雑ネタ

警察は制限速度1km/hオーバーでも取り締まるのか?「検挙」と「指導・警告」の境目とは? 元警察官が解説

制限速度1km/hオーバーでも違反にはなる

家族や友人とのツーリングやドライブ中に警察の取り締まりを受けたら、せっかくの楽しい気分も台無しですよね。「ノルマのために切符処理するんじゃなくて、注意するだけで済ませてくれてもいいじゃん!」と、法の定めがあることなので、そう思うのはムリな話です。

しかし、「切符処理されず、注意を受けただけで済まされた」なんて話もあるのだから、非常に不愉快なことではありますが、現行法上、そうなっています。公の場で否定するならば、先に法改正が必要です。
では、本当に警察はそんな軽微な違反でも切符処理をするのでしょうか? 厳重注意だけで済んだラッキーな人との違いはどこにあるのでしょうか?


まず大前提としてすべてのライダー・ドライバーは、道路交通法に定められている交通ルールを遵守しなくてはいけません。

たとえ、制限速度1km/hオーバーでも、停止線を1cm超えただけでも違反は違反です。「このくらいならいいじゃないか!」という考え方は、たとえば「10円の駄菓子くらい盗んでもいいじゃないか」という理屈と同じようなものです。

しかし、いちいち制限速度1km/hオーバー、停止線を1cm超えた人を切符処理すると大変なので、例外的に簡易的に処理されているだけで、交通違反は犯罪行為であるということを忘れてはいけません。

違反を「指導・警告」もしくは「検挙」する選択肢がある

ほんのわずかでも違反すれば犯罪になるというなら、たとえ1km/hオーバー、1cmオーバーでも厳しく検挙すればいい話です。
それなのに「白バイに止められたけど注意されただけだった」「取り締まりを受けたけど、切符処理されなかった」という話があるものだから「不公平じゃない?」という疑問や不満が生じてしまうでしょう。

まず、交通取締りに従事している現場の警察官に与えられた選択肢は、交通違反について「指導・警告」を与えるか、それとも「検挙」するという二択があります。
「指導・警告」というのは、違反行為に対して文字どおり口頭で指導を加えたり、免許証の裏面に「◯月◯日、前照灯の整備不良を確認した」といった警告文を記載する活動です。

白バイやパトカーに止められたけど注意されただけというケースは、この「指導・警告」の対象になったといえます。「指導・警告」となれば、違反点数がつくことも反則金の納付を求められることもありません。
一方で、切符処理は「検挙」となります。こちらは違反点数が加算され、反則金を納付しないと刑事事件に発展する可能性があります。

警察では「検挙の基準」というものが存在する

では、警察は「指導・警告」で済ませるのか、「検挙」をするのか区別しているのでしょうか。

もし、現場の警察官が「今日はノルマを達成していないから」「なんとなく気分で検挙する」なんて身勝手な理由で判断しているのなら由々しき問題ですが、警察は闇雲に違反者を検挙しているわけではありません。警察内部では指導・警告で済ませるか、あるいは直ちに検挙するかの「検挙基準」が存在します。

現場の警察官はその検挙基準に従って指導・警告と検挙を区別していて、交通取締りに従事する係員も検挙基準を事細かく記した冊子が貸与されています。

なお、検挙基準の内容は各都道府県によって若干の違いがあるので、全国一律ではありません。まったく同じ状況、同じ行為でも「A県では注意されただけなのに、B県では切符処理された」といったケースは、検挙基準の違いによって生じた可能性があります。

このように、道路交通法法というルールはWeb上にも公開されていますが、警察は「もうひとつの基準」に従っていることになるのです。

なぜ警察は検挙基準を公開しないのか?

警察内部で「ここまでは注意で済ませるけど、ここからは切符処理する」という検挙基準があるなら、ぜひその内容を公開してほしいですよね。検挙基準を公開すれば、運転者としては事前に対策もできるし、交通違反が減るメリットだってあるはずです。

ところが、検挙基準の具体的な数値は公開されていません。過去にスピード違反の検挙基準について一般市民が情報公開を求めた事例がありますが、具体的な内容については非公開となりました。

なぜなら、検挙基準を公開した場合、交通ルールを守らない人が増えてしまうからです。たとえば、検挙基準が「制限速度の取り締まりは20km/hオーバーから」だったとします。すると、制限速度40km/hの裏道でも「60km/hまではOK」とか、制限速度60km/hのバイパス道路では「検挙ギリギリの80km/hで走るのが当然」といった状況になってしまうのは目に見えていますよね。

これでは、そもそも制限速度を設ける意味がありません。かといって、検挙基準を制限速度30km/hにしたり、バイパス道路を制限速度40km/hと厳しくしたら、ノロノロ運転をする人が続出する可能性があります。
結果的に「安全かつ円滑な交通の確保」という道路交通法の大きな目的を達成できませんし、誰も交通ルールを遵守しないことが予測されます。

とはいえ、スピード違反だけに検挙基準が存在するわけではなく、すべての交通違反に検挙基準が設けられています。一時停止違反や信号無視、駐車違反など、どんな違反にも「ここまでは注意でここからは切符処理」というボーダーラインがあるわけですが、すべて警察内部で秘密にしている内容です。

警察の取り締まりを受けたけど「切符処理なし?ラッキー」という経験をした方もいるでしょうが、それは運良く検挙を免れたのではありません。検挙基準に照らすと、ただちに検挙するのではなく、指導・警告で済ませるのが妥当だと判断されただけなのです。

レポート●鷹橋 公宣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉

鷹橋公宣 たかはし きみのり
鷹橋公宣

元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。

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