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テレビ番組やニュース等で警察が暴走族を取り締まっている様子を見たことがあるかと思います。特に春の交通安全運動が始まる時期は、警察も取り締まりを強化し、暴走族の根絶に向けた対策も立てています。
彼らが乗っているバイクはいずれも改造バイクにあたるケースが多く、当たり前ですが警察による取り締まりを受けると、厳しい処罰が待っています。状況次第では、違法改造の証拠品として押収されてしまうかもしれません。
では、違法改造されたバイクだった場合は勝手に押収されるのか、押収されたバイクは持ち主に返ってくるのか元警察官・刑事の鷹橋 公宣さんが解説します。
取り締まりを受ける可能性がある違法カスタムとは
道路運送車両法では、保安基準に適合しない改造や装置の取り付け・取り外しが禁止されています。保安基準に適合しないバイクカスタムとしては、次のようなものが考えられるでしょう。
・マフラーの改造
マフラーには排気音の騒音規制が設けられています。250cc以上のバイクだと、近接で94dB(デシベル)、加速時は82dBを超える音が生じる状態では走行できません。
・灯火の改造
バイクの場合は、前照灯(ヘッドライト)の常時点灯や方向指示器(ウインカー)などの色指定・点滅回数といった点が問題となります。
・ハンドルの改造
ハンドルは車検証に記載されている数値、つまりノーマル状態と比べて幅プラスマイナス2cm以内、高さプラスマイナス4cm以内の範囲に収まるものでなければ違法です。
基準外のカスタムをすると「違法改造」となり、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。これらは球切れなどの「整備不良」とは異なる故意的な違法行為であり、切符処理は受けられません。
つまり、点数や反則金といった問題ではなくなり、窃盗や傷害といった犯罪と同じように処理されてしまいます。
「押収」されても警察は「勝手に没収」できない
違法改造にあたるバイクで走行している最中に、警察官から停止を求められたり、事故などで警察官が現場に来る事態になったりすると、当然「これは保安基準に適合しないのでは?」という疑いをかけられることになるでしょう。
もし違法改造だと判明すれば、道路運送車両法違反となるわけですが、その証拠は「バイクそのもの」でしかありません。なぜなら、違反は「バイク」がしたのではなく「運転者」に課せられるからです。つまり、バイクは事件の証拠品として警察に「押収」されることになるかと思います。
この流れでいう「押収」とは、警察が強制的に取り上げるわけではなく、所有者本人からの「任意提出」という方法を取られるのが一般的です。「バイクを押収されるのはいやだ!」「任意なら拒否する」と拒んでいても令状を取って差し押さえられるだけなので、文句を言っても意味がありません。
ちなみに、任意提出をする場合は「任意提出書」という書類を書かされることになりますが、この書類には「必要がなくなったときの処分意見」を書く欄があります。
もちろん、勝手に処分されるわけにはいかないので「返してください」と記入するでしょう。任意提出書に所有者が「返して」と記入しているなら、所持そのものが禁止されているような物品(たとえば覚醒剤や銃器など)でない限り、事件処理が終わったら返還されます。
押収と間違いやすいのが「没収」ですが、警察には証拠品を没収する権限はありません。没収は懲役や罰金といった刑罰に付け加えることができる「付加刑」で、持ち主から強制的に取り上げる手続きなので、刑事裁判の判決でしか命じられないのがルールです。
つまり、いくら警察官だからといって、人の持ち物を取り上げる行為は許されません。
たとえば、タバコを吸って補導された少年に対して、警察官が「自分で握りつぶして今ここでゴミ箱に捨てなさい」なんて促すのは「取り上げる」という行為が許されないからなんです。
違法改造されたバイクでもちゃんと返してもらえるが……
違法改造が発覚しても、事件処理さえ終われば無事に返してもらえます。違法改造されたバイクでも、警察に「持ち主から取り上げる」「勝手に処分する」といった権限はありません。
もちろん、返してもらってもそのまま乗って帰るわけにはいかないので、バイクショップに依頼して引き上げてもらうなどといった面倒な流れになりますが、愛車はきちんと返ってきます。
ただし、どのタイミングで返してもらえるのかはその内容次第です。
写真撮影や検査・測定が済めばすみやかに返還されるケースがあれば、裁判の判決が出るまで警察・検察庁で預かり保管するケースもあります。
実際のところ、警察も証拠品としてバイクを保管しておくのは保安上の意味でも望ましくないと考えています。
なぜなら、過去には証拠品として押収したバイクが警察署から盗まれたなんて事件もあるので、できればバイクのように大きくて保管が難しい証拠品は押収したくはありません。
警察としても「できるだけ早く返してしまいたい」というのが本音なので、捜査に協力的な姿勢を示しておけば早めに返還される可能性が高いでしょう。
レポート●鷹橋 公宣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。