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2023年1月、ハーレーダビッドソンがニューモデルを発表した。
ハーレーダビッドソンのニューモデル発表は、かつては前年の夏から秋を定例にしていたが、2020年以降は年始にその年のラインアップを公開している。
2023年は1月3日に19機種の継続販売/カラー変更機種を発表。さらに1月19日には仕様変更を行った3機種とトライクの新型1機種、そしてメーカー創設120周年を記念する特別カラー車の7機種を、世界同時公開&発売。
それらの中で最も注目を集めており、多岐にわたる仕様変更が行われたブレイクアウト117の試乗レポートをお届けする。
Harley-Davidson
2023年注目モデル
異例の装備と寸法を導入したカスタムバイク
本題に入る前に、ブレイクアウトの概要を説明しておこう。
2013年から発売が始まったブレイクアウトは、誤解を恐れずに言うなら非王道路線、メーカーメイドのカスタムバイクである。その象徴は240/40R18の極太リヤタイヤだが、130/60B21のフロントタイヤも特殊だし、ロー&ロングを念頭に置いた車体寸法、37度のキャスター角や1710mmのホイールベース、655mmのシートなども、今までのハーレーダビッドソンの常識では異例と言えるものだった。
参考までに、2013年に販売されたビッグツインの代表的なモデルのタイヤサイズ、キャスター角、ホイールべース、シート高を記しておく。
これらの数値を見れば、ブレイクアウトがいかに尖ったモデルかが理解できるはずだ。
●ローライダー
タイヤサイズ:前100/90B19・後160/70B17
キャスター角:29度
ホイールべース:1630mm
シート高:680mm
●ソフテイルクラシック
タイヤサイズ:前MT90B16・後150/80B16
キャスター角:32度
ホイールべース:1638mm
シート高:690mm
●ロードキング
タイヤサイズ:前130/80B17・後180/65B16
キャスター角:26度
ホイールべース:1625mm
シート高:740mm
もっとも、ブレイクアウトの独創的で流麗なスタイルに共感するライダーは数多く存在し、世界中で人気を獲得した。初代は少量生産のCVO(=カスタムビークルオペレーション)という位置付けで、エンジンは1801ccのツインカム110Bを搭載。2014年からは1584ccのツインカム96Bを搭載するレギュラーモデルの販売が始まり(CVOは2014年で廃止)、2016にはエンジンを1689ccのツインカム103Bに変更。そして2018年になると、ほかのソフテイル/クルーザーファミリーと歩調を合わせる形で、新型フレームと新型エンジンのミルウォーキーエイト114:1868ccを導入。以後は大きな変更を受けることなく生産が続いていた(2018〜2019年はミルウォーキーエイト107:1745cc仕様も併売)。
ミルウォーキーエイト117と初代を思わせる装備
2023年型ブレイクアウト117の最大の特徴は、その名が示すとおり、排気量を117キュービックインチ=1923ccに拡大したエンジンで、最高出力は95.2→102hp、最大トルクは155→168Nmに向上している。なお、2023年型ではほかにも100hp以上をマークするモデルが存在するのだが、ハーレーダビッドソンの量産空冷Vツインが3ケタ台の最高出力を公表するのは、おそらく今年が初めてだろう。
エンジンに加えて、26本スポークの前後ホイール、潜望鏡を思わせる形状のハイフローエアクリーナー、クロームメッキ仕上げのマフラーやオイルタンク、リアフェンダーストラットなども先代とは異なる要素で、これらは2013年の初代ブレイクアウトに立ち返った装備と言えなくはない。ただし、容量を13.2→18.9リットルに拡大したガソリンタンク、ハンドルグリップ位置が従来型より3/4インチ≒1.9cm高くなるライザー、高速巡航を容易にするクルーズコントロールなどは、2023年型ブレイクアウト117ならではの特徴である。
初期モデルとはまったく異なる乗りやすさ
「よくも悪くもカスタムバイク」
それが、既存のブレイクアウトに対する僕の印象だった。もっとも、全面刷新を受けた2018年型以降は経験していないのだが、少なくとも初期のブレイクアウトは、曲がりづらく、乗り心地が悪く、ライダーの体格をかなり問うところがあった(ほかのソフテイル/クルーザーと比較すると、着座位置が後方なうえに、ハンドルが低くてかなり幅広)。ほかのビッグツインモデルとは一線を画するワイルドさと操る手応えは、個人的には好感を抱きつつも、万人にオススメしたくなる特性ではなかった。
ところが、2023年型のブレイクアウトは、アラッ?と言いたくなるほど曲がりやすく、乗り心地が良好になっていたのである。と言っても異例の車体寸法とライポジを採用している以上、ソフテイル/クルーザーファミリーほどフレンドリーではないのだけれど、初期モデルとは別物。不思議に思ってスペックを調べると、2015年型でキャスター角が37→35度、2018年型でホイールベースが1710→1695mmに変更されていた。もちろん、2018年型で全面刷新を受けたシャシーの包容力や、2023年型でハンドルグリップ位置が1.9cm高くなったことも、僕が好印象を抱いた一因だろう。
一方のエンジンについては、排気量がほぼ2000ccになっただけに、試乗前は怒涛にして暴力的な低速トルク……を想像していたものの、実際の低回転は至って従順で扱いやすく、排気量なりのパワフルさを感じるのは回転数と速度がある程度上がってから。この特性をどう考えるかは人それぞれだが、エントリーユーザーにとっては、低回転・低中速域の扱いやすさは歓迎するべき要素になるだろうし、マニアの視点で考えると、中高回転域の力強さにヒザを打つ人が多いのではないだろうか。
なお近年のビッグツインユーザーの間では、インジェクションチューンとマフラー交換に加えて、カムシャフトの変更が流行しているようだが、ミルウォーキーエイト117の特性を知ったら、そこまでやらなくても……と感じる人が増えそうな気がする。
アドベンチャーツアラーのパンアメリカ1250や新世代に移行したスポーツスターS、ナイトスターなど、近年は新ジャンルへの挑戦が話題になることが多いハーレーダビッドソンだが、ブレイクアウト117は同社が大昔から大得意としてきた“熟成”を感じるモデルだった。独創的で流麗なスタイルとワイルドなフィーリングを維持しながら、扱いやすさを大幅に高めた2023年型。従来型以上に多くのライダーから支持を集めることになりそうだ。
ハーレーダビッドソン ブレイクアウト117 主要諸元
【エンジン・性能】
種類:空冷4ストロークV型2気筒OHV4バルブ
ボア×ストローク:103.5mm×114.3mm
総排気量:1923cc
最高出力:76kW<102HP>/5020rpm
最大トルク:168Nm<17.1kgm>/3500rpm
変速機:6段リターン
27.9km/L
【寸法・重量】
全長:2370mm
ホイールベース:1695mm
シート高:665mm
車両重量:310kg
タイヤサイズ:前130/60B21 R240/40R18
燃料タンク容量:18.9L
【価格】
ビビッドブラック:326万4800円、モノトーン:331万9800円
文●中村友彦 写真●吉見雅幸