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ジョージ・ミラーが監督を務めた『マッドマックス』シリーズは、核戦争によって荒廃した世界を舞台とするアクション映画。シリーズとして4作目の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで製作され、日本を含む世界各国で人気の映画だ。
劇中では個性的なキャラクターと共に、バイクやクルマがたくさん登場するのだが、その中でも有名な車両といえばフォード ファルコンXBの「インターセプター」、バイクではジム・グースが乗っているカワサキ Z1000なのではないだろうか。どちらもファンならば一度は乗ってみたい憧れの車両で、インターセプターやグースのバイクを再現する人達がいる。
グースが長い直線の道路をバイクで走っているシーンはとにかくカッコよく、名シーンにひとつだろう。そんなグースが乗るバイクの特徴といえば、MFP(Main Force Patrol)と書かれた大型のフロントカウルやテールカウルだ。
マッドマックスファンの中には憧れが募るあまり、グースのバイクを再現してしまった人もいる。バイクショップに依頼する人もいるが、趣味で自作してしまう人も。そのひとりがKAZEさんだ(本職はFRPで自動車用エアロパーツを作るエアロパーツ職人)
当初、KAZEさんは趣味でグースレプリカを作っていたが、それを知ったマッドマックスファンから製作依頼があり、カスタムを手伝うようになったそうだ。その結果、KAZEさんは現在までスズキ GSX1400、カワサキ ゼファー750、ヤマハ VMAXなど合計15台のグースレプリカを作っている。
当記事では、グースレプリカを製作したKAZEさんと、実際にKAZEさんが製作したグースレプリカに乗るライダーたちから話を聞いてみた。
幼い頃からの夢が叶ったバイク
まず1人目はグースレプリカのスズキ GSX1400(シルバー)に乗っているはやなみさん。
ネイキッドバイクにカウルを付けてカスタムしたいと思っていた矢先、とっさに思い浮かんだのがマッドマックスに出てくるグースのバイクだったという。しかし、本当にGSX1400でグースレプリカにカスタムすることができるのか悩んでいた。そんなとき、ネット上でグースレプリカのGSX1400を見て「かっこいいな」と思い、KAZEさんに頼んだという。
このグースレプリカのスズキ GSX1400は、万が一倒れても大事なカウル含め車体に傷がつかないように、フロント側にエンジンガードが取り付けられている。KAZEさんいわくエンジンガードの装着はかなり大変だったそうで、試行錯誤を重ねようやく完成したと話していた。
ちなみに、はやなみさんは「(フロントカウルは)手作りなのに前傾姿勢だと雨に当たりませんし、風よけにもなるのでスゴいですね」と、KAZEさんの精巧な技術について感心していた。
2人目はグースレプリカのカワサキ ゼファー750に乗っているひでGさん。
中学生のころに見たマッドマックスの影響で、20歳のときにグースレプリカのバイクに乗ってみたいという気持ちがあったが、グースレプリカを作れるのかと踏み出せずにいた。そんなとき、グースレプリカを製作しているウワサを聞き、KAZEさんにグースレプリカの製作を依頼したとのこと(カウルはKAZEさんが製作し、加工・取り付け作業や塗装などは自身と知人のバイクショップで完成させた)。
ひでGさんにとっては20年間、待ち望んでいたグースレプリカのバイクが完成し、ようやく夢が叶ったという。また、ひでGさんはミリタリー好きなこともあって、カワサキ ゼファー750に零式艦上戦闘機(ゼロ戦)をモチーフとして日の丸も入れているそうだ。
3人目はグースレプリカのヤマハ VMAXに乗っているカモさん。
中学生のときに金曜ロードショーで放映されていたマッドマックスの映画を見たきっかけで、徐々にマッドマックス作品にハマっていき「グースのバイクに乗ってみたい」と思い始めたカモさん。つまり、子供のころからの夢が叶ったのだ。
今回、集まった中でもグースが乗るバイクに一番近い再現度で、「グースが乗っているバイクに備わっている装備類はすべて付けている」とカモさんは話していた(カウルはKAZEさんが製作し、加工・取り付け作業や塗装などは自身と知人のショップで完成させた)。
そのうえ、ヤマハ VMAXはお金に余裕ができて頑張って買った思い出深いバイクだそう。かれこれ30年以上も乗っている愛車のバイクで「VMAXに乗れなくなったときがバイクに降りるときです!」と話していた。
ちなみにその昔、マッドマックスに登場するジム・グース役のスティーヴ・ビズレーに会えるツアーが日本で行われており、参加費はなんと70万円だったものの、カモさんも実際に参加。イベント当日はスティーヴ・ビズレーと一緒に記念撮影をしたという。
4人目はグースレプリカのスズキ GSX1400(ブラック&ゴールド)に乗っているかとすけさん。
昔は毎日グースレプリカのスズキ GSX1400に乗って約8万km走っていたそうだが、故障等で乗らなくなってしまったという。現在は東本昌平さんによるバイク漫画『キリン』を見た影響で、普段はスズキ カタナに乗っているとのこと。
グースレプリカの製作を依頼したのは2013年ごろ。当時、その製作過程がKAZEさんのブログにてアップされていたので、ブログの更新を楽しみに待っていたという。「色んな場所に行った思い出深いバイクなので、手放すのが悲しかった」とかとすけさんは話していた。
しかし劇中に登場するグースのバイクといえば銀&青のイメージがあるが、これは製作者のKAZEさんが「黒&金のほうが絶対カッコいいですよ~!」とおすすめしてくれたこともあり、車体の色を黒&金仕様にしたのだとか。
「2013年ごろは、グースレプリカの車体色を黒&金にする人がいなかったので、当時はかなり目立っていました。グースのバイクといえば、やっぱり銀&青のグラデーションがかかった車体色のイメージがあるので、マッドマックスファンから見ても衝撃が走った一台だったと思いますね」と製作者のKAZEさんは話していた。
グースレプリカを4台作ったマッドマックスファンも!
5人目はグースレプリカのカワサキ ZRX1100に乗っているやましたさん。
2年前にカワサキ ZRX1100を購入し、そのときにKAZEさんに製作を依頼したそうだが、実はグースレプリカはこれで4台目。1台目は黒のカワサキ ゼファー1100、2台目は黒&青のカワサキ ZRX1100と増やしていったそうだ。一番思い入れがあるのは、1台目のカワサキ ゼファー1100はかなり長く乗っていたようで、バイクの調子がくずれても頑張って修理して乗っていたほどだ。
パンクロックが好きだった影響で、当時ブームだったマッドマックスを見てハマるようになったやましたさんだが、体調等の理由で乗らなくなった3台のグースレプリカは売却してしまい、現在は4台目のカワサキ ZRX1100だけを手元に残している。
ちなみに、KAZEさん自身も他の人のために作ったグースレプリカがやましたさんのカワサキ ゼファー1100で、「この1台がなければこうしてみんなと集まる機会もなかったかもしれない」と、KAZEさんにとってはグースレプリカを製作するきっかけを与えてくれた1台ともいえるようだ。
最後に製作者であるKAZEさんに話を聞いてみたところ「10年前にグースレプリカを作り始めた当初、まだネットも普及していない頃だったので、何度もマッドマックスの映画を見て実際に部品を付けては試し、付けては試し、2台目、3台目まではデータを取りながら作っていましたね」という。
グースレプリカの製作期間は約2〜3ヵ月。本業の傍ら作業をしているため、どうしても時間がかかってしまうという。
「当時、カワサキ Z1000をベース車両としたグースレプリカやトゥーカッターのバイクはありましたが、あえて別の車種でやろうという人はいませんでした。だから、私がカワサキ ZRX1100やスズキ GSX1400、ヤマハ VMAXやホンダ ホーネット600などをベース車にして製作するのは他の人にとっても新鮮な感じみたいです。もちろん、マッドマックスの世界観から逸れているテーマかもしれませんし、原作忠実派の人からすれば『これは違うよ!』となりますけど、『こういうやり方もありなのでは?』という提案をマッドマックスファンの皆さんにできたのはよかったのかなと思いますね」
レポート●モーサイ編集部・小泉元暉 写真●KAZEさん/モーサイ編集部・小泉元暉