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FZR、NC30……イギリスでも日本の400レプリカは人気だった!
イギリスのモーターサイクルジャーナリストでレーシングライダーでもあるアダム・チャイルド氏が、スペインで開催されたカワサキ ZX-4RRの試乗会に参加した。1980年代後半から1990年代前半にかけてのレーサーレプリカブームは日本のみならずイギリスにも波及しており、チャイルド氏も400cc4気筒に夢中になった世代だった。それだけに、400cc4気筒のスポーツモデル復活には並々ならぬ興味を持っていたという──。
以下、その試乗レポートをお届けする。
この試乗記を書く問題のひとつは、私の年齢がバレてしまうことだ。1994年、18歳の私は幸運なことに日本の400cc4気筒スポーツバイクの黄金時代を経験することができた。それは素晴らしいとしかいいようのない時代で、ヤマハ FZR400RR、HRC仕様のホンダ VFR400R(NC30)は、とくに若いバイク乗りにとってまるで宝石のようなバイクだった。
テレビで放送されていたワールドスーパーバイクのミニチュアともいえるコンパクトなレーサーレプリカ群は、排気量が小さいことなど何の問題でもなければ屈辱的なことでもない。これこそが真のスポーツバイクだと僕たちは考えていたほどだ。
また、当時は2ストロークマシンが全盛で、イギリスのティーンエイジャーの多くが夢中になっていた。私もそんなひとりで、スズキ RGV250とカワサキ KR-1Sが、私にとって「やんちゃなバイク」の頂点だった。
そう、私たちは「2スト派」と「4スト派」に二分されていた。友達の多くは4スト派で、その中でも人気だったのはカワサキ ZXR400だった。鋭く加速するこの「ポケットロケット」は、乗りこなすむずかしさも含めてめっぽう楽しく、チャンスがあれば今でも欲しいと思っているのは私だけではないだろう。
ニンジャZX-4RR「ヨーロッパ仕様の最高出力も約80ps」
スペインで行われた試乗会に用意されていたカワサキの最新400cc4気筒は、トップスペックを誇るニンジャZX-4RRだ。フルパワー仕様のエンジンは、57kW(77.5ps)/1万4500rpm、ラムエア加圧時の最高出力は58.7kW(79.8ps)に達する。最大トルクは39Nm(4.0kgm)/1万3000rpmと、予想どおりに高回転型だ。ユーロ5に適合した小排気量バイクとしては堂々たる数値で、レース用にチューニングしたZXR400(しかし信頼性は低かった)でさえ70〜80psだったことを考えると隔世の感がある。
ちなみに北米仕様のニンジャZX-4RRは42kW(57.1ps)、オーストラリア仕様は55kW(74.8ps)に制限されているようだ。オーストラリア仕様は最高出力発生回転数は1万4500rpmのままだが、北米仕様は回転数制限で1万1500rpm以下となっている。
さて、今回の試乗はスペイン・バルセロナから約1時間の場所にあるカラファト・レーストラックで行われた。狭くて曲がりくねったコースだが、600mものストレートを含む全長3.25kmのサーキットだ。天候もよく路面コンディションは最高で、7回の長いセッションすべてで全開走行することができた。
ニンジャZX-4RRの最大トルクは40Nm(4.0kgm)に満たないし、フルパワーを発生させるには1万4500rpmをキープしなければならない。それをサポートしてくれるありがたい機能がアップ/ダウン対応のクイックシフター(標準装備)で、1万rpm以下に落とすことなく走れる。
そして399cc、DOHC4バルブのエンジンはかなりの高回転型で、しかもオーバーレブも許容する。ときおり1万6000rpmまで回してレブリミッターを作動させても唐突さがなく、挙動はソフトだ。とはいえ、1万5000rpmより回すとピークパワーを超えてしまうから、1万〜1万5000rpmにあるスイートスポットを使うのが理想だ。
ほかのバイクと比べても、ニンジャZX-4RRは遅いバイクではない。600mのストレートエンドでは193km/hをマークし、さらにギヤをひとつ上げることができた。もっとうまく走れば200km/h以上を出すこともできるはずだ。
サーキット走行は抜群に爽快「加速、減速、コーナリング……思うように操れる」
このバイクでサーキットを攻めるのはやりがいもあって楽しい。アグレッシブにスロットルを操作することも、コーナーを次々とクリアしていくことも、ハードブレーキで止まることも、何もかもが痛快だ。もっと排気量の大きなスーパーバイクなら低回転域で走れてしまうが、ニンジャZX-4RRはエンジンの高回転域を使えるから、なおのこと走りごたえを感じられるのだ。なお、3段階のトラクションコントロールを装備しているがバンク角対応ではなく、ホイールに装着したスピードセンサーを利用するオーソドックスのものだ。
今回テストしたのは公道仕様のアクラポビッチ製マフラーを装着した車両だったが、エキゾーストサウンドは心地よく、これによりマシンの魅力はいっそう深まっていたし、私はとても気に入った。また、猛暑の中で7回ものセッションを疲労を感じることなく楽しめたのは、ニンジャZX-4RRがとても乗りやすいバイクであることが大きい。
恐れることなく正確なラインをトレースしていけるし、ブレーキングポイントを見極めてコーナーへ進入していく余裕を生み出してくれる。ハードブレーキに怯えたり、コーナリングで焦ったり、クリッピングポイントで力んだりすることはまったくない。減速、進入、加速という一連のコーナリングをごく自然にこなせるし、加速していく際の高回転域のエキゾーストサウンドはまるでラップレコードを更新しているような気分にさせてくれる。
サーキットのみの試乗だったため、9000rpm以下に落とすことはほとんどなかったが、クールダウンラップで中回転域を試してみた。トルク感がないわけではないし、加速力もあるものの、たとえばシグナルダッシュするならやはりスロットルを全開にして高回転域を使うことになるだろう。でもきっとそうして走ることが楽しいはずだ。また、トラクションコントロールをオフにすれば1速ギヤでウィリーできるが、そのときの挙動は粗暴ですらある。
アルミフレームのZXR400に対し、ニンジャZX-4RRはスチール製フレームだが……
前述したようにこの日は最高のコンディションで走れたが、当初、私はニンジャZX-4RRに何を期待すればいいのかをいまいち掴みきれていなかった。なぜなら、ニンジャZX-4RRはスチール製フレームだが、1990年代のZXR400はアルミフレームにフルアジャスタブルサスペンションを備えた、堂々たるハンドリングを持つレーサーレプリカだったからだ。
しかし興味をひかれたのは、ニンジャZX-4RRの前後タイヤはダンロップ・GPR300が標準装備なのに、カワサキUKはイギリス仕様としてピレリのスポーツタイヤ・ディアブロロッソ3を装着することを決めていたことだ。
そして、その理由とニンジャZX-4RRの素性は、慣熟走行を2回こなしたあたりで明らかになった。多くの車両メーカーはコスト削減のため、小排気量バイクに高性能サスペンションを装備しないが、カワサキは違っていた。おかげで慣熟走行中でもニンジャZX-4RRの扱いやすさが際立ち、私はスタート直後から落ち着いてペースを上げていくことができたからだ。
フロントフォークのフィーリングは素晴らしく、上位機種となるニンジャZX-6RやニンジャZX-10Rと比べても遜色がないクオリティだ。カワサキはこのサーキット試乗のため、フロントフォークのプリロードを2回転強め(プリロード調整はビッグピストンフォークの右側トップで行う)、リヤショックのプリロードは標準のまま、1.5回転分コンプレッションとリバウンドを強めた。
これは明らかに高温の路面温度とハイグリップタイヤに対応するためのセッティングだ。その後、私の体重に合わせてリヤのコンプレッションとリバウンドをさらに0.5回転追加した。この変化は明らかに体感できるもので、減衰力調整機構がないフロントフォークだからといって侮れない性能を持っている。カワサキは決して安価なサスペンションを選んだわけではない。
コーナー進入時のフィーリングは良好で、ブレーキングからクリッピングポイントまで自信を持って攻めていける。なおかつハンドリングは軽快でダイレクト。さらにライトウェイトマシンにありがちな不安定さはなく、レーシングラインをしっかりとトレースできるし、ニースライダーが埋もれてしまうのではないかと思うほどバンク角には余裕がある。バンクセンサーを取り外したステップが路面に接触しはじめたときでも、ニンジャZX-4RRはきっちりとフィードバックしてくれる。
セッション終盤になると、路面温度の高さに加えて体重のあるライダーが攻め続けたことでタイヤのグリップは限界に近づいた。しかしリヤタイヤがスライドしても挙動は穏やかで、恐怖感はない。レース用タイヤを装着したならば、驚異的なラップタイムを期待できるだろう。ビギナーが公道で走らせるにはソフトなサスペンションセッティングと、ダンロップ・GPR300の組み合わせが有利だろうが、サーキットではピレリ・ディアブロロッソ3が断然に優れている。
ニンジャZX-4RRの電子制御機構「出力特性切り替え、トラクションコントロール、ABSを装備」
ブレーキはサーキット走行でも不満がない性能だが、穏やかな特性だから経験の浅いライダーにも扱いやすい。ブレーキレバーは5段階調整式で、サーキットをハイペースで走ってもストッパーが限界に達している気配やフェードの兆候もない。トラクションコントロール同様、ABSもバンク角対応ではない従来型で、ペースを上げて走り込むとやや邪魔に感じる(申し訳ないが、サーキットで走れば自然とそうなってしまう)。
しかしこれはエントリークラスのスポーツバイクでは仕方のない部分でもある。とはいえ、ABSを邪魔と感じるには相当のハイペースで走らなければならないし、ABSの介入を感じなかったというライダーもいたから、一般公道ではまったく問題にならないはずだ。
今回はサーキットのみの試乗だったため、快適性や長距離走行時のフィーリングを判断するのはむずかしい。しかしニンジャZX-4RRはコンパクトな車体ながら身長174cmの私でもライディングポジションに窮屈さはなかったし、私よりも身長が高いライダーからの不満もあまり聞こえなかった。私にとっては600ccスーパースポーツのようで、ZXR400よりも明らかに広々として大きく、ゆとりがある。
シートからの眺めはすっきりしていて、ほかのカワサキ同様、スイッチ類は比較的シンプルだ。4.3インチのフルカラー液晶メーターはスマートフォンとブルートゥースで接続できる機能を持っている。
ライディングモードは出力特性とトラクションコントロールが連動して切り替わり、スポーツ、ロード、レイン、ライダーの4種がある。スポーツとロードではフルパワー、レインではローパワーとなる。ライダーでは出力特性とトラクションコントロール(3段階)を任意のレベルに設定でき、トラクションコントロールはオフにすることも可能だ。また、メーターにはラップタイマーとレブカウンターを大きく表示する「トラックモード」があり、サーキット走行会にも最適だし、中毒性すらあるモードだ。
スタイリングはニンジャZX-6RやニンジャZX-10Rの弟分といった趣きで、排気量以上の迫力がある。私はZXR400も好きだが、このニンジャZX-4RRも同じくらい気に入った。小排気量マシンだが、自慢できるスポーツバイクに仕上がっている。
カワサキ ニンジャZX-4RR総合評価
ニンジャZX-4RRは、その名に恥じない堂々とした性能と存在感を持つバイクだ。ちなみに私は最近、ZXR400にも乗ったが、当時のような感銘を受けなかった。30年という年月とバイクの進化は大きいのだ。途絶えていたZXR400の血統を受け継ぎつつ、走行性能を進化させただけでなく、安全性や扱いやすさも向上させている。
現代において400ccの4気筒スーパースポーツという唯一のバイクを生み出したカワサキの勇気に、私は感銘を受けるし、とても嬉しく思う。ZXR400と同等の評価を得られるかは未知数だが、ニンジャZX-4RRは非常に楽しく走れるし、高回転域のフィーリングは良好だ。それでいて扱いやすくて乗りやすい。当時を知っている「古参」だけでなく、新しい世代のライダーも気に入るはずだ。
とはいえ私と同世代のライダーなら、サスペンションを調整したうえで、スクリーンの中に収まるように低いライディングフォームをとるだけで、当時の楽しさを思い出せることだろう。私はニンジャZX-4RRで一日中、エンジンパワーをフルに引き出してハードにサーキットを走り続けたが、最後まで疲れを感じることはなかった。
ここ最近、スポーツバイクでそんな経験をしたことはない。小排気量クラスに、真のスポーツバイクが戻ってきたのだ。ありがとう、カワサキ!
カワサキ ニンジャZX-4RR主要諸元(ヨーロッパ仕様)
【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:57.0×39.1mm 総排気量:399cc
最高出力:57kW(77ps)/1万4500rpm ラムエア加圧時59kW(80ps)/1万4500rpm 最大トルク:39Nm(4.0kgm)/1万3000rpm
変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:1990 全幅:765 全高:1110 ホイールベース:1380 シート高:800(各mm)
車両重量:189kg 燃料タンク容量:15L
タイヤサイズ:F120/70ZR17 R160/60ZR17
【イギリスでの価格】
8699英ポンド(約160万円:2023年11月時点での換算)
試乗レポート●アダム・チャイルド 写真●カワサキ まとめ●山下 剛/上野茂岐