミドルクラスアドベンチャーと違わぬ運動性能に思えた。
それでいて、分厚いトルクでコーナーを脱出して加速する様は、まさにオーバーリッタークラス。大きな車体を自然に、支配下で操っているかのような優越感を乗り手に与えてくれる。そして、オーバースピードで飛び込んでしまったタイトコーナーの直前やコーナー途中でも、制動を効かせつつラインを大きく逸脱せずにクリア。元々前後ピッチングが少なく車体挙動に不安を覚えない構造のテレレバー/パラレバーと、うまく車体を安定させて減速可能なフルインテグラルブレーキの恩恵を実感することだろう。
また、レインからロード、ダイナミックまでパワーモードも試したが、レインは明らかにパワーセーブを感じさせ、スロットル操作に対して穏やかにエンジンレスポンスする(だがこれでも十分パワフル)一方、ロードはその2割増しくらいの感触。そしてダイナミックは、ロードモード以上にスロットル操作に対してダイレクトかつ豪快にパワーを出す印象。慣れない道では怖いくらいだが、そこはきっと前述したブレーキのほか、トラクションコントロールで何とかしてくれそうな気もする。ただし、過信は禁物。いくらライダー支援の電子制御が進化しようと、それが拾えない危険な挙動だってあると思うからだ。しかしながら、便利になった電子制御技術を全面的には信用ならんと思う考え、古臭いオッサンライダー(筆者)の偏見なのだろうか。
■左横下側から見た水平対向2気筒のカットエンジン。エンジン下にトランスミッションギヤを配置。DOHCヘッドの吸気側(写真上側)は、アクチュエーターにより低回転と高回転側で切り替えるシフトカムを装備。これはR1250GSからの装備だが今回R1300GS用に見直されている部分。
■エンジンから駆動系に至る透視図。カムチェーンラインを右気筒は前、左気筒は後ろ側として独立させたことで、左右シリンダー位置を対称に近づけた。ミッションシャフトをクランク下に配置してエンジン前後長を詰めた分、リヤスイングアームは30mm長くでき、トラクションを向上させている。
■1993年のR1100RSで初導入された前側のテレレバーサスペンションはEVOテレレバーに進化。フロントフォークをアッパーフォークブリッジにリジットクランプし、ハンドルバーの傾きを抑制したほか、軽量化と同時にスタンドパイプ直径を拡大して構造全体の剛性を向上。一方リヤのEVOパラレバーは従来比で30mm長くなったスイングアームでトラクションを向上し、大トルクに対応した大型ユニバーサルジョイントや、耐荷重と精度を高めるニードルベアリングの採用で、剛性と作動性が向上。
■日本で販売されるR1300GSのグレードと価格。スタンダードが2色(青と黒。黒には電動調整スクリーンと幅広のウインドプロテクターを装着)、オフ性能を高めたGSスポーツが青1色、上級グレードのツーリングが3色(青、黒、緑/※緑は各部操作系をオプションパーツにしたOption719を追加装備)。価格は284万3000円から336万8000円まで。
■GSスタンダードの標準装備リストで、青字は日本仕様独自の追加装備。上級仕様のツーリングには、このほかコーナーリングライト付きのヘッドライトPro、パニアケースホルダー、センターロックシステム、ナビホルダー、ハンド・プロテクション・エクステンション、エキゾースト・パイプ・クロム仕様のほか、車高調整機能付きDSA、電動スクリーン+幅広ウインドプロテクター、安全機能を充実した操作支援用のアクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、フロント・コリジョン・ワーニング(FCW)、レーン・チェンジ・ワーニング(SWW)などを追加。
■オフ性能を高めた仕様がGSスポーツ。ハンドルバーライザーやエンジンプロテクションバー、アンダーガードなどがセットのエンデューロパッケージProのほか、+20mm車高が高くなるスポーツサスペンション(標準シート高は870mm)、クロススポークホイール(ブラック)、コンフォートシート、オフロード寄りのタイヤ(メッツラーKAROO)、別体式フロントウインカーなどを標準装備する。車体色は青のみで、価格は297万1000円。
BMW R1300GS主要諸元
■エンジン 空水冷4サイクル水平対向2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク106.5×73mm 総排気量1300cc 圧縮比13.3 燃料供給装置:電子制御式インジェクション 点火方式トランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力107kW(145ps)/7750rpm 最大トルク149Nm(15.1kgm)/6500rpm
■変速機 6段リターン 変速比 1速2.438 2速1.714 3速1.296 4速1.059 5速0.906 6速0.794 一次減速比1.479 二次減速比2.910
■寸法・重量 全長2210 全幅1000 全高1405(ウインドスクリーンロー状態) 軸距1520 シート高850=スタンダード&ツーリング標準時/870=GSスポーツ標準時(各mm) ステアリングヘッド角度63.8° キャスター112mm タイヤF120/70R19 R170/60R17 車両重量250kg
■容量 燃料タンク19L(リザーブ約4L)
■車体色
<スタンダード>ブラック・ストーム・メタリック、レーシング・ブルー・メタリック
<ツーリング>レーシング・ブルー・メタリック、ブラック・ストーム・メタリック、アウレリウス・グリーン・メタリック
<GSスポーツ>レーシング・ブルー・メタリック
■価格
284万3000円~336万8000円
report●阪本一史 photo●岡 拓/BMW
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL:0120-269-437
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