フロント以外の基本構成を大きく変えずに19インチ化を実現し、より魅力的になった400X。
その工夫や秘密はどんな所にあるのだろうか?
report●石橋知也 photo●茂田羽生
※本記事はMotorcyclist2019年7月号に掲載されていたものを再編集しています。
19インチで楽しみのフィールドを拡大

400X LPL代行
本田技研工業 二輪事業本部
ものづくりセンター
技術主任 古川和郎

400X LPL
本田技研工業 二輪事業本部
ものづくりセンター
技師 井上善裕
400Xは第1世代が2013年に、第2世代が16年に発売されたクロスオーバースタイル(アドベンチャー)の人気モデルだ。
そして19年にフロントを17→19インチと大径にした第3世代がデビューした。
400X(海外では500X)はスポーツモデル〝R〟(CBR400R)やストリートファイタースタイルの〝F〟(CB400F。現在は海外モデルCB500Fのみ)とエンジンやフレームなどを共用する。
4輪車でいう共通プラットフォーム化だ。
基本部分のコモナリティ=共通化・共有により、機種ごとに個別に開発・生産するよりコストが下げられる効率の良い手法で、最終的に製品を手にするユーザーへの市販価格を抑えられるのだから、歓迎すべきことだ。
バイクでも主要海外メーカーではエンジンの共通化は当たり前になっている。
「スタイルは違っても走りのテイストがオンロードモデルから抜けていないのではないか。お客様が楽しく遊べるフィールドをもっと広げたい」という思いが今回の400X開発陣にはあった。
カウル付きスポーツモデルもクロスオーバーモデルも同じフレーム、エンジンを持ち前後17インチなのだから、走りが大きく違う方が不思議だ。
スタイルはもちろん、新しい、個性の違いのある魅力的な走りの400Xが欲しい。
平たく言えばもっとオフロードでも楽しめるようにしたかった。
それも、アフリカツインのようにフロント21/リヤ18インチでロングストロークサスを持たせるのではない。
あくまで〝R〟との共通性を維持しながらだ。
さらに400㏄というクラスは、エントリーユーザーもビッグバイクから乗り換えるベテランユーザーも大切にしなければいけないから、フレンドリーなモデルであることが必要だ。
これらを踏まえた進化手法のひとつがフロント19インチ化だった。アドベンチャーモデルの19インチ化という、最近の時流に乗った選択ではない。
ところが、壁があった。
社内では400Xの19インチ化にあたり、反対意見も根強くあった。
「なぜ、開発コストを掛けてまで人気モデルをわざわざ変更するのか」ということだ。
17インチを選んでくれていたユーザーが離れてしまうリスクもあった。だが開発陣は引かなかった。
19インチホイールを装着した実機モデルを作製、19インチ化で期待されるハンドリング、使いやすさ、楽しさなどをねばり強く丁寧に説明し、疑問を払拭していった。
「19インチを装着した実機モデルの迫力やカッコ良さは格別だった。まるで“俺を信じろ、どこへでも連れて行くぞ”とマシンが語りかけてくるようだった」
GOサインが出た。最終的にシート高は17インチ車より僅か+5㎜の800㎜に。
さらに内腿が当たるシートエッジを削るなど形状変更し、「足着き性はより良くなった」。
大径化でジャイロ効果が大きくなるのでダートはもちろん、荒れた舗装路での走破性・安定性は上がる。
インチアップしてもハンドリングは軽快にしたいから、ホイールの肉厚や板厚を調整して慣性や剛性を最適化し、17インチ車と同等の軽快性を実現。
また、大径化によりハンドリングの自然な感じを失わないよう、ディメンションも細かく詰めた。
キャスター角を17インチ車より寝かせて(25度55分→27度30分)フォークオフセットを増やす(トレール量105→108㎜)ことで、操舵系の重心位置を調整して舵角が大きくなるように設定。
ライダーがイメージするラインをトレースしやすい操舵特性を与えているのだ。
ホイールベースは1410→1435㎜と僅かに伸びたが、狭い道でもUターンしやすいようにハンドル切れ角を左右70度→76度にアップ。
タイヤはダンロップと共同開発したブロックの大きな19インチ専用ラジアルだ(トレールマックス・ミックスツアーとして市販)。
こうしてベースとなった17インチ車を生かしてコモナリティも維持しながら、新たな魅力を加えた400Xが誕生した。
これならキャンプツーリングに行きたい、多少のオフでも大丈夫と多くの人に思わせる。
〝クロスオーバーモデルの正常進化〟と堅く表現するより、バイク乗りの 〝遊び心〟や〝冒険心〟をくすぐるモデルになったということだ。
それは実機に乗ってみればすぐに分かる。
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