目次
タイではそもそもバイクの教習所がない!?
タイでは制限付きだが15歳から二輪運転免許が取得できる。ただ、バイク事故が増加したこともあって、以前までは大型バイクの免許は設定されていなかったが、2021年から大型バイクの免許区分が設けられるなど、バイクを取り巻く環境は変化している。
しかし、免許の取得手段に関してはほぼ変化がない。当記事では、日本とはまったく違う、タイの運転教習所・自動車学校について紹介したい。
タイでは、そもそも二輪の運転教習所が存在しない。だが、すべての人が「基本的には」学科試験と実技試験を受けて合格しなければならない(基本的という部分は後述する)。
では、どうするのかというと……。まず、タイの免許センターは各行政区に複数ある陸運局にある。タイは合理的で、ナンバープレート発行・再発行、車両登録、車検、税金支払いなど、すべてが陸運局内でできる。
タイの場合、バイクが生活必需品の人もいるので、スロットルを捻れば走り、ブレーキレバーを握ると止まるということを知っていれば合格できるくらい試験は超簡単。一本橋を渡り、左右にちょっと曲がれれば合格だ。その間は、ゆっくり走ったり、少しだけ足を付いてもいい。試験監督官によっては一本橋から落ちても合格をくれる。だから二輪の教習所が事実上、不要となっている。
とはいえ、タイに「教習所」がないわけではない。あくまでも二輪の教習所がないだけで、クルマの教習所はある。
タイの免許は二輪、三輪、四輪、六輪、十輪とタイヤの数だけ区分が違う
タイの免許は二輪、三輪、四輪、六輪、十輪とタイヤの数で免許区分が違う(正確には車両サイズの規定もある)。そして、バイクも含めてそれぞれに日本でいう第二種運転免許に相当する商用免許がある。ただ、商用免許は自家用四輪免許を取得してから2年以上、最低でも20歳以上からしか取得できないので、タイで「クルマ」を運転するならまずは18歳以上から取得できる自家用四輪免許からとなる。
タイの四輪運転教習所は、「日本のように大きなコースで練習して、仮免許を取得してから路上に出る」というものではない。そもそも私有地に設立された練習コースが存在しないのだ。
バンコクや郊外にいくつかその残骸が見受けられるので、かつては教習所があったのかと思う。ところが、そこまでしなくても合格できてしまう試験内容なので、収益と維持費を比べるとコースを保有する意味がなく、放棄されたのかと思われる。
教習所に行ったとしても免許センターで実技試験を受けなければならないので、バイク同様、直接試験場に行って免許を取得する人もいる。そういう人は、元々無免許で乗っていたか、家族や友人に運転を教えてもらってから試験に臨む人だ。
いきなり公道で運転させられるタイの教習所
まず、タイの教習所に通うには商店街などにある窓口に行く。なぜかどこの窓口でも大量の道路標識のステッカーを窓に貼っているのですぐにそれとわかる。ここで希望の練習時間を申し込む。教習所によるが、3時間コースが多く、延長したければ1時間単位で増やすこともできる。これは実技のみで、学科はない。
そして、申し込み時に教本のコピーをもらうので、学科はもらったコピーで自習をする。
教習予約日に窓口を訪れると駐車場にあるクルマに乗せられる。この車両で、住宅街や空き地などに行き、そこで試験科目にある路肩駐車を習う。試験内容は発進、停止、バック、路肩駐車となっている(各免許センターで若干違い、切り返しがある場合も)。
ボクの妻(タイ人)は30歳から免許を取りに行った。ボクもタイの教習車両を見たくてついて行ったのだが、なんと同乗してもいいと教官がいう。ほかの教習者も暇な友人などがついてきて、教習を見ているのだとか。そこで恐ろしい体験をした。
30年間、運転席に座ったことのない人がいきなり公道で運転するのだ。エンジンの掛け方どころかアクセルとブレーキすらわからないのに、教官はなにも説明しない。
当時、小さかった娘も車内ではいつも騒がしくしていたものだが、この日は後部座席でちょこんと静かに座っていた。それほどの怖さがあった。教習車両には助手席側に補助ブレーキがあるにはあるけども……。
初めて運転する人の横に座ったらついいろいろ口を出してしまいそうだが、教官は慣れたもので、大通りから住宅街までの約10分間、信号や車線変更の指示以外、特にこれといった注意もしなかった。
教習場所となる住宅街に着くと、いったんクルマを止め、教官がトランクから竹ざおで作ったポールを出してくる。これを縦列や幅寄せの際の目印・目標として使うのだ。妻が練習した住宅街は富裕層の居住エリアで、道路幅が広く、ほかのクルマの通行がほとんどない。騒音で迷惑をかけないような場所を教習所側はいくつか知っていて、そこを「勝手に」使って練習をしているのだ。
教官が丁寧に運転方法を教えてくれるので、免許センターで試験を受けるだけの方が安上がりではないかと思うかもしれない。ところが、話はそう簡単ではない。ここで、冒頭の『「基本的には」等しく学科試験と実技試験を受けて合格』が出てくる。
タイの場合、交通違反の罰金がそれほど高くないこともあって、2010年以前は無免許のまま運転する人が多かった。そのマインドは大きく改善したものの、逆に免許センターのキャパシティーがオーバー。以前は当日朝申し込んで学科試験を受け、そのまま実技試験に進んで昼には帰れた。だが、今は学科を受けてから後日の実技試験を予約。最低でも2日は陸運局に通わなければいけない。
ここで教習所という業者が強みを発揮する。教習所を通して試験を受けると、学科は監督官が答えを教えてくれるし、実技もその日に受けることができる。学科は各陸運局で出題傾向が違うので、現地の監督官が答えを教えてくれるなら合格率が上がるわけだ。
手口も簡単。教習所が月に数回ほど試験への引率日を設けていて、受験者は任意の日に教習所に行けば、あとはクルマで会場に連れて行ってもらえる。教官は陸運局の職員に「今日もひとつお願いしますよ」なんて言って、生徒を預ける。おそらく賄賂などが渡されているのだろう。タイでは公務員が市民から賄賂をもらうことを禁じているものの、法解釈の中では業者から受け取るのはグレーゾーンなので、賄賂の受け渡しができるのだ。
つまり、タイで教習所が使われるのは、技能教習を受けられるばかりでなく、試験会場で便宜を図ってもらえるからなのだ。
ちなみに、日本人でも滞在期間などの条件を満たせば、タイの教習所に通ったり、一発試験で免許を取得すること可能だが、日本の運転免許証があるなら「現地の運転免許証に切り替える」方法が一番楽だろう。在タイ日本大使館などで書類を揃えて陸上運輸局に持っていけば、タイの免許証をその日のうちにもらえる(ただし、ノンイミグラントビザが必要)。
とにかく実技が簡単なので、日本のように取得までが大仕事ということはない。逆に、誰でも合格できるぐらい簡単な試験なので、タイ人の運転が荒いのも納得なのだ。
レポート&写真●高田胤臣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉
■高田 胤臣(たかだ たねおみ)
1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。
noteではタイにまつわる出来事を綴っている。